防衛省は、自衛隊及び駐留軍の使用に供する施設を新たに取得し、又は既に取得した施設を改修するなどの建設工事を毎年度実施している。
そして、地方防衛局等は、建設工事等の実施に当たっては、工事用資材の搬入・搬出を行う工事用車両の通行管理及び事故防止並びに侵入者の防止等を目的として、警備会社と役務契約(以下「警備業務契約」という。)を締結して、警備業務を実施している。
防衛省は、警備業務契約の予定価格のうち物品費、諸経費等を除いた警備員等に係る労務費(以下「警備労務費」という。)の積算に当たっては、同省独自の基準がないことから、国土交通省大臣官房官庁営繕部が制定した「建築保全業務積算基準」、「建築保全業務積算要領」(以下、これらを合わせて「建築保全積算基準」という。)等を基に算出することにしている。建築保全積算基準等によれば、警備員の労務単価は、次の①及び②のとおり、従事する時間帯に応じて区分することとされている。
① 午前5時から午後10時までの時間帯(以下「日中時間帯」という。)に業務に従事する場合の1日8時間当たり単価(以下「日割基礎単価」という。)
② 午後10時から午前5時までの時間帯(以下「深夜時間帯」という。)に業務に従事する場合の1時間当たり単価(以下「夜勤単価」という。)
そして、夜勤単価については、日割基礎単価を1時間当たりに換算した単価(以下「時間単価」という。)等に25%以上の割増率を乗じたものを時間単価に加えることとされている。
防衛省は、建設工事の契約に含まれる警備業務の予定価格の積算については、同省が定めた「土木工事積算基準」(平成28年防整技第7175号別紙第1等)、「土木工事積算価格算定要領」(令和2年防整技第15262号別冊第1等。以下、これらを合わせて「土木積算基準」という。)等により、安全費として計上している。そして、土木積算基準等によれば、契約変更に係る積算のうち、労務費の積算については、原則として原工事の積算時における労務単価を用いることとされており、例外として原工事にない新たな職種を使用する場合は時価とすることとされている。
また、同省内部部局は、建設工事等の契約と別に締結される警備業務契約に係る契約変更を行う場合について、土木積算基準等に準拠するよう地方防衛局等に周知はしていないものの、警備労務費の積算については、原則として当初契約の積算時における労務単価を用いることになるとしている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、経済性等の観点から、警備労務費の予定価格の積算が業務の実態や建築保全積算基準等に照らして適切なものとなっているかなどに着眼して、平成30年度から令和4年度までの間に警備業務契約を締結していた4防衛局(注)の契約のうち、4年度までに契約が完了していた26契約(契約額計169億7097万余円、警備労務費の積算額計116億3831万余円)を対象として、防衛省内部部局及び4防衛局において、契約書、積算書、仕様書等の関係資料を確認したり、現地の状況を確認したりするなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記のとおり、建築保全積算基準等によれば、深夜時間帯に業務に従事する場合の夜勤単価については、時間単価等に25%以上の割増率を乗じたものを時間単価に加えることとされている。
前記26契約のうち、4防衛局が深夜時間帯に警備業務を実施させている警備業務契約に係る警備労務費の予定価格の積算について確認したところ、沖縄防衛局の11契約(契約額計166億3682万余円、警備労務費の積算額計114億0162万余円)では、複数の業者から徴取した見積書のうち総額が最低金額となっている見積書を予定価格として採用するなどしていた。上記予定価格の積算において採用した見積書に記載されている労務単価を確認したところ、勤務区分が「日中勤務」と「日中勤務及び深夜勤務」に分かれており、「日中勤務及び深夜勤務」は日中時間帯と深夜時間帯にまたがった時間帯における勤務に対する単価として設定されていた。そして、「日中勤務」は日中時間帯に行われているため、この労務単価により時間単価については把握できるものの、夜勤単価に係る割増率が当該見積書に記載されていないことから、夜勤単価が適切なものとなっているかについては確認できないものとなっていた。また、実際に同防衛局は、深夜時間帯の勤務に係る割増率を把握していなかった。
そこで、上記11契約の予定価格の積算について、「日中勤務及び深夜勤務」の勤務時間帯を日中時間帯と深夜時間帯に分けて、日中時間帯には時間単価を適用して、それを基に夜勤単価を算出するなどして割増率を算出したところ、11契約において割増率が25%を超えており、その割増率は25.4%から142.1%までとなっていた。
しかし、同防衛局を通じて上記11契約の受注者4者の給与規程等を確認したところ、割増率は25%又は26%となっており、各受注者は、これらの割増率により算出された夜勤単価を基に計算された給与を警備員等に対して実際に支払っていた。
前記26契約のうち、南関東防衛局の1契約(当初契約額1億3852万余円、警備労務費の積算額1億0115万余円)において、一般競争契約により契約を締結した後に、同防衛局の確認により、当初契約時の警備労務費の予定価格の積算における1日当たりの警備員数及び業務時間が仕様書の内容と相違していることが判明した。そして、同防衛局は、実績の総時間数を基に契約を変更するに当たり、上記当初契約の予定価格の積算時に採用した労務単価1,575円について、今後の契約の参考とするなどのために入札後に受注者から提出させていた業務費内訳明細書に記載されている労務単価2,100円に変更するなどして、最終の契約変更後の契約額を7684万余円(警備労務費の積算額5377万余円)として契約を締結し、同額を支払っていた。
しかし、前記のとおり、防衛省内部部局は、警備業務契約に係る契約変更を行う場合について土木積算基準等に準拠するよう地方防衛局等に周知はしていないものの、警備労務費の積算については、原則として当初契約の積算時における労務単価を用いることになるとしている。
そして、当該契約変更においては、新たな職種の警備員を配置するなどの仕様の変更はなく、また、同防衛局が受注者から入手した賃金台帳等を確認するなどしても、当初契約の積算時における労務単価を変更すべき事情は認められなかった。
このように、警備労務費の予定価格の積算に当たり、深夜時間帯の勤務に対して受注者における割増率の実態等より高い割増率となっている夜勤単価を適用し、また、契約変更の積算時における労務単価を合理的な理由もなく当初契約の積算時と異なる労務単価に変更していた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(低減できた警備労務費の積算額)
前記11契約の警備労務費について、夜勤単価の割増率を受注者における割増率の実態を踏まえるなどして、建築保全積算基準等に定められている下限の25%と仮定して試算すると、前記の積算額114億0162万余円は計108億8947万余円となり、約5億1210万円低減できたと認められた。また、前記1契約の警備労務費について、最終の契約変更の積算時における労務単価に当初契約の積算時における労務単価1,575円を適用することとして修正計算すると、前記の積算額5377万余円は4033万余円となり、約1340万円低減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、沖縄防衛局において、警備労務費の予定価格の積算に当たり、労務単価について受注者における割増率の実態を踏まえた建築保全積算基準等に基づく合理的な割増率等による夜勤単価を適用することの理解が十分でなかったことや、南関東防衛局において、警備業務契約に係る契約変更時の労務単価について、原則として当初契約の積算時における労務単価を用いなければならないことの理解が十分でなかったことにもよるが、防衛省内部部局において、次のことなどによると認められた。
ア 深夜時間帯の勤務を伴う警備労務費の予定価格の積算に当たり、夜勤単価の割増率について建築保全積算基準等に定められている下限の割増率等の合理的な数値を示すなどして、地方防衛局等に具体的に周知していなかったこと
イ 警備業務契約の契約変更を行う場合に、土木積算基準等に準拠し、原則として当初契約の積算時における労務単価を用いるよう地方防衛局等に周知していなかったこと
上記についての本院の指摘に基づき、防衛省内部部局は、警備業務契約に係る警備労務費の予定価格の積算が適切に行われるよう、5年8月に地方防衛局等に対して通知を発して、次のような処置を講じた。
ア 深夜時間帯の勤務を伴う警備労務費の予定価格の積算に当たり、業者から見積書を徴取する際に日割基礎単価について確認することや夜勤単価の算出の基となる合理的な割増率を25%に定めたことなどを地方防衛局等に周知した。
イ 警備業務契約の契約変更を行う場合に、土木積算基準等に準拠し、原則として当初契約の積算時における労務単価を用いるよう地方防衛局等に周知した。