【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】
物品役務相互提供協定(ACSA)に基づく提供に係る決済について
(令和5年10月26日付け 防衛省海上幕僚長宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。
記
貴自衛隊、陸上自衛隊、航空自衛隊、統合幕僚監部等(以下、各自衛隊と合わせて「各自衛隊等」という。)は、我が国とアメリカ合衆国、英国、オーストラリア連邦、フランス共和国、カナダ及びインド共和国の6か国(以下「各国」という。)とがそれぞれ締結している物品役務相互提供協定(Acquisition and Cross Servicing Agreement。以下「ACSA」という。)に基づき、各国の軍隊への物品又は役務の提供の取引及び各国の軍隊からの物品又は役務の受領の取引(以下、この提供の取引を「ACSAに基づく提供」といい、「ACSAに基づく提供」とこの受領の取引を合わせて「ACSA相互提供」という。)を行っている。ACSAによれば、ACSA相互提供の適用範囲は、共同訓練をはじめ、人道的な国際救援活動、災害派遣活動等であり、対象となる物品又は役務は、食料、水、宿泊、輸送、燃料・油脂・潤滑油等とされている。ACSA相互提供に係る決済の方法は、物品については当該物品の返還若しくは同種、同等及び同量の物品の返還又は通貨による償還、役務については通貨による償還又は同種かつ同等の価値を有する役務の提供によることとされている。
防衛省は、ACSAに関する基本的な条件、手続及びその細目を追加的に定めることを目的として、手続取極を各国の国防省又は国防大臣との間で締結している。そのうち、アメリカ合衆国国防省と締結している手続取極である「日本国の自衛隊とアメリカ合衆国軍隊との間における後方支援、物品又は役務の相互の提供に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定に基づく日本国防衛省とアメリカ合衆国国防省との間の手続取極」によれば、物品又は役務に係る決済は、同種の置換え又は通貨による償還のいずれにおいても、物品又は役務の引渡しの日から12か月以内に完了することとされている。また、アメリカ合衆国以外の5か国との間の手続取極においても、アメリカ合衆国との手続取極と同様に、物品又は役務の引渡しの日から12か月以内に決済を完了することとされている。
各自衛隊等とアメリカ合衆国の各軍との間におけるACSA相互提供の実施に関し必要な事項を定めた「日米物品役務相互提供の実施に関する訓令」(平成25年防衛省訓令第2号)等によれば、各自衛隊等がアメリカ合衆国の各軍との間における燃料等のACSA相互提供を実施する場合においては、双方のACSA相互提供を適正に実施する責務を有する者(以下「実施権者(注1)」という。)が、それぞれ物品の品名又は役務の内容、提供年月日、数量等を記載した書面(Mutual Logistics Support。以下「MLS」という。)に署名するなどして、ACSA相互提供を行うこととされている。そして、各自衛隊等の実施権者は、ACSA相互提供が終了した後、それらの実績をまとめたものをそれぞれ貴幕僚監部、陸上幕僚監部、航空幕僚監部及び統合幕僚監部(以下「各幕僚監部」という。)の長に報告することとされており、MLSも送付することになっている。さらに、物品又は役務に係る決済の方法として通貨による償還を受ける場合には、物品の場合は物品管理官又は分任物品管理官が、役務の場合は艦長等の役務提供部隊等の長が各幕僚監部で定められている歳入徴収官に債権発生通知書を送付することとされており、当該歳入徴収官は債権発生通知書に基づき納入告知書をアメリカ合衆国の各軍の指定先に送付し、指定の口座に入金させることになっている。また、アメリカ合衆国以外の5か国の各軍との間で行われるACSA相互提供の実施に関しても、上記と同様の訓令が定められている。
防衛省は、手続取極を実施するための細目及び条件を定める取決め(以下「実施取決め」という。)として、アメリカ合衆国国防省との間で「物品役務相互提供協定(ACSA)燃料の交換及び償還に関する国防兵站局エネルギー部に代表される米国国防省及び統合幕僚監部に代表される日本国自衛隊との間の実施取決め」を締結している。これによれば、各自衛隊等とアメリカ合衆国の各軍との間で実施した航空機用燃料、船舶用燃料等のACSA相互提供について、少なくとも半年ごと(各年の3月及び9月)に、また、いずれか一方の当事者の提供量が300万ガロンに達した時にはその都度、各自衛隊等の提供量とアメリカ合衆国の各軍の提供量との間で相殺することとされている。そして、相互の提供量の確認と相殺を行うため、燃料相殺会議を設置し、日本側は各幕僚監部が、アメリカ合衆国側は国防省国防兵站局(Defense Logistics Agency)エネルギー部(以下「DLAエネルギー部」という。)が、それぞれ燃料相殺会議における代表となっている。
燃料相殺会議においては、各幕僚監部とDLAエネルギー部は、MLS等の資料を基に双方の提供量等を互いに確認して、双方が合意した取引に関して相殺することになっている。そして、相殺後の差分を通貨で償還して決済が完了することになっている。なお、アメリカ合衆国以外の5か国のうちインド共和国を除く4か国との間においても実施取決めを締結しているものの、燃料相殺会議を設置しているのはアメリカ合衆国との間のみである。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性等の観点から、ACSA相互提供に係る決済が手続取極等に基づき適切に行われているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、平成29年度から令和3年度までに行われたACSA相互提供の実績3,737件(取引金額計186億5257万余円(注2))を対象として、内部部局、防衛装備庁、各幕僚監部、貴自衛隊補給本部及び16地方総監部等(注3)において、実績報告、MLS等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
前記のとおり、手続取極によれば、ACSA相互提供に係る決済は、物品又は役務の引渡しの日から12か月以内に完了することとされている。
そこで、ACSA相互提供に係る決済状況についてみたところ、貴自衛隊において、5年6月現在で、物品又は役務の引渡しの日から12か月以上経過しているのに、決済が完了していないACSAに基づく提供が110件(取引金額計1億3507万余円)見受けられた。
そして、上記110件のうちアメリカ合衆国の各軍への燃料の提供の取引は、表1のとおり、53件(取引金額計8497万余円)見受けられた。
表1 アメリカ合衆国の各軍への燃料の引渡しの日から12か月が経過しているのに、決済が完了していない状況
相手方 | 提供品目 | 提供年度 | 取引件数(件) | 提供数量(kL) | 取引金額(円) |
---|---|---|---|---|---|
アメリカ合衆国の各軍 | 燃料 | 平成29 | 10 | 67.21 | 3,394,105 |
30 | 10 | 477.20 | 28,317,200 | ||
令和元 | 17 | 54.84 | 4,509,327 | ||
2 | 14 | 1,132.76 | 48,516,535 | ||
3 | 2 | 3.32 | 233,396 | ||
計 | 53 | 1,735.33 | 84,970,563 |
上記の53件については、決済期限(物品又は役務の引渡しの日から12か月経過した日をいう。以下同じ。)内にアメリカ合衆国の各軍からDLAエネルギー部にMLSが提出されていなかったこと、及び貴幕僚監部においてアメリカ合衆国の各軍の実施権者の確認ができなかったことなど、燃料相殺会議における決済の手続を進めることができない状況となっていたことによるものであった。
前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
補給艦「おうみ」は、平成30年11月にACSAに基づく提供として、船舶用燃料である軽油454kL(取引金額2678万余円)をアメリカ合衆国海軍に対して提供し、実施権者である「おうみ」艦長は、30年12月にMLS等を貴幕僚監部に送付した。しかし、アメリカ合衆国海軍からDLAエネルギー部にMLSが提出されていなかったため、貴幕僚監部は、上記の軽油454kLを燃料相殺会議における相殺の対象とすることができなかった。そして、半年ごとに燃料相殺会議が行われていたにもかかわらず、こうした状況のまま、引渡しの日から、4年以上経過した令和5年6月現在においても決済が完了していなかった。
また、前記110件のうちアメリカ合衆国の各軍への燃料の提供の取引を除いたACSAに基づく提供は、表2のとおり、57件(取引金額計5010万余円)見受けられた。
表2 物品又は役務の引渡しの日から12か月が経過しているのに、決済が完了していない状況(アメリカ合衆国の各軍への燃料の提供を除く。)
相手方 | 提供品目 | 提供年度 | 取引件数(件) | 取引金額(円) |
---|---|---|---|---|
アメリカ合衆国、オーストラリア連邦及びフランス共和国の各軍 | 燃料、食料等 | 平成 29 | 3 | 4,295 |
30 | 38 | 241,874 | ||
令和元 | 9 | 137,264 | ||
2 | 0 | 0 | ||
3 | 7(3) | 49,721,962(49,694,400) | ||
計 | 57(3) | 50,105,395(49,694,400) |
上記の57件については、貴幕僚監部において、納入告知書を送付すべき相手国の各軍側の指定先の確認ができないなどのため決済の手続を進めることができない状況となっていたこと、及び役務提供部隊等の長が歳入徴収官に債権発生通知書を送付していなかったため、当該歳入徴収官が納入告知書を相手国の各軍の指定先に送付することができなかったことによるものであった。
前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
佐世保地方総監部は、令和3年5月にACSAに基づく提供として、船舶用燃料である軽油950kL(取引金額3876万円)をフランス共和国海軍に対して提供し、実施権者である佐世保地方総監は、3年6月にMLS等を貴幕僚監部に送付した。しかし、貴幕僚監部において、納入告知書を送付すべきフランス共和国軍側の指定先の確認ができなかったため、歳入徴収官は納入告知書を送付することができなかった。そして、こうした状況のまま、引渡しの日から2年以上が経過した5年6月現在においても決済が完了していなかった。
(是正及び是正改善を必要とする事態)
ACSAに基づく提供について、決済の手続を進めることができない状況となっていたこと、及び債権発生通知書が歳入徴収官に送付されていなかったことにより、決済期限内に決済が完了していない事態は適切ではなく、是正及び是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、相手国の各軍側の事情にもよるが、貴幕僚監部において、決済期限内に決済が行えない取引が長期間にわたり継続的に生じているのに、こうした状況を解消しACSAを安定的に運営していくための検討や取組が十分でなかったこと、ACSAに基づく提供を実施した役務提供部隊等の長に対して、歳入徴収官に債権発生通知書を送付することについての周知が十分でないことなどによると認められる。
ACSAは、各自衛隊等と各国の軍隊との間で物品又は役務を相互に提供する際に適用される決済手続等の枠組みを定める協定であり、今後も活用されていくことが見込まれる。
ついては、貴幕僚監部において、ACSAに基づく提供が適切なものとなるよう、次のとおり、是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。
ア ACSAに基づく提供に係る決済が決済期限内に完了していない110件について、相殺又は指定の口座に入金させることにより、速やかに決済を完了させること(会計検査院法第34条の規定により是正の処置を要求するもの)
イ 決済期限内に決済が行えない取引が長期間にわたり継続的に生じている状況を解消するために必要な取組の方針等について検討を行い、必要な措置を講ずるとともに、ACSAに基づく提供を実施した分任物品管理官及び役務提供部隊等の長に対して、歳入徴収官に債権発生通知書を送付することについて周知徹底を行うこと(同法第34条の規定により是正改善の処置を求めるもの)