日本郵便株式会社(以下「日本郵便」という。)は、全国に13の支社と計2万を超える郵便局を設置し、このうち1,054郵便局(令和5年3月現在。以下「集配局」という。)において、荷物の集荷及び配達(以下「集配業務」という。)を行っている。集配局は、大半において、集配業務の効率的な運用等のためにその一部を法人等に委託して実施している(以下、この委託を「集配委託」といい、この委託に係る契約を「集配委託契約」という。)。集配局では、荷物の到着が早朝であるため、到着した荷物を配達地域ごとに区分する業務(以下「区分業務」という。)を行う要員の確保が難しいなどの場合がある。そのため、集配局は、「荷物の区分作業委託に関する覚書」(以下「覚書」という。)を集配業務の受託者と締結して、区分業務を集配委託契約に付随する業務として、集配委託の受託者に委託している。
3年度に覚書を締結している集配委託契約は、11支社(注1)管内の200集配局における計516件となっている。
集配委託及び区分業務の委託は、日本郵便が定めた「集配委託マニュアル(郵便局用)」、「会計事務マニュアル(共通事務集約センター用)」等(以下「マニュアル等」という。)に基づき実施されている。
マニュアル等によれば、集配委託契約の委託料は、荷物1個当たりの単価に配達個数を乗じて支払うこととされており、区分業務に対する委託料(以下「区分業務委託料」という。)は、集配委託契約の委託料に加算して支払うこととされている(以下、この仕組みを「区分業務加算払制度」という。)。そして、区分業務委託料は、業務量に応じて1日当たりの単価(以下「日額単価」という。)を定めることとされている。また、区分業務の委託は、各支社の集配業務所管部署(以下「支社(集配部門)」という。)から本社への上申に基づき、必要と認められる集配局において行うこととされている。
日本郵便本社によれば、区分業務の委託は、早朝に集配局の要員の確保が難しいなどのやむを得ない理由がある場合に実施するものであることから、区分業務委託料は、集配局で区分業務に係る受託者の作業人員や作業時間の管理を行うための更なる要員が必要となる1人当たり又は1時間当たりの単価ではなく、集配局ごとの業務量に応じて算出した日額単価により支払うことにしたとしている。また、日額単価の算出基準となる1人1時間当たりの単価については、区分業務加算払制度が設けられた平成22年当時、全国の最低賃金を基に算出した期間雇用社員の賃金を参考に設定したとしている。そして、日額単価については図1のとおり算出するとしている。
図1 日額単価の算出方法
このように、日額単価は、集配委託契約の受託者において当該集配局で区分業務に従事する業務量に応じた1日当たりの作業時間に見合う人件費として集配局ごとに算出されている。
また、マニュアル等によれば、区分業務の実施に当たり、集配局は、委託業務の履行状況を平時から確認し、覚書の内容と実際の業務内容等が合っていない場合には、契約者と変更内容等について合意した後、支社(集配部門)の指示に従い、覚書の一部変更の手続を行うこととなっている。
日本郵便によると、集配局は、区分業務を履行した日数を把握するため、日本郵便本社が様式を示した「区分業務の履行確認書」(以下「履行確認書」という。)を作成し、覚書に定めた日額単価に履行確認書で把握した日数を乗じて、区分業務委託料を算定することになっている。
そして、マニュアル等によれば、区分業務委託料を含む委託料の支払に関する事務は次のとおりとされている。
① 集配局は、上記によって算定された区分業務委託料を含む集配委託等に係る業務の実績(数量)を記載した請求書案を作成し受託者に提示して、確認を受ける。
② 集配局は、①の確認を受けた請求書案を受託者から請求書として収受し、各支社に置かれている契約事務を所管する部署(以下「共通事務集約センター」という。)に請求書等を送付して支払依頼を行う。
③ 支払依頼を受けた共通事務集約センターは、請求書等により、履行の内容が集配委託契約に基づいたものとなっているかを確認の上で、区分業務委託料を含む委託料を支払う。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、有効性等の観点から、区分業務加算払制度が適切に運営されているか、特に区分業務委託料の支払、覚書の日額単価の設定等が適切に行われているかに着眼して、令和3年度に11支社管内の200集配局において覚書を締結している集配委託契約計516件、区分業務委託料の支払金額4億0693万余円(税込)を対象に、日本郵便本社、5支社(注2)及び65集配局において契約関係書類等を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、残りの6支社(注3)及び135集配局については契約関係書類等の提出を受けて検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
5支社(注4)管内の51集配局に係る100契約について、覚書ではマニュアル等のとおり単価は日額単価とされ、支払単位は日数とされていたのに、請求書では単価は1人当たり又は1時間当たりの単価に、支払単位は従事人数又は作業時間に変更されるなどしていた(表参照)。
表 覚書と異なる方法で算定した額の支払の例(令和3年度)
区分 | 覚書に基づく支払 | 覚書と異なる方法で算定した額の支払 |
---|---|---|
単価 | 受託者当たりの日額単価1,000円 | 1人当たりの単価1,000円 |
支払単位 | 日数365日 | 延べ従事人数3,376人 |
支払額 | 365,000円 | 3,376,000円 |
そこで、集配局における履行確認書の作成状況について確認したところ、前記のとおり、日本郵便本社は、日額単価を設定したことにより、履行状況の確認は区分業務を履行した日数のみの確認で足りるとしていたにもかかわらず、集配局は、従事人数又は作業時間を確認して、履行確認書等を作成していた。そして、集配局は、覚書と異なる方法で算定した額により請求書案を作成し、受託者の確認等を受けた上で、請求書として共通事務集約センターへ送付して支払依頼を行っていた。共通事務集約センターは、覚書と異なる方法で算定した額であるにもかかわらず、支払依頼のとおり計9995万余円(税込)を支払っていた。
(1)の事態が見受けられたことから、覚書の日額単価が業務量に応じたものとなっているかについて確認したところ、次のとおりとなっていた。
ア 実際の年間配達個数及び区分業務の年間履行日数を把握できることなどから、図1の日額単価の算出方法に準じた算出方法により日額単価を試算することが可能な37集配局について、試算した日額単価と覚書の日額単価を比較したところ、8割以上の集配局で両者は30%以上かい離する結果となった(図2参照)。
図2 図1の日額単価の算出方法に準じた算出方法
イ 前記100契約の請求書の従事人数等と履行確認書等の従事人数等を比較したところ、両者は同数となっていた。一方、図3の方法により覚書の日額単価を割り戻して算出した1日当たりの平均的作業時間から、作業時間を1時間と仮定した計算上の従事人数等を試算して、上記の従事人数等と比較したところ、5割以上の契約で両者は30%以上かい離する結果となった。
図3 覚書の日額単価を割り戻して算出した計算上の従事人数等の算出方法
ウ 日額単価の算出基準となっている1人1時間当たりの単価についてみると、日本郵便本社は、前記のとおり、平成22年に当時の最低賃金を参考に設定していたが、令和4年においても見直しておらず、この間に最低賃金は30%以上上昇していた。
これらのことから、覚書の日額単価は、業務量等に応じたものとなっていないと思料された。
また、日本郵便本社は、集配委託契約の更新の際に、集配局において、区分業務に関する業務量の実態を確認した上で覚書の変更手続を行うこととしておらず、また、日額単価と業務量の実態が合っていない場合における覚書の変更手続を明確に定めていなかった。このため、マニュアル等において業務量の実態に即した日額単価を定めるための具体的な手続を明確にしているとは認められなかった。
したがって、(1)及び(2)のことなどから、日本郵便本社等において、区分業務加算払制度が適切に運営されていないと認められた(100契約9995万余円(税込))。
このように、区分業務加算払制度の運営に当たり、日本郵便本社において業務量の実態に即した日額単価とするようにしていないことなどから、支社等において覚書と異なる方法で算定した額を支払っていた事態、集配局において履行確認を従事人数等により行っていたなどの事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、次のようなことなどによると認められた。
ア 日本郵便本社において、日額単価等が実態に即したものとなるよう単価の設定方法や変更の手続を具体的に定めておらず、また、共通事務集約センターにおける支払の際の確認手続をマニュアル等に具体的に記載していなかったこと
イ 集配局において、区分業務加算払制度に対する理解が十分でなく、覚書を遵守することなどについての認識が欠けていたこと
上記についての本院の指摘に基づき、日本郵便本社は、実態に即した区分業務委託料の支払を適切に行うなど、区分業務加算払制度の運営を適切に行うことができるよう、支社等に対して、5年8月までに文書を発するなどして、次のような処置を講じた。
ア 日額単価等が実態に即したものとなるよう単価の設定方法や変更の手続を具体的に定め、また、共通事務集約センターにおける支払の際の請求書の修正依頼や確認した記録の保存等の手続を定めた。
イ アの内容を定めた文書を発出すること及び社内用ポータルサイトに掲載することにより、支社(集配部門)及び集配局に対して、区分業務加算払制度や日額単価の考え方、覚書の遵守等についての具体的な内容の周知徹底を図った。