会計検査院は、令和3年6月7日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月8日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。
一、会計検査及びその結果の報告を求める事項
平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法に基づく除染事業、汚染廃棄物処理事業、中間貯蔵施設事業等に関する次の各事項
① 各事業の入札、契約などの状況、特に、一者応札となったものに係る契約金額の状況
② 各事業に係る受注者の事業実施体制等及びこれに対する国の監督等の状況
本院は、上記要請の放射性物質汚染対処特措法3事業等(注1)の入札、落札、契約等の状況並びに各事業に係る受注者の事業実施体制等及びこれに対する国の監督等の状況に関する各事項について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、①放射性物質汚染対処特措法3事業等の入札、落札及び契約の状況はどのようになっているか、特に、応札者が1者となったもの(以下「1者応札」という。)に係る契約金額等の状況はどのようになっているか、また、環境省が行っている競争性確保のための取組はどのようになっているか、予定価格の積算は経済性を考慮して適切に行われているか、②放射性物質汚染対処特措法3事業等に係る受注者における事業実施体制等及びこれに対する国の監督等の状況はどのようになっているか、除染事業等における除去土壌等(注2)の不法投棄等の不適切な事案に関して環境省が整備している仕組みは事案の再発を防止する効果的なものとなっているかなどに着眼して検査を実施した。
検査の結果の主な内容は、次のとおりである。
環境省福島地方環境事務所(平成29年7月13日以前は福島環境再生事務所。以下「福島事務所」という。)が28年4月から令和3年9月までの間に締結した契約984件について契約方式別の契約件数及びその比率をみると、一般競争契約735件(全体の74.7%)、随意契約249件(同25.3%)となっていた。
上記の一般競争契約735件について1者応札率(注3)をみたところ49.3%となっていた。
契約内容区分別に1者応札率を比較したところ、工事契約では29.5%と放射性物質汚染対処特措法3事業等全体の49.3%より19.8ポイント低くなっていたが、建設コンサルタント業務等(工事の設計若しくは監理・監督支援又は工事に関する調査、企画、立案若しくは助言の技術支援を行う業務等をいう。以下同じ。)契約では62.1%と放射性物質汚染対処特措法3事業等全体の1者応札率より12.8ポイント高くなっているとともに、1者応札となった契約の件数が最も多くなっていた。総合評価落札方式(注4)による建設コンサルタント業務等契約の1者応札率について、事業区分により1者応札率に差があるかみると、汚染廃棄物処理事業及び中間貯蔵施設事業の建設コンサルタント業務等契約で、それぞれ1者応札率が97.9%及び67.9%となっていて、放射性物質汚染対処特措法3事業等全体の1者応札率よりそれぞれ48.6ポイント及び18.6ポイント高くなっていた。
また、応札者数と落札率(注5)との関係をみると、複数応札となった契約の平均落札率(注6)は全体で81.3%であるのに対して、1者応札となった契約の平均落札率は全体で94.6%と13.3ポイント高くなっていて、いずれの契約内容区分においても、1者応札となった契約の平均落札率が複数応札となった契約より高くなっていた。
事業実施地域を市町村単位として発注される契約の入札、落札等の状況をみると、環境省が、平成29年度以降に、6町村において実施している特定復興再生拠点区域事業の除染工事等契約の1者応札率は、6町村いずれにおいても当該町村における29年度までに終了している除染事業の除染工事契約より低くなっていた。一方、5町村において、特定復興再生拠点区域事業の工事監理・監督支援業務契約の1者応札率は、除染事業の工事監理・監督支援業務契約より高くなっていた。また、除染事業及び特定復興再生拠点区域事業の工事監理・監督支援業務契約については、発注があった9市町村のうち8市町村において、1者応札により同様の内容の契約を同一の契約相手方が継続して受注している契約が見受けられた。
環境省が行っている1者応札率の低減を始めとする競争性の確保のための取組のうち1者応札等アンケート(注7)についてみると、同省は、試行的に取り組むという理由により環境本省が締結する契約のみとしていたのを各地方環境事務所等まで拡充するとしている。
工事費の算定に当たり設計書に計上する材料の単価(以下「積算単価」という。)の適用についてみると、誤って予定価格積算作業時点から1年以上前の時点の物価資料単価(注8)を適用しており、その結果、材料費が割高となっていた工事契約が11件(割高となっていた積算額計2億0910万余円)見受けられた。
諸経費の算定についてみると、前工事(注9)と後工事(注10)とがいずれも土木工事である組合せ4組に係る後工事7件の諸経費については、組ごとに後工事の発注時点において契約を締結済みの土木工事を前工事として、それらを一体的な工事とみなして、国土交通省土木工事標準積算基準書(国土交通省大臣官房技術調査課制定)を参考にして合算調整(注11)を行うことが可能であり、合算調整により諸経費をより経済的に算定する必要があったと認められる(低減できた諸経費の積算額計1198万円)。
変更割合別の状況についてみると、前記984件のうち、増額変更割合(注12)が30%を超える増額となっている契約件数は169件となっており、増額変更割合が100%を超えるものも59件見受けられた。
増額変更理由についてみると、汚染廃棄物の処理量の増加が全体の30.2%と最も多くなっており、この汚染廃棄物の処理量の増加を含めた数量増を理由とするものが全体の76.3%を占めていた。福島事務所は、契約委員会設置要綱(平成24年福島地方環境事務所長決裁)に基づき設置された契約委員会において変更理由を説明して変更契約の適否について審査を受けた上で変更契約を締結しており、新たに契約を締結することなく事業の早期着手が可能となり、汚染廃棄物の早期処理等の諸課題に迅速に対応できたとしている。
東日本大震災復興基本法(平成23年法律第76号)に基づき23年7月に定められた「東日本大震災からの復興の基本方針」等で定められた27年度までの集中復興期間においては、除染工事の早期完了、汚染廃棄物の早期処理等に迅速に対応することが求められており、新たに契約を締結する場合の手続に時間を要することなどを考慮すると、増額変更割合が30%を超える変更契約を行い対応したことについては、やむを得ない面があったと考えられる。
一方、集中復興期間に引き続く28年4月から令和3年9月までの間に締結した契約984件については、契約締結後に住民の意向、地域情勢等により事業の早期着手を求められたため、締結済みの契約において処理する汚染廃棄物の量を増加させたことなど、集中復興期間と同様の事情もあったと考えられるものの、前記のとおり、増額変更割合が30%を超える契約が169件となっており、100%を超える契約も59件見受けられている。
環境省は、不法投棄等の事案の発生を受けて、再発防止通知を発出したり、段階確認の項目や実施時期の明確化を図ったりするなどして、監督等の仕組みを見直している。
しかし、監督等の仕組みの見直し後においても、結果として不法投棄等の事案が発生している。このような事案が発生しているのは、一義的には受注者において契約図書の内容に従った履行をすることに対する認識が欠けていたことによるが、同省において、除去土壌等及び解体廃棄物(注13)が不法投棄等されることなく仮置場等に確実に搬入されたかを確認するための仕組みなど不法投棄等の発生を防止するための仕組みを整備していなかったことにもよると考えられる。
政府は、放射性物質汚染対処特措法等の枠組みの下、今日まで、多額の国費を投じて放射性物質汚染対処特措法3事業等を実施してきている。
東京電力株式会社(平成28年4月1日以降は東京電力ホールディングス株式会社)の福島第一原子力発電所において発生した事故(以下「福島第一原発事故」という。)の発生から11年が経過したものの、福島県内においては、放射性物質汚染対処特措法3事業等はいずれも実施中であり、今後も放射性物質汚染対処特措法3事業等の適切で経済的かつ効率的な実施が求められている。また、環境省等が放射性物質汚染対処特措法3事業等を実施する過程では、除染適正化推進本部を設置したり、除染適正化プログラムを作成したり、警告決議に対する措置を講じたりした後においても、不適切な事案が生じており、各事業に係る契約を履行する受注者の適切な事業実施体制等や環境省等による適切で厳正な監督等が求められている。
ついては、環境省において、今後、次の点に留意して、放射性物質汚染対処特措法3事業等に適切に取り組む必要がある。
ア 環境省は、競争性の確保に取り組んできているとしているが、今後も、放射性物質汚染対処特措法3事業等に係る契約において、1者応札率の低減のために有効と考えられる取組の状況を確認し、契約ごとに1者応札等となった要因を把握するなどして、競争性の確保について引き続き取り組むこと
イ 放射性物質汚染対処特措法3事業等に係る契約の予定価格の積算について、積算単価を適切に適用しているか確認したり、後工事の諸経費の算定に当たり合算調整を行ったりして、予定価格を適切かつ経済的に積算するための取組を行うこと
ウ 変更契約について、福島第一原発事故の発生から11年が経過し、放射性物質汚染対処特措法3事業等が進捗して契約実績も蓄積されてきていることなどを踏まえて、今後、請負工事等の発注に当たっては、放射性物質汚染対処特措法3事業等の特性を考慮した上で、これまでに実施してきた工事等により得られた知見やノウハウを生かして対象数量を見込むなどして、大幅な増額変更とならないよう取組を行うこと
不法投棄等の事案について、事業者に対して引き続き注意喚起を行うとともに、環境省がこれまで講じてきた対策を検証して、不法投棄等の事案の発生を防止するために必要な制度や効果的な仕組みの整備を検討すること
本院としては、放射性物質汚染対処特措法3事業等の入札、落札、契約金額等の状況について、今後も引き続き検査していくこととする。