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  • 令和4年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第9 国土交通省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

(1) 下水道管路施設の老朽化対策に当たり、事業主体に対し、腐食環境下にある下水道管路施設を適切に把握すること、速やかに下水道法等に基づく点検を行うことを検討すること及び点検結果等を適切に記録し保存することを周知するとともに、緊急度Ⅰと判定された下水道管路施設について、修繕等の具体的な実施時期を確認し、必要に応じて助言を行うこととすることなどにより、修繕等の必要な措置が速やかに実施されるなどするよう改善させたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)国土交通本省 (項)社会資本総合整備事業費 等
部局等
国土交通本省、19都道府県
事業及び交付の根拠
下水道法(昭和33年法律第79号)等
事業主体
府1、県4、市119、町93、村12、一部事務組合1
計 230事業主体
下水道管路施設の老朽化対策の概要
腐食環境下にある下水道管路施設の点検や、点検等により把握した施設の劣化状況の診断で緊急度Ⅰと判定された下水道管路施設の修繕等を実施するなどするもの
検査の対象とした腐食環境下にある下水道管路施設を管理する事業主体数
612事業主体
上記のうち腐食環境下にある下水道管路施設について適切な把握や点検を行っていないなどしていた事業主体数
204事業主体
上記の結果、持続的な機能確保等に支障が生ずるおそれがある状況となっていた下水道管路施設の帳簿価額相当額(推計額)
21億8898万余円(令和3年度末)
上記に係る国庫補助金等相当額(推計額)
4億4298万円(背景金額)
検査の対象とした点検等の契約に係る事業主体数、契約件数、契約金額及び交付金等交付額
250事業主体 1,088件
179億8409万余円(契約金額)(平成23年度~令和3年度)
82億1294万余円(交付金等交付額)
上記のうち緊急度Ⅰと判定された後5年以上修繕等を実施していなかったなどの事態に係る事業主体数、契約件数及び事業費相当額
37事業主体 85件
5842万余円(平成24年度~令和3年度)
上記に係る交付金等相当額
2850万円

1 下水道管路施設の老朽化対策の概要

(1) 下水道事業の概要

国土交通省は、下水道法(昭和33年法律第79号)等に基づき、下水道(公共下水道、流域下水道等を含む。以下同じ。)の整備を図ることにより都市の健全な発達及び公衆衛生の向上に寄与し、併せて公共用水域の水質の保全に資することなどを目的として、下水道事業を行う地方公共団体(以下「事業主体」という。)に対して、毎年度多額の社会資本整備総合交付金(以下「交付金」という。)等を交付している。事業主体は、交付金等により、下水を排除するために設けられる管渠(きょ)(以下「下水道管渠」という。)、これに接続して下水を処理するために設けられる処理施設等の下水道施設の改築等を実施している。

(2) 下水道施設の維持又は修繕に関する技術上の基準等

国土交通省は、平成27年に下水道法等を改正して下水道施設の維持又は修繕に関する技術上の基準等(以下「基準等」という。)を定めている。

基準等によれば、暗渠である構造の部分を有する排水施設であり、下水の貯留その他の原因により腐食するおそれが大きい箇所(以下「腐食環境下」という。)にあって、コンクリートその他腐食しやすい材料で造られているものについては、5年に1回以上の適切な頻度で点検を行うことなどとされている。当該点検は、下水道施設の状態を把握して異状の有無を確認するものであり、点検その他の方法により下水道の損傷、腐食その他の劣化その他の異状があることを把握したときは、下水道の効率的な維持及び修繕が図られるよう、必要な措置を講ずることとされている。

そして、当該点検を行った場合には、点検の年月日、点検を実施した者の氏名及び点検の結果を記録して、これを次に点検を行うまでの期間、保存することとされている。

(3) 下水道ストックマネジメント支援制度の概要等

国土交通省は、前記下水道法等の改正を踏まえて、28年度に、リスク評価を行うなどして下水道施設全体の管理を最適化する下水道ストックマネジメント支援制度を創設している。

同支援制度は、同省が、下水道施設全体を一体的に捉えた下水道ストックマネジメント計画を策定し、同計画に基づき計画的な点検・調査(注1)(以下「点検等」という。)及び長寿命化を含めた改築を行うなどする事業主体に対して交付金等を交付するものである。

そして、各事業主体は、下水道ストックマネジメント計画等に基づき、下水道管渠又はマンホール(以下「下水道管路施設」という。)の点検等及び点検等により把握した施設の劣化状況の診断(以下「診断」という。)を行っている。「下水道維持管理指針(実務編)」(公益社団法人日本下水道協会。以下「維持管理指針」という。)等によれば、診断は、点検等の結果を踏まえ、下水道管路施設の機能や状態の健全さを示す指標(以下「緊急度」という。)を用いて判定することとされていて、点検等により把握した施設の劣化状況を基に、維持管理指針に示されている個々の施設に対する診断の基準等を参考にして行うこととされている。そして、緊急度は、調査結果及び判定基準例を基に異状の程度の高い順にⅠからⅢまでの判定を行うこととされており、判定基準例において、緊急度Ⅰの区分は重度で速やかに措置が必要であるとされ、緊急度Ⅱの区分は中度で簡易な対応により必要な措置を5年未満まで延長できるなどとされている。

(注1)
点検・調査  点検は、マンホール内部からの目視や、地上からマンホール内に管口テレビカメラを挿入する方法等により行われる。調査は、詳細な劣化状況や動向等を定量的に確認するとともに、原因を検討するために、管内に潜行する調査員による目視、又は下水道管渠用テレビカメラを挿入する方法等により行われる。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、効率性等の観点から、事業主体が、27年に改正された下水道法等に基づき腐食環境下にある下水道管路施設の点検を適切に行っているか、交付金等を受けて実施された点検等の結果に基づき緊急度Ⅰと判定された箇所の修繕・改築(以下「修繕等」という。)を速やかに実施しているかなどに着眼して、国土交通本省及び20都道府県(注2)において会計実地検査を行った。検査に当たっては、20都道府県の612事業主体が管理している腐食環境下における下水道管路施設(下水道管渠計1,456.0㎞、マンホール計43,101か所)及び20都道府県の250事業主体が27年の下水道法等改正後の28年度から令和3年度までの間に下水道ストックマネジメント計画等に基づき緊急度の判定を行った下水道管路施設の点検等に係る契約計1,088件(契約年度は平成23年度から令和3年度まで、契約金額計179億8409万余円、交付金等交付額計82億1294万余円)を対象として、契約書、下水道ストックマネジメント計画等の関係書類を確認するとともに、調書の提出を受け、その内容を確認するなどして検査した。

(注2)
20都道府県  東京都、北海道、京都、大阪両府、岩手、宮城、秋田、福島、茨城、栃木、群馬、石川、三重、滋賀、奈良、広島、徳島、高知、長崎、熊本各県

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 下水道法等に基づく点検の実施

前記のとおり、平成27年に改正された下水道法等において、事業主体は、腐食環境下にある下水道管路施設について、5年に1回以上の適切な頻度で点検を行うこととされている。そこで、前記の612事業主体において、28年度から令和3年度までの6年間に、腐食環境下にある下水道管路施設を把握した上で、当該下水道管路施設の点検を適切に行っているかについて検査したところ、次のとおりとなっていた。

ア 腐食環境下にある下水道管路施設を適切に把握していなかった事態

検査の対象とした612事業主体のうち541事業主体は、管理する下水道管路施設のうち腐食環境下にある下水道管路施設を全て把握していた。

一方、71事業主体は、下水道法等に基づき国土交通大臣が定めた主要な下水道管渠(下水排除面積が20ha以上等の管渠)及び当該下水道管渠に接続するマンホール(以下、これらを「主要な管路施設」という。)については、腐食環境下にある下水道管路施設を把握していたが、主要な管路施設以外の下水道管路施設については、腐食環境下にある下水道管路施設を把握していなかった。

イ 腐食環境下にある下水道管路施設の点検を行っていなかったなどの事態

検査の対象とした612事業主体が腐食環境下にあるとして把握していた下水道管路施設は、3年度末時点で下水道管渠1,456.0㎞、マンホール43,101か所となっていた。このうち、446事業主体が管理する腐食環境下の下水道管渠計1,103.5㎞及びマンホール計34,520か所については基準等の制定後1回以上の点検が行われていた。

一方、166事業主体が管理する腐食環境下の下水道管渠計352.5㎞及び腐食環境下のマンホール計8,581か所のうち、67事業主体の計85.6㎞、計1,861か所については、前記の6年間に1回も点検が行われていなかった。また、107事業主体の計152.5㎞、計2,875か所については、事業主体は点検を実施している可能性があるとしているものの、その結果等を記録し保存していなかったため点検の実施の有無を確認することができない状況となっていた。

したがって、ア又はイの事態に該当する計204事業主体が管理する腐食環境下における下水道管路施設は、その損傷、腐食等の状況が把握されていないことなどから、腐食等が発生しやすい環境下で異状が発生していても速やかに必要な措置を講ずることができず、下水道管路施設の持続的な機能確保や効率的な維持・修繕等に支障が生ずるおそれがある状況となっていた。そして、当該支障が生ずるおそれがある状況となっていた下水道管路施設の帳簿価額について、上記の204事業主体が管理する全ての下水道管路施設の帳簿価額に、国土交通省が公表している調査結果に示されている割合(注3)を乗じて推計すると、帳簿価額相当額は計21億8898万余円、帳簿価額相当額に係る国庫補助金等相当額は4億4298万余円(3年度末現在)となる。

(注3)
調査結果に示されている割合  令和3年度における全国の下水道管渠の延長に対する腐食環境下にある下水道管渠の延長の割合(0.66%)及び同年度に点検を行った腐食環境下にある下水道管渠の延長に対する異状が発生している下水道管渠の延長の割合(10%)

(2) 緊急度判定後の修繕等の実施状況

前記の250事業主体が緊急度の判定を行った下水道管路施設の点検等に係る契約1,088件について検査したところ、4年度末時点で、144事業主体は、緊急度Ⅰと判定された下水道管渠計91.1㎞(98事業主体)及びマンホール計10,344か所(104事業主体)について、全く又は一部しか修繕等を実施していなかった。

上記の修繕等が実施されていなかった下水道管路施設のうち、平成28年度又は29年度に緊急度Ⅰと判定された施設の修繕等が実施されていない期間についてみると、判定後5年以上修繕等を実施していなかったものは、20事業主体における下水道管渠計4.9㎞(13事業主体)及びマンホール計580か所(10事業主体)となっていた。また、30年度から令和3年度までの間に緊急度Ⅰと判定された下水道管路施設の4年度末時点における修繕等の実施の予定についてみると、判定後5年を経過する年度の10年度以降に修繕等を実施する予定とするなどしていたものは、20事業主体における下水道管渠計7.7㎞(7事業主体)及びマンホール計627か所(15事業主体)となっていた。

しかし、緊急度Ⅰと判定された下水道管路施設については、緊急度Ⅱと判定された下水道管路施設より異状の程度が高いものであり、速やかに修繕等を実施する必要があった。

したがって、前記の判定後5年以上修繕等を実施していなかった事業主体及び10年度以降に修繕等を実施する予定とするなどしていた事業主体の純計である37事業主体は、緊急度Ⅰと判定された下水道管路施設(当該判定を行った下水道管路施設の点検等に係る契約計85件(契約年度は平成24年度から令和3年度まで)における事業費相当額計5842万余円、交付金等相当額計2850万余円)について、修繕等を実施する予定の年度を前倒しするよう見直すなどする必要があると認められた。

このように、事業主体において、腐食環境下にある下水道管路施設を適切に把握していなかった事態、腐食環境下にある下水道管路施設の点検を行っていなかった事態、点検結果等を記録し保存していなかった事態、及び緊急度Ⅰと判定された下水道管路施設について速やかに修繕等を実施していなかったなどの事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、事業主体において、腐食環境下にある下水道管路施設を把握して、それらの下水道管路施設の全てについて5年に1回以上の頻度で点検を行う必要があったこと、点検結果等を記録し保存すること、及び緊急度Ⅰと判定された下水道管路施設の修繕等を速やかに実施する必要があったことについての理解が十分でなかったことなどにもよるが、国土交通省において、次のことによると認められた。

ア 事業主体に対して、腐食環境下にある下水道管路施設を適切に把握すること、腐食環境下にある全ての下水道管路施設を対象に5年に1回以上の頻度で点検すること、及び点検結果等を適切に記録し保存することについての周知が十分でなかったこと

イ 事業主体に対して、緊急度Ⅰと判定された下水道管路施設の修繕等の実施時期について、必要に応じて助言を行うなど、修繕等の必要な措置が速やかに実施されるための方策が十分でなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、国土交通省は、次のような処置を講じた。

ア 事業主体に対して5年9月に事務連絡を発して、腐食環境下にある下水道管路施設を適切に把握し、下水道法等が改正された平成27年以降1回も点検を行っていない場合は速やかに点検を行うことについて検討すること及び点検結果等を適切に記録し保存することについて周知した。

イ アの事務連絡により緊急度Ⅰと判定された下水道管路施設について、事業主体における修繕等の具体的な実施時期を令和5年度中に確認するとともに、修繕等の必要な措置が速やかに実施されるよう必要に応じて助言を行うこととした。また、6年度以降においても、同様の確認等を継続して実施していくこととした。