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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(1) 水田活用の直接支払交付金事業の実施に当たり、実質的に水稲の作付けを行うことができる農地を交付対象水田とするための判断基準を定め、対象作物の収量が記載されている書類等を提出させるなどして実績報告書の確認等を適切に実施し、対象作物の地域の目安となる基準単収等を定めさせるなどして実際の収量に基づいた定量的な収量確認を行えるよう改善の処置を要求するとともに、現行制度の運用の見直しを検討するなどして、対象作物の収量増加に向けた改善が図られやすくなるような方策を講ずるよう意見を表示したもの


所管、会計名及び科目
一般会計 (組織)農林水産本省
(項)国産農産物生産基盤強化等対策費(令和2年度は、(項)国産農産物生産・供給体制強化対策費)
部局等
農林水産本省、8農政局等
交付の根拠
予算補助
補助事業者
(事業主体)
延べ207,925交付対象農業者(令和2、3両年度)
交付金事業
水田活用の直接支払交付金事業
交付金事業の概要
米の安定供給のほか、食料自給率等の向上、水田の持つ多面的機能の維持強化等に資するよう、水田を最大限に有効活用するために、水田において麦、大豆、飼料作物等の戦略作物等を生産する交付対象農業者に対して、作付面積に応じて交付金を交付するもの
実質的に水稲の作付けを行うことが困難な状況となっていた農地に係る交付対象農業者数及び交付金交付額(1)
延べ1,547交付対象農業者 7035万円(令和2、3両年度)
実績報告書の確認等が適切に実施されていなかった交付対象農業者数及び交付金交付額(2)
延べ10,747交付対象農業者 100億9743万円(令和2、3両年度)
対象作物の収量確認が適切に実施されておらず収量が相当程度低くなっていた交付対象農業者数及び交付金交付額(3)
延べ3,177交付対象農業者 40億0504万円(令和2、3両年度)
収量低下理由書の確認や改善指導の仕組みが十分に機能しておらず対象作物の収量増加に向けた改善が図られにくい状況となっていた交付金交付額(4)
27億7984万円(背景金額)
(令和2、3両年度)
(1)から(3)までの純計
134億5200万円

【改善の処置を要求し及び意見を表示したものの全文】

水田活用の直接支払交付金事業の実施について

(令和5年10月23日付け 農林水産大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求し及び意見を表示する。

1 水田活用の直接支払交付金事業の概要等

(1) 水田活用の直接支払交付金の概要

貴省は、経営所得安定対策等実施要綱(平成23年22経営第7133号農林水産事務次官依命通知。以下「実施要綱」という。)に基づき、米の安定供給のほか、食料自給率等の向上、水田の持つ多面的機能の維持強化等に資するよう、水田を最大限に有効活用することを目的として、水田活用の直接支払交付金(以下「水活交付金」という。)事業を実施している。

水活交付金は、主食用米を作付けしない水田において、麦、大豆、飼料作物、WCS用稲(注1)、飼料用米等の戦略作物や野菜等の地域振興作物等の対象作物を生産する農業者(以下「交付対象農業者」という。)に対して、当該対象作物の作付面積に交付単価を乗ずるなどして算出した額を国が直接交付するものである。なお、貴省は、交付対象農業者について、原則、販売農家としているが、飼料作物等の家畜の飼料を自らの畜産経営に供する目的で生産(以下「自家利用」という。)する農業者についても、その取組が食料自給率の向上等に資するものとなることから、交付対象農業者とすることとしている。

また、実施要綱によれば、たん水設備(畦(けい)畔等)を有しない農地又は所要の用水を供給しうる設備を有しない農地等のいずれかに該当する場合には、水稲の作付けを行うことが困難な農地として、交付対象となる農地(以下「交付対象水田」という。)から除くこととされている。

(注1)
WCS用稲  Whole Crop Silageの略で、実と茎葉を一体的に収獲し、乳酸発酵させた飼料

(2) 水活交付金の交付までの流れ

実施要綱によれば、水活交付金の交付手続の流れは、おおむね次のとおりとされている。

① 交付対象農業者は、生産年の6月30日までに経営所得安定対策等交付金交付申請書(以下「交付申請書」という。)及び水稲生産実施計画書兼営農計画書(以下「営農計画書」という。)を地域農業再生協議会(注2)(以下「協議会」という。)に提出する。

② 協議会は、交付対象農業者ごとの営農計画書等を基に、交付対象水田を明確にした水田情報を整理する。また、協議会は、その整理に当たって交付対象水田の状況を適切に把握する。

③ 交付対象農業者は、原則、生産年の12月20日までに「水田活用の直接支払交付金の対象作物に係る出荷・販売等実績報告書兼誓約書」(以下「実績報告書」という。)を作成し、その確認書類として対象作物ごとの出荷・販売契約書及び販売伝票の写しなどを添付して、協議会に提出する。

④ 協議会は、これらの書類等を確認の上、地方農政局等に提出し、地方農政局等は、交付申請内容の審査、交付金額の算定等を行い、交付対象農業者に対して水活交付金を交付する。

(注2)
地域農業再生協議会  水活交付金事業等を推進するために、原則として、市町村、農業協同組合、農業共済組合等を構成員として、市町村の区域を基本に組織された協議会

(3) 対象作物の適切な生産の徹底等

実施要綱等によれば、対象作物については、十分な収量が得られるように生産することが原則とされている。そして、地方農政局等及び協議会は、適切な作付け、肥培管理、収穫等(以下「適切な生産」という。)が行われていない可能性が高いと判断する場合には、その収量が相当程度低いものとなっていないかの確認(以下「収量確認」という。)をすることとされており、収量が相当程度低い場合には、交付対象としないこととされている。そして、収量確認については、対象作物が麦、大豆、飼料用米等の場合には、国や都道府県が地域ごとに定めた10a当たりの収量(以下、10a当たりの収量を「単収」といい、国や都道府県が地域ごとに定めた単収を「標準単収値」という。)等に基づき行うこととされ、交付対象農業者の単収が標準単収値の2分の1未満となっているなど、一定の数値基準未満である場合には、収量が相当程度低いとされている。一方、対象作物が飼料作物、WCS用稲等の場合は、近傍ほ場における同一作物の生育状況等と比較することで収量確認を行い、収量が相当程度低くなっていないか確認することとされている。

ただし、収量が相当程度低い場合であっても、収量低下が生じたと思われる要因等を記載した理由書等(以下「収量低下理由書」という。)が地方農政局等に提出され、その要因が自然災害等の交付対象農業者にとって不可抗力の要因(以下「合理的な理由」という。)によるものであることを地方農政局長等が確認できる場合には、交付対象とすることができることとされている。そして、収量低下理由書の確認に当たり、適期の作業や必要な防除がなされていない場合、交付対象農業者が当然に払うべき注意を怠っている場合等は、合理的な理由があるとは認められないこととされており、合理的な理由の有無を確認するためには、自然災害が要因であることを証明する農業共済(注3)の支払書類等の客観的な書類等の提出が必要とされている。

また、合理的な理由であることが確認された場合であっても、翌年産において収量が相当程度低くなるおそれがあるときには、地方農政局長等は、当該交付対象農業者に対して翌年産以降の生産に向けて改善指導を文書により行うこととされている。そして、翌年産において、引き続き収量が相当程度低く、かつ、必要な栽培管理の改善が確認できない場合は、交付対象とならないことがあるとされている。

(注3)
農業共済  農業者の経営安定を図るために、自然災害等による収穫量の減少等の損失を補填する共済制度

(4) 対象作物に係る収量増加に向けた取組

貴省は、平成30年度以降、水活交付金の行政事業レビューシートにおいて、水活交付金の成果を対象作物の収量により検証している。

また、対象作物のうち、麦(小麦)、大豆及び飼料作物は、海外依存度の高い農産物であり、食料安全保障強化政策大綱(令和4年12月食料安定供給・農林水産業基盤強化本部)等においても、国内生産の拡大を強力に推進していく旨が記載されている。そして、貴省は、水活交付金を活用し、主食用米から転換したこれらの作物に係る収量等を向上させることは、食料安全保障の強化にも貢献するものであるとしている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、合規性、効率性、有効性等の観点から、交付対象水田の現況は水稲の作付けを行うことができる状況となっているか、実績報告書の確認等は適切に実施されているか、対象作物の収量確認は適切に実施されているか、収量低下理由書の確認や地方農政局長等による改善指導の仕組みは十分に機能しているかなどに着眼して、令和2、3両年度に9農政局等のうち8農政局等(注4)管内における198協議会の延べ207,925交付対象農業者に対して交付された水活交付金交付額計2393億9683万余円を対象として検査した。検査に当たっては、貴省本省及び8農政局等において、交付申請書、営農計画書、実績報告書等の関係書類や現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、飼料作物を自家利用している交付対象農業者等に係る水活交付金の実施状況に関する調書等の提出を受けて、その内容を分析するなどして検査した。

(注4)
8農政局等  東北、関東、北陸、東海、近畿、中国四国、九州各農政局、北海道農政事務所

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた((4)ア及びイの事態には重複しているものがある。)。

(1) 実質的に水稲の作付けを行うことが困難な農地に対して水活交付金が交付されている事態

水活交付金には、野菜等の作物が作付けされている農地を交付対象水田としているものがあり、その中にはビニールハウス等の園芸施設が設置されているものがある。このような農地において、再び水稲の作付けを行うためには、園芸施設を撤去する必要がある。園芸施設の設置等に対しては、国庫補助金等が交付される場合があるが、国庫補助金等は、当該補助金等が掲げる成果目標を達成するために、当該農地で継続的に園芸作物の作付けを行うことを企図して補助するものと思料される。そして、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和30年法律第179号)等によれば、補助事業者等は国庫補助金等により設置等された財産の処分制限期間内は、農林水産大臣の承認を受けることなく財産処分してはならないことなどとされている。これらのことから、実施要綱で交付対象水田として定められているとおり、たん水設備等を有するなどしている農地であっても、国庫補助金等により処分制限期間内の園芸施設が設置等されている場合には、実質的に水稲の作付けを行うことは困難であると考えられる。

そこで、交付対象水田のうち、他の国庫補助金等により園芸施設が設置等されているものについてみたところ、8農政局等管内の74協議会における延べ1,547交付対象農業者(水活交付金交付額計7035万余円)の交付対象水田において、国庫補助金等により処分制限期間内の園芸施設が設置等されていた。このような園芸施設が設置等された交付対象水田は、実質的に水稲の作付けを行うことが困難な農地であると考えられるのに、農政局等及び協議会は、実施要綱にこれに係る判断基準が定められていないことなどから交付対象水田であるとしており、これを踏まえて、農政局等は水活交付金を交付していた。

(2) 対象作物に係る実績報告書の確認等が適切に実施されていない事態

実績報告書の確認状況についてみたところ、8農政局等管内の148協議会における延べ8,746交付対象農業者(水活交付金交付額計90億4447万余円)は、実施要綱において実績報告書の確認書類の記載内容について定められていないことなどから、提出された確認書類の内容が収量を把握できるものになっておらず、また、自家利用した場合に確認書類を提出していないなどしていた。しかし、農政局等及び協議会において対象作物の生産実績や収量を把握しないまま、農政局等は水活交付金を交付していた。

また、販売する場合には出荷・販売契約書等の第三者を介するような客観的な書類があるのに対して、自家利用する場合にはこれらの書類がないことから、水活交付金の交付に当たっては、より慎重な確認を行う必要があると考えられる。そこで、飼料作物を自家利用している交付対象農業者から提出された確認書類に記載された収量が実際の収量に基づいているかその妥当性の確認状況についてみたところ、7農政局等(注5)管内の41協議会における延べ2,001交付対象農業者(水活交付金交付額計10億5296万余円)は、確認書類に収量を記載していたものの、計画時の収量と1㎏単位で同じ数値となっており、また、その収量が前年度と比較して2倍以上又は2分の1未満と大きく異なるなどしていて、実際の収量に基づいているのか疑義がある報告となっていた。しかし、確認書類の具体的な確認方法が定められていなかったことから、農政局等及び協議会においてその収量の妥当性について十分な確認を行わないまま、農政局等は水活交付金を交付していた。

このように、前記延べ8,746交付対象農業者及び上記延べ2,001交付対象農業者の計延べ10,747交付対象農業者(水活交付金交付額計100億9743万余円)については、確認書類の内容が収量を把握できないものとなっており、また、自家利用した場合の実績報告書の確認書類に記載された収量が実際の収量に基づいているのか疑義がある報告となっているなどしていた。

(注5)
7農政局等  東北、関東、東海、近畿、中国四国、九州各農政局、北海道農政事務所

(3) 収量確認が適切に実施されていない事態

前記のとおり、対象作物が飼料作物、WCS用稲等の場合は、近傍ほ場における同一作物の生育状況等と比較することで収量確認を行うこととされており、必ずしも実際の収量に基づいた定量的な方法により収量確認を行うことにはなっていない。

そこで、飼料作物、WCS用稲等の対象作物における収量確認の状況についてみたところ、多くの協議会は、現地確認により対象作物の生育状況等と近傍ほ場における他の同一作物の生育状況等との比較は行っていたとしていたものの、標準単収値のような数値が設定されていないなどの理由から、実際の収量に基づいた定量的な方法による収量確認は行っていなかった。

このため、近傍ほ場の範囲を各協議会が管轄する地区に所在する交付対象農業者のほ場とした上で、調書により収量を把握することができた交付対象農業者について、実際の収量に基づき収量確認を行ったところ、8農政局等管内の158協議会における延べ3,177交付対象農業者(水活交付金交付額計40億0504万余円)は、飼料作物及びWCS用稲の単収が近傍ほ場の平均単収の2分の1未満となっているなど収量が相当程度低くなっていた。しかし、これらの交付対象農業者については、上記のとおり、実際の収量に基づいた定量的な方法による収量確認が行われていなかったことから、農政局等及び協議会は、当該交付対象農業者の収量が相当程度低くなっていた状況を把握しないまま適切な生産が行われているとしており、これを踏まえて、農政局等は水活交付金を交付していた。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

事例

交付対象農業者Aは、令和2、3両年度に、飼料作物を生産するとして、北海道農政事務所管内の平取町農業協議会(北海道沙流郡平取町所在)に対して交付申請書、実績報告書等を提出し、水活交付金計61,033,024円の交付を受けていた。

同協議会は、飼料作物に係る収量確認に当たり、現地確認により近傍ほ場における他の同一作物の生育状況等との比較により収量が低くならないとしており、実際の収量に基づいた定量的な方法による収量確認は行っていなかった。

そこで、実際の収量に基づき収量確認を行ったところ、交付対象農業者Aの3年度の牧草の単収は270㎏/10aであり、近傍ほ場の牧草の平均単収549㎏/10aの2分の1未満となっていて収量が相当程度低くなっていた。しかし、上記のとおり、実際の収量に基づいた定量的な方法による収量確認を行っていなかったことから、同協議会において、交付対象農業者Aの飼料作物に係る収量が相当程度低くなっていた状況を把握しないまま適切な生産が行われているとして前記の書類を同農政事務所に提出していた。そして、同農政事務所においても上記の状況を把握しないまま適切な生産が行われているとして、当該書類に基づき水活交付金を交付していた。

(4) 収量低下理由書の確認や地方農政局長等による改善指導の仕組みが十分に機能しておらず、対象作物の収量増加に向けた改善が図られにくい状況となっている事態

ア 収量低下理由書における合理的な理由の確認状況

貴省は、収量低下理由書が提出され、その確認が十分に行われれば、合理的な理由がなく収量が低下した場合は水活交付金の交付対象とならないため、交付対象農業者において収量増加に向けた改善が図られることになるとしている。

しかし、8農政局等に対して提出のあった収量低下理由書計3,130件について、その確認状況をみたところ、合理的な理由があるとして交付対象としていたものが3,124件(3,130件に占める割合99.8%)となっており、収量低下理由書を提出すれば、そのほとんどが合理的な理由があるとして水活交付金が交付されている状況となっていた。

そこで、合理的な理由があるとされた上記収量低下理由書3,124件の内容を確認したところ、その多くは収量低下に係る要因として複数の要因が記載されていた。このうち955件の内容は、表のとおり、農業共済に加入しているのに自然災害等に認定された際に受け取ることができる共済金の申請を行っていないなどにより収量低下の要因が自然災害等によるものなのか客観的に確認できないもの、適期の作業や必要な防除がなされていないものなど、当該収量低下に係る要因が合理的な理由によるものであるのか疑義のある内容を含むものとなっていた(水活交付金交付額計15億2101万余円)。

表 疑義のある内容を含む収量低下理由書の態様別の件数

(単位:件)
収量低下の要因が合理的な理由によるものであるのか疑義のある内容を含む収量低下理由書の件数 955
(ア)農業共済に加入しているのに共済金の申請を行っていないもの、自然災害等として認定されていないものなど
526
(イ)適期の作業や必要な防除がなされていないもの
462
(ウ)ほ場条件の制約があるのにこれに対応した対策を講じていないものなど
89
(エ)交付対象農業者が当然に払うべき注意を怠っているもの
30
  • 注(1) 上記の態様は、実施要綱で示された態様に準じて本院が設定したものである。
  • 注(2) 複数の態様に該当するものがあることから、「収量低下の要因が合理的な理由によるものであるのか疑義のある内容を含む収量低下理由書の件数」と態様ごとの件数の合計は一致しない。

このように、上記の収量低下理由書955件が疑義のある内容を含むものとなっていたのに、このような収量低下理由書の確認方法が具体的に定められていないことから、地方農政局長等は、いずれも合理的な理由があるとしていた。

イ 地方農政局長等による改善指導の実施状況

貴省は、地方農政局長等による改善指導について、事業の適切な執行に当たり、適切な生産が行われないことに対するけん制効果が期待されることから、当該改善指導が適切に実施されていれば、交付対象農業者において収量増加に向けた改善が図られることになるとしている。しかし、改善指導を実施する基準とされている「翌年産において収量が相当程度低くなるおそれがある場合」について、実施要綱では具体的な基準は定められていない。

そこで、収量低下理由書を提出した8農政局等管内の170協議会における延べ2,983交付対象農業者に対する改善指導の実施状況を確認したところ、8農政局等管内の107協議会における延べ730交付対象農業者(水活交付金交付額計17億6394万余円)については、複数年連続して収量低下理由書が地方農政局等に提出されており、翌年産においても収量が相当程度低くなるおそれがある状況となっていたのに、翌年産以降は収量の改善が見込まれると判断したなどとして、改善指導は実施されていなかった。なお、この中には、同一の対象作物について、6年連続して収量低下理由書を提出している交付対象農業者も見受けられた。

このように、アの収量低下理由書955件を提出した交付対象農業者及びイの延べ730交付対象農業者(これらに係る水活交付金交付額計27億7984万余円)については、収量低下理由書の確認や地方農政局長等による改善指導の仕組みが十分に機能しているとは言い難く、現行制度では、対象作物の収量が相当程度低い場合であってもそのほとんどが十分な収量が得られている場合と同様に水活交付金の交付を受けることもある運用となっており、対象作物の収量増加に向けた改善が図られにくい状況となっていた。

(改善を必要とする事態)

水活交付金事業について、実質的に水稲の作付けを行うことが困難な農地に対して水活交付金が交付されている事態、対象作物に係る実績報告書の確認等が適切に実施されていない事態及び収量確認が適切に実施されていない事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。また、収量低下理由書の確認や地方農政局長等による改善指導の仕組みが十分に機能していないなど、対象作物の収量増加に向けた改善が図られにくい状況となっている事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、交付対象農業者及び協議会において、水活交付金事業の趣旨や制度の理解が十分でないことなどにもよるが、貴省において次のことなどによると認められる。

ア 交付対象水田の範囲について、水稲の作付けに当たり撤去が困難な処分制限期間内の園芸施設が設置等されているなど実質的に水稲の作付けを行うことが困難な農地に係る判断基準を定めることの必要性についての理解が十分でないこと

イ 実績報告書の確認書類について収量の記載があるものを求めることとすること、及び飼料作物を自家利用した場合の確認書類やその具体的な確認方法について明確に定めることの必要性についての理解が十分でないこと

ウ 飼料作物、WCS用稲等の対象作物について、実際の収量に基づいた定量的な方法により収量確認を行う具体的な方法を定めることの必要性についての理解が十分でないこと

エ 収量低下理由書について合理的な理由によるものか疑義のある内容を含むものが相当数ある現状を踏まえて、このような収量低下理由書の確認方法について具体的に定めること、及び地方農政局長等による改善指導を実施する場合の基準等について具体的に定めることの必要性についての理解が十分でないこと。また、収量が相当程度低い場合であっても、十分な収量が得られている場合と同様に水活交付金の交付を受けることもある現行制度の運用を見直すことについての検討が十分でないこと

3 本院が要求する改善の処置及び表示する意見

前記のとおり、貴省は、水活交付金を活用し転作作物に係る収量等を向上させることは、食料安全保障の強化にも貢献するものであるとしており、海外依存度の高い麦、大豆、飼料作物等の対象作物の収量を増加させていくことは、今後ますます重要なものとなっている。

ついては、貴省において、水活交付金事業が適切に実施されるよう、次のとおり改善の処置を要求し及び意見を表示する。

ア 交付対象水田の範囲について、水稲の作付けに当たり撤去が困難な処分制限期間内の園芸施設が設置等されているなどの場合に、実質的に水稲の作付けを行うことが困難な農地であるかどうかを判断できるように基準を定めること(会計検査院法第36条の規定により改善の処置を要求するもの)

イ 対象作物に係る収量増加の重要性を踏まえ、実績報告書の確認書類については、収量が記載されている書類等を提出し又は保管させるなどして収量を把握できるようにすること。また、飼料作物を自家利用した場合の確認書類を明確に定めるとともに、自家利用については、第三者を介さないことを踏まえ、飼料作物の生産量や家畜への給餌量が記録された資料等を交付対象農業者に保管させ、必要に応じて、これを交付対象農業者から提出させるなどして確認書類に記載された収量の妥当性を確認できるようにすること(同法第36条の規定により改善の処置を要求するもの)

ウ 飼料作物、WCS用稲等の対象作物について、麦、大豆、飼料用米等の場合には標準単収値といった具体的な数値に基づき収量確認を行うこととされている趣旨を踏まえて、協議会等に対して、地域の目安となる基準単収や近傍ほ場の平均単収を定めさせるなどして、協議会において、収量が相当程度低くなっていないかなど、実際の収量に基づいた定量的な収量確認を行うことができるようにすること(同法第36条の規定により改善の処置を要求するもの)

エ 収量低下理由書の確認方法や地方農政局長等による改善指導を実施する場合の基準等を具体的に定めてこれらの仕組みが十分に機能するようにすることや、収量が相当程度低い場合であっても、十分な収量が得られている場合と同様に水活交付金の交付を受けることもある現行制度の運用の見直しを検討することにより、交付対象農業者において対象作物の収量増加に向けた改善が図られやすくなるような方策を講ずること(同法第36条の規定により意見を表示するもの)