日本下水道事業団(以下「事業団」という。)は、栃木県小山市から委託を受けて、小山市小山水処理センター内において、令和元、2両年度に、既設の水路橋(昭和49年築造)の耐震補強を目的として、落橋防止システムの設置等を工事費86,944,000円で実施している。
本件水路橋は、下部構造として13基(P1~P13)の橋脚、上部構造として下水を流すためのボックスカルバート12基(各内空断面の幅2.0m、高さ2.0m、12径間の総延長163.4m。)で構成されている。そして、落橋防止システムは、上部構造の落下防止を目的として、橋座部を橋軸方向に拡幅して、各径間のボックスカルバートの端部から橋座部の縁端までの長さ(以下「桁かかり長」という。)を確保するとともに、橋座部に鉄筋コンクリート製の落橋防止構造を設置するものである。
事業団は、この落橋防止システムの設計を「道路橋示方書・同解説」(平成24年版。社団法人日本道路協会編。以下「示方書」という。)に基づき行うこととしており、示方書によれば、上部構造の落下防止対策として、桁かかり長、落橋防止構造等から適切に選定した落橋防止システムを設置しなければならないとされている。このうち落橋防止構造については、橋軸方向に大きな変位が生じにくい構造特性を有する橋では、橋軸方向の落橋防止構造の設置を省略してもよいとされている。そして、両端が橋台に支持された一連の上部構造を有する橋は、落橋防止構造を省略してもよいとされる上記の構造特性を有する橋であるとみなされるが、単純橋が連続する場合はこれに含まれないとされている(参考図1参照)。
また、示方書によれば、橋の下部構造等において、鉄筋の端部は、鉄筋とコンクリートが一体となって働くように、確実に定着しなければならないこととされており、鉄筋とコンクリートの付着により定着する場合、鉄筋の定着に必要な付着の長さ(以下「定着長」という。)を、所定の計算式より算出した長さ(以下「基本定着長」という。)以上確保することなどとされている。
事業団は、本件工事の設計業務を設計コンサルタントに委託し、東日本設計センターにおいて成果品を検査した上で受領し、これにより施工していた。
本院は、合規性等の観点から、本件水路橋における落橋防止システムの設計が示方書に基づき適切に行われているかなどに着眼して、東日本設計センター及び関東・北陸総合事務所において、本件工事を対象に、設計図面、設計計算書、施工写真等の書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
事業団は、本件水路橋は橋軸方向に大きな変位が生じにくい構造特性を有する橋であるとして、橋脚13基の可動支承部のうち7か所について、橋座部を拡幅して必要な桁かかり長を確保すれば落橋防止構造は省略できるとして設計し、これにより施工していた(参考図2参照)。
しかし、本件水路橋は、単純橋が連続するものであり、両端が橋台に支持されている一連の上部構造を有する橋ではなく、橋軸方向に大きな変位が生じにくい構造特性を有する橋とはみなされないことから、落橋防止システムとして落橋防止構造を設置する必要があった(参考図1参照)。
事業団は、橋脚13基の固定支承部のうち9か所に鉄筋コンクリート製の落橋防止構造を設置していた。そして、落橋防止構造に配置する鉛直方向の鉄筋の基本定着長は、応力計算上の鉄筋に生ずる引張応力度(注)等から算出して647.5㎜とし、実際の定着長を680.0㎜とすれば、基本定着長以上の長さが確保できるとして設計し、これにより施工していた(参考図2参照)。
しかし、示方書によれば、基本定着長について、鉄筋の許容引張応力度(注)等から算出した長さ以上とするとされているのに、事業団は、上記のとおり、誤って鉄筋の許容引張応力度よりも小さい数値である応力計算上の鉄筋に生ずる引張応力度等から算出していた。
そこで、鉄筋の許容引張応力度等に基づくなどして、適切な定着長を算出すると、981.2㎜となり、本件の定着長680.0㎜はこれに比べて長さが不足していた。
したがって、本件水路橋の落橋防止システムは、設計が適切でなかったため、地震発生時にボックスカルバートの所要の安全度が確保されていない状態となっていて、工事の目的を達しておらず、これらに係る工事費相当額5,307,240円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、事業団において、示方書についての理解が十分でなかったこと、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったことなどによると認められる。
(参考図1)
橋の構造概念図
(参考図2)
水路橋及び落橋防止システムの概念図