陸上自衛隊は、敵の上陸が予想される海岸の水際付近に地雷原を構成し、敵舟艇等の上陸を妨害することを目的として、94式水際地雷敷設車(以下「敷設車」という。)を平成6年度から17年度までの間に調達している。
敷設車には、地雷を敷設するために必要な距離測定装置等の器材が搭載等されており、陸上自衛隊は、距離測定装置において電波を用いる方式(以下「電波方式」という。)の敷設車を幌別、船岡、勝田各駐屯地に、GPSを用いる方式(以下「GPS方式」という。)の敷設車を和歌山、小郡両駐屯地にそれぞれ3台ずつ、計15台配備している。
敷設車は、製造から長期間が経過したことで部品の製造が中止となり、故障した際に修理を行うことができないなどの支障を来していたため、陸上幕僚監部(以下「陸幕」という。)は、距離測定装置等の器材を新たに製造して、従来の器材と取り替える改造を実施することとした。改造に当たり、陸幕は、陸上自衛隊整備規則(昭和52年陸上自衛隊達第71―4号)に基づき、改造指令書を作成し、改造対象となる敷設車(以下「対象敷設車」という。)、契約の主体となる部隊等(以下「契約主体」という。)等を指定している。
そして、改造指令書において契約主体として指定された陸上自衛隊補給統制本部(以下「補給統制本部」という。)及び5補給処等(注1)は、JMUディフェンスシステムズ株式会社(以下「会社」という。)から徴した見積書等を基に予定価格を算定して、表のとおり、29年度から令和3年度までの間に一般競争契約及び公募による随意契約により改造請負契約計8件(契約金額計7億7752万余円)を会社と締結している。
表 契約状況
年度 | 契約主体 | 対象敷設車の 配備駐屯地名 |
契約 件数 |
契約金額 |
---|---|---|---|---|
平成 29年度 |
補給統制本部 | 勝田駐屯地 | 1 | 112,978 |
令和 元年度 |
関東補給処 古河支処 |
勝田駐屯地 | 2 | 76,961 |
東北補給処 | 船岡駐屯地 | 107,877 | ||
2年度 | 北海道補給処 | 幌別駐屯地 | 3 | 129,140 |
東北補給処 | 船岡駐屯地 | 43,560 | ||
九州補給処 | 小郡駐屯地 | 61,050 | ||
3年度 | 関西補給処 | 和歌山駐屯地 | 2 | 129,360 |
九州補給処 | 小郡駐屯地 | 116,600 | ||
計 | 8 | 777,527 |
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、敷設車の改造は経済的に実施されているかなどに着眼して、前記の改造請負契約8件を対象として、陸幕、補給統制本部、4補給処(注2)等において契約書、仕様書、予定価格調書、会社から徴した見積書等の関係資料を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、関東補給処古河支処から上記と同様の関係資料の提出を受けて、その内容を確認するなどして検査した。
(検査の結果)
前記契約主体の指定に当たり、陸幕は、前記8件の改造請負契約の初回に当たる平成29年度に締結した勝田駐屯地配備の対象敷設車に係る契約(以下「初回契約」という。)については、改造の作業要領等が未確定で、陸幕と会社の間で調整しながら作業を進める必要があったことから、補給統制本部を契約主体に指定していた。
一方、陸幕は、改造場所を対象敷設車が配備されている駐屯地としていることなどから、2回目以降に締結した契約については、当該駐屯地等との調整を考慮したとして、当該駐屯地と同一方面隊の5補給処等をそれぞれ契約主体に指定していた。また、陸幕は、会社が同時に受注できる台数等を考慮したとして、各駐屯地に3台ずつ配備された敷設車について、1契約により3台全てを改造することなく、改造の発注時期を2か年度に分けて複数の契約により実施するよう指定するなどしていた。これらの理由から、前記のとおり、令和元年度から3年度までに5補給処等が会社と締結した改造請負契約(以下「補給処等契約」という。)は、計7件(契約金額計6億6454万余円)となっていた。
改造請負契約は、会社が改造に必要な部品等を下請業者へ発注するために使用する図面、注文仕様書等(以下、これらを合わせて「発注用図面等」という。)並びに会社が契約主体である補給統制本部及び5補給処等に作業内容の承認を受けるために提出する図面等(以下「承認用図面等」といい、発注用図面等と合わせて「図面等」という。)を作成する業務(以下「図面等作成業務」という。)を含むものとなっている。そして、補給統制本部及び5補給処等は、改造請負契約に係る予定価格の算定に当たり、会社から徴した見積書等を基に、図面等作成業務の費用を計上していた。
そして、補給処等契約に係る図面等作成業務について、見積書を確認したところ、会社では、初回契約で作成した電波方式の図面等を基に修正等を行うことになっており、契約ごとに図面等を作成することになっていた。このため、図面等作成業務に係る作業時間数及び費用が契約ごとに計上されていて、補給処等契約7件で計1,272時間、計1394万余円となっていた(図1参照)。
図1 補給処等契約の予定価格に計上されていた図面等作成業務の概要
そこで、契約ごとに図面等作成業務に係る作業時間数が計上されていた理由について、陸幕を通じて会社に確認したところ、会社は、改造に必要な部品等は契約ごとに発注していたことから、会社が下請業者に発注するために使用する発注用図面等の作成に係る作業は契約ごとに発生していたとのことであった。また、契約主体である5補給処等から契約ごとに提出を求められていたことから、会社が5補給処等に提出する承認用図面等の作成に係る作業も契約ごとに発生していたとのことであった。しかし、会社によると、発注用図面等については、契約主体をまとめて契約数を減らすことで、また、承認用図面等については、内容が共通する場合には契約主体において2回目以降の提出を不要とすることで、図面等作成業務に係る作業時間数の削減が可能であったとのことであった。
そして、補給処等契約では、改造場所となる駐屯地等との調整を5補給処等が実施していたものの、改造内容を踏まえた調整の内容等を考慮すると、補給統制本部が当該調整を実施することも可能であり、5補給処等に契約主体を分ける必要はなかったと認められた。
上記のことから、補給処等契約を次のような契約主体及び契約内容としていれば、1,272時間となっていた図面等作成業務に係る作業時間数を計466時間にすることができたと認められた(図2参照)。
ア 契約主体について、補給統制本部が元、2、3各年度で1件ずつにまとめて締結することにより、契約数を計7件から計3件にすることで、契約ごとに計7回作成されていた発注用図面等の作成回数を計3回とする。
イ 契約内容について、承認用図面等の内容の共通性を考慮することにより、初回契約で受領している電波方式の対象敷設車に係る承認用図面等は補給処等契約での提出を不要とすること、GPS方式の対象敷設車に係る承認用図面等の提出は1回のみとすることで、契約ごとに計7回提出されていた承認用図面等の提出回数を1回とする。
図2 補給処等契約の契約主体及び契約内容を見直した場合のイメージ
このように、陸幕が改造指令書の作成に当たり、契約主体を補給統制本部及び5補給処等に分けて改造請負契約を締結することなどを指示していたため、図面等作成業務が必要以上に発生していた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(低減できた図面等作成業務に係る費用)
補給処等契約7件の予定価格に計上されていた図面等作成業務に係る費用1394万余円について、前記の作業時間数466時間を用いて修正計算すると、計510万余円となり、883万余円低減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、陸幕において、改造指令書の作成に当たり、契約主体の選定、並びに契約主体及び契約年度を複数に分けて改造を実施する場合における契約内容について、経済性を考慮した検討が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、陸幕は、今後の改造がより経済的に実施されるよう、5年8月に次のような処置を講じた。
ア 今後予定される敷設車の改造請負契約に係る改造指令書を作成する陸幕内の担当部署、及び作成に協力する補給統制本部等の関係部署に対して、契約主体の選定、並びに契約主体及び契約年度を複数に分けて改造を実施する場合における契約内容について、経済性を十分に考慮して検討することを留意点として明記した改造指令書の様式を定めて、これらに留意して改造指令書を作成することを周知するなどした。
イ 改造指令書を作成する可能性のある関係部署に対して、敷設車以外の装備品等の改造を実施する場合においても同様に経済性を十分に考慮して検討することを周知するなどした。