【改善の処置を要求し及び意見を表示したものの全文】
新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金による物品配布等事業等の実施について
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金(以下「交付金」という。)は、「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」(令和2年4月7日閣議決定)の一環として、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するとともに、感染拡大の影響を受けている地域経済や住民生活を支援し地方創生を図るために、地方公共団体が地域の実情に応じてきめ細やかに必要な事業を実施することを目的として創設されたものである。
「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金制度要綱」(令和2年府地創第127号等。以下「制度要綱」という。)によれば、交付金の交付対象となる事業(以下「交付対象事業」という。)は、制度要綱に掲げる基準に該当する国庫補助事業等及び地方単独事業とされており、国は、「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」(令和2年4月20日閣議決定。上記の同月7日付け閣議決定の内容を変更したもの)等の閣議決定に掲げられた事項(以下「経済対策」という。)についての対応として、地方公共団体が作成した新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金実施計画(以下「実施計画」という。)に基づく交付対象事業に要する費用に対して交付金を交付することとされている。
また、内閣府は、制度要綱及びその運用について定めた事務連絡に基づき、地方公共団体から交付対象事業の目的・効果、経済対策との関係、事業始期及び事業終期(以下、事業始期から事業終期までの期間を「事業実施期間」という。)等が記載された実施計画の提出を受けることとなっている。そして、実施計画に記載された交付対象事業が経済対策に対応した事業に該当することを確認するなどして、交付金の総額を明らかにして配分計画を作成し、これに基づき、交付金の予算を交付の事務を行う各省に移し替えることとなっている。実施計画に記載された交付対象事業が複数の府省が所管する国庫補助事業や地方単独事業で構成されている場合は総務省が交付行政庁となることとなっており、実際には、実施計画にいずれも地方単独事業が含まれるなどしているため、同省が交付行政庁となっている。
総務省が制度要綱に基づく交付金の交付に関して定めた「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金交付要綱(総務省)」(令和2年総行政第148号等。以下「交付要綱」という。)によれば、同省は、制度要綱により内閣府から移し替えられた交付金について、地方公共団体が作成する実施計画に記載されている交付対象事業に要する費用に対して、地方公共団体ごとの交付限度額以内で交付することなどとされている。同省は、地方公共団体から交付金の交付申請があった場合は、その内容を審査し、交付すべきものと認めたときは交付決定を行い、速やかにその内容等について交付決定書により地方公共団体に通知することとされている。
また、地方公共団体は、実施計画に記載した全ての交付対象事業の完了の日から起算して1か月を経過した日又は事業の完了の日が属する年度の翌年度の4月10日のいずれか早い期日までに、総務省に実績報告書等を提出することとされている。そして、同省は、実績報告書等の審査を行うなどして、交付対象事業の成果が交付決定の内容及びこれに付した条件に適合すると認めたときは、交付すべき額を確定し、地方公共団体に通知することなどとされている。
内閣府が作成した「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金Q&A」(以下「Q&A」という。)によれば、交付対象事業については、新型コロナウイルス感染症への対応として効果的な対策であり、地域の実情に合わせて必要な事業であれば、原則として交付金の使途に制限はないとされている。そして、交付金は地方単独事業にも充当できることから、実施計画に記載された交付対象事業の内容は多岐にわたっている。
各地方公共団体は、実施計画の作成に当たり、内閣府が公表している「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金の活用事例集」を参考にするなどして、交付対象事業を決定している。地方公共団体が交付金を活用して実施している事業の中には、マスク、パソコン等の物品を購入して、これを住民等に配布し、貸与し又は販売することを内容とするもの(以下、このような内容の事業を「物品配布等事業」と総称する。)や、小学校、中学校等における情報通信技術の環境整備、地方公共団体におけるリモート等による業務の実施のために、パソコン等の端末の購入や借入れを行うことを内容とするもの(以下、このような内容の事業を「端末購入等事業」と総称する。)など様々なものがある。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、効率性、有効性等の観点から、交付対象事業は経済対策に対応した事業として交付金の趣旨に沿って適切に実施されているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、20府県及び505市町村の令和2、3両年度の実施計画における物品配布等事業計1,594事業(注1)(事業費計433億9269万余円、交付金交付額計397億4295万余円(4年度への繰越分を含む。以下同じ。)並びに20府県及び595市町村の2、3両年度の実施計画における端末購入等事業計2,075事業(注1)(事業費計1569億5363万余円、交付金交付額計1258億5774万余円)を対象として、内閣府本府、総務本省、20府県及び381市町村において会計実地検査を行うとともに、301市町村から、物品配布等事業及び端末購入等事業についての調書の提出を受けるなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた((1)及び(2)の事態には重複しているものがある。)。
物品配布等事業の内容としては、地方公共団体がマスク、消毒液、防護服等の衛生資材を購入して住民、事業者、医療機関等に配布するもの、テレワーク等に使用するパソコン、モバイルルータ等の情報機器等を購入して地方公共団体の職員に貸与するもの、防災ラジオ、防災行政無線の戸別受信機等の防災機器を購入して住民等に貸与し又は販売するもの、体温計、サーモグラフィー等の測定器を購入して事業者、自治会等に貸与するものなどがある。
内閣府は、地方公共団体が交付金により購入した物品について、実施計画に記載された内容に沿って使用されるべきであるとしている。そして、交付要綱によれば、交付対象事業において取得した財産を交付金の目的に反して使用するなどの場合には、地方公共団体は財産処分承認申請書を総務省に提出し、その承認を受けなければならないことなどとされている。
前記のとおり、20府県及び505市町村は、2、3両年度の実施計画に基づく物品配布等事業を1,594事業(事業費433億9269万余円、交付金交付額397億4295万余円)実施している。そして、これらの事業で購入した物品の品目数は計6,674品目(注2)、購入金額は計235億7705万余円となっており、4年度末時点で納品から少なくとも1年以上が経過していることになる。
そこで、上記の20府県及び505市町村が物品配布等事業で購入した物品6,674品目について、住民等への配布等が行われているかなどの使用状況を確認したところ、4県及び48市町村の計55事業(事業費計38億7694万余円、交付金交付額計27億4002万余円)において、4年度末時点で購入数量の半分以上が一度も使用されておらず、かつ、一度も使用されていない数量に購入単価を乗じた額が50万円以上の物品が、計90品目(購入金額計6億3398万余円、交付金相当額計4億8465万余円)見受けられた。これを種類別に示すと、表のとおり、衛生資材が51品目と大半を占めていた。
表 90品目の内訳(令和4年度末現在)
種類 | 品目 | 品目数 | 購入金額 (万円) |
交付金相当額 (万円) |
---|---|---|---|---|
衛生資材 | マスク、グローブ、防護服、ガウン、パーティション、消毒液、検査キット等 | 51 | 5億2711 | 3億8075 |
情報機器(周辺機器を含む。) | パソコン、タブレット、モバイルプリンタ、キーボード等 | 21 | 3746 | 3588 |
防災機器 | 戸別受信機、外部アンテナ等 | 7 | 3243 | 3168 |
測定器 | サーモグラフィー、活動量計 | 3 | 252 | 211 |
その他 | テント、テント用マット、エコバッグ等 | 8 | 3444 | 3421 |
計 | 90 | 6億3398 | 4億8465 |
このように、地方公共団体が交付金により購入した物品の中には、納品後1年以上使用されることなく倉庫等に在庫として保管されているものが相当数あり、2年以上経過しているものも65品目あった。そして、90品目の中には、経年劣化によって比較的短期間で使用期限が到来する衛生資材や、パソコン等のように比較的早期に陳腐化する可能性がある情報機器等が含まれていた。
このため、配布等を目的としたこれらの物品については、在庫として保管し続けるのではなく、物品の配布、貸与又は販売の対象者(以下「物品の配布等対象者」という。)の要件を見直すこと、改めて配布等の希望を確認することなどにより、速やかに活用を促進する方策等を検討することが必要と考えられる。
また、前記90品目の中には、物品の購入数量の決定に当たって、物品の配布等対象者に対して当該物品を使用するかどうかの意向確認を実施していなかった品目が42品目見受けられた。この中には、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の初期段階のマスクなどのように、需給がひっ迫したものがあり、各地方公共団体において確保し得る数量を購入し、迅速に配布等を行う必要があったなどのやむを得ない事情があった場合も考えられるが、そうでない場合には、意向確認を実施するなどして所要量の妥当性の確保に努めた上で購入数量を決定することが有用と考えられる。
前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
横浜市は、令和2年度に、医療機関及び高齢者施設に新型コロナウイルス感染症対策に係るマスク、防護具等を配布する事業を事業費21億4157万余円(交付金交付額10億4539万余円)で実施している。当該事業において、同市は、マスク、消毒液、防護具等を2年4月から3年3月までの間に、医療機関への配布分として14億2071万余円、高齢者施設への配布分として5億7412万余円、計19億9483万余円で購入し、納品を受けている。
同市は、このうち医療機関への配布分の購入に当たっては、緊急に配布する必要があるとして、医療機関に対する意向確認を実施せずにマスク、防護具等を購入していた。そして、新型コロナウイルス感染症の流行が鈍化して、医療機関の需要が減少したことなどから、4年度末時点において、防護具等計5品目は、それぞれの購入数量の半分以上(これらに係る購入金額計2億6499万円、交付金相当額計1億2935万余円)が配布されることなく在庫として倉庫に保管されている状況となっており、その中には、5年度中に使用期限が到来するため廃棄予定とされているものもあった。
一方、高齢者施設への配布分については、同市は、高齢者施設に対して配布を希望するかどうかの意向確認を実施した上で、施設ごとに必要となる数量のマスク、消毒液等を購入して効果的に活用されるよう配布しており、4年度末時点で在庫として保管されている品目はなかった。
地方公共団体は、端末等購入事業のうち、児童生徒への配布を目的として端末等の購入等を行う事業の実施に当たっては、文部科学省所管の国庫補助金である公立学校情報機器整備費補助金を活用するなどしている。
そして、端末等の購入等に当たっては、地方自治法(昭和22年法律第67号)等に基づき、単年度で又は債務負担行為等に基づき複数年度にわたって売買、貸借、請負等の契約を締結しており、これらの契約に係る費用には、端末本体の費用のほか、端末の保守やソフトウェアライセンスに係る費用(以下「保守費用等」という。)が含まれている場合がある。
内閣府が作成したQ&Aにおいては、交付金の交付対象経費について、リース契約の場合には、交付金の交付対象期間中に支出負担行為を行う経費のみが対象である旨の記載はあるものの、事業実施期間を超える期間(以下「超過期間」という。)に係る保守費用等については示されていない。また、児童生徒への配布を目的として購入等が行われる端末で、国庫補助金の交付対象とならない分について、当該端末を活用する際に必要となるソフトウェアの購入費用等は必要に応じて地方単独事業に係る経費として交付対象となる旨の記載はあるものの、超過期間に係る保守費用等については示されていない。このため、総務省においては、交付金の額の確定時の審査等に際して、超過期間に係る保守費用等についての確認を行っていない。
そこで、前記の20府県及び595市町村が、2、3両年度の実施計画に基づいて実施した端末購入等事業2,075事業(事業費1569億5363万余円、交付金交付額1258億5774万余円、計6,421契約、契約額計2345億7217万余円(注3))で締結した契約について、保守費用等が端末の購入価格に含まれるなどしていて契約上一体不可分となっているものを除き、超過期間に係る保守費用等が含まれる契約の状況を確認したところ、次のような状況となっていた。
18府県及び422市町村(注4)における端末購入等事業計812事業(注5)(事業費計799億2769万余円、交付金交付額計661億5350万余円、計1,115契約、契約額計735億2492万余円(注3))においては、超過期間に係る保守費用等が交付対象経費に含まれていた。そして、上記の812事業における超過期間に係る保守費用等は計151億8928万余円、これに係る交付金相当額は計107億3308万余円となっていて、端末の納入等の後、2年から最長で10年分の保守費用等が含まれていた。
一方、10県及び126市町村(注4)における端末購入等事業計270事業(注5)(事業費計327億5267万余円、交付金交付額計269億1680万余円、計331契約、契約額計732億9336万余円(注3))においては、超過期間に係る保守費用等について、地方公共団体の一般財源で支払われるなどしていた。
このように、多数の地方公共団体において、超過期間に係る保守費用等が交付対象経費に含まれている一方、一般財源で超過期間に係る保守費用等が支払われるなどしている地方公共団体もあり、交付対象経費としての取扱いが区々となっていた。
そこで、地方公共団体に対して、超過期間に係る保守費用等を交付対象経費に含めている理由を確認したところ、制度要綱、Q&A等において、超過期間に係る保守費用等の交付対象経費としての取扱いが明示されていないためなどとしている。
しかし、前記のとおり、制度要綱等によれば、国は、事業実施期間等が記載された実施計画に基づく交付対象事業に要する費用に対して交付金を交付することとされているところ、超過期間に係る保守費用等が交付対象経費に含まれることで、事業実施期間を超えて実施される事業についても交付金が充当されることとなる。そして、超過期間に係る保守費用等は、端末等の運用期間の経過に伴い生ずる経費であり、こうした長期に及ぶ保守費用等に対して臨時の措置である交付金を充当することは、交付金の趣旨に沿わないことになり、また、地方公共団体の間で交付対象経費としての取扱いが区々となっていて公平性が確保されていないおそれがある。
前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
熊本県八代郡氷川町は、令和2年度に、実施計画において2年9月から3年3月までを事業実施期間とする学校ICT整備事業を事業費5801万余円(交付金交付額4935万余円)で実施している。
同町は、同事業の実施に当たり、二つの契約を締結しており、このうち児童等のタブレット端末511台の調達等を行うための「GIGAスクール用端末整備支援業務委託」契約を2年12月に民間事業者と契約額2597万余円で締結し、3年3月に納品を受け、完了検査を行って2597万余円(交付金相当額2209万余円)を支払っていた。
しかし、経費の内訳を確認したところ、端末の保守料として4年4月から8年3月までの4年分(3年4月から4年3月までの1年間は無償)、ソフトウェアのライセンス料として3年4月から8年3月までの5年分の費用計1281万余円(交付金相当額1090万余円)が含まれており、これらについては超過期間に係る保守費用等となっていた。
(改善を必要とする事態)
交付金については、原則として、その使途に制限が設けられていないところであるが、物品配布等事業において購入数量の半分以上が一度も使用されていない事態及び端末購入等事業において超過期間に係る保守費用等が交付対象経費に含まれている事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、地方公共団体において、物品配布等事業を実施するに当たり、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の中で先行きが予見し難い状況で物品を購入するなどしていたという事情はあるものの、交付金により購入した物品を実施計画に記載された内容に沿って使用することの必要性に対する理解が十分でないこと、端末購入等事業を実施するに当たり、超過期間に係る保守費用等に対して交付金を充当することが交付金の趣旨に沿ったものとなっているかについての検討が十分でないことなどにもよるが、内閣府において、次のことなどによると認められる。
内閣府及び総務省において、地方公共団体が交付金により購入して使用していない物品が適切に取り扱われるよう、また、今後、交付金による事業で、購入された物品が使用されない事態や超過期間に係る保守費用等が交付対象経費に含まれる事態が生ずることのないよう、次のとおり改善の処置を要求する。