新型コロナウイルス感染症は、令和元年12月以降、その感染が国際的な広がりを見せており、我が国においても2年1月に感染者が確認され、その後、全国的に感染が拡大した。
このような状況を受けて、政府は、2年8月に、「新型コロナウイルス感染症に関する今後の取組」(新型コロナウイルス感染症対策本部決定)を決定して、新型コロナウイルス感染症に係るワクチン(以下「ワクチン」という。)の接種が、生命・健康を損なうリスクの軽減や医療への負荷の軽減、更には社会経済の安定につながることが期待されることから、3年前半までに全国民に提供できる数量のワクチンを確保することを目指すこととした。そして、開発が進められているワクチン候補のうち、臨床試験の進捗状況等を踏まえ、安全性や有効性、日本での供給可能性等が見込まれるものについては、国内産、国外産の別を問わず、全体として必要な数量について、ワクチンの供給を受けるための契約の締結を順次進めることとした。
その後、ワクチンが開発された際に速やかに接種を行えるよう、2年12月に予防接種法(昭和23年法律第68号)が改正され、新型コロナウイルス感染症に係る予防接種に関する特例として、厚生労働大臣が新型コロナウイルス感染症のまん延予防上緊急の必要があると認めるときは、対象者、期日又は期間及び使用するワクチンを指定して、都道府県知事を通じて市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)に対し、臨時に予防接種を行うよう指示することができることとされた。また、都道府県知事は、当該都道府県の区域内で円滑に当該予防接種が行われるよう、市町村長に対し、必要な協力をするものとされた。なお、都道府県及び市町村(特別区、一部事務組合及び広域連合を含む。以下同じ。)が行うワクチン接種に係る事務は、地方自治法(昭和22年法律第67号)の規定に基づく第一号法定受託事務(注1)とされている。
さらに、ワクチン接種を円滑に推進できるよう、3年1月に、行政各部の所管するワクチン接種に係る事務の調整を行うワクチン接種推進担当大臣が新たに任命され、内閣官房に当該調整に係る事務を担当する職員が配置された。
以上のような経緯により、国は、ワクチンを確保したり、ワクチン接種に必要な物品を調達したりするとともに、ワクチン接種に係る事務の実施に必要なシステムを開発したり、都道府県及び市町村が行うワクチン接種に係る事務に対して補助金等を交付したりするなどの事業を実施することとしている(以下、ワクチン接種を実施するに当たって、国、都道府県及び市町村が実施する事業を「ワクチン接種事業」という。)。
内閣官房及び厚生労働省は、医師や感染症対策等の専門家で構成される新型インフルエンザ等対策有識者会議新型コロナウイルス感染症対策分科会での議論等を受けて3年2月に取りまとめた「新型コロナウイルス感染症に係るワクチンの接種について」において、ワクチン接種の実施体制に係る国、都道府県及び市町村の主な役割をおおむね図表0-1のとおりとしている。
図表0-1 ワクチン接種に係る国、都道府県及び市町村の主な役割
主な役割 | |
---|---|
国 |
・ ワクチン、注射針、シリンジ(注射筒)等の確保及び供給 ・ 接種順位の決定 ・ ワクチンに係る科学的知見の国民への情報提供 |
都道府県 |
・ 市町村事務に係る調整 ・ 医療従事者等への接種体制の調整 ・ 専門的相談対応 |
市町村 |
・ 医療機関との委託契約締結、接種費用の支払 ・ 住民への接種勧奨、個別通知の送付 ・ 接種手続等に関する一般相談対応 ・ 集団的な接種を行う場合の会場確保 |
国におけるワクチン接種事業のうち、ワクチンの確保等や地方公共団体への財政支援等については厚生労働省が、ワクチンに関する情報の発信や地方公共団体へのワクチン供給量の取りまとめなどについては同省及び内閣官房が連携して、それぞれ実施するなどしている。
厚生労働省は、開発が進められているワクチン候補について、①ワクチンが一定の中和抗体価(ウイルスの感染力や毒素の活性を中和できる抗体の値)の上昇がみられるなどの有効性を有すること、②国内への十分な供給数量が期待できること、③ワクチンの製造販売の承認を受けた業者(以下「ワクチン製造販売業者」という。)が国内に拠点を持っていることなどの観点から条件を比較検討するなどした結果、米国のファイザー社製のワクチン(以下「ファイザーワクチン」という。)、米国のモデルナ社製のワクチン(以下「モデルナワクチン」という。)及び英国のアストラゼネカ社製のワクチン(以下「アストラゼネカワクチン」という。)を確保することにした。
そして、厚生労働省は、世界各国でワクチンの獲得競争が継続している中、世界から後れを取らずに十分な量のワクチンを確保していく必要があることから、これらのワクチンを薬事承認(注2)される前の段階で確保することにした。
厚生労働大臣は、3年2月から5月までの間にこれらのワクチンが薬事承認を受けた(注3)ことにより、図表0-2のとおり、確保したこれらのワクチンについて、予防接種法に基づき、市町村に対して、ファイザーワクチンについては同年2月から、モデルナワクチンについては同年5月から、アストラゼネカワクチンについては同年8月から、それぞれワクチン接種を行うことを指示しており、これにより1回目及び2回目の接種が行われている。
その後、厚生労働大臣は、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会(以下「ワクチン分科会」という。)において、ワクチンの2回目接種完了からおおむね8か月以上経過した後に追加接種(以下「3回目接種」という。)を行う必要があるとの見解が示されたことを受けて、ファイザーワクチン及びモデルナワクチンについて3年12月から3回目接種を行うことを指示している。さらに、同大臣は、ワクチン分科会において、①3回目接種の完了から5か月以上が経過した60歳以上の者、②18歳以上60歳未満の者のうち基礎疾患を有するものその他新型コロナウイルス感染症にかかった場合の重症化リスクが高いと医師が認めるものに対して追加接種(以下「4回目接種」という。)を実施することが妥当であるとの見解が示されたことを受けて、ファイザーワクチン及びモデルナワクチンについて4年5月から4回目接種を行うことを指示している。
厚生労働省は、これらのワクチンに加えて、武田薬品工業株式会社(以下「武田薬品」という。)が米国のノババックス社から技術移管を受けて国内で生産等を行うワクチン(以下「ノババックスワクチン」という。)についても、薬事承認される前の段階で確保することにした。そして、厚生労働大臣は、4年4月にノババックスワクチンが薬事承認を受けたことにより、同年5月からワクチン接種を行うことを指示している。
また、厚生労働大臣は、ワクチン分科会において、オミクロン株(注4)に対応したワクチンの接種を実施することが妥当であるとの見解が示されたことを受けて、ファイザーワクチン及びモデルナワクチンについて、4年9月から「令和4年秋開始接種」(オミクロン株対応ワクチンの接種)を行うことを指示している。
図表0-2 厚生労働大臣によるワクチン接種の指示等の状況
厚生労働大臣によるワクチン接種の指示の適用年月日 | 使用(追加)するワクチン、対象者の年齢等 | 臨時に予防接種を行う期間 | 使用(追加)するワクチンに係る薬事承認年月日 |
---|---|---|---|
令和3年2月16日 | ファイザーワクチン(16歳以上) | 3年2月17日から4年2月28日まで | 3年2月14日 |
3年5月22日 | モデルナワクチン(18歳以上)を追加 | 3年5月21日 | |
3年6月1日 | ファイザーワクチンの対象者の年齢を12歳以上に引下げ | - | |
3年8月3日 | モデルナワクチンの対象者の年齢を12歳以上に引下げ | - | |
アストラゼネカワクチン(18歳以上)を追加 注(1) | 3年5月21日 | ||
3年12月1日 | 3回目接種のためのファイザーワクチン(18歳以上)を追加 | 3年2月17日から4年9月30日までに延長 | 3年11月11日 |
3年12月17日 | 3回目接種のためのモデルナワクチン(18歳以上)を追加 | 3年12月16日 | |
4年2月21日 | ファイザーワクチン(5歳以上12歳未満)を追加 | 4年1月21日 | |
4年3月25日 | 3回目接種のためのファイザーワクチンの対象者の年齢を12歳以上に引下げ | - | |
4年5月25日 | ノババックスワクチン(18歳以上。3回目接種にも使用可)を追加 | 4年4月19日 | |
4回目接種のためのファイザーワクチン及びモデルナワクチン(18歳以上)を追加 注(2) | - | ||
4年7月22日 | 1、2回目接種におけるノババックスワクチンの対象者の年齢を12歳以上に引下げ | - | |
4回目接種のためのファイザーワクチン及びモデルナワクチン(18歳以上)の対象者を拡大 注(3) | - | ||
4年9月6日 | 3回目接種のためのファイザーワクチン(5歳以上12歳未満)を追加 | 4年8月30日 | |
4年9月20日 | 「令和4年秋開始接種」注(4)のためのファイザーワクチン(12歳以上)及びモデルナワクチン(18歳以上)を追加 | 3年2月17日から5年3月31日までに延長 | 4年9月12日 |
厚生労働省は、都道府県及び市町村がワクチン接種に係る事務を行うための処理基準として「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する手引き」を作成している。同手引きによれば、国は、確保したワクチンについて、都道府県別の人口や接種順位が上位となる者の数等の概数、当該都道府県の流行状況等に応じて都道府県ごとの割当量を決定することとされており、各都道府県は、割り当てられた量の範囲内で、市町村別の人口や接種順位が上位となる者の数等の概数、当該市町村の流行状況等に応じて市町村ごとの割当量を決定することとされている。そして、各市町村は、割り当てられた量の範囲内で、接種実施医療機関(以下「接種機関」という。)等に対して接種可能な量等に応じて割り当てることとされている。
ファイザーワクチンは、主に集団接種会場(注5)や接種機関に配布されている。長期にわたる保管に当たっては超低温(-75℃±15℃)による保管が必要となることから、この温度設定に対応した冷凍庫(以下「超低温冷凍庫」という。)が設置された施設に、ワクチン製造販売業者であるファイザー株式会社(米国のファイザー社の日本法人)から直接配送されている(以下、超低温冷凍庫が設置され、ファイザー株式会社から直接配送を受ける施設を「基本型接種施設」という。)。そして、集団接種会場、接種機関等には、基本型接種施設から小分けにされたワクチンが冷凍又は冷蔵で移送されている。
モデルナワクチンは、1回目及び2回目の接種においては、大規模接種会場(注6)及び職域接種会場(注7)に配布されている。長期にわたる保管に当たっては低温(-20℃±5℃)による保管が必要となることから、この温度設定に対応した冷凍庫(以下「低温冷凍庫」という。)が設置された施設に配布されている。なお、3回目接種及び4回目接種においては、上記の施設に加えて低温冷凍庫が設置された集団接種会場、接種機関等にも配布されている。配布に当たっては、モデルナワクチンの国内流通を担うワクチン製造販売業者である武田薬品から直接各施設に冷凍で配送されるなどしている。
アストラゼネカワクチンは、アレルギー等によりファイザーワクチンやモデルナワクチンを接種できない者等が接種を受けられるように、各都道府県が設置主体となって各都道府県内に少なくとも1か所設置することとされているアストラゼネカワクチンの接種を行う施設に、各都道府県から希望があった配布量に基づき、ワクチン製造販売業者であるアストラゼネカ株式会社(英国のアストラゼネカ社の日本法人)から直接配送されている。なお、アストラゼネカワクチンは、保管温度が2℃から8℃までとなっているため、アストラゼネカワクチンの接種を行う施設には、超低温冷凍庫及び低温冷凍庫は配布されておらず、各都道府県が保管のための医療用冷蔵庫を準備することとされている。
このように、ワクチンは、ワクチン製造販売業者から各施設に直接配送されることになっており、国の保管施設等を経由するものとはなっていない。したがって、未配布のワクチンは、ワクチン製造販売業者において国内で保管されている。
なお、厚生労働省によれば、配布されたワクチンは接種を終えるまで国に所有権があるとしている。
ワクチンの主な配布経路を図示すると、図表0-3のとおりである。
図表0-3 ワクチンの主な配布経路
また、ワクチン接種に必要な物品には、超低温冷凍庫、低温冷凍庫、保冷バッグ、医療従事者用マスク、使い捨て手袋、注射針、シリンジ(注射筒)、医療廃棄物容器等、多様な物品がある。
厚生労働省は、これらのうち、超低温冷凍庫、低温冷凍庫、保冷バッグ、注射針及びシリンジを調達し、ワクチン接種事業を実施している都道府県、市町村等にそれぞれの配布希望を考慮するなどして無償で配布している。(注8)
これらのワクチン接種に必要な物品の用途を示すと、図表0-4のとおりとなる。
図表0-4 ワクチン接種に必要な物品の用途
種類 | 用途 |
---|---|
超低温冷凍庫 | ファイザーワクチンを長期保管するために使用される(保管温度-75℃±15℃)。 |
低温冷凍庫 | モデルナワクチンを長期保管するために使用される(保管温度-20℃±5℃)。 |
保冷バッグ | 超低温冷凍庫が設置される基本型接種施設等に配布され、当該基本型接種施設等から接種機関等へファイザーワクチンを冷蔵移送するために使用される。 |
注射針及びシリンジ | 接種用の注射針及びシリンジのほか、ファイザーワクチンについては、希釈用の注射針及びシリンジが必要となる。 |
また、厚生労働省は、後述する「自衛隊大規模接種センター等」にもモデルナワクチン及びモデルナワクチンの接種に必要な物品を配布している。
ワクチンは、種別ごとに、図表0-5のような異なる特性を有しており、保管温度、保管可能期間等に応じた管理が必要になる。
図表0-5 ワクチンの特性
項目 ワクチンの種別 | ファイザーワクチン | モデルナワクチン | アストラゼネカワクチン | |
---|---|---|---|---|
12歳以上 | 小児用(5~11歳) | |||
接種間隔(1回目及び2回目) | 21日間隔 | 21日間隔 | 28日間隔 | 4~12週間隔 |
注(1) 1バイアル当たりの接種可能回数 |
6回 | 10回 | 10回 注(5) | 10回 |
最小流通単位 | 195バイアル | 10バイアル | 10バイアル | 2バイアル |
保管温度及び保管可能期間 | ・-75℃±15℃:6か月 注(2) ・-20℃±5℃:14日 なお、1回に限り、再度-90~-60℃に戻し保存することができる。 ・2~8℃:5日 注(3) |
・-75℃±15℃:9か月 注(4) ・-20℃±5℃:保存不可 ・2~8℃:10週間 |
・-20℃±5℃:6か月 注(6) ・2~8℃:30日6か月 (注(6))の有効期間中に限る。 |
・2~8℃:6か月 |
・解凍・希釈の要否・解凍 ・希釈後の接種までの許容時間 ・解凍後再凍結の可否 ・その他 |
・冷蔵庫で解凍する場合は、解凍及び希釈を5日(注(3))以内に行う。 ・室温で解凍する場合は、解凍及び希釈を2時間以内に行い、希釈後は6時間以内に接種する。 ・解凍後の再凍結は不可 |
・冷蔵庫で解凍する場合は、解凍及び希釈を10週間以内に行う。 ・室温で解凍する場合は、接種まで24時間以内、かつ希釈後12時間以内に接種する。 ・解凍後の再凍結は不可 |
・希釈不要 ・一度針を刺したものは2~25℃で6時間(注(7))以内に使用する。 ・解凍後の再凍結は不可 |
・希釈不要 ・一度針を刺したものは室温で6時間以内、2~8℃で48時間以内に使用する。 |
厚生労働省は、都道府県及び市町村が行うワクチン接種に係る事務に対して各種の補助金等の交付を行っており、その概要は次のとおりとなっている。
① 新型コロナウイルスワクチン接種対策費国庫負担金
国は、2年12月に改正された予防接種法の規定に基づき、市町村が支弁するワクチン接種を行うために要する費用を負担することとなっている。新型コロナウイルスワクチン接種対策費国庫負担金(以下「負担金」という。)は、厚生労働大臣の指示に基づきワクチン接種を実施することを目的として、市町村が支弁するワクチン接種事業に要する費用として市町村に交付されるものである。
② 新型コロナウイルスワクチン接種体制確保事業費国庫補助金
新型コロナウイルスワクチン接種体制確保事業費国庫補助金(以下「体制確保補助金」という。)は、ワクチン接種のために必要な体制を実際の接種より前に着実に整備することを目的として、都道府県及び市町村に交付されるものである。
③ 新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(医療分)
新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(医療分)は、新型コロナウイルス感染症への対応として緊急に必要となる感染拡大防止や医療提供体制の整備等について、地域の実情に応じて、柔軟かつ機動的に実施することができるよう、都道府県の取組を包括的に支援することを目的として、都道府県に交付されるものである。交付の対象となる事業は3年度で21事業あり、これらのうちワクチン接種に係るものは、時間外・休日のワクチン接種会場への医療従事者派遣事業(以下「医療従事者派遣事業」という。)と、新型コロナウイルスワクチン接種体制支援事業(以下「接種体制支援事業」という。)の2事業となっている(以下、2事業について交付される分を「包括支援交付金」という。)。
補助金等の対象事業等の詳細は、図表0-6のとおりとなっている。
図表0-6 補助金等の対象事業等
項目 補助金等名 | 負担金 | 体制確保補助金 | 包括支援交付金(注) |
---|---|---|---|
対象事業 |
市町村が、以下の内容を行う接種機関に対して、予防接種法の定めるところによりワクチン接種を行うために要する費用を支弁するなどの事業 ・接種の実施
・予診のみの実施
・6歳未満の小児の接種等の実施
・時間外での接種等の実施
・休日での接種等の実施
|
(都道府県及び市町村共通) ・ワクチン接種に必要な執行体制の計画
・接種実施の間、継続的に確保する人的体制の整備(都道府県)
・広域での接種の実施体制確保に係る調整
・医療従事者等への接種の実施体制の確保
・ワクチン流通調整の準備
・専門的相談体制の確保(市町村)
・予防接種台帳システム等のシステム改修
・接種券(接種機関等に対し、当該市町村におけるワクチンの接種対象者であることを示すために、市町村が発行し、接種対象者に送付する書面)、予診票、案内等の印刷
・送付、地域の医療関係団体等と連携した接種の実施体制の構築及び調整を行う実施体制の確保、相談体制等の確保
|
・医療従事者派遣事業(時間外・休日にワクチン接種会場へ医療従事者を派遣する事業)
・接種体制支援事業(都道府県による大規模接種会場の設置等、個別接種促進のための支援及び職域接種促進のための支援を行う事業)
|
交付先 | 市町村 | 都道府県及び市町村 | 都道府県 |
交付額の算定方法 | ①基準単価(接種実施回数、接種に当たっての予診のみ実施回数等別に定められたもの)に、回数を乗じて算定した額の合計額である基準額、②市町村が支弁するワクチン接種に要する費用の実支出額、③総事業費から寄附金その他の収入額を控除した額のうちの最も少ない額 | ①厚生労働大臣が必要と認めた基準額、②当該事業の実支出額、③総事業費から寄附金その他の収入額を控除した額のうちの最も少ない額 | ①厚生労働大臣が必要と認めた基準額、②当該事業の実支出額、③総事業費から寄附金その他の収入額を控除した額のうちの最も少ない額 |
3年4月27日に、内閣総理大臣から防衛大臣に対して、全国の高齢者の約4分の1が居住する東京都及び埼玉、千葉、神奈川各県におけるワクチン接種を国として強力に後押しするために、防衛省において自衛隊による大規模接種センターを、5月24日を目標として設置し、3か月間運営するよう、また、感染拡大が顕著である大阪府を中心とする地域を対象として、適切な支援をするよう、それぞれ指示があった。
これを受けて防衛省は、自衛隊法(昭和29年法律第165号)等に基づく診療として、ワクチン接種を実施するために、東京都の会場を大手町合同庁舎3号館に、大阪府の会場を大阪府立国際会議場に、それぞれ設置することとし、3年5月24日から運営することを決定した(以下、3年5月24日から運営を開始した大規模接種のための会場を「自衛隊大規模接種センター」といい、東京都の会場を「東京センター」、大阪府の会場を「大阪センター」、これらを合わせて「両センター」という。)。また、接種回数については、同月31日以降は東京センターで1日約10,000回、大阪センターで1日約5,000回とした。
自衛隊大規模接種センターの運営期間について、防衛省は、当初は3年5月24日から3か月としていたが、その後、1回目のワクチン接種を自衛隊大規模接種センターで受ける対象者が2回目も接種を受けることができるようにするために、9月25日頃まで延長することとした。さらに、10月から11月までのできるだけ早い時期に、希望する全ての接種対象者への2回目接種の完了を目指す政府の方針により、11月30日まで延長することとした。
そして、自衛隊大規模接種センターの運営が終了した後の4年1月11日に、内閣総理大臣から、医療従事者及び高齢者への3回目接種が山場を迎える状況において、国として地方公共団体のワクチン接種に係る取組を後押しするために、自衛隊による大規模接種会場を設置する旨の発言があった。この発言を踏まえて、防衛省は、東京都の会場を大手町合同庁舎3号館に、大阪府の会場を民間施設2か所に、それぞれ設置して、東京都では1月31日から、大阪府では2月7日から、いずれも7月31日まで運営することを決定した(以下、4年1月31日及び2月7日から運営を開始した大規模接種のための会場を「自衛隊大規模接種会場」といい、東京都の会場を「東京会場」、大阪府の会場を「大阪会場」、これらを合わせて「両会場」という。また、自衛隊大規模接種センターと自衛隊大規模接種会場を合わせて「自衛隊大規模接種センター等」という。)。
その後、防衛省は、3回目接種及び4回目接種を後押しするために、自衛隊大規模接種会場を4年9月30日まで延長して運営することとしていたが、新型コロナウイルス感染症の感染者数が高水準で推移していることなどから、当面の間継続して運営することとした。
また、接種回数について、防衛省は、運営開始当初は東京会場で1日約720回、大阪会場で1日約1,000回としていたが、その後、東京会場は1日最大5,040回、大阪会場は1日最大2,500回とすることとした。
自衛隊大規模接種センターについて、防衛省は、自衛隊中央病院長が東京センターを、陸上自衛隊中部方面総監が大阪センターを、それぞれ運営することとし、両センターのそれぞれの編成、要員数等については、陸上幕僚監部(以下「陸幕」という。)が決定していた。また、自衛隊大規模接種会場については、東京会場を陸上自衛隊東部方面総監が運営することとされたほかは、自衛隊大規模接種センターとおおむね同様の体制とされた。
自衛隊大規模接種センター等の運営に当たって、陸幕は、防衛省の方針に基づき、予約の受付、接種会場における案内、警備、清掃等の業務を民間事業者に委託することとしたほか、派遣会社を通じて民間看護師を募集することとしたり、大阪センター及び大阪会場の会場借上げを行うこととしたりするなどしていた。そして、これらのうち主な契約に係る事務については、陸上自衛隊中央会計隊(以下「中央会計隊」という。)が行うこととした。
接種対象者について、防衛省は、東京センターでは東京都及び埼玉、千葉、神奈川各県に居住している65歳以上の高齢者、大阪センターでは京都、大阪両府及び兵庫県に居住している65歳以上の高齢者としていたが、3年6月に居住地の制限を撤廃したり、対象年齢を18歳以上にしたりして対象者の範囲を広げていた。また、10月には対象年齢を16歳以上として更に接種対象者の範囲を広げていた。そして、4年1月から運営を開始した自衛隊大規模接種会場では、対象年齢を18歳以上とした上で、居住地の制限を設けないこととしていた。
厚生労働省は、速やかに多くの国民へワクチンを接種するためには、ワクチン供給量に応じた効率的なワクチン等の配布、接種機関等との調整、国民への周知等によりワクチンを円滑に接種できる体制を構築することが必要であるとして、ワクチン等の流通やワクチン接種の実務を支援するための新たなシステムであるワクチン接種円滑化システム(Vaccination System。以下「V-SYS」という。)の開発等を行い、3年1月18日から稼働させた。
V-SYSには、国が都道府県単位で、都道府県が市町村単位で、市町村が接種機関等単位で、それぞれワクチン、注射針及びシリンジの配布量の情報を登録したり、ワクチン製造販売業者がワクチン等の配布量を把握したり、接種機関等がワクチン等の使用量等の情報を登録したりするための機能、当該登録された情報を統計情報として公表する機能、最寄りの接種機関等の検索及び接種予約の受付状況を公表する機能等がある。
接種機関等は、上記使用量等の情報のほか、接種したワクチンに係るワクチン製造販売業者別及び被接種者の優先順位グループ(医療従事者、高齢者等)別の接種回数等の情報を登録することとなっている。一方で、V-SYSは、被接種者ごとの接種記録(注9)を登録するための機能を有しておらず、被接種者ごとの接種記録は、予防接種台帳(注10)に登録されるのみで、他の市町村においてデータとして共有できるものとなっていない。
また、ワクチンの有効性を高めるために、被接種者は、1回目の接種後、通常3週間程度で2回目の接種を受けることが必要とされたが、各市町村が予防接種台帳に接種記録を登録するには、従来の方法では2、3か月程度要していた。このため、被接種者の個人単位の接種記録をリアルタイムで把握することができなかったり、被接種者が1回目のワクチン接種を終えた後に別の市町村に転入した場合に、転入先の市町村では接種記録を迅速に確認することができなかったりするなどの課題が生じていた。
そこで、市町村において、被接種者の個人単位の接種記録をリアルタイムで把握したり、他の市町村から転入した被接種者の転入前の接種記録を閲覧したり、きめ細やかなワクチン接種の勧奨を行うことができるようにしたりすることの必要性が認識されるようになった。
上記の事情を踏まえて、内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室は、全国共通の方法により接種記録を迅速に登録することや、転入した被接種者の転入前の接種記録を市町村がマイナンバー(注11)を活用して照会することなどができる新たなシステムとして、被接種者ごとの接種記録を登録するワクチン接種記録システム(Vaccination Record System。以下「VRS」という。)を開発して、3年4月12日から稼働させた。
VRSでは、接種記録について、接種機関等の担当者等が、内閣官房が別途調達したタブレット端末の貸与を受けて、接種機関等の名称、接種日、ワクチン製造販売業者名等の情報を手入力により、接種記録の登録に先立ってタブレット端末に登録することとなっている(以下、これらの接種記録の登録に先立ってタブレット端末に登録された情報を「プリセット情報」という。)。そして、被接種者がワクチン接種を受けた後に、接種機関等の担当者等は、接種券(注12)に印刷された被接種者を特定するための番号(以下「接種券番号」という。)、全国地方公共団体コードのうち市町村に付されたコード(以下「市町村コード」という。)等のOCRライン(注13)をタブレット端末のカメラ等で読み取り、当該情報及びプリセット情報をタブレット端末からのインターネット通信により、VRSに接種記録として登録することとなっている。そして、内閣官房によれば、こうした登録により、市町村等の担当者は、被接種者の個人単位の接種記録をリアルタイムで把握することができるとされている。
このように、ワクチン接種事業に関して、V-SYSに加えてVRSが稼働することとなった。V-SYS及びVRSの利用者と利用目的の関係を示すと、図表0-7のとおりとなる。
図表0-7 ワクチンの配布及び使用における情報に係るV-SYS及びVRSの利用者と利用目的
なお、VRSの運用及び保守については、3年9月にデジタル庁が業務を引き継いでいる。