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  • 令和4年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第9 国土交通省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

(2) 無人航空機の運航者に注意喚起を行うなどするために構築したドクターヘリ離発着場所、条例飛行禁止区域等の情報を共有するシステムについて、ドクターヘリの運航者及び地方公共団体に対して、改めて、その構築目的、活用方法等について周知し、同システムにおいて共有すべき情報の登録を依頼するとともに、継続的に登録の働きかけを行うなどすることにより、ドクターヘリ離発着場所及び条例飛行禁止区域の登録が進捗するよう改善させたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)国土交通本省
(項)公共交通等安全対策費
自動車安全特別会計(空港整備勘定)
(項)空港等維持運営費
(項)空港整備事業費
(項)北海道空港整備事業費
(項)沖縄空港整備事業費
(項)航空路整備事業費
部局等
国土交通本省
契約名
ドローン情報基盤システムにおける飛行情報共有機能の構築及び調整等17件
共有システムの概要
無人航空機の運航者、ドクターヘリの運航者、地方公共団体等が、それぞれの保有する情報をシステムに登録することにより共有し、無人航空機の運航者に注意喚起を行うなどするもの
検査の対象とした共有システムの構築、保守等に要した経費
5億9813万余円(平成29年度~令和4年度)
上記のうちドクターヘリ離発着場所及び条例飛行禁止区域の登録が進捗していなかった共有システムの構築、保守等に要した経費
5億9813万円(平成29年度~令和4年度)

1 共有システムの概要等

(1) 共有システムの構築等

近年、遠隔操作や自動操縦により飛行させることができるドローン、農薬散布用ヘリコプター等の無人航空機とドクターヘリコプター(注1)(以下「ドクターヘリ」という。)とが飛行中に接近する事案や、飛行中の無人航空機の落下により第三者が負傷する事案が発生するなど、無人航空機の飛行における安全確保が喫緊の課題となっている。

このような状況に対処するために、国土交通省は、平成27年12月に、航空法(昭和27年法律第231号)を改正し、無人航空機の飛行を禁止する空域(注2)や飛行方法等についての基本的な制度を定めるとともに、無人航空機とドクターヘリとの接近、衝突等を事前に回避させること、地方公共団体が条例により無人航空機の飛行を制限又は禁止している区域(注3)(以下「条例飛行禁止区域」という。)における無人航空機の落下による第三者の負傷、損害等を防止することなどを目的として、「ドローン情報基盤システム(飛行情報共有機能)」(以下「共有システム」という。)を構築して、31年4月から運用を開始している。

国土交通省は、29年度から令和4年度までの間に、共有システムに係る契約計17件を締結しており、共有システムの構築、保守等に要した経費は計5億9813万余円となっている。

(注1)
ドクターヘリコプター  救急医療用機器等を装備し、医師・看護師を搭乗させて救急現場に向かい、機内で患者の観察・治療を継続しながら、患者を専門医療機関へ搬送するヘリコプター
(注2)
航空機の離陸及び着陸が頻繁に実施される空港等及びその周辺の空域、国土交通大臣が告示で定める人口集中地区の上空等における無人航空機の飛行は原則として禁止され、当該空域等で無人航空機を飛行させるには国土交通大臣の許可が必要とされるようになった。
(注3)
地方公共団体の中には、多くの人が訪れる公園、文教施設等、特に利用者等の安全を確保する必要があると判断した施設等が所在する特定の区域について、当該区域での無人航空機の飛行等、他の利用者等に危険を及ぼすおそれのある行為を、条例により制限又は禁止しているところがある。

(2) 共有システムの概要

共有システムは、無人航空機の運航者、ドクターヘリの運航者、地方公共団体等が、それぞれの保有する情報を共有システムに登録することにより共有し、無人航空機の運航者に注意喚起を行うなどするものである。そして、ドクターヘリの運航者が国土交通大臣による離陸及び着陸の許可が必要とされないドクターヘリの離発着場所のうち、定常的にドクターヘリが離発着する場所(以下「ドクターヘリ離発着場所」という。)を、また、地方公共団体が条例飛行禁止区域を、それぞれ共有システムに登録することにより、無人航空機の運航者に、これらの情報を周知する機能を備えている。

ドクターヘリ離発着場所及び条例飛行禁止区域については、通常、一般には知られておらず、上記のとおり、共有システムに確実に登録することにより、無人航空機の運航者がこれらの情報を認識して、無人航空機とドクターヘリとの接近、衝突等や、条例飛行禁止区域における無人航空機の落下による第三者の負傷、損害等の発生を防止することが可能となる。このプロセスを示すと次のとおりである。

① ドクターヘリの運航者又は地方公共団体が、共有システムにドクターヘリ離発着場所又は条例飛行禁止区域を登録することにより、共有システムの地図上にこれらの情報が明示されることとなるため、無人航空機の運航者は、ドクターヘリ離発着場所や条例飛行禁止区域に留意して飛行経路を検討等することが可能となる。また、無人航空機の運航者が、共有システムに飛行日時や飛行経路等の飛行情報を入力した際、飛行経路がドクターヘリ離発着場所や条例飛行禁止区域にあると、アラート表示がなされ、無人航空機の運航者に注意喚起がなされる。

② ①により、無人航空機の運航者は、自らの無人航空機の飛行経路がドクターヘリ離発着場所や条例飛行禁止区域にあることを認識し、ドクターヘリ離発着場所や条例飛行禁止区域での飛行を差し控える。

③ ②により、ドクターヘリ離発着場所や条例飛行禁止区域での無人航空機の飛行が行われなくなる。

また、無人航空機の運航者が共有システムに登録した飛行情報の登録件数は、平成31年4月の運用開始以降、年々増加していて、令和元年度の47,377件から4年度には460,710件となっていて、今後も共有システムの利用の増加が見込まれている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、効率性等の観点から、共有システムへのドクターヘリ離発着場所及び条例飛行禁止区域の登録が進捗しているかなどに着眼して、前記共有システムの構築、保守等に要した経費5億9813万余円を対象に、国土交通本省においてドクターヘリ離発着場所及び条例飛行禁止区域の登録状況について確認するなどして会計実地検査を行うとともに、地方公共団体に対して登録に係るアンケート調査を実施するなどして検査した。

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) ドクターヘリ離発着場所及び条例飛行禁止区域の登録に向けた国土交通省の取組

国土交通省は、平成31年3月に、ドクターヘリ離発着場所の登録に関して、一般社団法人全日本航空事業連合会に対する説明会を開催し、同連合会を通じて全国のドクターヘリの運航者全12者に対して共有システムの利用に係る案内を送付するなどして、共有システムへの登録を求めていた。

また、同省は、同年4月に、条例飛行禁止区域の登録に関して、47都道府県、20政令指定都市及び23特別区の計90地方公共団体に対して共有システムの利用、登録等に係る案内(以下「登録案内」という。)を送付して、共有システムへの登録を求めていた。なお、政令指定都市以外の市町村に対しては、都道府県から登録案内の内容を周知することとしていた。

(2) ドクターヘリ離発着場所の登録状況等

共有システムの運用開始から3年を経過した令和4年4月1日時点において、共有システムにドクターヘリ離発着場所が登録されているのは、2者の8か所のみであった。

そして、上記本院の検査結果を受けて国土交通省が調査したところ、5年3月末時点におけるドクターヘリの運航者は12者であり、当該12者に係るドクターヘリ離発着場所の箇所数は748か所となっており、この箇所数に占める上記の登録済箇所数(8か所)は1.1%にすぎない状況となっていた。

しかし、同省は、このようにドクターヘリ離発着場所がほとんど登録されていない状況であるにもかかわらず、前記の平成31年3月の共有システムの利用に係る案内の送付以降、ドクターヘリの運航者に対して、共有システムの構築目的、活用方法等に関する周知及び共有システムへの追加の登録依頼を行っていなかった。

(3) 条例飛行禁止区域の登録状況等

共有システムの運用開始から3年を経過した令和4年4月1日時点において、共有システムに条例飛行禁止区域が登録されているのは、2団体の2条例に係る2か所のみであった。

そして、上記本院の検査結果を受けて国土交通省が調査したところ、5年3月末時点における条例飛行禁止区域を定めている地方公共団体は116団体であり、当該116団体が条例飛行禁止区域を定めている条例数は256条例、条例飛行禁止区域は5,321か所となっており、この箇所数に占める上記の登録済箇所数(2か所)は0.04%にすぎない状況となっていた。

しかし、同省は、このように条例飛行禁止区域がほとんど登録されていない状況であるにもかかわらず、前記の平成31年4月の登録案内の送付以降、地方公共団体に対して、共有システムの構築目的、活用方法等に関する周知及び共有システムへの追加の登録依頼を行っていなかった。

そこで、同省からの登録案内に対する対応状況等について、同省が登録案内を送付した90地方公共団体に対して本院がアンケート調査を実施したところ、同省が各地方公共団体への送付先について事前の調整や確認を行わずに総務課の存在しない地方公共団体に対しても一律に総務課宛てに登録案内を発出するなどしたこともあり、登録案内を受領していたことが確認できたものは25団体にとどまり、65団体については登録案内を受領していたか確認できない状況となっていた。

このように、共有システムにおいて共有すべき情報について、ドクターヘリの運航者又は地方公共団体による登録が著しく低調であるにもかかわらず、同省はドクターヘリの運航者及び地方公共団体に対して、共有システムの利用に係る案内等の送付以降、共有システムの構築目的、活用方法等に関する周知及び共有システムへの追加の登録依頼を行っていなかった。また、地方公共団体への登録案内の送付に当たり、送付先についてあらかじめ調整及び確認を十分行っていなかった。これらにより、共有システム(構築、保守等に要した経費5億9813万余円)において共有すべきドクターヘリ離発着場所及び条例飛行禁止区域がほとんど登録されておらず、無人航空機の運航者が、ドクターヘリ離発着場所や条例飛行禁止区域を認識しないまま、無人航空機をドクターヘリ離発着場所や条例飛行禁止区域で飛行させる可能性が高いものとなっていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、国土交通省において、次のことなどによると認められた。

ア ドクターヘリの運航者に対して、改めて共有システムの構築目的、活用方法等について周知し、継続的に共有システムへの登録の働きかけを行う必要性についての認識が欠けていたこと

イ 地方公共団体に対して、改めて共有システムの構築目的、活用方法等について周知し、継続的に共有システムへの登録の働きかけを行う必要性についての認識が欠けていたこと、また、地方公共団体への登録案内の送付先についてあらかじめ調整及び確認を十分に行うことについての理解が十分でなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、国土交通省は、共有システムの機能を十分に発揮させるために、共有システムへのドクターヘリ離発着場所及び条例飛行禁止区域の登録が進捗するよう、次のような処置を講じた。

ア 令和4年9月及び5年8月にドクターヘリの運航者の団体に対して通知等を発出するなどして、同団体を通じてドクターヘリの運航者に対して、改めて共有システムの構築目的、活用方法等についての周知や共有システムへの登録依頼を行い、継続的に登録の働きかけを行うとともに、今後も働きかけを行うこととした。

イ 地方公共団体と文書の送付先についてあらかじめ調整及び確認を十分に行った上で、4年9月及び5年8月に都道府県、政令指定都市及び特別区に対して通知等を発出するなどして、当該地方公共団体及び管内市町村に対して、改めて共有システムの構築目的、活用方法等についての周知や共有システムへの登録依頼を行い、継続的に登録の働きかけを行うとともに、今後も働きかけを行うこととした。

なお、上記ア及びイの結果、5年8月時点において、ドクターヘリ離発着場所については728か所(前記の748か所に占める割合97.3%)、条例飛行禁止区域については4,152か所(前記の5,321か所に占める割合78.0%)がそれぞれ登録されている。