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  • 令和4年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第2節 国会からの検査要請事項に関する報告

参考:報告書はこちら

第4 予備費の使用等の状況について


要請を受諾した年月日
令和4年6月14日
検査の対象
内閣、内閣府、総務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省
検査の内容
予備費の使用等の状況についての検査要請事項
報告を行った年月日
令和5年9月15日

1 検査の要請の内容

会計検査院は、令和4年6月13日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月14日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。

一、会計検査及びその結果の報告を求める事項

  • (一) 検査の対象
    内閣、内閣府、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省
  • (二) 検査の内容

    令和2年度一般会計新型コロナウイルス感染症対策予備費及び一般会計予備費(新型コロナウイルス感染症対策のために使用したものに限る。)のうち翌年度に繰り越した経費並びに3年度一般会計新型コロナウイルス感染症対策予備費に関する次の各事項

    ① 予備費を使用して新たに設け又は金額を追加した項の執行状況

    ② 予備費の使用状況、特に使用理由及び使用額の積算基礎の状況

2 検査の結果の主な内容

予備費の「使用」とは、特定の経費の財源に充てるために、財務省所管の歳出予算に計上された予備費(一般会計の場合)を財源として各省各庁所管の歳出予算に新しい項を設けて予算を計上したり、既定の項の予算を追加したりして、当該経費の金額について財政法(昭和22年法律第34号)第31条第1項の規定に基づく予算の配賦があったのと同様の効果を生じさせることであるとされている(以下、予備費の使用決定により予算科目に配賦された予算額を「予備費使用額」という。)。予備費の使用決定は、予備費を使用する経緯や目的に応じて定められた事項(以下「予備費使用事項」という。)を単位として行われている。

政府は、予備費の使用等について、「予備費の使用等について」(昭和29年4月閣議決定。最終改正平成19年4月。以下「昭和29年閣議決定」という。)を定めている。昭和29年閣議決定第3項によれば、国会開会中は、事業量の増加等に伴う経常の経費(第1号)、法令又は国庫債務負担行為により支出義務が発生した経費(第2号)、災害に基因して必要を生じた諸経費その他予備費の使用によらなければ時間的に対処し難いと認められる緊急な経費(第3号)、その他比較的軽微と認められる経費(第4号)等を除き、予備費の使用は行わないこととされている。また、昭和29年閣議決定第4項によれば、予備費使用額については、「これをその目的の費途以外に支出してはならない」こととされている。

予備費として計上されていた予算が使用の目的に応じて特定の予算科目に配賦された後、予備費使用額を財源とする予算は、当該予算科目において当初予算等の既定予算と一体として執行される。したがって、予算科目において、歳出予算現額(歳出予算額(当初予算額、補正予算額等の合計)に、前年度繰越額、予備費使用額、流用(注1)等増減額及び予算決定後移替増減額(以下「移替増減額」という。)を加減したもの。以下「予算現額」という。)から予備費使用額を財源とする予算を区別してその執行状況を具体的に確認することは、予備費の使用決定により新たに予算科目が設定されて当該予算科目に計上された予算現額の全てが予備費使用額による場合等を除き、基本的にできない。また、予備費の使用決定により予算が配賦された予算科目からの流用等増減額若しくは移替増減額又は前年度繰越額が計上されている予算科目において、これらの額のうち予備費使用額を財源とする予算の額(以下、予算現額、前年度繰越額、流用等増減額、移替増減額等にそれぞれ含まれる予備費使用額を財源とする予算に相当する額を「予備費使用相当額」という。)を区別してその執行状況を具体的に確認することも、基本的にできない。

(注1)
流用  財政法第33条第2項の規定に基づき、目間で歳出予算の区分を変更し予算を彼此融通すること。予算統制の観点から、原則として財務大臣の承認を経なければならないこととなっている。

一般会計予算には、使途の制限のない予備費(以下「一般会計予備費」という。)とは別に、予算総則で使途を制限した予備費(以下「特定使途予備費」という。)が計上される場合がある。特定使途予備費のうち、新型コロナウイルス感染症対策予備費(以下「コロナ対策予備費」という。)は、令和2年度一般会計補正予算(第1号)(以下「2年度第1次補正」という。)予算総則補正第10条及び令和3年度一般会計予算予算総則第16条の規定によれば、新型コロナウイルス感染症に係る感染拡大防止策に要する経費その他の同感染症に係る緊急を要する経費以外には使用しないものとするとされている。

令和2年度においては、新型コロナウイルス感染症対策に係る緊急な経費については、2年度第1次補正によりコロナ対策予備費が創設されるまでの間は一般会計予備費が使用され、コロナ対策予備費の創設以後は、一般会計予備費に優先してコロナ対策予備費が使用されている(以下、一般会計予備費で新型コロナウイルス感染症対策に係る経費として使用されたもの及びコロナ対策予備費を合わせて「コロナ関係予備費」という。)。

本院は、前記要請の2年度コロナ関係予備費のうち翌年度に繰り越した経費及び3年度コロナ対策予備費に関する各事項について、合規性、予算の執行及び予備費の使用における透明性の確保(注2)並びに国会及び国民への説明責任の向上(注2)等の観点から、次の点などに着眼して検査した。

(注2)
会計検査院法における「その他会計検査上必要な観点」に位置付けられるものである。

① コロナ関係予備費の使用決定により予算が配賦されるなどした予算科目の執行状況はどうなっているか

② 各府省等は、予備費使用相当額をその目的の費途以外に支出しないような執行管理を行っているか

③ 各府省等は、予備費使用相当額の執行状況を区別できるような執行管理を行っているか

④ 予算の執行の結果、予備費使用相当額について多額の繰越し又は不用を生じているものはないか

⑤ 予備費使用相当額の執行状況等に関する公表の内容は予備費使用相当額の執行等に関する事後的な検証に資するものとなっているか

⑥ 予備費使用要求書(各省各庁の長が予備費の使用を必要と認めるときに作製し財務大臣に送付することとなっている、理由、金額及び積算の基礎を明らかにした調書をいう。以下同じ。)等の記載事項はどのようになっているか

⑦ 予備費使用決定時における執行時期の想定はどのようになっているか

⑧ 予備費使用要求額等の積算はどのようになっているか

⑨ 予備費の使用状況は、公表資料においてどの程度明らかになっているか

検査の結果の主な内容は、次のとおりである。

(1) 予備費を使用して新たに設け又は金額を追加した項の執行状況

ア コロナ関係予備費の使用決定により予算が配賦されるなどした予算科目の執行状況等

3年度の8府省等(注3)所管の22項47目の執行状況等を整理したところ、予算現額41兆8993億余円に対して、支出済歳出額(年度内に支出済となった歳出額。以下「支出済額」という。)は29兆5369億余円、翌年度繰越額は10兆9848億余円、不用額は1兆3775億余円となっていた。そして、当該8府省等所管の22項47目における予算現額の状況についてみると、全ての予算科目において予備費使用額以外の予算の額が含まれていて、予算科目の執行状況から予備費使用相当額の執行状況を区別できるものはなかった。

(注3)
8府省等  内閣、内閣府、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省の7府省等及び令和2、3両年度コロナ関係予備費の使用決定により予算が配賦された内閣府所管の予算科目から予算の移替えを受けるなどしていた総務省

イ 8府省等における予算の執行管理等の状況

8府省等は、いずれも実務上の取扱いとして事業を単位として予算の執行管理等を行っていて、2年度コロナ関係予備費34事項については7府省等の37事業に、3年度コロナ対策予備費16事項については4府省の26事業にそれぞれ予備費の使用決定により予算が配賦されたものとして予算が執行されていた。そして、これらの純計は7府省等の56事業(これらに係る予備費使用事項計50事項)となっていた。なお、いずれの事業も、事業の実施及び当該事業予算の執行を担当する部局(以下「事業担当部局」という。)が表計算ソフトを用いるなどして作成した事業予算の残額等を管理する帳簿(以下「管理簿」という。)等を備え、管理簿等による事業予算の執行管理等が行われていた。

予算現額及び財源内訳の状況について、管理簿等に基づき事業ごとに整理したところ、予算現額がコロナ関係予備費1事項に係る予備費使用相当額のみの事業もあれば、予算現額に複数の財源に係る額が含まれる事業もあった。

事業予算の執行管理等の状況についてみたところ、前記7府省等の56事業のうち4省の8事業については、予算現額がコロナ関係予備費1事項に係る予備費使用相当額のみとなっていた。

前記7府省等の56事業のうち7府省等の48事業については、予算現額に複数の財源に係る額が含まれていた。そして、当該7府省等の48事業のうち4府省の15事業については、事業予算の中で予備費使用相当額を充てる経費を限定しているため、経費区分ごとに予算の執行管理が行われていた。このうち①2省の11事業については予備費使用相当額を充てる経費区分の予算現額がコロナ関係予備費1事項に係る予備費使用相当額のみとなっており、②2府省の3事業については予備費使用相当額を充てる経費区分の予算現額に複数の財源に係る額が含まれていてこれらの執行管理を一体的に行っており、③厚生労働省の1事業については予備費使用相当額を充てる経費区分が複数あり、一部の経費区分の予算現額に複数の財源に係る額が含まれていてこれらの執行管理を一体的に行っていた。

上記7府省等の48事業のうち6府省等の33事業については、事業予算の予算現額に複数の財源に係る額が含まれていて、これらの執行管理を一体的に行っているとしていた。そして、当該6府省等の33事業に上記②2府省の3事業及び③厚生労働省の1事業を加えた7府省等の37事業のうち、事業予算の支出等を行う際に複数ある財源のいずれから支出等を行うこととするかについての整理(以下「財源選択の順序の整理」という。)の方法として、予算配賦の順に執行するよう整理(以下「先入れ先出し執行」という。)する方法を採用しているものが6府省等の32事業、先に配賦された当初予算額、補正予算額等の既定予算額より、後に配賦された予備費使用相当額を優先的に執行するよう整理する方法を採用しているものが3省の4事業、先に配賦された予備費使用相当額より、後に配賦された補正予算額を優先的に執行するよう整理する方法を採用しているものが厚生労働省の1事業となっていた。

以上のとおり、8府省等においては、実務上の取扱いとして、管理簿等により事業単位で予算の執行管理を行うなどしていることから、使用決定されたコロナ関係予備費が意図せずその目的の費途以外に支出されないように管理されていると認められる。また、事業によって予算現額の財源内訳の状況並びに予備費使用相当額を充てる経費の限定の状況及び採用する財源選択の順序の整理方法が異なるものの、いずれの事業も予備費使用相当額の執行状況を区別することができるようになっていた。

ウ 事業別の予算の執行状況等

(ア) 2年度の状況

2年度コロナ関係予備費の使用決定により予算が配賦された7府省等の37事業の中には、事業間で同一の予算科目に属する事業予算を彼此融通(以下「目内融通」という。)しているものが見受けられた。目内融通は一つの予算科目内における実務上の予算異動であり、決算書上表示されないものである。上記7府省等の37事業のうち、厚生労働省の3事業において、他の事業への予備費使用相当額の目内融通が4件見受けられた。予備費使用相当額について他の事業へ目内融通を行い、当該他の事業のために執行した場合、目内融通先の事業が予備費使用決定の目的の費途の範囲内でなければ、予備費使用額をその目的の費途以外に支出してはならないとする昭和29年閣議決定第4項に照らして適切ではないと考えられる。「目的の費途」について、財務省は、予備費使用要求書等に記載された予備費使用事項及び使用理由の文言のほか、予備費を使用した経費の性質、予備費使用決定の経緯等を総合的に勘案して解釈されるとしている。そこで、当該目内融通4件における目内融通に係る予備費使用事項と目内融通先の事業に係るコロナ関係予備費の使用決定の状況をみると、目内融通に係る予備費使用事項と同一の予備費使用事項により予算が配賦された事業への目内融通となっていたものが2件、目内融通に係る予備費使用事項と同一の予備費使用事項による予算の配賦を受けていない事業への目内融通となっていたものが2件となっていた。なお、このうち1件は、コロナ関係予備費の使用決定により予算が配賦された事業からコロナ関係予備費の使用決定による予算の配賦を受けていない事業への目内融通となっていた。当該目内融通4件について、厚生労働省は、当初にコロナ関係予備費の使用決定により予算が配賦された事業と、新型コロナウイルス感染症の影響により労働者を休業させた事業主に対する支援という点で政策目的が同一の事業への目内融通であるなどのため、いずれも当該コロナ関係予備費の使用決定の目的の費途の範囲内にあり、その目的の費途以外に支出したものではないとしている。

上記7府省等の37事業に、コロナ関係予備費の使用決定による予算の配賦を受けていなかったが他の事業から予備費使用相当額の目内融通を受けていた厚生労働省の1事業を加えた7府省等の38事業のうち、7府省等の27事業については翌年度繰越額に予備費使用相当額に係る金額計4兆7964億余円が含まれていて、このうち6府省等の14事業において、予備費使用事項1事項に係る予備費使用相当額の全額を翌年度に繰り越していた。

(イ) 3年度の状況

2年度コロナ関係予備費に係る予備費使用相当額を3年度に繰り越していた7府省等の27事業及び3年度コロナ対策予備費の使用決定により予算が配賦された4府省の26事業の純計7府省等の49事業のうち、厚生労働省の1事業において、他の事業への予備費使用相当額の流用が1件見受けられた。予備費使用相当額について他の事業へ流用を行い、当該他の事業のために執行した場合、目内融通と同様に、流用先の事業が予備費使用決定の目的の費途の範囲内でなければ、予備費使用額をその目的の費途以外に支出してはならないとする昭和29年閣議決定第4項に照らして適切ではないと考えられる。そこで、当該流用について、流用に係る予備費使用事項と流用先の事業に係るコロナ関係予備費の使用決定の状況をみると、流用に係る予備費使用事項と同一の予備費使用事項による予算の配賦を受けていない事業への流用となっていた。当該流用について、厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止を目的とした事業への流用であり、当初のコロナ関係予備費の使用決定の目的の費途の範囲内にあり、その目的の費途以外に支出したものではないとしている。また、当該流用を承認した財務省も、同一の項により新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に資するワクチン接種体制の確保、治療薬の確保等を目的として実施する事業間での流用であり、予備費の使用決定の目的の費途以外に支出したものではないとしている。

上記7府省等の49事業のうち、厚生労働省の2事業において、他の事業への予備費使用相当額の目内融通が2件見受けられた。そして、当該目内融通2件は、いずれも目内融通に係る予備費使用事項と同一の予備費使用事項による予算の配賦を受けていない事業への目内融通となっていた。なお、このうち1件は、コロナ関係予備費の使用決定により予算が配賦された事業からコロナ関係予備費の使用決定による予算の配賦を受けていない事業への目内融通となっていた。当該目内融通2件について、厚生労働省は、当初にコロナ関係予備費の使用決定により予算が配賦された事業と、医療機関等における感染拡大防止対策等に要する費用を補助するという点で政策目的が同一の事業への目内融通であるなどのため、いずれも当該コロナ関係予備費の使用決定の目的の費途の範囲内にあり、その目的の費途以外に支出したものではないとしている。

前記7府省等の49事業に、コロナ関係予備費の使用決定による予算の配賦を受けていなかったが他の事業から予備費使用相当額の目内融通を受けていた厚生労働省の1事業を加えた7府省等の50事業について、予備費使用相当額に係る支出の状況をみると、予備費使用相当額計9兆4149億余円に対して計8兆2335億余円が支出されていた。

上記7府省等の50事業のうち、3府省の9事業については翌年度繰越額に予備費使用相当額に係る金額計7282億余円が含まれていて、このうち2府省の4事業において、予備費使用事項1事項に係る予備費使用相当額の全額を翌年度に繰り越していた。

前記7府省等の50事業のうち、6府省の25事業については不用額に予備費使用相当額に係る金額計4532億余円が含まれていて、このうち国土交通省の1事業において、予備費使用事項1事項に係る予備費使用相当額の全額が不用となっていた。

エ 予備費使用相当額の執行状況に係る公表状況

「経済対策のフォローアップについて」(注4)及び行政事業レビューシート(注5)では、予備費使用相当額を区別した執行状況は明らかにされていなかった。

(注4)
「経済対策のフォローアップについて」  内閣府が、令和2、3両年度の新型コロナウイルス感染症に係る対応策、経済支援等を含む経済対策等に基づき各府省等が実施する主な事業(原則として一般会計の予算額が100億円以上の事業)の進捗状況を取りまとめて公表している資料
(注5)
行政事業レビューシート  各府省等が、行政事業レビュー実施要領(平成25年4月行政改革推進会議)等に基づき、国民への分かりやすさや成果の検証可能性等に配意して設定された事業ごとに作成し、公表することとなっている資料

3年度コロナ対策予備費の使用決定により予算が配賦された4府省は、5年1月にそれぞれのウェブサイト上で「令和3年度一般会計新型コロナウイルス感染症対策予備費の執行状況(令和3年度決算時点)」を公表している。また、財務省は、5年2月に、同省のウェブサイト上で4府省分を取りまとめるなどした資料(以下、4府省が公表した資料と合わせて「3年度コロナ対策予備費執行状況公表資料」という。)を公表している。3年度コロナ対策予備費執行状況公表資料では、3年度コロナ対策予備費に係る「事項」(以下「公表単位としての事項」という。)ごとに、予備費使用額に対する支出済額、翌年度繰越額及び不用額が明らかにされていた。ただし、公表単位としての事項の内訳として事業ごとの執行状況を明らかにするものとはなっていなかった。また、3年度コロナ対策予備費執行状況公表資料に記載された予備費使用相当額の執行状況の計数は、3年度コロナ対策予備費の使用決定により予算が配賦された4府省の26事業における執行状況を集計したものであり、当該4府省の26事業には、予算現額がコロナ関係予備費1事項に係る予備費使用相当額のみの事業並びに事業予算の中で予備費使用相当額を充てる経費を限定している事業及び複数の財源に係る額の執行管理を一体的に行っていて財源選択の順序の整理方法として先入れ先出し執行を採用している事業が含まれていた。この点について、3年度コロナ対策予備費執行状況公表資料の中には、全体について「既定経費から順次支出したと整理するなど、一定の前提を置いて支出済額等を整理したものである」などと注記されていて、公表単位としての事項それぞれについて「一定の前提」を明示したものとはなっていないものもあった。

前記のとおり、8府省等において、実務上の取扱いとして、予算の執行管理等及び予備費の使用要求が事業単位で行われていることなどから、予備費使用相当額の執行等に関する事後的な検証を事業単位で行えば、当該検証が実態に即したものとなると考えられる。これを踏まえると、予備費使用相当額の執行状況の公表に当たって、予備費の使用決定により予算が配賦されるなどした事業ごとに、事業予算全体の執行状況と併せて、その内訳として予備費使用相当額の執行状況を公表したり、流用又は目内融通の状況を丁寧に示したりすれば、予備費使用相当額の執行等に関する事後的な検証に、より一層資することになると考えられる。また、事業予算の予算現額に複数の財源に係る額が含まれている事業における予備費使用相当額の執行状況等の各金額は、採用する財源選択の順序の整理方法等によって変わり得ることから、実態に即して予備費使用相当額の執行等に関する事後的な検証を行うためには、整理方法等が把握できるようになっていることが必要であると考えられる。これを踏まえると、予備費使用相当額の執行状況等の公表に当たって、予備費の使用決定により予算が配賦されるなどした事業ごとに財源選択の順序の整理方法等を明示すれば、予備費使用相当額の執行等に関する事後的な検証に、より一層資することになると考えられる。

(2) 予備費の使用状況、特に使用理由及び使用額の積算基礎の状況

ア 検査の対象となる予備費使用事項

コロナ関係予備費の使用決定により配賦された予算の執行状況に係る検査の結果、使用状況に係る検査の対象となる2、3両年度コロナ関係予備費は、予備費使用事項7府省等の41事項(これらに係る事業7府省等の49事業、予備費使用額10兆7089億余円)となる。

イ 予備費使用要求書等の記載事項の状況

予備費の使用に係る文書には、予備費使用要求書、予備費使用書及び閣議請議書(予備費使用書について閣議決定を求める際に作製される書類をいう。以下同じ。)並びに予備費使用総調書及び各省各庁所管使用調書(以下「予備費使用調書」という。)がある。

配賦先の予算科目については、予備費使用要求書、予備費使用書及び予備費使用調書には項及び目が、閣議請議書には項がそれぞれ記載されている。

積算内訳については、予備費使用要求書及び予備費使用書に記載されている。

国会開会中の予備費使用の場合における昭和29年閣議決定第3項該当号については、閣議請議書に記載されている。なお、使用状況に係る検査の対象とした7府省等の41事項のうち国会開会中に使用決定した7府省等の25事項は、いずれも昭和29年閣議決定第3項第3号(災害に基因して必要を生じた諸経費その他予備費の使用によらなければ時間的に対処し難いと認められる緊急な経費)に該当するとされていた。

予備費使用事項、使用理由(注6)及び金額(注7)については、いずれの文書にも記載されている。そして、記載内容は、予備費使用事項及び金額についてはいずれの文書も同一となっていて、使用理由についてはいずれの文書もほぼ同様となっていた。

(注6)
予備費使用要求書においては「要求理由」、閣議請議書においては「事由」、予備費使用調書においては「説明」をそれぞれ示す。
(注7)
予備費使用要求書においては「予備費使用要求額」、その他の文書においては「予備費使用額」をそれぞれ示す。

ウ 予備費の使用理由の状況

(ア) 予備費の使用を必要とした事象等

使用状況に係る検査の対象とした7府省等の41事項に係る7府省等の49事業におけるコロナ関係予備費の使用を必要とした事象について、事業担当部局から説明を徴したところ、緊急経済対策等の政策パッケージにおいて実施等することとなったこと、新型コロナウイルス感染症の感染状況を踏まえて事業実施期間を延長することになったことなどを挙げていて、同様の説明を財務省に行ったとしていた。また、当該事象が発生した当時、予備費の使用によらず他の事業からの流用又は目内融通による予算確保を検討したかについて事業担当部局から説明を徴したところ、7府省等の49事業全てについてこれを検討したとしていた。

(イ) 予備費使用決定日と支出負担行為の時期とのかい離状況等

使用状況に係る検査の対象とした7府省等の49事業(これらに係る予備費使用事項41事項)のうち、4府省の28事業(同19事項)においては、予備費使用相当額に係る支出負担行為(国の支出の原因となる契約その他の行為)の時期が予備費使用決定日より1月以上後となっていた。このうち内閣府の2事業(同2事項)においては、予備費使用決定日から1月以上後に予備費使用相当額に係る支出負担行為を行うことを予備費使用決定時に想定していたとしていた。また、3府省の15事業(同13事項)においては、予備費使用相当額に係る支出負担行為の実際の時期が予備費使用決定時の想定より1月以上後となったとしていた。

エ 予備費使用額の積算基礎の状況

7府省等から予備費使用要求時において作成した予備費使用要求額の積算に係る根拠資料(以下「積算根拠資料」という。)の提出を求めるなどして、使用状況に係る検査の対象とした7府省等の49事業(これらに係る予備費使用事項41事項)における予備費使用要求額等の積算の状況についてみたところ、5府省の14事業(同16事項)においては積算の対象とした期間が示され、このうち2府省の4事業(同4事項)においては、予備費使用決定日から年度末までの日数を超える期間等を用いていた。また、当該4事業のいずれにおいても、積算根拠資料等における当該期間を用いて積算された予備費使用要求額が、予備費使用要求書に記載された予備費使用要求額及び使用決定された予備費使用額と一致していた。そして、当該4事業のいずれにおいても、当該予備費使用事項に係る予備費使用相当額の全額が翌年度に繰り越されていた。当該4事業について、2府省は、いずれも予備費使用要求時には年度内に事業を完了することを予定していて、予備費使用要求額も年度内の支出見込額に基づき積算しており、積算に用いた期間については飽くまで年度内に要する経費の規模を算出するために用いたものであるなどとしている。財務省も、予備費の使用決定により配賦された予算が年度内に執行されることを前提として、予備費使用要求額も年度内の支出見込額に基づき積算されたものであると2府省から説明を受けて、これを確認した上で予備費使用書を作製したとしている。その上で、2府省が予備費の使用要求を行う際に、予備費使用決定日から年度末までの短期間でどのように事業を完了することを想定していたのかなどについても確認したが、その内容は判然としなかった。

予備費使用額の積算基礎の状況、予備費使用相当額の繰越しの状況等については以上のとおりであるが、予備費は国会による事前議決の原則の例外であるとされていること、予備費使用要求額等の積算は予算単年度主義(国会における予算の議決は毎会計年度行うという原則)に基づき年度内の支出見込額に基づいて行われる必要があることなどから、予備費使用相当額の繰越しの状況については、予備費使用決定時の想定も含めて十分な説明が求められると考えられる。これらを踏まえると、事業予算の執行の結果、予備費使用相当額について多額の繰越しが生じた場合、特に、予備費使用事項1事項に係る予備費使用相当額の全額を翌年度に繰り越した場合には、予備費使用決定時において、年度内にどのように事業を実施し、どのように事業予算を執行することを想定していたのか、また、予備費使用決定後にどのような事由により繰越しに至ったのかなどについて、丁寧に示すことが望まれる。

オ 予備費の使用状況に係る公表状況等

財務省のウェブサイト上で公表されている予備費使用調書には、予備費使用事項、使用理由、予備費使用額、配賦先の予算科目等は記載されていた一方、積算内訳及び国会開会中の予備費使用の場合における昭和29年閣議決定第3項該当号は記載されていなかった。

財務省は同省のウェブサイト上で「令和2年度一般会計新型コロナウイルス感染症対策予備費使用実績」及び「令和3年度一般会計新型コロナウイルス感染症対策予備費使用実績」を公表しているが、積算内訳及び国会開会中の予備費使用の場合における昭和29年閣議決定第3項該当号は記載されていなかった。

予見し難い予算の不足に充てるための予算措置であるもののうち、補正予算については歳出予算に係る各目明細書により予算額の積算内訳が公表されている一方で、予備費の使用決定については予備費使用額の積算内訳が公表されていない状況となっている。

3 検査の結果に対する所見

予備費については、予見し難い予算の不足に充てるために設けられている一方、令和2、3両年度には多額の予算が計上され、その大部分が使用されている。また、4年度には、令和4年度一般会計補正予算(第1号)によりコロナ対策予備費の使途に原油価格・物価高騰対策が追加され、令和4年度一般会計補正予算(第2号)により国際情勢の変化等に伴い発生し得る経済危機への対応を使途とするウクライナ情勢経済緊急対応予備費が創設され、また、両補正予算において、予備費使用額に相当する予備費予算額を追加する措置が行われている。そして、令和5年度一般会計予算においても、新型コロナウイルス感染症及び原油価格・物価高騰対策予備費並びにウクライナ情勢経済緊急対応予備費がそれぞれ計上されている。

また、予備費については、参議院決算委員会における令和元年度決算審査措置要求決議において、予備費は国会による事前議決の原則の例外であることから、その使用の状況について十分な説明が求められるとされている。さらに、令和2年度決算審査措置要求決議において、政府は、国会開会中に使用決定した各経費の予見可能性や緊急性の観点、昭和29年閣議決定との関係について疑念を招かないよう、国会において、より一層の説明責任を果たすべきであるとされ、また、予備費を財源とした執行額のみを把握することができず必要な検証を行うことが困難なものもあるなどとした上で、政府は、情報開示の在り方について検討を行い、予算の執行状況に係る透明性を向上させるべきであるとされている。

これらを踏まえると、感染症感染拡大、経済危機等の非常事態に対して国会による事前議決の原則の例外である予備費を活用して緊急的に対処することについて国民の理解を得るためには、予備費の使用決定及びこれにより配賦された予算の執行を予備費制度の趣旨に沿って適切に行うことはもとより、これらの状況について国会及び国民への情報提供を適切に行い、予備費使用相当額の執行等に関する事後的な検証により一層資することによって、透明性を確保し説明責任の向上を図ることが重要であると考えられる。

ついては、検査の結果を踏まえて、政府は、感染症感染拡大、経済危機等の非常事態に緊急的に対処するために、特定使途予備費又は当該特定使途予備費の創設までの間にあっては一般会計予備費をそれぞれ使用決定し、これにより配賦された予算を執行するに当たっては、予備費の使用及び予備費使用相当額の執行を適切に行うとともに、次の点に留意するなどして、予備費使用相当額の執行状況等の公表の在り方について引き続き検討し適時適切に国会及び国民への情報提供に取り組んでいく必要がある。

ア 予備費の使用決定により予算が配賦されるなどした事業ごとに、事業予算全体の執行状況と併せて、その内訳として予備費使用相当額の執行状況を公表すること

イ 事業予算の予算現額に複数の財源に係る額が含まれている事業については、事業ごとに財源選択の順序の整理方法等を明示すること

ウ 当初に予備費の使用決定により予算が配賦された事業とは別の事業へ予備費使用相当額の流用等又は目内融通を行った場合には、その状況を丁寧に示すこと

エ 事業予算の執行の結果、予備費使用相当額について多額の繰越しが生じた場合、特に、予備費使用事項1事項に係る予備費使用相当額の全額を翌年度に繰り越した場合には、事業の実施、事業予算の執行等に係る予備費使用決定時の想定、繰越しに至った経緯等を丁寧に示すこと

本院としては、予備費の使用決定により配賦された予算が適正かつ適切に執行されているかについて、今後も引き続き検査していくこととする。