(1件 不当と認める国庫補助金 3,029,677円)
部局等
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補助事業者等
(事業主体)
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補助事業等
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年度
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事業費
国庫補助対象事業費
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左に対する国庫補助金等交付額
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不当と認める事業費
国庫補助対象事業費
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不当と認める国庫補助金等相当額
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千円 | 千円 | 千円 | 千円 | |||||
(247) | 神奈川県 |
足柄上郡山北町 |
社会資本整備総合交付金(地域住宅政策推進) |
元、2 |
23,034 (22,616) |
10,020 | 6,745 (6,745) |
3,029 |
この交付金事業は、山北町向原地内において、町道水上2号線の農業用水路と交差する箇所に架かる床版橋の補強工等を山北町が実施したものである。
当該床版橋は、自動車の通行する方向(以下「橋軸方向」という。)に並行する形で設置された西側と東側の2基の床版で構成されている(参考図参照)。
同町は、床版橋の補強工等の設計を「道路橋示方書・同解説」(公益社団法人日本道路協会編。以下「示方書」という。)等に基づき行うこととしている。そして、同町は、本件工事の設計業務を設計コンサルタントに委託し、設計図書、構造計算書等の成果品を検査して受領した上で、これらの成果品に基づき施工することとしていた。
上記のうち構造計算書によると、西側及び東側の床版は、橋軸方向に配置されている鉄筋に生ずる引張応力度(注1)が許容引張応力度(注1)を上回っていることから、鉄筋に生ずる引張応力度を低減させることなどを目的として、床版の下面に、炭素繊維を一方向に配列した炭素繊維シート(以下「シート」という。)を、炭素繊維の方向が橋軸方向になるように接着することとしていた。そして、これにより、鉄筋に生ずる引張応力度が西側の床版で100.1N/mm2、東側の床版で101.1N/mm2となり、いずれも許容引張応力度140N/mm2を下回ることから応力計算上安全であるとしていた。
しかし、設計図書、構造計算書、工事写真等及び現地の状況を確認したところ、床版補強工の設計は次のとおり適切でなかった。
同町は、西側の床版について、支間長(注2)を床版の橋軸方向の全長に基づき4.25mと算出して応力計算を行い、目付量(シート1㎡当たりの炭素繊維の重量)600g/㎡の高弾性シート(注3)(見積単価36,160円/㎡)4層を接着することとしていた。しかし、示方書等によれば、鉄筋コンクリート製の床版橋の支間長は、支承の間隔とすることなどとされていることから、支間長を床版の全長に基づき算出したのは誤りであり、適正な支間長は3.02mであった。
そこで、適正な支間長に基づくなどして、改めて床版の補強に用いるのに所要の安全度が確保でき、かつ、経済的なシートの種類等を選定して応力計算を行ったところ、目付量600g/㎡の中弾性シート(注3)(見積単価30,160円/㎡)1層を接着することとすれば、鉄筋に生ずる引張応力度は134.5N/mm2となり、許容引張応力度140N/mm2を下回ることから、所要の安全度が確保でき、かつ、最も経済的な設計になったと認められた。
同町は、東側の床版について、応力計算の結果、目付量300g/㎡の高強度シート(注3)(市販の積算参考資料に掲載されている単価6,360円/㎡)1層を接着することとしていたが、設計図書を作成する際に、誤って、目付量600g/㎡の高弾性シート(見積単価36,160円/㎡)4層を接着することとしていた。
また、同町は、応力計算に当たり、工事実施後の東側の床版の厚さを0.28mとすべきところ、誤って0.22mとしていた。そこで、適正な床版の厚さに基づくなどして応力計算を行い、シートを接着する必要性について確認したところ、シートを接着しないこととしても、鉄筋に生ずる引張応力度は80.8N/mm2であり、許容引張応力度140N/mm2を下回ることから、シートを接着する必要はなかったと認められた。
これらのことから、西側の床版については目付量600g/㎡の中弾性シート1層を接着し、東側の床版についてはシートを接着しないこととして、本件工事の工事費を修正計算すると計17,490,000円となり、本件工事の工事費23,034,000円は、これに比べて5,544,000円(交付金相当額2,494,594円)が過大となっていた。
前記のとおり、構造計算書によると、同町は、炭素繊維の方向が橋軸方向になるようにシートを接着することとしていたが、請負人に本件工事を発注した際の設計図書においては、シートを接着する方向が示されていなかった。そして、請負人は、床版にシートを接着する際に、炭素繊維の方向が、橋軸方向ではなく、農業用水路の水流の方向になるように施工していた。このため、本件工事により接着したシートは、鉄筋に生ずる引張応力度を構造計算書のとおりに低減させるものとなっていなかった。
そこで、上記の施工状況に基づき、支間長及び床版の厚さについても適正な値(ア参照)を用いて改めて応力計算を行ったところ、西側の床版において鉄筋に生ずる引張応力度が195.9N/mm2となり、許容引張応力度140N/mm2を大幅に上回っていて、応力計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。
このように、西側の床版に係る補強工(工事費相当額2,767,131円、交付金相当額1,239,565円)は、設計が適切でなかったため、西側の床版の所要の安全度が確保されていない状態となっていた。
したがって、本件工事は、アのとおり、設計が適切でなかったため、工事費が過大となっており、また、イのとおり、西側の床版の所要の安全度が確保されていない状態となっていて、ア及びイの事態に係る重複分を除いた工事費相当額6,745,486円に対する交付金相当額3,029,677円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、同町において、委託した設計業務の成果品の内容が適切でなかったのに、これに対する検査が十分でなかったことなどによると認められる。
(参考図)
西側の床版及び東側の床版の概念図