国立大学法人等は、国立大学法人法(平成15年法律第112号)によれば、毎事業年度(以下、事業年度を「年度」という。)、貸借対照表、損益計算書、利益の処分又は損失の処理に関する書類その他文部科学省令で定める書類及びこれらの附属明細書(以下「財務諸表」という。)を作成することとされている。そして、国立大学法人法施行規則(平成15年文部科学省令第57号)によれば、文部科学省令で定める書類は、国立大学法人等業務実施コスト計算書(以下「業務実施コスト計算書」という。)等とするとされている。
また、国立大学法人等の会計については、国立大学法人法及び国立大学法人法施行規則に基づき、国立大学法人会計基準(平成16年文部科学省告示第37号。以下「会計基準」という。)等に従うものとされ、会計基準等に定められていない事項については一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従うものとされている。
国立大学法人等の財務諸表は、会計基準等に基づき、国民その他の利害関係者に対し、国立大学法人等の財政状態及び運営状況に関する説明責任を果たし、自己の状況を客観的に把握する観点から、その作成及び公表が義務付けられており、国立大学法人法に基づく国立大学法人評価にも利用されている。
国立大学法人等が保有する有形固定資産の評価方法については、会計基準によれば、その取得原価から減価償却累計額及び減損損失累計額を控除した価額をもって貸借対照表価額とすることとされている。
国立大学法人等が保有する有形固定資産の取得原価の費用配分については、会計基準等によれば、減価償却の方法によって、当該資産の耐用年数にわたり各年度に配分することとされている。そして、減価償却に当たり適用する耐用年数については、原則として減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和40年大蔵省令第15号)において、建物にあってはその構造、用途等による区分に応じて定められるなどしている法定耐用年数を適用することとされている。
国立大学法人等が保有する償却資産のうち、その減価に対応すべき収益の獲得が予定されないものとして特定された資産(以下「特定償却資産」という。)の減価に係る会計処理については、会計基準によれば、当該資産の減価償却相当額は、損益計算上の費用には計上せず、資本剰余金を減額することとされている。そして、会計基準等によれば、納税者である国民の国立大学法人等の業務に対する評価及び判断に資するため、一会計期間に属する国立大学法人等の業務運営に関して、国民の負担に帰せられるコスト(以下「国立大学法人等業務実施コスト」という。)に係る情報を一元的に集約して表示することとされており、損益計算上の費用から運営費交付金及び国又は地方公共団体からの補助金等に基づく収益以外の収益を控除した額、特定償却資産の減価償却相当額等は、国立大学法人等業務実施コストに属するものとされている。
本院は、正確性等の観点から、有形固定資産の減価償却に係る会計処理は会計基準等に沿って行われ、財務諸表に適正に表示されているかなどに着眼して、令和3年度の財務諸表を対象に、89国立大学法人等のうち国立大学法人旭川医科大学(以下「旭川医科大学」という。)及び国立大学法人大阪大学(以下「大阪大学」という。)において、固定資産台帳等を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、両法人は、設立時に国から出資された、本部管理棟等計19棟及び病棟・診療棟等計8棟の減価償却に当たり、当該建物の構造、用途等の区分に応じた法定耐用年数等を適用したとしていた。
しかし、両法人は、構造、用途等に応じて「病院用のもの」の区分の法定耐用年数を適用しなければならない建物であるのに、誤って「事務所用のもの」の区分を適用するなどしていた。
このため、旭川医科大学の3年度の財務諸表は、表1のとおり、貸借対照表の建物に係る減価償却累計額は正しくは17,565,127,180円であったのに17,842,164,374円と277,037,194円過大に計上され、固定資産が同額過小に表示されていた。また、表2のとおり、損益計算書の設備関係費は正しくは2,621,119,870円であったのに2,613,854,293円と7,265,577円過小に計上され、経常費用が同額過小に表示されていた。そして、表3のとおり、業務実施コスト計算書の業務費が7,265,577円過小に、損益外減価償却相当額が52,255,040円過小にそれぞれ計上され、国立大学法人等業務実施コストが59,520,617円過小に表示されるなどしていた。
表1 貸借対照表(旭川医科大学)
旭川医科大学が行った表示 |
会計基準等に準拠した表示 |
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資産の部 | 29,824,846 | 資産の部 | 30,101,883 |
Ⅰ 固定資産 | 20,572,509 | Ⅰ 固定資産 | 20,849,547 |
1 有形固定資産 | 20,377,059 | 1 有形固定資産 | 20,654,096 |
建物 | 26,567,421 | 建物 | 26,567,421 |
減価償却累計額 | △ 17,842,164 | 減価償却累計額 | △ 17,565,127 |
表2 損益計算書(旭川医科大学)
旭川医科大学が行った表示 |
会計基準等に準拠した表示 |
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経常費用 | 30,881,355 | 経常費用 | 30,888,620 |
業務費 | 30,382,951 | 業務費 | 30,390,216 |
診療経費 | 15,645,817 | 診療経費 | 15,653,083 |
設備関係費 | 2,613,854 | 設備関係費 | 2,621,119 |
表3 業務実施コスト計算書(旭川医科大学)
旭川医科大学が行った表示 |
会計基準等に準拠した表示 |
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Ⅰ 業務費用 | 5,284,382 | Ⅰ 業務費用 | 5,291,648 |
(1) 損益計算書上の費用 | 31,029,320 | (1) 損益計算書上の費用 | 31,036,586 |
業務費 | 30,382,951 | 業務費 | 30,390,216 |
Ⅱ 損益外減価償却相当額 | 390,363 | Ⅱ 損益外減価償却相当額 | 442,618 |
Ⅻ 国立大学法人等業務実施コスト | 5,444,531 | Ⅻ 国立大学法人等業務実施コスト | 5,504,052 |
また、大阪大学の3年度の財務諸表は、表4のとおり、貸借対照表の建物に係る減価償却累計額は正しくは111,459,651,904円であったのに108,657,800,909円と2,801,850,995円過小に計上され、固定資産が同額過大に表示されていた。また、表5のとおり、損益計算書の設備関係費は正しくは5,484,536,086円であったのに5,345,014,441円と139,521,645円過小に計上され、経常費用が同額過小に表示されていた。そして、表6のとおり、業務実施コスト計算書の業務費が139,521,645円過小に、損益外減価償却相当額が1,115,486円過小にそれぞれ計上され、国立大学法人等業務実施コストが140,637,131円過小に表示されるなどしていた。
表4 貸借対照表(大阪大学)
大阪大学が行った表示 |
会計基準等に準拠した表示 |
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資産の部 | 500,954,555 | 資産の部 | 498,152,704 |
Ⅰ 固定資産 | 413,172,132 | Ⅰ 固定資産 | 410,370,281 |
1 有形固定資産 | 396,332,325 | 1 有形固定資産 | 393,530,474 |
建物 | 221,044,675 | 建物 | 221,044,675 |
減価償却累計額 | △ 108,657,800 | 減価償却累計額 | △ 111,459,651 |
表5 損益計算書(大阪大学)
大阪大学が行った表示 |
会計基準等に準拠した表示 |
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経常費用 | 155,001,653 | 経常費用 | 155,141,174 |
業務費 | 148,375,486 | 業務費 | 148,515,007 |
診療経費 | 31,212,684 | 診療経費 | 31,352,206 |
設備関係費 | 5,345,014 | 設備関係費 | 5,484,536 |
表6 業務実施コスト計算書(大阪大学)
大阪大学が行った表示 |
会計基準等に準拠した表示 |
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Ⅰ 業務費用 | 52,424,030 | Ⅰ 業務費用 | 52,563,552 |
(1) 損益計算書上の費用 | 155,052,945 | (1) 損益計算書上の費用 | 155,192,467 |
業務費 | 148,375,486 | 業務費 | 148,515,007 |
Ⅱ 損益外減価償却相当額 | 4,870,400 | Ⅱ 損益外減価償却相当額 | 4,871,515 |
Ⅺ 国立大学法人等業務実施コスト | 57,360,295 | Ⅺ 国立大学法人等業務実施コスト | 57,500,932 |
したがって、両法人の3年度の財務諸表は、貸借対照表の固定資産、損益計算書の経常費用及び業務実施コスト計算書の国立大学法人等業務実施コストが適正に表示されておらず、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、両法人において、建物等の有形固定資産の減価償却に当たり適用する耐用年数についての理解が十分でなかったことなどによると認められる。