熊本地震に係る被災中小企業施設・設備整備支援事業(以下「被災中小企業支援事業」という。)は、平成28年熊本地震(注1)により被害を受けた中小企業者等(以下「被災中小企業者等」という。)に対して、施設又は設備の整備に必要な資金を貸し付ける事業である。そして、独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下「機構」という。)は、機構が定めた「熊本地震に係る被災中小企業施設・設備整備支援事業に係る熊本県に対する資金の貸付けに関する準則」(平成28年規程28第21号。以下「準則」という。)等に基づき、被災中小企業支援事業を行う公益財団法人くまもと産業支援財団(以下「財団」という。)に被災中小企業支援事業の実施に必要な資金を無利子で貸し付ける熊本県に対して、その貸付けに係る資金の一部を無利子で貸し付けている。
準則によれば、被災中小企業支援事業は、機構が熊本県に貸し付ける資金(以下「機構貸付金」という。)を財源として同県が財団に貸し付ける資金(以下「県貸付金」という。)により実施することとされている。そして、両貸付金の用途は、それぞれ、財団が被災中小企業者等に対して資金の貸付けを行う事業(以下「貸付事業」という。)と、財団が貸付事業を実施するために必要な貸付決定、債権管理等の事務を行う事業(以下「管理事業」という。)とに区分されている。
機構は、図1のとおり、熊本県に対して平成28年9月、29年9月及び令和元年12月の3回にわたり合計385億4070万円(貸付事業分計141億2730万円、管理事業分計244億1340万円)の機構貸付金を交付している。同県は、これに同県が負担する資金(県貸付金の100分の1に相当する額)として合計3億8930万円(貸付事業分計1億4270万円、管理事業分計2億4660万円)を加えて、合計389億3000万円(貸付事業分計142億7000万円、管理事業分計246億6000万円)を県貸付金として財団に交付している。県貸付金の交付を受けた財団は、準則等により、貸付事業に係る県貸付金142億7000万円を原資として貸付事業を実施するほか、管理事業に係る県貸付金246億6000万円を用いて事務費充当基金を造成し、その運用益等を原資として管理事業を実施している(注2)(以下、貸付事業の原資を「貸付原資」といい、貸付事業における被災中小企業者等に対する貸付金を「財団貸付金」という。)。
図1 被災中小企業支援事業に係る貸付けの概念図
被災中小企業支援事業における財団貸付金の貸付対象者は、経済産業省から中小企業組合等共同施設等災害復旧費補助金の交付を受けた熊本県から熊本県中小企業等グループ施設等復旧整備補助金(以下「グループ補助金」という。)等の交付決定を受けた被災中小企業者等とされている。また、貸付対象となる経費は、グループ補助金等の交付決定の対象となる施設及び設備の復旧・整備等に要する経費とされている。そして、財団貸付金は、上記経費のうち被災中小企業者等の自己負担額の一部を財団が無利子で貸し付けるもので、貸付期間は20年以内とされている。財団は、熊本県が2年10月にグループ補助金等の最終の交付決定を行ったことを受けて、財団貸付金の借入申込みの受付期間(以下「借入申込期間」という。)を3年3月末までとしている。
財団貸付金の貸付けに当たっては、財団が被災中小企業者等から提出を受けた借入申込書の内容等を審査し、機構及び熊本県から承認を受けた上で貸付決定することとなっている。貸付決定を受けた被災中小企業者等は、貸付対象の施設等の整備及び経費の支払を完了したときには速やかに財団に報告し、報告を受けた財団は、報告内容が貸付決定の内容等に適合すると認めたときは、交付すべき財団貸付金の額を確定の上、交付することとなっている。熊本県は、財団貸付金が交付された場合には、財団から報告を受けて、その旨を貸付実行通知書により機構に通知することとなっている。財団貸付金の額は、貸付決定の額(以下「貸付決定額」という。)の範囲内となっており、貸付決定額を増額する場合には、借入変更の申込みが必要となっている。
被災中小企業者等に対する財団貸付金の交付期間(以下「貸付実施期間」という。)については、準則によれば、熊本県が機構貸付金の交付を受けた日の2年後の日の属する事業年度末までとされているが、同県からの申請に基づき、1事業年度ごとに貸付実施期間の延長を認めることができることとされている。そして、図2のとおり、元年12月交付分の機構貸付金に係る貸付実施期間は、2回延長されて6年3月末までとなっている。
図2 貸付実施期間の状況
そして、準則等によれば、財団は、貸付実施期間の終了後、財団貸付金として交付しなかった貸付原資の額(以下「未使用額」という。)を貸付実施期間終了後1年以内に熊本県に返還することとされており、同県は、財団から返還を受けた未使用額から同県の負担分を除いた額を機構に返還することとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、効率性、有効性等の観点から、貸付金の規模は財団貸付金の交付見込みなどを踏まえた適切なものとなっているかなどに着眼して、貸付事業に係る機構貸付金141億2730万円を対象として、機構本部において、県貸付金の貸付決定の状況、貸付事業の貸付実績等について、事業実績報告書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
前記のとおり、財団は、財団貸付金の借入申込期間を3年3月末までとしており、最終の貸付決定は同年4月となっていて、同月までに252件を貸付決定していた。熊本県は、4年2月に、このうち2件について、同年3月末時点で未交付となる見込みであるとして、元年12月交付分の機構貸付金に係る貸付実施期間を5年3月末まで延長する申請書を機構に提出し、機構は4年3月にこれを承認していた。そして、財団は、4年3月末までに、上記2件を除く250件について、計131億1221万余円の財団貸付金を被災中小企業者等に交付していた。
その後、財団は、4年4月に、未交付となっていた上記2件のうち1件について財団貸付金1億4216万余円を交付し、財団からその報告を受けた熊本県は、同年6月に貸付実行通知書により機構にその旨を通知していた。一方、同年4月末時点で未交付となっていた残りの1件(貸付決定額9319万余円)については、当該被災中小企業者が貸付対象としている施設等が、熊本県が実施する土地区画整理事業(6年度内に整備完了予定)の区域内にあり、同事業の完了後に、当該被災中小企業者が貸付対象の施設等の整備等を行うことになるため、当該被災中小企業者への財団貸付金の交付は早くても6年度以降になると見込まれていた。
そして、機構は、これらにより、貸付事業に係る県貸付金142億7000万円のうち、財団貸付金として交付済みの132億5437万余円を除いた10億1562万余円が4年4月末時点における未使用額であり、未交付となっていた6年度以降に交付予定の1件を除き財団貸付金の交付が完了し多額の未使用額が生じていることを4年6月に把握していた。
しかし、機構は、財団貸付金の交付見込みを踏まえた県貸付金の規模の見直しを行うよう熊本県に求めていなかった。
このため、熊本県において、県貸付金の規模の見直しが行われておらず、県貸付金のうち未使用額10億1562万余円から、6年度以降に交付予定の1件の貸付けについて必要と見込まれる9319万余円を控除した9億2242万余円(機構貸付金見合いの額9億1320万余円)は、財団において使用見込みのない資金となっていた。
このように、貸付事業の資金が使用見込みのないまま財団に滞留している事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、機構において、多額の未使用額が生じていることを把握していたにもかかわらず、熊本県に対して、県貸付金の規模の見直しを行い、使用見込みのない機構貸付金を返還するよう求めることについての検討が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、機構は、熊本県に対して、財団貸付金の交付見込みを踏まえて県貸付金の規模の見直しを行い、使用見込みのない機構貸付金について返還するよう求め、同県は、機構と協議を行い、6年度以降に交付予定の1件の貸付けに必要な資金の上限額を貸付決定額と同額と決定し、5年4月に財団から県貸付金9億2242万余円の返還を受けた。そして、機構は、同年5月に、熊本県から機構貸付金9億1320万余円を返還させる処置を講じた。