国土交通省は、航空法(昭和27年法律第231号)等に基づき、航空機に対して、安全かつ円滑な航空交通の確保を考慮して、離陸若しくは着陸の順序、時機若しくは方法又は飛行の方法について指示する航空交通管制業務(以下「管制業務」という。)を行っている。
そして、航空交通管制職員試験規則(平成13年国土交通省訓令第97号)等によれば、管制業務に従事しようとする職員は、全国の空港事務所、航空交通管制部等の管制業務を行う機関(以下「管制機関」という。)ごとに管制業務に係る技能証明を取得し、かつ、国土交通省が実施する英語能力証明試験を定期的に受験して英語能力証明を取得しなければならないこととされている(以下、管制業務に係る技能証明及び英語能力証明を取得して管制業務に従事している職員を「航空管制官」という。)。
そのため、国土交通省は、管制機関において適切に技能証明及び英語能力証明に係る研修を実施することを目的として、全国の管制機関に配置されている航空管制官のうち一部の者に、当該研修全般に係る管理、当該研修を受ける職員に対する指導等(以下「訓練教官業務」という。)を管制業務と兼務で行わせている。
しかし、近年、我が国の航空交通量が増加傾向にあることから、国土交通省は、訓練教官業務を行う航空管制官の負担を軽減して管制業務に専念させることなどを目的として、訓練教官業務の一部等を航空管制官に代わって派遣労働者に実施させることとして、平成21年度以降、毎年度、航空管制官訓練教官業務作業員(以下「インストラクター」という。)の派遣契約(単価契約。以下「派遣契約」という。)を派遣会社と締結して、インストラクターを全国の管制機関等に配置している。
インストラクターが行う業務には、航空管制官の技能証明の取得及び技量維持に係る訓練、研修等を実施する航空管制官訓練業務と、英語能力証明試験に関する英語教育等を実施する英語教育補助業務とがある。
派遣契約については、インストラクターが行う業務の実施場所に応じて、国土交通本省及び東京、大阪両航空局で、それぞれ一般競争入札により締結しており、その契約件数及び派遣業務費の支払額は、令和3、4両年度計18件、計9億4021万余円となっている。
派遣契約に係る予定価格の積算は、国土交通本省及び東京、大阪両航空局において、国土交通省が毎年度発出している派遣契約に関する積算方針や単価等が記載された事務連絡(以下「積算方針」という。)に基づき行うことになっている。
積算方針によれば、派遣契約に係る予定価格については、インストラクターが行う航空管制官訓練業務及び英語教育補助業務の別に定めた時間単価(以下「派遣単価」という。)にインストラクターの年間総労働時間及び人数を乗じた額に、消費税(地方消費税を含む。以下同じ。)相当額を加算して積算することとされている(次式参照)。
このうち派遣単価は、国土交通省において、次のように算出している。
① 毎年度、過年度に国土交通本省及び東京、大阪両航空局と派遣契約を締結した派遣会社から賃金台帳の提出を受けて、これを基に、直近3か年度の各年度のインストラクターの1人1時間当たりの賃金の単価を計算し、その平均額を算出する(以下、算出した平均額を「賃金単価」という。)。
② 厚生労働省が毎年度公表している「労働者派遣事業報告書の集計結果(注)」(以下「厚労省集計結果」という。)に記載されたインストラクターが行う業務に類似する職種の派遣料金(以下「集計結果派遣料金」という。)及び派遣労働者の賃金(以下「集計結果派遣労働者賃金」という。)から、直近3か年度の各年度の集計結果派遣料金に占める派遣会社のマージン(集計結果派遣料金から集計結果派遣労働者賃金を差し引いた額。派遣会社の利益、派遣会社が負担する社会保険料、教育訓練費等がこれに含まれる。)の割合を計算し、その平均値を算出する(以下、算出した平均値を「マージン率」という。)。
③ ①で算出した賃金単価と②で算出したマージン率を使用して、次式により派遣単価を算出する。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、派遣契約に係る予定価格の積算が適切に行われているかなどに着眼して、前記の派遣契約18件を対象として、国土交通本省及び東京、大阪両航空局において、予定価格の積算内訳書等の書類を確認するとともに、積算方針の内容等について聴取するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、国土交通本省及び東京、大阪両航空局は、前記18件の派遣契約に係る予定価格について、積算方針に定めた派遣単価にインストラクターの年間総労働時間及び人数を乗じた額に、消費税相当額を加算して、計10億4847万余円と積算していた。
そして、国土交通省は、積算方針に定めた派遣単価の算出に当たり、集計結果派遣料金には消費税が含まれないものとして、集計結果派遣料金をそのまま用いて、マージン率を年度及びインストラクターが行う業務の別に30.4%から32.8%までと算出していた。
しかし、労働者派遣事業報告書の様式には、平成27年9月以降、同報告書に記載する派遣料金は消費税を含むと明記されており、また、29年度以降は、厚労省集計結果においてもその旨が明記されていた。
そこで、集計結果派遣料金から消費税相当額を控除してマージン率を試算すると、年度及びインストラクターが行う業務の別に24.9%から27.3%までとなり、このマージン率を使用するなどして派遣単価を試算すると、国土交通省が積算方針に定めた派遣単価2,241円から3,819円までを151円から293円まで下回る額となった。
このように、積算方針に定めた派遣単価の算出過程において、集計結果派遣料金から消費税相当額を控除しなかったため、予定価格の積算額が過大となっていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(低減できた積算額)
前記18件の派遣契約に係る予定価格の積算額10億4847万余円について、集計結果派遣料金から消費税相当額を控除して算出したマージン率を使用するなどして試算した派遣単価に基づいて修正計算すると計9億7039万余円となり、積算額を約7800万円低減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、国土交通省において、積算方針に定めた派遣単価の算出に当たり、算出根拠となる資料の確認が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、国土交通省は、派遣契約に係る予定価格の積算が適切に行われるよう、次のような処置を講じた。
ア 集計結果派遣料金には消費税が含まれていることを踏まえて令和5年度の派遣契約に係る派遣単価を算出した上で、5年2月に関係部局に対して積算方針を発するなどして、5年度の派遣契約について当該派遣単価を使用して予定価格を積算するよう周知した。
イ 同年8月に、今後の派遣単価の算出に当たり、集計結果派遣料金から消費税相当額を控除して算出したマージン率を使用することなどを定めた積算要領を制定し、同月に積算方針の作成を担当する部局に対して事務連絡を発して、当該積算要領に基づいて適切に派遣単価を算出するよう周知した。