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  • 令和4年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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警備業務に係る委託契約において、予定価格の積算に当たり、警備員の1時間当たりの人件費単価の算出を誤ったこと及び平日の巡回警備に係る1日当たりの配置時間数を過大に設定していたことにより、契約額が割高となっていたもの[日本年金機構本部](277)


科目
一般管理費
契約名
日本年金機構本部(高井戸)警備業務【本部】一式
契約の概要
日本年金機構本部の施設内及びその周辺敷地において警備を行うもの
契約の相手方
テイケイ株式会社
契約
令和4年4月 一般競争契約
契約期間
令和4年4月25日~7年5月31日
契約額
495,000,000円
割高となっていた契約額
5700万円

1 警備業務に係る委託契約の概要等

(1) 委託契約の概要

日本年金機構(以下「機構」という。)は、機構本部の施設内及びその周辺敷地の警備業務を外部の事業者に委託して実施しており、令和4年6月1日から7年5月31日までの間の警備業務については、総合評価落札方式による一般競争入札を行った上で、テイケイ株式会社に契約額495,000,000円で委託している。

機構は、本件契約の仕様書等において、警備員を配置する箇所を平日と休日に分けてそれぞれ定め、これらの配置箇所に警備員が常駐して行う警備(以下「常駐警備」という。)については、配置箇所ごとに警備員を常駐させる時間帯を示している。また、機構本部の施設内及びその周辺敷地を警備員が巡回して行う警備(以下「巡回警備」という。)については、平日は原則として1日に計5回の巡回を行うとしてそれぞれ巡回する時刻を定めており、休日は常時巡回を行うものとしている。

(2) 予定価格の積算

機構は、本件契約に係る予定価格について、次のとおり積算している。

① 賃金構造基本統計調査(以下「賃金センサス」という。)における「警備員」の「きまって支給する現金給与額(注)」「年間賞与その他特別給与額」等から1か月当たりの人件費を算出し、これに諸経費を合算した額を1か月当たりの勤務日数で除して、1日当たりの人件費単価を算出する。そして、この額を1日当たりの労働時間である8時間で除するなどして、午前5時から午後10時までの間に警備に従事する際の1時間当たりの人件費単価(以下「日勤単価」という。)を算出する。

また、午後10時から午前5時までの深夜時間帯については、労働基準法(昭和22年法律第49号)に定める深夜の割増し(割増率100分の25)の対象になるとして、日勤単価に1.25を乗じて、深夜時間帯に警備に従事する際の1時間当たりの人件費単価(以下「夜勤単価」という。)を算出する。

② 日勤単価又は夜勤単価に警備業務の委託期間において必要な配置人数及び配置時間数を乗ずるなどして得た額に、消費税(地方消費税を含む。)相当額を加えて予定価格を積算する。

(注)
きまって支給する現金給与額  事業所の就業規則等で定められた給与に関する支給条件及び算定方法によって支給された現金給与額をいい、基本給、通勤手当、家族手当等が含まれるほか、時間外勤務手当等も含まれる。

2 検査の結果

本院は、経済性等の観点から、予定価格の積算が適切に行われているかなどに着眼して、本件契約を対象として、機構本部において、契約書、仕様書、予定価格調書等の関係資料を確認するなどして会計実地検査を行った。

検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。

(1) 日勤単価及び夜勤単価を誤って算出していた事態

機構が1か月当たりの人件費の算出において用いた賃金センサスにおける「きまって支給する現金給与額」には、時間外勤務手当等の給与の額を含むとされている。また、「年間賞与その他特別給与額」は、賞与、期末手当等のいわゆるボーナスとされている。このため、当該1か月当たりの人件費を基に機構が算出した日勤単価及び夜勤単価は、時間外勤務手当等や賞与等を含むものとなっていた。

しかし、機構は予定価格を積算する際に警備員1名の1日当たりの労働時間を8時間として日勤単価を算出していること、複数の警備員が交替で常駐警備と巡回警備に従事することで警備員1名の1日当たりの労働時間が8時間を超えないようにすることが可能であることなどから、日勤単価及び夜勤単価の算出に当たり、時間外勤務手当等を含める必要はなかったと認められた。

また、労働基準法等によれば、深夜時間帯の労働に係る割増賃金の基礎となる賃金には賞与等は算入しないこととされていることから、夜勤単価について、賞与等が算入されている日勤単価に1.25を乗じて算出するのではなく、賞与等を算入していない1時間当たりの人件費単価を算出した上で、これに割増率である100分の25を乗じて得た割増額を日勤単価に加算する方法により算出すべきであったと認められた。

(2) 平日の巡回警備に係る1 日当たりの配置時間数を過大に設定していた事態

機構は、巡回警備に係る人件費について、配置する警備員の人数を1名とした上で、平日及び休日ともに1日当たりの配置時間数を24時間(うち7時間は夜勤)と設定し、日勤及び夜勤の時間数に警備業務の委託期間の総日数を乗じてそれぞれの総時間数を算出して、日勤単価又は夜勤単価を乗じて積算していた。

しかし、仕様書等において、平日の巡回警備は原則として1日に計5回の巡回を所定の時刻に行うとされているものの、1回当たりの所要時間数は仕様書等に示されていなかった。そこで、過去に機構から機構本部の警備業務に係る委託を受けていた受託事業者が機構に提出した警備員のシフト表等を確認したところ、平日の巡回警備に係る1日当たりの配置時間数は最大でも計8.5時間程度(1回当たりの所要時間数は1.7時間)となっていて、巡回警備を行う警備員が終日(24時間)配置されるものとはなっていなかった。

このことから、機構は、平日の巡回警備について、機構に提出された過去の警備業務の警備員のシフト表等から1回当たりの所要時間数を把握するなどして予定価格を積算すべきであったと認められた。

したがって、日勤単価及び夜勤単価について、算定の基礎となる1か月当たりの人件費から時間外勤務手当等を除外するなどして算出するとともに、平日の巡回警備に配置する警備員の1日当たりの配置時間数を8.5時間とするなどして予定価格を修正計算すると437,934,983円となり、本件契約額495,000,000円はこれに比べて約5700万円割高となっていて不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、機構において、予定価格の積算に当たり、労働基準法等を踏まえた人件費の算出方法についての理解及び平日の巡回警備に係る1回当たりの所要時間数についての検討が十分でなかったことなどによると認められる。