国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「機構」という。)は、平成27年度から30年度までの間に、「再生可能エネルギー熱利用技術開発/再生可能エネルギー熱利用のポテンシャル評価技術の開発/オープンループ型地中熱利用システムの高効率化とポテンシャル評価手法の研究開発」に係る業務の一部(以下「本件事業」という。)を東邦地水株式会社(以下「事業者」という。)に委託して実施している。本件事業は、オープンループ型地中熱利用システム(注)の設置コスト及び運用コストを削減することを目的として、還元井の目詰まり防止に係る技術開発等を行うものであり、機構は、28年3月に事業者と委託契約を締結している。そして、事業者は、31年2月に本件事業を終了して、委託費の実績額を84,500,280円とする実績報告書を機構に提出し、機構は、これを検査した上でその額を確定して同額を事業者に支払っている。
また、事業者は、本件事業のうち、地下水熱交換ユニットの開発に係る業務を再委託することについて機構の承認を受けて、28年3月にゼネラルヒートポンプ工業株式会社(以下「再委託事業者」という。)と再委託契約を締結し、再委託費として計17,986,320円を再委託事業者に支払っている。
機構が定めた業務委託契約約款及び委託業務事務処理マニュアル(以下、これらを合わせて「約款等」という。)によれば、委託事業を実施するために受託者が購入し又は製造した機械装置等のうち、取得価額が50万円以上かつ減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和40年大蔵省令第15号)に基づく耐用年数(以下「法定耐用年数」という。)が1年以上のものは、検収又はしゅん工の検査をした日をもって機構の取得財産とすることとされている。また、受託者が機構の承認を受けて、委託事業の一部を再委託する場合、委託事業を実施するために再委託先が購入し又は製造した機械装置等のうち、取得価額が50万円以上かつ法定耐用年数が1年以上のものは、上記と同様に、機構の取得財産とすることとされている。
そして、約款等によれば、受託者は、委託事業を実施するために購入し又は製造した機械装置等が機構の取得財産に該当することを機構に対して報告し、機構は、その内容を確認した上で機構の資産管理簿に登録して管理することとされている。また、受託者が委託事業の一部を再委託する場合、再委託先は、委託事業を実施するために購入し又は製造した機械装置等が機構の取得財産に該当することを受託者を通じて機構に対して報告し、機構は、上記と同様に機構の資産管理簿に登録して管理することとされている。
なお、委託業務事務処理マニュアルによれば、機構の資産管理簿に登録された機械装置等に改造を行った場合で、その費用が10万円以上である場合は、別途資産管理簿に登録する必要があるとされている。
約款等によれば、機構は、取得財産について、委託事業終了後、原則として受託者又は再委託先に譲渡することとされており、譲渡価格は、取得価額、法定耐用年数等を用いて算出した事業終了日の属する月の残存価額を基に算定する(以下、受託者等に機構の取得財産を売却することを「有償譲渡」という。)こととされている。
本院は、合規性等の観点から、委託事業を実施するために受託者又は再委託先が購入し又は製造した機械装置等の管理が約款等に基づき適切に行われているかなどに着眼して、本件事業に係る委託契約を対象として、機構及び事業者において、実績報告書等の関係書類を確認するとともに、当該機械装置等の管理状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、再委託事業者は、28年7月から31年1月までの間に、地下水熱交換ユニットの開発に係る業務を実施するために、熱交換ユニット2点及び熱交換ユニットを含む空調システム1点を製造し、また、制御ソフト1点及び制御部品1点を購入して当該空調システムを改造していた(これら5点の取得価額計9,773,083円)。そして、事業者が機構に提出した実績報告書等において、これら5点の取得価額は機械装置等費等に計上されていた。一方、再委託事業者は、これら5点について、約款等で事業者を通じて機構に対して行うこととなっている取得財産としての報告を行っていなかった。このため、機構は、これら5点を取得財産として管理していなかった。
しかし、これら5点のうち4点は取得価額が50万円以上かつ法定耐用年数が1年以上のものであること、また、残りの1点は取得価額が50万円未満であるものの、上記4点のうち1点を改造するための部品でありその費用が10万円以上であることから、これら5点の機械装置等は機構の取得財産に該当する。このため、再委託事業者は、事業者を通じて機構に対して報告する必要があり、機構は、事業者からの報告を受けて、資産管理簿に登録して管理する必要があった。そして、これら5点のうち、第三者の敷地に設置しているため原状回復を求められて、他に移設すると機能を失うことから廃棄処理を行った1点を除く4点(取得価額計7,986,846円)について、機構は、それぞれの取得価額、法定耐用年数等を用いて算出した事業終了日の属する月の残存価額を基に算定した価格で事業者又は再委託事業者に有償譲渡する必要があったと認められる。
したがって、上記の4点について、本件事業の終了時点における残存価額を基に有償譲渡する際の価格を算定すると計4,180,941円となることから、機構において同額の資産売却収入が不足していて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、事業者及び再委託事業者において本件事業を実施するために再委託事業者が購入し又は製造した機械装置等が機構の取得財産となることについての理解が十分でなかったこと、機構において事業者に対する指導及び実績報告書等の審査が十分でなかったことなどによると認められる。