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(2) 森林環境保全整備事業で整備された防護柵について、都道府県及び事業主体に対して、現地の諸条件を勘案した上で維持管理を行うことの重要性を周知し、事業主体に現地の諸条件に応じた維持管理の方法を検討するよう助言するとともに、都道府県に対して、事業主体による維持管理の実施状況を把握して指導監督を十分に行うことのできる体制を整備するよう助言することにより、防護柵の効果が十分に発現されるよう改善の処置を要求したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)林野庁 (項)森林整備事業費
部局等
林野庁
補助の根拠
森林法(昭和26年法律第249号)
補助事業者
19道県(うち事業主体2県)
間接補助事業者
(事業主体)
市8、町3、村2、森林組合等128、計141事業主体
補助事業
森林環境保全整備事業
補助事業の概要
森林環境の保全に資するために、都道府県、市町村、森林組合等が人工造林、間伐等の施業と一体的に防護柵等を整備するもの
検査の対象とした防護柵の箇所数及び事業費
623か所 12億9831万余円(平成29年度~令和3年度)
上記のうち事業主体において防護柵の維持管理が十分でなく、道県において事業主体に対する指導監督を十分に行うことのできる体制が整備されていなかった防護柵の箇所数及び事業費
209か所 4億1151万余円(平成29年度~令和3年度)
上記に対する国庫補助金相当額
1億2359万円

【改善の処置を要求したものの全文】

森林環境保全整備事業で整備された防護柵の維持管理について

(令和5年10月19日付け 林野庁長官宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 森林環境保全整備事業等の概要

(1) 森林環境保全整備事業の概要

貴庁は、森林整備を計画的に推進することなどにより、国土の保全、水源のかん養等の森林の有する多面的機能の維持・増進を図り、もって森林環境の保全に資することを目的として、森林環境保全整備事業実施要綱(平成14年13林整整第882号農林水産事務次官依命通知)、森林環境保全整備事業実施要領(平成14年13林整整第885号林野庁長官通知)等(以下、これらを合わせて「要領等」という。)に基づき、人工造林、間伐等を行う森林環境保全整備事業(以下「整備事業」という。)を実施する都道府県に対して、森林環境保全整備事業費補助金を交付している。当該補助金の交付を受けた都道府県は、整備事業を自ら実施するほか、市町村、森林組合等が事業主体となって実施する整備事業に対して、補助金を交付するなどしている。

要領等によれば、整備事業において、野生鳥獣による森林被害の防止、野生鳥獣の移動の制御等を図るために、防護柵、幼齢木保護具等の鳥獣害防止施設等の整備を、人工造林、間伐等の施業と一体的に行うことができることとされている。そして、整備事業により整備された鳥獣害防止施設等の維持管理を行う者は、原則として事業主体とされている。また、都道府県知事は、その維持管理の実施状況について監督することとされており、特に、当該施設が台風や積雪等により被害を受けたことが想定される場合は、事業主体に対して、速やかに現地を確認し、必要な補修等を行うよう指導することとされている(以下、監督と指導とを合わせて「指導監督」という。)。

(2) シカによる森林被害の状況等

令和4年度版の森林・林業白書によれば、3年度の野生鳥獣による森林被害面積は全国で約4,900haとなっており、このうちシカによる被害が約7割を占めているとされている。そして、シカの分布域は、昭和53年度から平成30年度までの間に約2.7倍に拡大しており、シカによる被害には、食害による造林木の成長阻害や枯死、木材価値の低下等があって、野生鳥獣による森林被害は、依然として深刻な状況にあるとされている。

貴庁が作成した「森林における鳥獣被害対策のためのガイド」(平成24年3月版)によれば、シカによる森林被害に対しては、防護柵を設置することで安定した効果が得られるとされている一方で、何らかの原因で防護柵の一部に穴が開けば、そこからシカが入り込んで食害が生ずるおそれがあるとされている。

また、防護柵の維持管理については、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林整備センターが作成した「シカ害防除マニュアル」(令和2年3月版)によれば、防護柵に防除効果を継続的に発揮させるためには、適宜、異状がないか点検を行い、防護柵の異状を長期間放置しないことが重要であるとされている。そして、同じ場所が何度も被害に遭うことがあるため、点検時には、被害箇所が分かるよう現地に目印を付けるとともに、図面に記録し、次回以降、重点的に点検を行うようにすることとされており、防護柵が破損し、修理が必要となった場合は、原因の究明と再発防止対策を検討し、速やかに修理を行うこととされている。

貴庁は、防護柵については、不測の事態により破損が生ずるおそれがあることから、設置時の状態を維持したままでシカの侵入を完全に防ぐのは困難であり、必要に応じて点検等を行うことが不可欠であるとしている。そして、点検の実施については、シカの生息密度、積雪量、地形等といった設置箇所の諸条件(以下「現地の諸条件」という。)を勘案することが重要であるとしている。

また、一般社団法人日本森林技術協会が貴庁から委託を受けて作成した「令和3年度皆伐再造林促進に向けたシカ被害対策検討事業報告書」によれば、より頻繁な見回り及び点検並びに補修が実施されている造林地では、植栽木は順調に生育しているという結果を得ているとされており、見回り回数及び見回りの際に実際に生じていた破損の箇所数並びに柵内の植栽木の防護状況について、適切なデータを記録することが望まれるとされている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

前記のとおり、シカの分布域が拡大し、造林木に対する食害が生ずるなど森林被害が深刻な状況となっている中、森林被害を防止するために設置する防護柵が効果を十分に発現するためには、現地の諸条件を勘案して、点検等の維持管理を実施することが重要である。

そこで、本院は、有効性等の観点から、整備事業で整備された防護柵に破損が生ずるなどして防護柵で囲まれている造林地(以下「柵内造林地」という。)にシカが入り込める状態(以下「防護柵の破損等」という。)になっていないか、事業主体は防護柵の破損等を長期間放置しないように点検等の維持管理を現地の諸条件を勘案して適切に行っているか、都道府県は事業主体の維持管理の実施状況を把握して指導監督を行っているかなどに着眼して検査した。

検査に当たっては、19道県(注1)において、29年度から令和3年度までの間に整備された防護柵(延長計669万8966m、事業費計165億6067万余円、国庫補助金相当額計49億4266万余円)のうち、設置延長が長い、又は設置箇所が近接しているなどの防護柵623か所(延長計39万9549m、柵内造林地の面積計1,020ha、事業費計12億9831万余円、国庫補助金相当額計3億8565万余円)を対象として、2県及び141森林組合等の計143事業主体において、交付申請書、検査調書等の関係書類及び現地の状況を確認するほか、事業主体が行う維持管理の実施状況、道県の指導監督の方法等を聴取するなどして会計実地検査を行った。

(注1)
19道県  北海道、群馬、埼玉、福井、山梨、岐阜、静岡、三重、滋賀、奈良、岡山、山口、徳島、愛媛、高知、熊本、大分、宮崎、鹿児島各県

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 防護柵の破損等が生ずるなどしている状況

前記の143事業主体が19道県において整備した防護柵623か所を確認したところ、表1のとおり、68事業主体が整備した17道県(注2)における防護柵213か所(延長計14万3719m、柵内造林地の面積計384ha、事業費計4億2116万余円、国庫補助金相当額計1億2648万余円)において、防護柵の網にシカが絡まったことや、周辺の立木が防護柵に倒れ込んだことなどにより、防護柵の破損等が生じていた。そして、上記のうち31事業主体が整備した13道県における防護柵116か所(延長計7万7991m、柵内造林地の面積計196ha、事業費計2億1794万余円、国庫補助金相当額計6500万余円)の柵内造林地において、造林木の一部がシカ等による食害等により枯死するなどの森林被害が生じていた。

(注2)
17道県  北海道、群馬、埼玉、山梨、岐阜、静岡、三重、滋賀、岡山、山口、徳島、愛媛、高知、熊本、大分、宮崎、鹿児島各県

表1 防護柵の破損等及びシカ等の食害等による森林被害の発生状況

項目 道県数 事業
主体数
防護柵の
箇所数
延長 柵内造林
地の面積
事業費 国庫補助金相当額
検査したもの
(A)
19道県 143 623か所 39万9549m 1,020ha 12億9831万余円 3億8565万余円
防護柵の破損等が生じているもの
(B)
17道県 68 213か所 14万3719m 384ha 4億2116万余円 1億2648万余円
(B)/(A)
34.1% 35.9% 37.6% 32.4% 32.7%
(B)のうちシカ等による食害等により枯死するなどの森林被害が生じているもの
(C)
13道県 31 116か所 7万7991m 196ha 2億1794万余円 6500万余円
(C)/(A)
18.6% 19.5% 19.2% 16.7% 16.8%

(2) 事業主体による防護柵の維持管理が十分でない事態

前記のとおり、防護柵の効果を継続的に発揮させるためには、適宜、異状がないか点検を行い、防護柵の異状を長期間放置しないことが重要とされている。そこで、前記の213か所について、68事業主体から4年度における防護柵の点検回数を聴取したところ、表2のとおり、11か所の防護柵を整備した4事業主体は点検を行っていないとしていた。一方、202か所の防護柵を整備した66事業主体は点検を行っているとしていて、このうち、年に2回以上行っているとしていたのは76か所の防護柵を整備した33事業主体、年に1回行っているとしていたのは126か所の防護柵を整備した35事業主体となっていた。

上記の点検回数からみると、事業主体が点検を行っているとしていた防護柵においては防護柵の破損等が生じてから点検を行うまで最長で1年間、点検を行っていないとしていた防護柵においては防護柵の破損等が生じて以来1年以上の期間、防護柵の破損等が放置されていた可能性がある状態となっていた。

そして、点検を行っているとしていた前記202か所の防護柵を整備した66事業主体から点検の実施状況を聴取したところ、4か所の防護柵を整備した1事業主体は、現地のシカが多いこと、シカが柵内造林地に侵入しやすい地形であることなどの現地の諸条件を勘案して点検回数を可能な限り多くするようにしているとしていた一方で、残りの198か所の防護柵を整備した65事業主体は、下刈り(注3)などの定期的な施業に合わせて点検するなどとしていて、現地の諸条件が勘案されていなかった。

したがって、防護柵の破損等が生じていた213か所のうち、点検を行っていないとしていた11か所及び下刈りなどの定期的な施業に合わせて点検するなどとしていた198か所の計209か所(延長計14万1010m、柵内造林地の面積計376ha、事業費計4億1151万余円、国庫補助金相当額計1億2359万余円)を整備した67事業主体は、点検の実施に当たって現地の諸条件を勘案しておらず、防護柵の維持管理が十分でないと認められる。

(注3)
下刈り  造林木の成長を阻害する雑草木を刈り払う施業で、主に雑草木が旺盛な成長を示す夏季に行われる。

表2 防護柵の破損等が生じていた箇所における点検回数、点検の実施状況等

68事業主体が整備した防護柵の破損等が生じていた
213か所における点検回数、点検の実施状況
事業主体 箇所数 維持管理が十分でなかったもの
点検を行っている(A) 66 202
回数 2回以上/年 33 76
1回/年 35 126
実施状況 現地のシカが多いことなど現地の諸条件を勘案して点検しているとしていた 1 4
下刈りなどの定期的な施業に合わせて点検するなどとしていた 65 198 67事業主体
209か所
点検を行っていない(B) 4 11
(A)+(B) 68 213
  • (注) 事業主体数は項目によって重複する場合があるため、合計が一致しないものがある。

(3) 道県において、事業主体による防護柵の維持管理の実施状況を把握して指導監督を十分に行うことのできる体制を整備していない事態

前記のとおり、都道府県知事は、事業主体による防護柵の維持管理の実施状況について指導監督することとされている。そこで、防護柵の維持管理が十分でない上記の209か所に係る67事業主体に対する指導監督の実施状況について、17道県から聴取したところ、下刈りなどの定期的な施業の際に点検を行うことを指導するなどとしていて、現地の諸条件を勘案した上で指導監督を行っているとしていた道県はなかった。

また、17道県は、防護柵の維持管理の実施状況の指導監督に必要と考えられる点検結果、補修実績等といった維持管理の実施状況を事業主体に記録させることや、必要に応じて報告を求めることなどをしておらず、事業主体による防護柵の維持管理の実施状況を把握して指導監督を十分に行うことのできる体制を整備していなかった。

(2)及び(3)の事態について、事例を示すと次のとおりである。

事例

山口県美祢市は、美祢市於福町内において、令和3年度に防護柵1か所(延長607m、柵内造林地の面積0.9ha、事業費141万余円、国庫補助金相当額42万余円)を整備していた。

5年2月の会計実地検査において防護柵の状態を確認したところ、土砂流出等によって防護柵の支柱が傾いたことにより、延長6mにわたって防護柵の高さ(設計値1.8m)が半分程度(約0.9m)となっていたためシカが柵内造林地に入り込める状態となっていて、植栽されたスギ2,475本のほぼ全てがシカ等による食害等により枯死するなどしていた。

そこで、当該防護柵の点検の実施状況を同市から聴取したところ、毎年1回行う下刈りの時期に目視で行っているとしていて、当該箇所が、同県においてシカの生息密度が最も高い区分とされていることや、谷状で水が流れ込みやすい地形であることなどを考慮した点検となっておらず、現地の諸条件が勘案されていなかった。このため、直近の点検は下刈りの時期である4年6月に行われていて、防護柵の破損等が生じてから最長で8か月間放置されていた可能性があるなど、防護柵の維持管理が十分でなかった。

また、同市に対する指導監督の実施状況を同県から聴取したところ、当該箇所に係る指導監督は行っておらず、維持管理の実施状況を記録させることや、必要に応じて報告を求めることなどもしていないとしていて、同市による防護柵の維持管理の実施状況を把握して指導監督を十分に行うことのできる体制を整備していなかった。

このように、17道県において67事業主体が整備した防護柵209か所(延長計14万1010m、柵内造林地の面積計376ha、事業費計4億1151万余円、国庫補助金相当額計1億2359万余円)は、防護柵の破損等が生ずるなどしているにもかかわらず、事業主体において防護柵の維持管理が十分でなかった。そして、当該209か所の防護柵については、道県において事業主体に対する指導監督を十分に行うことのできる体制が整備されていなかった。これらのことから、当該209か所の防護柵は、効果が十分に発現されていないと認められる。

(改善を必要とする事態)

防護柵の破損等が生ずるなどしており、点検の実施に当たって現地の諸条件が勘案されておらず事業主体による防護柵の維持管理が十分でない事態、及び道県が防護柵の点検結果等の維持管理の実施状況を事業主体に記録させることや必要に応じて報告を求めることなどをしておらず事業主体による防護柵の維持管理の実施状況を把握して指導監督を十分に行うことのできる体制を整備していない事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、道県及び事業主体において、防護柵の維持管理の方法を現地の諸条件を勘案して検討することの重要性についての理解が十分でないこと、道県において、事業主体による防護柵の維持管理の実施状況を把握して指導監督を十分に行うことのできる体制を整備することの重要性についての理解が十分でないことなどにもよるが、貴庁において、次のことなどによると認められる。

ア 道県及び事業主体に対して、現地の諸条件を勘案して防護柵の維持管理を行うことの重要性を十分に周知していないこと、事業主体に対して、防護柵の維持管理の方法を適切に検討することを助言していないこと

イ 道県に対して、事業主体による防護柵の維持管理の実施状況を把握して指導監督を十分に行うことのできる体制を整備することを助言していないこと

3 本院が要求する改善の処置

野生鳥獣による森林被害は、依然として深刻な状況にあり、今後もシカによる森林被害を防止するための対策が必要であることから、貴庁は、整備事業による防護柵の整備を今後も実施することとしている。そして、シカの柵内造林地への侵入を完全に防ぐことは困難である中、不測の事態により防護柵の破損が生ずるおそれがあることに鑑み、維持管理においては必要に応じた点検等を行うことが重要であるとしている。

ついては、貴庁において、防護柵の効果が十分に発現されるよう、次のとおり改善の処置を要求する。

ア 都道府県及び事業主体に対して、現地の諸条件を勘案した上で防護柵の維持管理を行うことの重要性を周知するとともに、都道府県を通じるなどして事業主体に現地の諸条件に応じた防護柵の維持管理の方法を検討するよう助言すること

イ 都道府県に対して、防護柵の維持管理の実施状況を事業主体に記録させることや、必要に応じて報告を求めるなどして、事業主体による防護柵の維持管理の実施状況を把握して指導監督を十分に行うことのできる体制を整備するよう助言すること