林野庁は、国有林野の管理経営に関する法律(昭和26年法律第246号。以下「法」という。)等に基づき、国土の保全その他国有林野の有する公益的機能の維持増進を図るとともに、林産物を持続的かつ計画的に供給することなどを目標として、国有林野の適切かつ効率的な管理経営を行うこととなっている。そして、森林管理署等は、森林管理局の定めた国有林野の管理経営に関する計画に従い、立木の状態で販売する立木販売、立木を伐倒等して丸太を生産する製品生産事業等を行っている。
森林管理局及び森林管理署等は、立木販売及び製品生産事業に係る予定価格を算定するために、法、「国有林野の産物売払手続」(昭和25年農林省訓令第102号)等に基づき、農林水産大臣が指定する者(以下「指定調査機関」という。)等に、立木の樹種、樹高、胸高直径、品質等の調査(以下「収穫調査」という。)を行わせることができることになっている。
森林管理局は、林野庁が制定した「国有林野等の収穫調査業務委託事務取扱要領の制定について」(平成11年11林野業第18号。以下「要領」という。)に基づき、それぞれ収穫調査業務委託積算要領等(以下「積算基準」という。)を制定しており、森林管理局及び森林管理署等は、積算基準等に基づき人件費、人員輸送費等の経費を算出し、これらを合算するなどして収穫調査に係る予定価格を積算している。また、「契約事務の厳正な執行について」(平成12年12経第1908号農林水産大臣官房経理課長通知)によれば、予定価格の決定に当たっては、市場価格、取引の実態等について十分な調査を行うなどして適正な価格とするよう努力することとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、収穫調査に係る人員輸送費の積算が適切なものとなっているかなどに着眼して、7森林管理局(注1)及び44森林管理署等(注2)において、令和3、4両年度に実施された収穫調査に係る委託契約計329件、支払額計35億4436万余円のうち、契約額が多額となっているなどの委託契約計209件、支払額計27億8756万余円を対象として検査した。
検査に当たっては、6森林管理局(注3)及び44森林管理署等において、契約書、積算書等の書類を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、九州森林管理局については、調書等の提出を受けて、その内容を確認するなどして検査した。
(検査の結果)
人員輸送費の積算においては、借上料金に借上日数を乗じた機械損料が大部分を占めている。そして、森林管理局が借上料金を定めるに当たっては、前記のとおり、市場価格等について十分な調査を行うなどすることが求められている。そこで、森林管理局が積算基準において定めていた3、4両年度における借上料金をみたところ、北海道森林管理局は、レンタカー会社1者がホームページで公表していた月額料金を1か月当たりの使用見込日数である20日で除するなどして算定した金額が日額料金より安価となる傾向があることから、これを借上料金として積算に用いていた(以下、月額料金から算定した借上料金を「長期レンタカー料金」という。)。
しかし、北海道森林管理局の管轄区域内に所在するレンタカー会社の店舗を確認したところ、収穫調査の調査箇所に応じた調達が可能なレンタカー会社が複数存在しており、それぞれが示す料金は異なっていた。このため、北海道森林管理局の委託契約48件の予定価格の積算に用いられていた長期レンタカー料金は、市場価格を十分に反映したものとはなっていなかった。
一方、東北、関東、中部、近畿中国、四国、九州各森林管理局(以下「東北森林管理局等」という。)は、複数のレンタカー会社から徴取するなどした日額料金を比較して算定するなどした金額を借上料金として積算に用いていた(以下、日額料金から算定した借上料金を「短期レンタカー料金」という。)。
しかし、前記のとおり月額料金は日額料金よりも1日当たりの料金が安価となる傾向があり、収穫調査を実施していた指定調査機関が使用していたレンタカーも9割以上は月額料金により調達されていた。
そこで、短期レンタカー料金を借上料金として積算に用いている東北森林管理局等の委託契約について、積算上の借上日数をみたところ、161件のうち123件は20日から1,072日までとなっていて、北海道森林管理局が長期レンタカー料金の算定において用いていた1か月当たりの使用見込日数である20日以上であったことから、これらの契約については長期レンタカー料金により調達することが可能な状況となっていた。
これらのことから、本院が、森林管理局を通じて複数のレンタカー会社から月額料金に係る見積書を徴取するなどして、それらの平均価格を20日で除するなどして算定したところ、表のとおり、1日当たり2,562円から6,585円までとなっていて、森林管理局が定めた借上料金より安価なものとなっていた。
表 森林管理局が積算基準において定めていた借上料金と複数のレンタカー会社から徴取した見積書等に基づき算定した長期レンタカー料金との比較
森林管理局名 | 積算基準において定めていた借上料金 (注) |
複数のレンタカー会社から徴取した見積書等に基づき算定した長期レンタカー料金 (B) |
積算基準において定めていた2日目以降の借上料金と複数のレンタカー会社から徴取した見積書等に基づき算定した長期レンタカー料金との差額 (A)-(B) |
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1日目 | 2日目以降 (A) |
|||
北海道 | 6,875 | 6,875 | 6,585 | 290 |
東北 | 9,400 | 9,400 | 5,451 | 3,949 |
関東 | 9,000 | 6,500 | 5,000 | 1,500 |
中部 | 4,364 | 3,546 | 2,562 | 984 |
近畿中国 | 10,350 | 8,700 | 4,688 | 4,012 |
四国 | 8,840 | 8,840 | 5,736 | 3,104 |
九州 | 8,200 | 8,200 | 4,445 | 3,755 |
このように、人員輸送費の積算に当たり、レンタカー会社1者のみの月額料金をそのまま採用していたこと、短期レンタカー料金を設定していたことから、市場価格等を十分に踏まえた経済的な積算となっていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(低減できた人員輸送費の積算額)
北海道森林管理局の委託契約48件及び東北森林管理局等の委託契約123件の計171件に係る人員輸送費の積算について、複数のレンタカー会社から徴取した見積書等に基づき算定した長期レンタカー料金を用いて試算したところ、3、4両年度の積算額は、それぞれ計8002万余円、計9679万余円、合計1億7681万余円となり、7森林管理局及び43森林管理署等(注4)が積算していた積算額計1億1527万余円、計1億3523万余円、合計2億5051万余円は、計約3520万円、計約3840万円、合計約7360万円が低減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、森林管理局において、適切な借上料金を用いて経済的な積算を行うことの必要性についての理解が十分でなかったことにもよるが、林野庁において、森林管理局に対して、収穫調査に係る人員輸送費の積算について、経済的な積算となる適切な借上料金の設定方法を明確に示す必要性についての認識が欠けていたことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、林野庁は、5年9月に要領を改正して、収穫調査に係る人員輸送費の積算に当たり、長期レンタカー料金を適用することが可能な1か月当たり20日以上の使用が見込まれる場合には、複数のレンタカー会社から月額料金に係る見積書を徴取することなどを定めるとともに、森林管理局に対して通知を発出して、同年12月以降に入札公告を行う契約について、市場価格等を踏まえた適切な借上料金を用いて経済的な積算を行わせることとする処置を講じた。