独立行政法人情報処理推進機構(以下「機構」という。)は、独立行政法人通則法(平成11年法律第103号。以下「通則法」という。)に基づき、毎事業年度(以下、事業年度を「年度」という。)、貸借対照表、損益計算書、利益の処分又は損失の処理に関する書類その他主務省令で定める書類等(以下「財務諸表」という。)を作成することとなっている。
また、「独立行政法人情報処理推進機構の業務運営、財務及び会計並びに人事管理に関する省令」(平成15年厚生労働省・経済産業省令第3号。令和2年9月16日以降は経済産業省令第78号)によれば、機構の会計については、「「独立行政法人会計基準」及び「独立行政法人会計基準注解」」(平成12年独立行政法人会計基準研究会策定。以下「会計基準」という。)に従うものとされ、会計基準に定められていない事項については一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従うものとされている。そして、会計基準では、独立行政法人の会計においては、資本取引と損益取引とを明瞭に区別しなければならないこととなっており(資本取引・損益取引区分の原則)、両取引を区別するに当たっては、政府からの出資等といった独立行政法人の会計上の財産的基礎の変動と、独立行政法人の業務に関連し発生した剰余金の変動との区分に留意することとなっている。
通則法第8条第3項の規定によれば、独立行政法人は、業務の見直し、社会経済情勢の変化その他の事由により、その保有する重要な財産であって主務省令で定めるものが将来にわたり業務を確実に実施する上で必要がなくなったと認められる場合には、通則法第46条の2の規定により、当該財産(以下「不要財産」という。)を処分しなければならないこととされている。そして、通則法第46条の2第1項の規定によれば、不要財産であって、政府からの出資又は支出(金銭の出資に該当するものを除く。)に係るもの(以下「政府出資等に係る不要財産」という。)については、遅滞なく、主務大臣の認可を受けて、これを国庫に納付することとされている。
また、通則法第46条の2第4項の規定によれば、独立行政法人が、同条第1項の規定による国庫への納付をした場合において、当該納付に係る政府出資等に係る不要財産が政府からの出資に係るものであるときは、当該独立行政法人の資本金のうち当該納付に係る政府出資等に係る不要財産に係る部分として主務大臣が定める金額(以下「主務大臣決定額」という。)については、当該独立行政法人に対する政府からの出資はなかったものとし、当該独立行政法人は、その額により資本金を減少することとされている。主務大臣決定額については、「独立行政法人の組織、運営及び管理に係る共通的な事項に関する政令」(平成12年政令第316号)第10条第1項の規定によれば、主務大臣が独立行政法人に通知することとされている。
本院は、正確性、合規性等の観点から、不要財産の国庫納付に伴う資本金の減少は通則法、会計基準等に基づき適切に行われているか、財務諸表は適正に表示されているかなどに着眼して、令和元年度の財務諸表を対象として、機構及び機構の主務省である経済産業本省において、不要財産の国庫納付及び資本金の減少に関する関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
機構は、平成31年4月9日に国庫納付に係る申請書を経済産業本省に提出するなどして、令和元年6月14日に、表1のとおり、地域事業出資業務勘定(注1)(以下「出資勘定」という。)に属する①解散した地域ソフトウェアセンター(注2)に係る残余財産の分配金、②各地域ソフトウェアセンターからの配当金、③残余財産の分配金等の金融機関への預入れなどにより得られた運用収益等に相当する現金及び預金計359,380,380円を政府出資等に係る不要財産であるとして国庫に納付していた。そして、経済産業本省は、同日に、主務大臣決定額を納付された額と同額の359,380,380円と定めて機構に対して通知し、通知を受けて機構は、同日に、同額の資本金を減少し、資本取引として会計処理を行っていた。その後、機構は、これに基づき、出資勘定の貸借対照表の資本金の額を6,018,431,274円として元年度の財務諸表を作成していた。
表1 令和元年6月14日に国庫に納付した現金及び預金の内訳
番号 | 摘要 | 金額 |
---|---|---|
① | 解散した地域ソフトウェアセンターに係る残余財産の分配金 | 316,466,480 |
② | 各地域ソフトウェアセンターからの配当金(平成20年度から30年度までの累計) | 21,920,000 |
③ |
残余財産の分配金等の金融機関への預入れなどにより得られた運用収益等 (15年度から30年度までの累計) |
20,993,900 |
計 | 359,380,380 |
しかし、表1の②の配当金21,920,000円と、③の運用収益等20,993,900円から政府出資見合いの資産である未収収益4,625円を控除した20,989,275円の計42,909,275円は、機構が設立された際の開始貸借対照表において政府出資見合いの資産として計上されていたものでも機構設立後に政府からの追加出資を受けたものでもなく、各年度の損益計算書に収益として計上されていたものの累計であり、損益取引により生じたものであった。
このため、機構が上記の42,909,275円を含めて計359,380,380円の現金及び預金を政府出資等に係る不要財産であるとして国庫納付に係る申請書を提出したこと、また、経済産業本省が主務大臣決定額を同額と定めて機構に対して通知したこと、さらに、通知を受けて機構が同額の資本金を減少する会計処理をしたことは誤りであり、機構及び経済産業本省は、いずれの額についても、42,909,275円を除いた計316,471,105円とすべきであった。そして、これに伴い、元年度の出資勘定の貸借対照表は、表2の右欄のとおり、正しくは資本金の額を6,061,340,549円と表示する必要があり、資本金の額は42,909,275円過小に表示されていた。
表2 出資勘定の貸借対照表
機構が行った表示
Ⅰ 資本金
政府出資金
6,018,431,274
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会計基準等に準拠した表示
Ⅰ 資本金
政府出資金
6,061,340,549
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したがって、機構の元年度の財務諸表は、出資勘定の貸借対照表の資本金の額が適正に表示されておらず、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、機構において、政府出資等に係る不要財産の国庫納付に伴う資本金の減少に係る通則法、会計基準等に対する理解が十分でなかったこと、経済産業本省において、国庫に納付された資産の内容や性質について通則法、会計基準等を踏まえて十分に確認しないまま主務大臣決定額を定めたことなどによると認められる。