東日本高速道路株式会社(以下「東会社」という。)、中日本高速道路株式会社(以下「中会社」という。)及び西日本高速道路株式会社(以下「西会社」という。以下、これらの会社を総称して「3会社」という。)は、高速道路の改築、維持、修繕等として、既設橋りょうの老朽化した鉄筋コンクリート製の床版を取り替える工事(以下「床版取替工事」という。)等において、プレキャストコンクリート製の床版(以下「プレキャスト床版」という。)を多数使用している。
プレキャスト床版は、主に工場で製作されるため、品質管理が場所打ちコンクリート製の床版(以下「場所打ち床版」という。)より容易であり、品質にばらつきが少なく、また、工事現場での省力化、工期短縮等を図ることができるものとなっている。そして、3会社は、平成27年度から床版取替工事においてプレキャスト床版を用いることを標準とするなどしている。
プレキャスト床版を用いた床版取替工事等の施工に当たっては、架設したプレキャスト床版同士を接合して、橋りょうの延長に合わせた一連の床版を構築することから、プレキャスト床版同士を接合するための部分(以下「床版接合部」という。)が生ずることとなる。そして、プレキャスト床版の接合は、プレキャスト床版に固定された鉄筋を隣のプレキャスト床版の鉄筋と重ね合わせるなどした後に、当該床版接合部にコンクリートを充塡する方法が標準となっている(参考図1及び2参照)。
3会社は、道路の建設及び維持修繕に関わるコンクリート構造物について、3会社がそれぞれ制定しているコンクリート施工管理要領(以下「コンクリート要領」という。)等に基づき施工管理を行うこととしている。コンクリート要領によれば、橋りょう上部構造等のコンクリート構造物については、コンクリート打設後の完成した構造物における鉄筋のかぶり(注)が適切であるかなどを非破壊試験によって確認しなければならないこととされている(以下、コンクリート構造物に係る鉄筋のかぶりの非破壊試験を「非破壊試験」という。)。
そして、非破壊試験の頻度は、場所打ち床版については橋軸方向に10m当たり上面及び下面の2か所、プレキャスト床版については製作工場において出荷前に1枚当たり上面及び下面の2か所、床版接合部については工事現場においてコンクリート充塡後に1接合部当たり上面及び下面の2か所とされている。3会社は、高速道路は、高速走行等による構造物への負荷が大きいこと、床版等について補修が必要となった場合には大規模な交通規制が必要となるなど社会的な影響が大きいことなどを踏まえて、所定の品質を確保していることを確認するためにこれらの頻度を定めたとしている。
そして、非破壊試験に要する費用(以下「非破壊試験費」という。)の積算について、3会社の土木工事積算要領によれば、共通仮設費において積上げ計上することとされており、その算出方法は、1か所当たりの単価に箇所数を乗ずるなどして算出することとなっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、プレキャスト床版及び床版接合部の非破壊試験はプレキャスト床版の特徴及び製作状況並びに床版接合部の構造等を考慮した適切な頻度となっているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、3会社が令和4年度に契約を締結した工事のうち、プレキャスト床版を使用している全ての工事である東会社15工事(工事費計537億5469万円)、中会社10工事(工事費計1031億5129万円)、西会社8工事(工事費計542億1526万円)、計33工事(工事費計2111億2124万円)を対象として、3会社の本社及び各支社において、契約書、設計書、特記仕様書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、33工事のうち非破壊試験費を積上げ計上していた28工事(東会社12工事、中会社8工事、西会社8工事)は、全ての工事において、プレキャスト床版及び床版接合部の非破壊試験を、コンクリート要領のとおりプレキャスト床版の1枚及び床版接合部の1接合部当たりそれぞれ上面及び下面の2か所等の頻度で実施することとして設計していた。そして、その積算額は、表のとおり、計1億7448万余円(東会社4598万余円、中会社3769万余円、西会社9081万余円)となっていた。
表 プレキャスト床版及び床版接合部の非破壊試験費を積上げ計上していた工事
会社名 | プレキャスト床版を使用している工事数 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
プレキャスト床版及び床版接合部の非破壊試験費を積上げ計上している工事 | |||||||
プレキャスト床版の非破壊試験費を積上げ計上している工事 | 床版接合部の非破壊試験費を積上げ計上している工事 | ||||||
工事数 | 積算額 (A)=(B)+(C) |
工事数 | 積算額 (B) |
工事数 | 積算額 (C) |
||
東会社 | 15 | 12 | 45,980 | 11 | 28,628 | 7 | 17,352 |
中会社 | 10 | 8 | 37,695 | 7 | 23,978 | 5 | 13,716 |
西会社 | 8 | 8 | 90,813 | 6 | 48,553 | 5 | 42,260 |
計 | 33 | 28 | 174,489 | 24 | 101,160 | 17 | 73,329 |
そして、3会社における非破壊試験の頻度についてみたところ、次のような事態が見受けられた。
前記のとおり、3会社では、プレキャスト床版について、製作工場において出荷前に1枚当たり上面及び下面の2か所の頻度で非破壊試験を実施することとしている。
一方、「コンクリート標準示方書」(社団法人土木学会編)によれば、工場で製作されるプレキャストコンクリート製品は、工場内で使用材料、製造等に対する一貫した品質管理を行うことなどで品質にばらつきが少ない製品を工事現場に供給することができるものとされていて、鉄筋のかぶりなどの確認は任意の抜取りにより行うのが一般的であるとされている。そして、3会社は、工事において使用するプレキャスト床版の製作工場について、過去に3会社へプレキャスト床版の納入実績があること又はプレキャストプレストレストコンクリート製品の日本産業規格の認証を受けていることを要件とするなどしており、3会社の工事において使用されるプレキャスト床版は、品質管理の体制が整っていて上記のような製作環境が確保された工場で製作されている。
このように、3会社におけるプレキャスト床版の特徴を踏まえれば、一連の製作工程において1回にコンクリートを打設できる範囲(以下「ロット」という。)で製作されたものについては、非破壊試験を一定の頻度で抜き取ったものに対して行えば、鉄筋のかぶりが適切に確保できているかを確認できるものとなっていた。
そして、3会社の過去の工事におけるプレキャスト床版の製作状況についてみたところ、製作工場における1回のロットで製作するプレキャスト床版の数量は、約95%の工事において2枚以上となっていた。
このため、3会社の工事において使用されるプレキャスト床版の特徴及び製作状況を踏まえると、その非破壊試験の頻度は、1枚当たり上面及び下面の2か所より低い頻度とすることができる状況となっていた。
前記のとおり、3会社では、床版接合部について、工事現場においてコンクリート充塡後に1接合部当たり上面及び下面の2か所の頻度で非破壊試験を実施することとしている。
床版接合部に配置される鉄筋は、前記のとおりプレキャスト床版のコンクリートに固定されていて、コンクリートの充塡の際に動かないものとなっている(参考図2参照)。一方、床版接合部は、工事現場でプレキャスト床版を架設した後にコンクリートを充塡するものである。したがって、床版接合部のコンクリートの自重がプレキャスト床版を載せる桁に作用することで、桁にたわみが生じて、床版接合部に充塡したコンクリートが沈み込み、コンクリートの表面の位置が変わることなどにより、鉄筋のかぶりに不足等が生ずるおそれがある。
上記の構造等を踏まえれば、床版接合部の非破壊試験は、桁のたわみが鉄筋のかぶりに影響しているかを確認すればよいものとなっていた。
そして、桁のたわみは支承と支承の間(以下「支間」という。)で生ずるものであり、床版取替工事の対象となる橋りょうの一般的な支間の延長が30m程度であること、床版接合部と同様に充塡したコンクリートの自重によるたわみの影響を受ける場所打ち床版の非破壊試験の頻度は橋軸方向に10m当たり上面及び下面の2か所であることなどを踏まえると、床版接合部の非破壊試験の頻度は、1接合部当たり上面及び下面の2か所より低い頻度とすることができる状況となっていた。
このように、プレキャスト床版及び床版接合部の非破壊試験について、プレキャスト床版の特徴及び製作状況並びに床版接合部の構造等を考慮することなく、プレキャスト床版の1枚及び床版接合部の1接合部当たりそれぞれ上面及び下面の2か所等の頻度で実施することとして設計していた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(低減できた積算額)
前記のプレキャスト床版及び床版接合部の非破壊試験費を積上げ計上していた28工事の非破壊試験費の積算額、東会社12工事4598万余円、中会社8工事3769万余円、西会社8工事9081万余円について、前記のプレキャスト床版の特徴及び製作状況並びに床版接合部の構造等を踏まえて、プレキャスト床版は2枚当たり上面及び下面の2か所、床版接合部は1支間当たり3接合部の上面及び下面の6か所(参考図3参照)等の頻度により、それぞれ非破壊試験を実施することとして試算すると、東会社1945万余円、中会社1427万余円、西会社2955万余円となり、それぞれ約2650万円、約2340万円、約6120万円低減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、3会社において、プレキャスト床版及び床版接合部の非破壊試験について、プレキャスト床版の特徴及び製作状況並びに床版接合部の構造等を考慮した適切な頻度とすることの検討が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、3会社は、5年8月に、コンクリート要領を改定し、プレキャスト床版及び床版接合部の非破壊試験について、プレキャスト床版は2枚当たり上面及び下面の2か所、床版接合部は1支間当たり上面及び下面の6か所の頻度でそれぞれ実施することとして、同年9月からこれを適用する処置を講じた。
(参考図1)
プレキャスト床版を使用した橋りょうの概念図
(参考図2)
床版接合部の断面の概念図
(参考図3)
床版接合部の非破壊試験の頻度の概念図