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  • 第1 沖縄振興開発金融公庫|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

住宅資金等貸付業務における個人住宅資金等の融資対象住宅について、借受者が沖縄振興開発金融公庫の承諾を得ることなく用途変更していた事態に対して必要な措置を講ずるよう適宜の処置を要求し、及び継続して貸付条件に沿った利用となるよう、実態調査の必要性を判断するための端緒となる情報を自ら取得してその判断をする具体的な仕組みを整備して、融資対象住宅の融資後の状況を適時適切に把握するための体制を整備するよう意見を表示したもの


科目
公庫貸付金
部局等
沖縄振興開発金融公庫本店
貸付けの根拠
沖縄振興開発金融公庫法(昭和47年法律第31号)、勤労者財産形成促進法(昭和46年法律第92号)
個人住宅資金等の概要
沖縄において自ら居住するため住宅を必要とする者等個人に対して、住宅の建設又は購入、住宅の用に供する土地の取得等の使途に充てるために必要な長期資金の貸付けを行うもの
検査の対象とした個人住宅資金等に係る貸付債権及びこれに係る残高
3,027件 199億6125万余円(令和3年度末)
上記のうち融資対象住宅が用途変更されていた貸付債権及びこれに係る残高
23件   1億9319万円

【適宜の処置を要求し及び意見を表示したものの全文】

住宅資金等貸付業務における個人住宅資金等に係る融資対象住宅の融資後の状況把握等について

(令和5年10月11日付け 沖縄振興開発金融公庫理事長宛て)

標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正の処置を要求し、及び同法第36条の規定により意見を表示する。

1 住宅資金等貸付業務の概要等

(1) 住宅資金等貸付業務の概要

ア 住宅資金等の概要

貴公庫は、沖縄振興開発金融公庫法(昭和47年法律第31号。以下「公庫法」という。)等に基づき、沖縄(沖縄県の区域をいう。以下同じ。)における経済の振興及び社会の開発に資することを目的として、沖縄において住宅を必要とする者に対して、一般の金融機関が供給することを困難とする資金の貸付けを行っている。

この貸付けは、公庫法等及び勤労者財産形成促進法(昭和46年法律第92号)等に基づき、貴公庫が、沖縄において自ら居住するため住宅を必要とする者、住宅を建設して賃貸する事業を行う者等に対して、住宅の建設又は購入、住宅の用に供する土地の取得又は借地権の取得等の使途に充てるために必要な長期資金の貸付けを行うものである(以下、住宅の建設等の使途に充てるために必要な長期資金のうち、公庫法等に基づき貸し付けられる長期資金を「住宅資金」といい、住宅資金のうち住宅を賃貸する事業を行う者に対する資金を除いた個人に対して貸し付けられるものを「個人住宅資金」、勤労者財産形成促進法等に基づき自ら居住するため住宅を必要とする勤労者等個人に対して貸し付けられる長期資金を「財形住宅資金」という。)。

個人住宅資金及び財形住宅資金(以下、両者を合わせて「個人住宅資金等」という。)に係る債権は、令和3年度末現在で計8,605件、残高計539億0601万余円(以下、3年度末の残高を単に「残高」という。)となっている。

イ 個人住宅資金等の貸付けに係る業務委託

公庫法等によれば、貴公庫は金融機関等に対して、その業務の一部を委託することができることとされている。また、沖縄振興開発金融公庫代理貸付事務取扱規程(昭和48年規程(業)第10号)によれば、貴公庫は、個人住宅資金等の貸付けについては、金融機関と業務委託契約を締結して貸付業務の一部を委託し、業務を受託した金融機関(以下「代理店」という。)を通じて貸付けを行うこととされている。そして、代理店に委託する業務は、借入申込みの受付け、貸付審査、貸付けの実行等の貸付手続、貸付債権の管理回収手続等とされている。

(2) 個人住宅資金等の貸付条件等及び融資後の手続等

ア 個人住宅資金等の貸付条件等

貴公庫は、個人住宅資金の貸付けに係る業務については、沖縄振興開発金融公庫業務方法書(昭和47年規程(業)第1号)の定めるところにより、また、財形住宅資金の貸付けに係る業務については、勤労者財産形成持家融資業務方法書(昭和52年規程(業)第22号)の定めるところによりそれぞれ行っている(以下、両者を合わせて「業務方法書」という。)。

業務方法書では、個人住宅資金等の貸付条件として、貸付金の使途は住宅の建設等であること、貸付けの相手方は自ら居住するため住宅を必要とする者等であること、償還期限は35年以内であることなどが定められている。

そして、貴公庫は、個人住宅資金等の貸付けに当たり、その貸付けを受ける者(以下「借受者」という。)との間で金銭消費貸借抵当権設定契約証書(以下「証書」という。)を作成し、具体的な貸付条件等を定めることとしている。証書によれば、借受者が借入金を住宅の建設等以外の使途に使用したときなどであって、貴公庫が借受者に書面により返済請求(繰上償還請求)を発したときは、借受者は債務の全部又は一部につき期限の利益を失い、直ちにその債務を返済することとされている。

イ 融資後の融資対象住宅の用途変更に係る手続等

個人住宅資金等の使途は、前記のとおり、借受者が自ら居住するための住宅の建設等に必要な資金等とされている。そして、融資対象住宅(借受者が貸付けを受けて建設等する住宅をいう。以下同じ。)が融資後も継続して業務方法書の定める貸付条件に沿って利用されるようにするために、証書等において、借受者は、融資対象住宅の一部又は全部を店舗、事務所等、住宅以外の用途に利用する(以下「用途変更」という。)場合は、原状・用途変更承認申請書(以下「申請書」という。)を代理店に提出した上で、貴公庫の承諾を得る手続を行わなければならないこととなっている。

代理店は、貴公庫が作成した「沖縄公庫住宅資金債権管理の手引」(以下「債権管理の手引」という。)によれば、用途変更に係る申請については、債権保全上支障がないと認められるときであって用途変更部分に係る債務に相当する金額を繰上償還させる場合は、代理店において専決で処理するとともに貴公庫に報告することとされ、それ以外の場合は、代理店が貴公庫と協議して処理することとされている。

また、借受者において、貴公庫の承諾を得ないで用途変更を行ったときであって、貴公庫が借受者に書面により返済請求(繰上償還請求)を発したときは、借受者は、証書に基づき、債務の全部又は一部につき期限の利益を失い、直ちにその債務を返済することとなっている。

(3) 融資対象住宅の融資後の状況把握について

債権管理の手引によれば、貴公庫は、融資対象住宅の無断譲渡、無断賃貸、用途変更等がないかどうかなどを確認するための実態調査の実施が必要なときは、代理店に対して、調査の対象、期間及び件数を通知することとされている。貴公庫から上記の通知を受けた代理店は、債権管理の手引に定められた調査方法に従って実態調査を行い、結果を取りまとめて貴公庫へ報告することとされている。

2 住宅資金等貸付業務の概要等

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

貴公庫は、前記のとおり、個人住宅資金等の貸付けを行っており、近年、新規貸付けの件数は少なくなっているものの、既に貸し付けたものの貸付債権は多額に上っており、今後も長期にわたり管理することになる。

そこで、本院は、合規性、有効性等の観点から、個人住宅資金等の貸付けについて、融資対象住宅が継続して貸付条件に沿った利用となっているか、貴公庫において融資対象住宅の融資後の状況等を適切に把握するなどして借受者が継続して貸付条件に沿って利用するよう対策が十分に講じられているかなどに着眼して、貴公庫本店及び東京本部において、融資対象住宅の融資後の状況や貴公庫による融資対象住宅の融資後の状況把握等の実施状況を関係書類等により確認するなどして会計実地検査を行った。

検査に当たっては、貴公庫から、残高のある個人住宅資金等に係る貸付債権8,605件(残高計539億0601万余円)のデータの提出を受けた上で、離島を除く沖縄本島で貸付件数が多いなどの15市町村(注)のうち、店舗、事務所等の需要が多いと考えられる沿岸部の区域等に所在する融資対象住宅に係る貸付債権3,027件(残高計199億6125万余円)を対象に選定して、融資対象住宅に関する情報を確認するなどして検査した。そして、3年度末時点で、融資対象住宅の情報から所在地において店舗、事務所等が設置されるなどしていて用途変更が疑われる93件について、更に貴公庫に調査を求めて、貴公庫が、5年1月以降、代理店に対して実態調査の実施を通知し、代理店において、融資対象住宅に係る利用状況を確認するための借受者への聞き取り、現地確認等により行われた実態調査の結果を確認するなどして検査した。

(注)
15市町村  那覇、宜野湾、浦添、糸満、沖縄、豊見城、うるま、南城各市、中頭郡嘉手納、中頭郡北谷、中頭郡西原、島尻郡南風原各町、国頭郡恩納、中頭郡読谷、中頭郡北中城各村

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 借受者が貴公庫の承諾を得ることなく融資対象住宅を用途変更していた事態

借受者は、前記のとおり、融資対象住宅について用途変更する場合には、あらかじめ貴公庫の承諾を得ることとなっているのに、借受者が代理店に申請書を提出して貴公庫の承諾を得ることなく、融資対象住宅の一部又は全部を用途変更して店舗、事務所等の用途に利用するなどしていた事態が23件(残高計1億9319万余円)見受けられた。

上記23件のうち、貴公庫が代理店を通じて借受者から聞き取るなどして用途変更の開始時期を特定又は推定できたのは15件(残高計1億4107万余円)であり、そのうち6件(残高計7545万余円)は、35年以内とされている償還期限からみて、比較的早期と考えられる10年以内に用途変更されていたと特定され又は推定された。

(2) 貴公庫における融資対象住宅の融資後の状況把握等

貴公庫は、(1)のような借受者が貴公庫の承諾を得ることなく融資対象住宅を用途変更していた事態について、融資対象住宅の状況を把握した上で、用途変更の状況に応じて繰上償還請求等の必要な措置を講ずる必要がある。このことなどから、住宅資金等貸付業務の適切な実施のためには、融資後に融資対象住宅の状況を的確に把握することなどが重要である。

そこで、融資対象住宅の融資後の状況を貴公庫がどのように把握しているかなどについて検査したところ、貴公庫は、前記のとおり、融資対象住宅の実態調査の実施が必要なときは、代理店を通じてこれを行うこととしているが、融資対象住宅の融資後の状況に応じて実態調査の必要性を判断するための端緒となる情報を貴公庫が自ら取得してその判断をする具体的な仕組みを設けていなかった。このため、貴公庫は、書類が保存されていて確認が可能な期間である平成29年度から令和3年度までの間、上記の端緒となる情報を取得していなかったことから、実態調査は一度も実施されておらず、現に(1)の事態について把握していなかった。

(是正及び改善を必要とする事態)

貴公庫の個人住宅資金等の貸付けに関して、借受者が貴公庫の承諾を得ることなく融資対象住宅を用途変更していた事態は適切ではなく、是正を図る要があると認められる。また、貴公庫において、実態調査の必要性を判断するための端緒となる情報を自ら取得してその判断をする具体的な仕組みを設けていなかったため、実態調査が行われておらず、融資対象住宅の融資後の状況を十分に把握することができていない事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、借受者において証書の規定を遵守することについての理解が十分でないことにもよるが、貴公庫において、融資対象住宅の利用が継続して貸付条件に沿ったものとなるよう、実態調査の必要性を判断するための端緒となる情報を自ら取得してその判断をする具体的な仕組みを整備して融資対象住宅の融資後の状況を把握することについての重要性の理解が十分でないことなどによると認められる。

3 本院が要求する是正の処置及び表示する意見

貴公庫は、住宅資金等貸付業務を今後も引き続き実施していくこととしている。

ついては、貴公庫において、借受者が貴公庫の承諾を得ることなく融資対象住宅を用途変更していた事態について、借受者に対して貸付条件に沿った利用となるよう必要な対応を執らせて、借受者が必要な対応を執ることができない場合には繰上償還請求等の必要な措置を講ずるよう是正の処置を要求するとともに、融資対象住宅が継続して貸付条件に沿った利用となるよう、実態調査の必要性を判断するための端緒となる情報を自ら取得してその判断をする具体的な仕組みを整備して、融資対象住宅の融資後の状況を適時適切に把握するための体制を整備するよう意見を表示する。