独立行政法人大学入試センター(以下「センター」という。)は、独立行政法人大学入試センター法(平成11年法律第166号)に基づき、大学に入学を志願する者に対し、大学と共同して大学入学共通テスト(令和元年度以前は大学入試センター試験。以下「共通テスト」という。)を実施している。
共通テストの出題教科・科目等(以下、教科及び科目等を合わせて「教科等」という。)は、令和5年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施大綱(令和3年3文科高第285号文部科学省高等教育局長通知。以下「実施大綱」という。)によれば、6教科30科目とされており、このうち「外国語」の科目である「英語」は、リーディング試験及びリスニング試験で構成することとされている。
そして、共通テストの受験教科等は、志願者が出願時に申し出て登録することとなっている。
また、実施大綱によれば、共通テストは、本試験のほか、天災その他の事情により試験が実施できなかった場合の再試験及び病気その他のやむを得ない事情により所定の試験を受験できなかった者に対する追試験を、センターが定めるところにより実施することとされている。
センターは、3、4両年度の共通テストの実施に当たり、表1のとおり、試験問題冊子及び解答用紙(以下「試験問題冊子等」という。)の印刷に係る契約及び「英語」のリスニング試験で使用するICプレーヤー、音声メモリー、イヤホン等(以下「リスニング機器」という。)の賃貸借、輸送等に係る契約を締結して、所要の数量の試験問題冊子等及びリスニング機器を調達している。
表1 試験問題冊子等及びリスニング機器の調達に係る契約、調達数量等
調達品目 | 年度 | 契約名 | 契約年月日 (変更契約年月日) |
調達数量 (部・台) |
支払額 (万円) |
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試験問題冊子等 | 令和3 | 令和4年度大学入学共通テスト試験問題冊子等の印刷 | 3年12月21日 (4年2月10日) |
4,525,215 | 16億5157 |
4,890,950 | |||||
4 | 令和5年度大学入学共通テスト試験問題冊子等の印刷 | 4年12月1日 (5年2月10日) |
4,445,160 | 16億8674 | |
4,807,470 | |||||
リスニング機器 | 3 | 令和4年度大学入学共通テスト英語リスニング用音声機器等賃貸借・輸送等業務 | 3年6月28日 (3年11月26日) |
578,000 | 18億6079 |
4 | 令和5年度大学入学共通テスト英語リスニング用音声機器等賃貸借・輸送等業務 | 4年6月28日 (4年12月12日) |
556,350 | 18億4731 |
センターは、上記の契約に当たり、有識者会議に調達数量の算定基準等を諮るなどした上で、おおむね次のように調達数量を算定している。
① 高等学校等の卒業が見込まれる者の数に、前年度の共通テストの受験を志願した者の割合を乗ずるなどして、志願者数を推計する(以下、これにより推計した志願者数を「志願者推計数」という。)。
② 本試験で使用する志願者用の試験問題冊子等については、原則として、志願者推計数に前年度の共通テストにおける全志願者数に占める各受験教科等別の登録者数の割合(以下「教科等別登録割合」という。)を乗ずるなどして、教科等別の調達数量とする。
③ 本試験で使用する「英語」の志願者用の試験問題冊子等及びリスニング機器については、大部分の志願者が「英語」を登録していることから、志願者推計数と同数を調達数量とする。また、予備のリスニング機器(以下「予備機」という。)は、志願者推計数に一定の予備率を乗じた数を調達数量とする。
④ ①から③までとは別に、再試験及び追試験で使用する受験者用の試験問題冊子等及びリスニング機器について、原則として、再試験及び追試験の受験が想定される人数(以下「想定受験者数」という。)をそれぞれ見積もり、想定受験者数と同数を調達数量とする。
そして、センターは、次年度の調達数量の算定の参考にするなどのために、例年、共通テストの実施後等に、受験者数、リスニング機器の不具合発生台数等について大学等から、また、リスニング機器の不具合発生の原因等についてリスニング機器の調達業者から、それぞれ報告を受けるとともに、教科等別登録割合等を算出し、保有している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、調達数量の算定が適切に行われているかなどに着眼して、センターにおいて、3、4両年度の契約で調達した試験問題冊子等及びリスニング機器を対象として、契約書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
センターは、前記のとおり、本試験で使用する志願者用の試験問題冊子等について、原則として、志願者推計数に、教科等別登録割合を乗ずるなどして教科等別の調達数量を算定していた。
一方、本試験で使用する「英語」の試験問題冊子等及びリスニング機器については、前記のとおり志願者推計数と同数を調達数量として算定しており、教科等別登録割合を考慮していなかった。
しかし、「英語」の教科等別登録割合をみると、3年度98.89%、4年度99.07%となっており、実際には「英語」を登録しない志願者も例年約5,000人いることから、本試験で使用する志願者用の試験問題冊子等及びリスニング機器の調達に当たって、「英語」についてのみ、教科等別登録割合を考慮しない理由はなく、他の教科等と同様に考慮して調達数量を算定する必要があると認められた。
また、センターは、前記のとおり、再試験及び追試験で使用する受験者用の試験問題冊子等及びリスニング機器については、原則として、想定受験者数と同数を調達数量として算定しており、教科等別登録割合を考慮していなかった。
この理由について、センターは、再試験及び追試験の受験者がどの教科等を受験するかは事前に不明であり、再試験及び追試験の受験者が本試験で全ての受験教科等を受験できていないおそれもあるためとしていた。
しかし、再試験及び追試験は、本試験で受験することができなかった教科等を受験するものであり、受験者が受験する教科等は各年度の個別の事情に応じて決まるものの、再試験及び追試験が毎年実施され多くの受験者が受験する場合、教科等別登録割合と再試験及び追試験における教科等別受験割合(再試験及び追試験の受験者数に占める各教科等別の受験者数の割合をいう。以下同じ。)との間には関係があると思料される。そこで、教科等別登録割合と再試験及び追試験における教科等別受験割合について、出題教科等が6教科30科目となった平成26年度から令和4年度までの実績値等を用いて相関係数を算出したところ、0.89となり、強い正の相関関係がみられた(図参照)。
図 教科等別登録割合と再試験及び追試験における教科等別受験割合の関係(平成26年度~令和4年度)
したがって、再試験及び追試験で使用する受験者用の試験問題冊子等及びリスニング機器の調達に当たって、教科等別登録割合を考慮しない理由はなく、本試験と同様に考慮して調達数量を算定する必要があると認められた。
センターは、前記のとおり、予備機について、志願者推計数に一定の予備率を乗じた数を調達数量としていた。3、4両年度の契約における予備率は、平成21年度に実施した試験におけるリスニング機器の不具合発生率(リスニング試験受験者数に占める各大学から報告された不具合発生台数の割合をいう。以下同じ。)が最も高かった試験場で5.6%であったことなどを考慮して、6.0%としていた。そして、センターは各試験場に対して予備機等を送付して、各試験場において、試験室や試験場本部に配分していた。
しかし、29年度から令和3年度までに実施された試験におけるリスニング機器の不具合発生率を確認したところ、不具合発生率が最も高かった年度は平成29年度の約0.05%であり、不具合発生率が最も高かった試験場は約0.95%となっていて、各試験室のリスニング機器に予備機の数を上回る不具合が発生する可能性は相当低い状況となっていたと思料される。そして、センターは、試験の円滑な実施に万全を期するため、当面は志願者数50人以上の試験室には2台以上の予備機を配分することにしていることを踏まえると、予備率は4.0%あれば足りると認められた。
ア及びイを踏まえて、本試験の「英語」の志願者推計数並びに再試験及び追試験の想定受験者数に教科等別登録割合を乗ずることとするとともに、予備機の算定に当たり志願者推計数に乗ずる予備率を4.0%とすることとして、試験問題冊子等及びリスニング機器の必要な調達数量を試算したところ、表2のとおり、実際の調達数量は、上記の試算を試験問題冊子で3年度50,991部(調達価格相当額2437万余円)、4年度54,946部(同2764万余円)、解答用紙で3年度61,301部(同73万余円)、4年度66,812部(同79万余円)、リスニング機器で3年度16,414台(同864万余円)、4年度14,918台(同785万余円)それぞれ上回っていた。
したがって、ア及びイを踏まえて試験問題冊子等及びリスニング機器の必要な調達数量を算定していたとすると、調達価格相当額計7005万余円(3年度3375万余円、4年度3629万余円)を節減できたと認められた。
表2 節減できたと認められた調達数量及び調達価格相当額等
年度 | 調達品目 |
実際の調達数量
(部・台)
|
必要な調達数量
(部・台)
|
節減できたと認められた調達数量(部・台) | 節減できたと認められた調達価格相当額(注)
(万円)
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アの事態のうち「英語」に係るもの | アの事態のうち「再試験及び追試験」に係るもの | イの事態 | 小計 | |||||
令和3 | 試験問題冊子 | 4,525,215 | 4,474,224 | 11,594 | 39,397 | ― | 50,991 | 2437 |
解答用紙 | 4,890,950 | 4,829,649 | 11,594 | 49,707 | ― | 61,301 | 73 | |
リスニング機器 | 578,000 | 561,586 | 5,797 | 150 | 10,467 | 16,414 | 864 | |
計 | ― | ― | ― | ― | ― | ― | 3375 | |
4 | 試験問題冊子 | 4,445,160 | 4,390,214 | 9,456 | 45,490 | ― | 54,946 | 2764 |
解答用紙 | 4,807,470 | 4,740,658 | 9,456 | 57,356 | ― | 66,812 | 79 | |
リスニング機器 | 556,350 | 541,432 | 4,728 | 22 | 10,168 | 14,918 | 785 | |
計 | ― | ― | ― | ― | ― | ― | 3629 | |
合計 | ― | ― | ― | ― | ― | ― | 7005 |
前記のとおり、センターは、調達数量の算定の参考にするなどするため、例年、共通テストの実施後等に、教科等別登録割合、リスニング機器の不具合発生台数等の情報を収集するなどし、保有している。
しかし、センターにおける調達数量の見直しの状況を確認したところ、センターは、共通テストの実施等を円滑に実施するために万が一にも調達数量に不足が生じないことに重点を置いて見直しを行っており、経済的な調達となるよう調達数量を削減する余地がないかという検討には上記の情報を十分に活用していなかった。
したがって、(1)の事態を踏まえ、センターが既に保有している情報を活用して調達数量の算定基準等の検討や、経済的な調達となっているかの点検を継続的に行う必要があったと認められた。
このように、センターにおいて、試験問題冊子等及びリスニング機器の調達に当たり調達数量の算定が経済的に行われていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、センターにおいて、試験問題冊子等及びリスニング機器の調達数量の算定に当たり、教科等別登録割合及びリスニング機器の不具合発生率等を考慮して調達数量を算定することについての認識が欠けていたこと、センターが既に保有している情報を活用して調達数量の算定基準等の検討や、経済的な調達となっているかの点検を継続的に行う体制が整備されていなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、センターは、試験問題冊子等及びリスニング機器の調達が経済的に行われるよう、次のような処置を講じた。
ア センターは、5年8月に、関係部局に対して通知を発出して、教科等別登録割合及びリスニング機器の不具合発生率等を考慮した調達を継続的に行うよう周知徹底するとともに、同年6月及び7月に締結した5年度の調達契約において、試験問題冊子等及びリスニング機器については、これらを考慮した調達数量とすることとした。
イ センターは、5年8月に、センターが保有する情報を活用して調達数量の算定基準等の検討及び経済的な調達数量となっているかの点検を行い、共通テストの確実な実施を確保しつつ経済的な調達を実現することを目的として関係部局等の職員で構成される会議を設置し、継続的に調達数量を見直す体制を整備した。