歳入歳出決算等の検査対象別の概要は第1節に記述したとおりであるが、国の会計等のより的確な理解に資するために、決算でみた国の財政の状況を述べると次のとおりである。
我が国の財政状況をみると、昭和40年度に初めて歳入補塡のための国債が発行されて以降、連年の国債発行により国債残高は増加の一途をたどり、令和4年度末において、建設国債(注1)、特例国債(注2)、復興債(注3)、借換債(注4)等のように利払・償還財源が主として税収等の歳入により賄われる国債(以下「普通国債」という。)の残高は1027.0兆円に達している。そして、4年度の一般会計歳出決算総額における公債依存度は38.1%、国債の償還等に要する国債費の一般会計歳出決算総額に占める割合は18.0%となっており、財政は厳しい状況が続いている。
こうした状況の中で、政府は、平成8年12月に「財政健全化目標について」を閣議決定するなどして、9年度を「財政構造改革元年」と位置付けて、財政健全化の努力目標を設定するとともに、財政構造改革を強力に推進することとした。
25年には、「当面の財政健全化に向けた取組等について―中期財政計画―」(平成25年8月閣議了解)において、①「国・地方を合わせた基礎的財政収支(注5)」(以下「国・地方PB」という。)を2020年度(令和2年度)までに黒字化し、その後に②債務残高(注6)の対名目GDP比(以下、名目GDPを「GDP」という。)の安定的な引下げを目指すという財政健全化のための目標を掲げた。
その後、政府は、「経済財政運営と改革の基本方針2018」(平成30年6月閣議決定)において、「新経済・財政再生計画」を定めて、国・地方PBの黒字化の目標年度を2025年度(令和7年度)とし、同時に債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指すとともに、国・地方PBの黒字化の目標年度である2025年度(令和7年度)までの中間年である2021年度(令和3年度)における中間指標として、国・地方PB赤字の対GDP比を2017年度(平成29年度)からの実質的な半減値(1.5%程度)、債務残高の対GDP比を180%台前半、財政収支(注5)赤字の対GDP比を3%以下と設定し、これらを「進捗を管理するためのメルクマール」とした。
そして、「経済財政運営と改革の基本方針2023」(令和5年6月閣議決定)においては、「財政健全化の「旗」を下ろさず、これまでの財政健全化目標に取り組む。経済あっての財政であり、現行の目標年度により、状況に応じたマクロ経済政策の選択肢が歪められてはならない。必要な政策対応と財政健全化目標に取り組むことは決して矛盾するものではない。経済をしっかり立て直し、そして財政健全化に向けて取り組んでいく。ただし、最近の物価高の影響を始め、内外の経済情勢等を常に注視していく必要がある。このため、状況に応じ必要な検証を行っていく」こととしている。
また、国・地方PB、債務残高、財政収支及びそれぞれの対GDP比については、内閣府が、半年ごとに経済財政諮問会議に提出している「中長期の経済財政に関する試算」(以下「内閣府試算」という。)において実績値等を公表している。
本院は、これまで、財政の健全化に向けた政府の動向を踏まえつつ、国の決算額等により国の財政状況を継続して検査しており、平成28年度以降の検査報告の第6章において、財政健全化のための目標等において用いられる国・地方PB、財政収支対GDP比及び債務残高対GDP比について、国の一般会計の決算額等を用いて分析した結果を掲記するなどしている。
前記のとおり、財政健全化のための目標等において用いられている指標には、基礎的財政収支、財政収支及び債務残高に関するものがある(以下、これらに関する指標を「財政健全化の指標」という。)。そして、財政健全化の指標のうち、国・地方PB、財政収支及びそれぞれの対GDP比は、前記のとおり内閣府試算により公表されていて、国民経済計算の作成基準等に従い各種の基礎統計を利用して推計されているものであるが、詳細な内訳等は公表されていない。
一方、国の一般会計の決算額でみた基礎的財政収支(以下「一般会計PB」という。)は、税収等(注7)から政策的経費(注8)を差し引いた収支差で表されるもので、その時点で必要とされる政策的経費を、その時点の税収等でどれだけ賄えているかを示す指標であり、計算の基礎となる詳細な決算額を歳入決算明細書や歳出決算報告書等により把握することが可能である。また、国の一般会計の決算額でみた財政収支(以下「一般会計財政収支」という。)は、税収等から財政経費(注9)を差し引いた収支差で表されるもので、その時点で必要とされる財政経費を、その時点の税収等でどれだけ賄えているかを示す指標であり、一般会計PBと同様に、計算の基礎となる詳細な決算額を歳入決算明細書や歳出決算報告書等により把握することが可能である。ただし、国・地方PB(又は財政収支)は国の特別会計及び独立行政法人の一部、地方普通会計等の決算が計算対象に含まれており、一般会計PB(又は一般会計財政収支)はそれらの決算が計算対象に含まれていないなどの点で、両者には相違がある。
令和4年度の国の財政の状況について、引き続き、財政健全化の指標である国・地方PB、国・地方PB対GDP比、財政収支対GDP比及び債務残高対GDP比の状況がどのようになっているかなどをみると、次のとおりである。
国・地方PB、一般会計PB及び地方普通会計の基礎的財政収支(以下「地方PB」という。)について、平成20年度から令和4年度までの推移をみると、図1のとおり、国・地方PBと一般会計PBはおおむね同じように推移している。これは、地方財政計画を通じて国から地方に交付される地方交付税交付金等によって地方の財源が保障される仕組みなどにより、地方PBがほぼ均衡して推移していることなどによる。
そして、一般会計PBは、4年度にマイナス23.6兆円となっており、前年度のマイナス31.1兆円から7.5兆円改善しているが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い歳出が大幅に増加する前(以下「コロナ禍前」という。)の元年度の水準(マイナス13.9兆円)には戻っていない。また、国・地方PBは、4年度にマイナス27.8兆円となっており、前年度のマイナス30.4兆円から2.6兆円改善しているが、一般会計PBと同様に、元年度の水準(マイナス14.8兆円)には戻っていない。
図1 国・地方PB、一般会計PB及び地方PBの推移
また、国・地方PB及び一般会計PBのそれぞれの対GDP比について、平成20年度から令和4年度までの推移をみると、図2のとおり、国・地方PB対GDP比と一般会計PB対GDP比は、図1の国・地方PBと一般会計PBと同様に、4年度までおおむね同じように推移している。そして、一般会計PB対GDP比は、4年度はマイナス4.1%となっており、前年度のマイナス5.6%から1.4ポイント改善しているが、コロナ禍前の元年度の水準(マイナス2.4%)には戻っていない。また、国・地方PB対GDP比は、4年度にはマイナス5.0%となっており、前年度のマイナス5.5%から0.5ポイント改善しているが、一般会計PB対GDP比と同様に、元年度の水準(マイナス2.6%)には戻っていない。
図2 国・地方PB及び一般会計PBのそれぞれの対GDP比の推移
そこで、一般会計PBの内訳となる税収等及び政策的経費について、平成20年度から令和4年度までの推移をみると、図3のとおり、全ての年度において政策的経費が税収等を上回っている。そして、4年度は税収等が前年度から3.9兆円減少しているものの、政策的経費についても前年度から11.5兆円減少しているため、一般会計PBは前年度に比べて改善している。
図3 税収等及び政策的経費の推移
4年度の税収等の前年度からの減少3.9兆円の内訳を租税及印紙収入、前年度剰余金受入及び「その他」に区分してみると、図4のとおり、租税及印紙収入が4.0兆円及び「その他」が4.1兆円それぞれ増加している一方、3年度に大幅に増加していた前年度剰余金受入が12.2兆円減少しており税収等の減少の主な要因となっている。
図4 令和4年度における前年度からの税収等の減少の内訳
租税及印紙収入について、平成30年度から令和4年度までの推移をみると、図5のとおり、平成30年度の60.3兆円から10.7兆円増加し、令和4年度は71.1兆円となっている。
図5 租税及印紙収入の推移
4年度の租税及印紙収入は71.1兆円に上り、このうち主要な税目である所得税、法人税及び消費税の合計は60.5兆円となっていて、租税及印紙収入の約8割を占めている。上記の3税目について、平成20年度から令和4年度までの推移を景気動向の推移と併せてみると、図6のとおり、所得税及び法人税の推移は、景気拡張期に増加し、景気後退期に減少するなど、景気動向の推移とおおむね連動している。4年度は、3年度と同様に新型コロナウイルス感染症の影響下からの持ち直しの動きがみられ、景気拡張期となっており、所得税及び法人税は、前年度からそれぞれ1.1兆円及び1.2兆円増加して、22.5兆円及び14.9兆円となっている。一方、消費税の推移は、所得税及び法人税と異なり、景気動向の推移とはほとんど連動しておらず、消費税率(地方消費税分を含む。)の改定(平成26年4月の5%から8%及び令和元年10月の8%から10%)の影響を強く受けた平成26年度及び令和2年度に大幅に増加している。また、2年度以降は消費税が所得税を上回っていて、4年度は、前年度から1.1兆円増加して23.0兆円となっている。
図6 所得税、法人税及び消費税と景気動向の推移
4年度の政策的経費の前年度からの減少11.5兆円の内訳を主要経費別にみると、図7のとおり、その他の事項経費(注10)は2.4兆円増加している一方、中小企業対策費が6.5兆円、社会保障関係費が6.2兆円それぞれ減少しており政策的経費の減少の主な要因となっている。
図7 令和4年度における前年度からの政策的経費の減少の内訳
また、4年度の政策的経費108.9兆円を主要経費別にみると、社会保障関係費が43.8兆円、地方交付税交付金等が17.5兆円、その他の事項経費が16.4兆円、文教及び科学振興費が8.6兆円及び公共事業関係費が8.1兆円となっており、これら五つの主要経費計94.6兆円で政策的経費の8割以上を占めている。上記五つの主要経費について、平成30年度から令和4年度までの推移をみると、図8のとおり、社会保障関係費については、高齢化に伴い年金、医療及び介護に係る経費が増加したことや新型コロナウイルス感染症への対応等により3年度までは一貫して増加している。そして、4年度は、新型コロナウイルスワクチン等生産体制整備臨時特例交付金が減少したことなどにより前年度から6.2兆円減少したものの、平成30年度の32.5兆円に対して11.2兆円増の43.8兆円となっている。地方交付税交付金等については、30年度の16.0兆円以降増加していたものの、令和4年度は前年度から減少し17.5兆円となっている。その他の事項経費については、平成30年度の6.2兆円に対して令和元年度はほぼ横ばいであったが、2年度は特別定額給付金給付事業費補助金等により前年度から大幅に増加し、3年度は同補助金がなかったことなどにより前年度から大幅に減少したものの、4年度は燃料油価格激変緩和強化対策事業費補助金が増加したことなどにより前年度から増加して16.4兆円となっている。文教及び科学振興費については、平成30年度の5.7兆円に対して令和元年度はほぼ横ばいであったが、2年度は産業技術実用化開発事業費補助金が増加したことなどにより前年度から増加し、3年度は同補助金が減少したことなどにより前年度から減少したものの、4年度は大学等成長分野転換支援基金補助金等により前年度から増加して8.6兆円となっている。公共事業関係費については、平成30年度の6.9兆円以降増加したものの、令和4年度は河川改修費が減少したことなどにより前年度から減少して8.1兆円となっている。
図8 社会保障関係費、地方交付税交付金等、その他の事項経費、文教及び科学振興費及び公共事業関係費の推移
4年度の社会保障関係費43.8兆円は、政策的経費108.9兆円の約4割を占めており、一般会計PBの赤字の支出面の大きな要因となっている。社会保障関係費について、平成20年度から令和4年度までの推移を高齢化率の推移と併せてみると、図9のとおり、我が国の高齢化に伴い増加傾向となっている。そして、新型コロナウイルス感染症への対応等が行われた令和2、3両年度にそれぞれ大幅に増加したものの、4年度は前年度から大幅に減少している。
図9 社会保障関係費及び高齢化率の推移
財政収支、一般会計財政収支及び一般会計PBのそれぞれの対GDP比について、平成20年度から令和4年度までの推移をみると、図10のとおり、財政収支対GDP比と一般会計財政収支対GDP比はおおむね同じように推移している。これは、地方財政計画を通じて国から地方に交付される地方交付税交付金等によって地方の財源が保障される仕組みなどにより、地方の財政収支がほぼ均衡して推移していることなどによる。また、同期間内において一般会計財政収支と一般会計PBの差である国債等の利払費の金額の変動が少なかったため、一般会計財政収支対GDP比と一般会計PB対GDP比についても同じように推移している。
そして、一般会計財政収支対GDP比は、4年度はマイナス5.4%となっており、前年度のマイナス6.9%からは1.5ポイント改善していて、財政収支対GDP比は、4年度はマイナス6.0%となっており、前年度のマイナス6.6%からは0.6ポイント改善しているが、いずれもコロナ禍前の元年度の水準(それぞれマイナス3.8%、マイナス3.7%)には戻っていない。
図10 財政収支、一般会計財政収支及び一般会計PBのそれぞれの対GDP比の推移
一般会計財政収支の内訳となる税収等と財政経費について、平成20年度から令和4年度までの推移をGDP成長率の推移と併せてみると、図11のとおり、税収等については、3年度までは、おおむねGDP成長率が継続してプラスのときに増加する傾向が見受けられる。4年度においては、GDP成長率はプラス2.0%であったが、税収等は、前記のとおり、前年度剰余金受入が前年度から12.2兆円減少したことなどにより前年度から3.9兆円減少して85.2兆円となり、財政経費は、前年度から11.5兆円減少して116.0兆円となっている。
図11 税収等、財政経費及びGDP成長率の推移
4年度における前年度からの財政経費の減少11.5兆円の内訳を政策的経費と利払費に区分してみると、図12のとおり、利払費は横ばいとなっている一方、政策的経費が11.5兆円減少しており財政経費の減少の主な要因となっている。
図12 令和4年度における前年度からの財政経費の減少の内訳
財政経費のうち利払費は、普通国債の残高と金利(利率)によって決定される。普通国債の利率加重平均(年度末の残高に係る表面利率の加重平均)について、平成20年度から令和4年度までの推移をみると、図13のとおり、平成20年度の1.4%から令和4年度の0.7%へと0.6ポイント減少している。そして、利払費は、平成20年度の7.5兆円以降、普通国債の残高の累増による影響が普通国債の利率加重平均の低下による影響を上回っていることから27年度までは増加傾向となっていたが、28年度以降は普通国債の利率加重平均の低下による影響が普通国債の残高の累増による影響を上回っていることから減少している。そして、令和4年度の利払費は、同年度末の普通国債の残高が前年度末から35.6兆円増加して1027.0兆円となっている中で、前年度から横ばいの7.1兆円となっている。
図13 普通国債の残高、利払費及び利率加重平均の推移
債務残高とその内訳について、平成20年度末から令和4年度末までの推移をみると、図14のとおり、普通国債のうち復興債(その借換債を含む。以下(3)において同じ。)を除いた国債(以下「復興債を除いた普通国債」という。)が債務残高の大半を占めており、その残高は引き続き増加している。そして、4年度末の復興債を除いた普通国債の残高は、前年度末から35.9兆円増加(対前年度比3.6%増)して、1021.9兆円となっている。
図14 債務残高の推移
4年度末の復興債を除いた普通国債の前年度末からの増加35.9兆円の内訳を建設国債、特例国債及びその他の普通国債(それぞれの借換債を含む。以下(3)において同じ。)に区分してみると、図15のとおり、建設国債は4.8兆円、特例国債は31.4兆円それぞれ増加している一方、その他の普通国債は0.4兆円減少しており、復興債を除いた普通国債の増加の要因は、建設国債及び特例国債の増加となっている。
図15 復興債を除いた普通国債の令和4年度末における前年度末からの増加の内訳
建設国債及び特例国債の残高については、平成20年度末以降、特例国債の残高が建設国債の残高を上回る状況が続いており、また、いずれも20年度末から令和4年度末にかけて増加しているが、その増加額は特例国債が建設国債を大幅に上回る状況となっている(図14参照)。
債務残高と債務残高対GDP比について、平成20年度から令和4年度までの推移をGDPの推移と併せてみると、図16のとおり、債務残高は一貫して増加しており、債務残高対GDP比の増加幅は、GDPが緩やかに増加していた平成25年度から令和元年度までについては、平成20年度から24年度にかけての増加幅に比べて抑えられていたものの、令和2年度の債務残高対GDP比は、債務残高が大幅に増加し、GDPが減少したことから前年度を大幅に上回った。そして、4年度の債務残高対GDP比は、対前年度比1.2ポイント増の213.5%となっており、平成25年度から令和元年度までの増加幅と同水準となっている。
図16 債務残高と債務残高対GDP比の推移
前記のとおり、国の一般会計の決算額でみた財政健全化の指標と、普通国債の発行・償還等との間には一定の関係があることから、普通国債の発行・償還等の推移について、財政健全化の指標の理解に資するための参考として示すと、次のとおりである。
平成20年度から令和4年度までの普通国債の発行額(収入金ベース(注11))等の推移をみると、図17のとおり、建設国債は、平成25年度から令和元年度まではおおむね横ばいで、また、特例国債は、平成21年度から30年度までは減少傾向で推移しているものの、いずれも令和2年度に大幅に増加している。そして、4年度は3年度と同様にいずれも前年度から減少し、特例国債は41.7兆円となっており、コロナ禍前の元年度(27.4兆円)以前と比較して依然として高い水準にあるものの、建設国債は8.7兆円となっており、元年度(9.1兆円)以前と同水準となっている。一方、借換債は、3年度に大幅に増加し、4年度は147.7兆円となっており、前年度を上回っている。
国の一般会計歳入決算総額に占める国債の発行収入金の割合は、2年度は50%を超える状況となったが、4年度は32.8%となっており、3年度と同様にコロナ禍前の元年度(33.5%)と同水準となっている。
図17 普通国債の発行額(収入金ベース)等の推移
なお、財務省は、国債の確実かつ円滑な発行等を図るために、国債発行に当たっては、市場の動向及び投資家のニーズ等を勘案して、各年度のカレンダーベース市中発行額(注12)について償還年限別の発行額を決定している。国債のカレンダーベース市中発行額について償還年限別の推移を示すと、図18であり、2年度に短期国債の発行額が大幅に増加した結果、フローベースの平均償還年限(注13)は、元年度の9年0か月から2年度の6年8か月へと2年以上短期化した。一方、3年度からは短期国債の発行額が前年度から減少するなどした結果、4年度のフローベースの平均償還年限は7年7か月となっている。
図18 国債のカレンダーベース市中発行額における償還年限別発行額の推移
国債費は、過去に発行された国債の償還及び利払等の財源として一般会計から国債整理基金特別会計に繰り入れられた額等であり、国債の償還のために繰り入れられた額(以下「債務償還費」という。)と利子等の支払のために繰り入れられた額等(以下「利払費等」という。)で構成されている。平成20年度から令和4年度までの国債費の決算額の推移についてみると、図19のとおり、債務償還費が平成22年度以降増加傾向であることから、国債費の決算額は増加傾向となっていて、20年度に19.1兆円であったものが、令和4年度には23.8兆円となり、4.7兆円増加している。
また、普通国債の発行残高の推移をみると、図19のとおり、平成20年度末に545.9兆円であったものが令和4年度末には1027.0兆円となっており、一貫して増加している。
図19 国債費の決算額及び普通国債の発行残高の推移
国・地方PB及び国・地方PB対GDP比は、平成20年度から令和4年度まで一般会計PB及び一般会計PB対GDP比とおおむね同じように推移しており、4年度の一般会計PBは、前年度から改善してマイナス23.6兆円となっているが、コロナ禍前の元年度の水準には戻っていない。一般会計PBの内訳となる税収等及び政策的経費について、平成20年度から令和4年度までの推移をみると、全ての年度において政策的経費が税収等を上回っている。そして、4年度においては、税収等が前年度から減少しているものの、政策的経費の前年度からの減少額が税収等の前年度からの減少額を上回っているため、一般会計PBは前年度に比べて改善している。4年度の一般会計PBの内訳の前年度からの増減要因についてみると、収入面では、4年度の税収等のうち、租税及印紙収入が4.0兆円及び「その他」が4.1兆円それぞれ増加している一方、3年度に大幅に増加した前年度剰余金受入が12.2兆円減少している。このうち、4年度の租税及印紙収入についてみると、所得税、法人税及び消費税が増加している。支出面では、4年度の政策的経費のうち、その他の事項経費が2.4兆円増加しているものの、中小企業対策費が6.5兆円、社会保障関係費が6.2兆円それぞれ減少している。また、政策的経費の8割以上を占める社会保障関係費、地方交付税交付金等、その他の事項経費、文教及び科学振興費及び公共事業関係費について、平成30年度から令和4年度までの推移をみると、3年度までは社会保障関係費が一貫して増加するなどしている。4年度においては、社会保障関係費については、新型コロナウイルスワクチン等生産体制整備臨時特例交付金が減少したことなどにより前年度から減少し、地方交付税交付金等については、平成30年度以降増加していたものの、前年度から減少している。その他の事項経費については、令和4年度は燃料油価格激変緩和強化対策事業費補助金が増加したことなどにより前年度から増加している。文教及び科学振興費については、4年度は大学等成長分野転換支援基金補助金等により前年度から増加している。そして、公共事業関係費については、平成30年度以降増加したものの、令和4年度は河川改修費が減少したことなどにより前年度から減少している。
4年度の政策的経費の約4割を占めており、一般会計PBの赤字の支出面の大きな要因となっている社会保障関係費について、平成20年度から令和4年度までの推移を高齢化率の推移と併せてみると、我が国の高齢化に伴い増加傾向となっている。そして、新型コロナウイルス感染症への対応等が行われた2、3両年度にそれぞれ大幅に増加しており、4年度は前年度から大幅に減少している。
財政収支対GDP比は、平成20年度から令和4年度まで一般会計財政収支対GDP比とおおむね同じように推移している。そして、一般会計財政収支と一般会計PBの差である国債等の利払費の金額の変動が少なかったため、一般会計財政収支対GDP比と一般会計PB対GDP比についても同じように推移しており、4年度の一般会計財政収支対GDP比は、前年度から改善してマイナス5.4%となっているが、コロナ禍前の元年度の水準には戻っていない。一般会計財政収支の内訳となる税収等と財政経費について、平成20年度から令和4年度までの推移をGDP成長率の推移と併せてみると、税収等については、3年度までは、おおむねGDP成長率が継続してプラスのときに増加する傾向が見受けられる。4年度においては、GDP成長率はプラスであったが、税収等は、前年度剰余金受入が前年度から減少したことなどにより減少していた。財政経費については、4年度は前年度から減少しており、その内訳についてみると、利払費は横ばいである一方、政策的経費が11.5兆円減少している。利払費は、平成28年度以降、普通国債の利率加重平均の低下による影響が普通国債の残高の累増による影響を上回っていることから減少している。
復興債(その借換債を含む。以下同じ。)を除いた普通国債の残高は債務残高の大半を占めていて引き続き増加しており、令和4年度末の復興債を除いた普通国債の残高は、前年度末から35.9兆円増加(対前年度比3.6%増)して、1021.9兆円となっている。4年度末の復興債を除いた普通国債の前年度末からの増加の内訳についてみると、建設国債(その借換債を含む。以下同じ。)は4.8兆円、特例国債(その借換債を含む。以下同じ。)は31.4兆円それぞれ増加している一方、その他の普通国債(その借換債を含む。)は0.4兆円減少している。建設国債及び特例国債の残高については、平成20年度末から令和4年度末にかけて、いずれも増加しているが、その増加額は特例国債が建設国債を大幅に上回る状況となっている。
債務残高対GDP比について、平成20年度から令和4年度までの推移をGDPの推移と併せてみると、GDPが緩やかに増加していた平成25年度から令和元年度までの増加幅は、平成20年度から24年度にかけての増加幅に比べて抑えられていたものの、令和2年度は前年度を大幅に上回り、4年度はコロナ禍前の平成25年度から令和元年度までの増加幅と同水準となっている。
本院としては、これらを踏まえて、国の財政の状況について引き続き注視していくこととする。