厚生労働省は、「地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律」(平成元年法律第64号)等に基づき、都道府県が作成した計画に基づいて行う事業を支援するために、都道府県に設置する基金(以下「確保基金」という。)の造成に必要な経費の3分の2に相当する額等について、医療介護提供体制改革推進交付金(以下「交付金」という。)を交付している。
厚生労働省は、確保基金を活用して行われる事業(以下「基金事業」という。)について、「地域医療介護総合確保基金管理運営要領」(以下「管理運営要領」という。)を定めており、令和2年6月に管理運営要領を改正して、新型コロナウイルス感染拡大防止対策支援事業の一環として、介護施設等における簡易陰圧装置の設置に係る経費を支援する事業(以下「陰圧装置設置事業」という。)を基金事業の対象としている。
そして、都道府県は、管理運営要領等に基づき、新型コロナウイルスの感染拡大を防止する観点から、簡易陰圧装置を設置する介護施設等の事業者(以下「介護事業者」という。)に対して、造成した確保基金を取り崩して助成している(以下、確保基金から取り崩して助成するものを「基金事業助成金」という。)。
陰圧装置設置事業の実施方法としては、補助事業者である都道府県が介護事業者に直接基金事業助成金を交付して実施する場合と、都道府県から間接補助事業者である市町村を通じて介護事業者に基金事業助成金を交付して実施する場合がある。
管理運営要領によれば、陰圧装置設置事業の対象事業は、介護施設等において感染拡大のリスクを低減するためには、ウイルスが外に漏れないよう気圧を低くした居室である陰圧室の設置が有効であることから、居室等に簡易陰圧装置を据えるとともに簡易的なダクト工事等を行う事業とされている。なお、簡易陰圧装置には必ずしもダクト工事を必要としないものもある。
また、管理運営要領によれば、対象経費は、簡易陰圧装置を設置するために必要な備品購入費、工事費又は工事請負費及び工事事務費(工事施工のために直接必要な事務に要する費用であって、旅費、消耗品費、通信運搬費、印刷製本費、設計監督料等)とされている。そして、厚生労働本省の説明によれば、予備の交換用フィルターの購入費等(以下「予備部品の購入費等」という。)は対象経費とはなっていないとしている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、陰圧装置設置事業について、合規性等の観点から、簡易陰圧装置を設置した居室等は陰圧室としての機能を有しているか、対象経費が適切に算定されているかなどに着眼して、20都府県(注1)が造成した確保基金を活用して都府県又は管内の市町村が2、3両年度に実施した陰圧装置設置事業4,362件(基金事業助成金計161億7163万余円、交付金相当額計107億8109万余円)を対象として検査した。検査に当たっては、厚生労働本省及び20都府県において、事業実績報告書等の関係資料や簡易陰圧装置の設置状況を確認するとともに、事業実施に必要な事項の周知方法を聴取するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
愛知県及び京都府管内の8市(注2)が実施した陰圧装置設置事業30件(基金事業助成金計5267万余円、交付金相当額計3511万余円)において、居室等にダクト工事が必要な簡易陰圧装置を設置していたもののダクト工事を行っていないため居室等が陰圧室としての機能を有していなかった事態が見受けられた。
この理由について確認したところ、市や介護事業者は、両府県が管理運営要領を受けて管内市町村に対して発出した陰圧装置設置事業に関する事務連絡において、簡易陰圧装置には必ずしもダクト工事を必要としないものもあるため、「ダクト工事の有無は問わない。」などと記載していたことから、ダクト工事を行わなくても陰圧室としての機能を有するものと誤解してしまったなどとのことであった。
前記のとおり、対象経費は、簡易陰圧装置を設置するために必要な備品購入費や工事費等となっていて、予備部品の購入費等は対象経費とはなっていない。しかし、16府県市(注3)が実施した陰圧装置設置事業計465件(基金事業助成金計8億4020万余円、交付金相当額計5億6013万余円)において、予備部品の購入費等を対象経費に含めていた事態が見受けられた。
このうち、請求書等から予備部品の購入費等のみの金額が抽出できた陰圧装置設置事業が171件(基金事業助成金計4億1503万余円、交付金相当額計2億7669万余円)あり、これに係る予備部品の購入費等の金額は、基金事業助成金計3262万余円、交付金相当額計2174万余円となっており、請求書等に簡易陰圧装置本体を含め一式計上されていて予備部品の購入費等のみの金額が明示されていない陰圧装置設置事業が294件(基金事業助成金計4億2517万余円、交付金相当額計2億8344万余円)となっていた。
予備部品の購入費等を対象経費に含めていた理由について確認したところ、管理運営要領の記述が不明瞭なことから、16府県市や介護事業者が予備部品の購入費等を対象経費として含めてよいものと誤解していたことによるものなどとなっていた。
このように、介護施設等において、必要なダクト工事を行っておらず居室等が陰圧室としての機能を有していなかった事態及び予備部品の購入費等を対象経費に含めていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、一部の都道府県、市町村及び介護事業者において、陰圧装置設置事業の実施についての理解が十分でなかったことなどにもよるが、厚生労働本省において、居室等が陰圧室としての機能を有するためにダクト工事が必要な簡易陰圧装置を設置する場合は同工事を行うこと及び予備部品の購入費等を対象経費に含めないことについて都道府県に対する周知が十分でなかったこと、当該内容について市町村及び介護事業者に周知するよう都道府県に助言していなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働本省は、陰圧装置設置事業が適切に実施されるよう、5年8月に、次のような処置を講じた。
ア 前記30件の事態について、2府県を通じてダクト工事を行うなどして陰圧室としての機能を有するよう求めた。
イ 都道府県に対して、事務連絡を発して、居室等が陰圧室としての機能を有するためにダクト工事が必要な簡易陰圧装置を設置する場合は同工事を行うこと及び予備部品の購入費等を対象経費に含めないことについて周知するとともに、都道府県を通じて市町村及び介護事業者に周知するよう都道府県に助言する処置を講じた。
(参 考 図)
ダクト工事が必要な簡易陰圧装置を設置した陰圧室の概念図