• 令和6年度
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等
  • 第1節 国会及び内閣に対する報告

参考:報告書はこちら

第2 租税特別措置(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除制度)における教育訓練費に係る上乗せ税額控除の適用状況、検証状況等について


検査対象
財務省、経済産業省、中小企業庁
会計名及び科目
一般会計  国税収納金整理資金 (款)歳入組入資金受入
(項)各税受入金
給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除制度及び当該制度における教育訓練費に係る上乗せ税額控除の概要
雇用者に対する給与等支給額を増加させ、適用要件である給与等支給増加割合を満たすなどした場合に給与等支給増加額の一定割合の税額控除を可能とする措置及びこの場合において、教育訓練費を増加させ、適用要件である教育訓練費増加割合を満たすなどしたときにこの税額控除に上乗せして給与等支給増加額の一定割合の税額控除を可能とする措置
検査の対象とした給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除制度を適用していた法人のうち電子申告を行った法人数
延べ334,716法人(平成30事業年度~令和3事業年度)
上記法人のうち教育訓練費に係る上乗せ税額控除を適用していた法人数及び当該法人における教育訓練費に係る上乗せ税額控除の合計額
延べ12,861法人  313億3881万円
(平成30事業年度~令和3事業年度)
上記延べ12,861法人のうち教育訓練費に係る上乗せ税額控除の額が教育訓練費増加額を上回る法人数及び当該法人における超過額の合計額
延べ9,812法人  214億1254万円
(平成30事業年度~令和3事業年度)
前記延べ12,861法人のうち教育訓練費が増加した場合の給与等支給増加額の計算の対象とした法人数及び当該法人における実際の上乗せ税額控除の額の合計額が上乗せ税額控除の試算額の合計額を上回っていた額
延べ9,970法人  157億6871万円
(平成30事業年度~令和3事業年度)
報告を行った年月日
令和7年1月15日

1 検査の状況の主な内容

本院は、租税特別措置(以下「特別措置」という。)が「公平・中立・簡素」という税制の基本原則の例外措置として設けられていることなどを踏まえて、「給与等の引上げを行った場合等の法人税額の特別控除制度」及び「給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除制度」(以下、これらを合わせて「給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除制度」という。)における教育訓練費(注1)を増加させた場合に税額控除割合を上乗せすることができる措置(以下「教育訓練費に係る上乗せ税額控除」という。)の適用状況、検証状況等について、有効性等の観点から、教育訓練費に係る上乗せ税額控除等の適用状況はどのようになっているか、教育訓練費に係る上乗せ税額控除の適用要件等は適切なものとなっているか、経済産業省及び中小企業庁(以下「経済産業省等」という。)並びに財務省における教育訓練費に係る上乗せ税額控除の検証等は効果的に行われているかなどに着眼して検査した。

(注1)
教育訓練費  法人がその国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を習得させ、又は向上させるために支出する費用

検査の状況の主な内容は次のとおりである。

(1) 教育訓練費に係る上乗せ税額控除等の適用状況

平成30事業年度から令和3事業年度までに電子申告を行った法人について給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除制度の適用状況をみたところ、給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除制度を適用していた法人の数は、大企業向けの措置が延べ21,377法人、中小企業者等(注2)向けの措置が延べ313,339法人、計延べ334,716法人、その税額控除額はそれぞれ2947億7361万余円、3263億7133万余円、計6211億4495万余円となっていた。このうち、教育訓練費に係る上乗せ税額控除を適用していた法人(以下「教育訓練費に係る上乗せ税額控除適用法人」という。)の数は、大企業向けの措置が延べ2,180法人、中小企業者等向けの措置が延べ10,681法人、計延べ12,861法人、その税額控除額はそれぞれ148億3106万余円、165億0774万余円、計313億3881万余円となっていた。

(注2)
中小企業者等  資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人(当該法人の発行済株式総数等の2分の1以上を同一の大規模法人が所有しているなどの法人を除く。)、農業協同組合等

(2) 教育訓練費に係る上乗せ税額控除の仕組み、適用実態等

ア 教育訓練費に係る上乗せ税額控除の仕組み

教育訓練費に係る上乗せ税額控除は、教育訓練により生産性を向上させ、給与等を増加させることを政策目的としており、その仕組みは、教育訓練費増加割合(注3)が一定割合以上であることなどを適用要件として、給与等支給増加額の一定割合の税額控除ができるものとなっている。すなわち、税額控除額の計算基礎は政策目的に直接関連した支出額である給与等支給増加額となっているのに対して、適用要件は政策目的に波及効果があるとされる支出額である教育訓練費増加割合を満たす教育訓練費増加額(注4)となっており、適用要件となっている事項と税額控除額の計算基礎となっている事項が異なっている。一方、一般的な法人税関係の特別措置における税額控除の仕組みをみると、適用要件となっている事項と税額控除額の計算基礎となっている事項は同一になっている。

そして、教育訓練費に係る上乗せ税額控除では、給与等支給増加額を計算基礎として税額控除額を算出するため、教育訓練費増加額が少額であっても適用要件を満たす場合等には税額控除額が教育訓練費に係る上乗せ税額控除適用法人が負担した教育訓練費増加額を上回る状況が生ずることも想定される。

(注3)
教育訓練費増加割合  適用事業年度の教育訓練費支出額から適用前事業年度の教育訓練費支出額等を控除した金額の、適用前事業年度の教育訓練費支出額等に対する割合
(注4)
教育訓練費増加額  適用事業年度の教育訓練費支出額から適用前事業年度の教育訓練費支出額等を控除した金額

イ 教育訓練費に係る上乗せ税額控除の適用実態

(ア) 教育訓練費に係る上乗せ税額控除の額が教育訓練費増加額等を上回る法人の状況

教育訓練費増加額と教育訓練費に係る上乗せ税額控除の額の関係をみたところ、平成30事業年度から令和3事業年度までにおける大企業の教育訓練費に係る上乗せ税額控除適用法人延べ2,180法人のうち延べ1,456法人(66.7%)、中小企業者等の教育訓練費に係る上乗せ税額控除適用法人延べ10,681法人のうち延べ8,356法人(78.2%)、計延べ12,861法人のうち延べ9,812法人(76.2%)は、教育訓練費増加額を上回る税額控除を受けており、そのうち、多数の教育訓練費に係る上乗せ税額控除適用法人において、教育訓練費増加額を大きく上回る税額控除を受けている状況となっていた。

また、教育訓練費増加額を上回る税額控除を受けていた大企業延べ1,456法人及び中小企業者等延べ8,356法人について、教育訓練費支出額と教育訓練費に係る上乗せ税額控除の額の関係をみたところ、大企業で延べ967法人(66.4%)、中小企業者等で延べ7,163法人(85.7%)、計延べ8,130法人(82.8%)が、当該法人における教育訓練費支出額自体を上回る税額控除を受けていた。

(イ) 教育訓練費増加額等に対する教育訓練費に係る上乗せ税額控除の額の超過額

教育訓練費増加額を上回る税額控除を受けていた大企業延べ1,456法人及び中小企業者等延べ8,356法人について、教育訓練費増加額の合計額に対する教育訓練費に係る上乗せ税額控除の合計額の超過額をみたところ、大企業で90億2125万余円、中小企業者等で123億9128万余円、計214億1254万余円となっていた。

また、教育訓練費支出額を上回る税額控除を受けていた大企業延べ967法人及び中小企業者等延べ7,163法人について、教育訓練費支出額の合計額に対する教育訓練費に係る上乗せ税額控除の合計額の超過額をみたところ、大企業で50億1906万余円、中小企業者等で94億7085万余円、計144億8992万余円となっていた。

ウ 教育訓練費の増加が給与等の増加に及ぼす影響等

(ア) 教育訓練費と給与等の関係

教育訓練費と給与等の関係について、経済産業省等が令和3年度税制改正において教育訓練費に係る上乗せ税額控除の延長の必要性の検討に当たり参考にした研究(以下「3年度参考研究(注5)」という。)における分析方法及び使用データを参考にして分析した。その結果、教育訓練ストック(注6)が1%変化した場合に給与等支給額がどの程度変化するかを表す弾性値である教育訓練ストックの回帰係数(注7)は、大企業については0.0251、中小企業者等については0.0422となり、いずれも正の関係がみられた。

(注5)
3年度参考研究  森川正之(2018)「企業の教育訓練投資と生産性」。この研究においては、教育訓練投資の生産性と賃金への寄与について重回帰分析を行い、教育訓練費は生産性や賃金に対して有意な正の関係があるという分析結果等を得ている。
(注6)
教育訓練ストック  教育訓練費等の投資額について、その効果が年月の経過により陳腐化することなどを考慮して一定割合を減耗させた、特定の時点における減耗後の教育訓練費等の投資額。3年度参考研究においては、経済産業省企業活動基本調査の能力開発費を年40%の減耗率で減耗させ、その減耗後の能力開発費を累積させて算出する方法が用いられているほか、検証方法の妥当性の確認において用いた方法として、能力開発費を年50%の減耗率で減耗させて算出する方法が示されている。
(注7)
回帰係数  分析対象とする事項の要因と考えられる変数が1単位だけ増えると、分析対象とする事項の結果となる変数がどれだけ増えるかを表す係数
(イ) 上乗せ税額控除の試算額と実際の上乗せ税額控除の額との比較等

(ア)のとおり、教育訓練ストックの回帰係数が得られたことから、教育訓練費が増加した場合の給与等支給増加額を当該教育訓練ストックの回帰係数等を用いて機械的に算出した上で、当該算出した給与等支給増加額に対応する教育訓練費に係る上乗せ税額控除の額を試算して(以下、当該試算した教育訓練費に係る上乗せ税額控除の額を「上乗せ税額控除の試算額」という。)、実際の教育訓練費に係る上乗せ税額控除の額(以下「実際の上乗せ税額控除の額」という。)と比較した。

教育訓練費が増加した場合の給与等支給増加額について計延べ9,970法人を対象にして計算したところ、大企業で計1017億1547万余円、中小企業者等で計966億5935万余円となった。一方、実際の給与等支給増加額の合計額は、大企業計3838億7218万余円、中小企業者等計1825億3228万余円となっており、3年度参考研究における分析方法及び使用データを参考にして各法人の青色申告書等に基づき算出した大企業及び中小企業者等の給与等支給増加額の合計額は、いずれもこれに比べて小さくなっていた。

また、上記において、算出した給与等支給増加額に対応する教育訓練費に係る上乗せ税額控除の額を試算したところ、大企業で計50億0134万余円、中小企業者等で計85億8993万余円となった。一方、実際の上乗せ税額控除の額の合計額は、大企業計146億8450万余円、中小企業者等計146億7549万余円であり、上乗せ税額控除の試算額の合計額に比べて大きく、大企業で計96億8316万余円、中小企業者等で計60億8555万余円、合計157億6871万余円の開差が生じていた。

これらのことから、適用要件となっている事項と税額控除額の計算基礎となっている事項が異なる教育訓練費に係る上乗せ税額控除の仕組みは、政策目的である給与等の増加を促すために税負担の軽減を行う措置として、適切なものとなっていないおそれがあると認められた。

(3) 教育訓練費に係る上乗せ税額控除の検証等の状況

ア 関係省庁における特別措置に関する評価状況

特別措置を特定の政策目的を実現するための手段として位置付けている行政機関(以下「関係省庁」という。)は、税負担の軽減又は繰延べを行う法人税に係る特別措置の拡充、期限の延長等に係る政策を決定しようとする場合には、行政機関が行う政策の評価に関する法律(平成13年法律第86号)に基づいて、政策の事前評価を行うことが義務付けられている。

そこで、本院は、教育訓練費に係る上乗せ税額控除の導入及び延長が決定された平成30年度、令和3年度、4年度及び6年度の税制改正要望に当たり、関係省庁である経済産業省等が作成した事前評価書を確認したところ、教育訓練費に係る上乗せ税額控除の効果がどの程度あるかについては評価していないため、直接的効果は把握されておらず、また、税収減を是認するような効果について適切に説明されているとは認められなかった。

イ 税制改正要望の際の検証状況

経済産業省等は、教育訓練費に係る上乗せ税額控除の導入及び延長が決定された平成30年度、令和3年度、4年度及び6年度の税制改正要望に当たり作成したいずれの税制改正要望書にも特別措置による効果かどうかを検証することが可能な数値目標(以下「検証可能な数値目標」という。)及び要望措置の妥当性について記載していなかった。

また、上記のとおり、経済産業省等が作成した税制改正要望書等には検証可能な数値目標及び要望措置の妥当性の記載がなく、財務省は、これを基に教育訓練費に係る上乗せ税額控除の効果、要望措置の妥当性等の検証を行うことは困難である。このため、財務省は、これらの検証を行う際には、客観的なデータを可能な限り明らかにし、教育訓練費に係る上乗せ税額控除の導入及び延長の適否並びに具体的な内容についての検討に資するよう分析するとともに、その効果をできる限り定量的に把握するための検討を行う必要があった。

また、経済産業省等は、賃金に与える教育訓練費の効果等について重回帰分析を行い、企業による教育訓練費と賃金の間に正の関係があるという分析結果等を得ている研究(以下「30年度参考研究(注8)」という。)を参考にして教育訓練費に係る上乗せ税額控除を要望した経緯があるが、30年度参考研究で使用された質問票に対する回答は、基幹統計のように継続的な調査結果があるものではなく、分析に使用する同様のデータの入手が困難であった。このため、30年度参考研究を参考にして教育訓練費と給与等支給額の関係を分析することは、教育訓練費に係る上乗せ税額控除を要望した経済産業省等においても、直ちにはできないものとなっていた。今後、経済産業省等において教育訓練費に係る上乗せ税額控除を見直す場合には、特別措置の効果を検証することができる分析等を基に要望することが適切である。

(注8)
30年度参考研究  黒澤昌子・大竹文雄・有賀健(2007)「企業内訓練と人的資源管理策:決定要因とその効果の実証分析」

ウ 特別措置の検証を巡る国会における決議等を受けた検証状況

経済産業省等は、衆議院財務金融委員会及び参議院財政金融委員会における決議等を受けた検証を行っていなかった。一方、財務省は、公的な統計の統計データを用いて試行的に分析を行うなどして特別措置の効果等に係る検証に取り組んでいたが、教育訓練費に係る上乗せ税額控除による給与等の増加の効果がどの程度あるかなどの検証は行っていなかった。

教育訓練費に係る上乗せ税額控除について、効果の検証等を行っていなかったことの理由について、経済産業省等は、企業等における賃上げは、企業収益や雇用情勢等に影響を受けるものであり、教育訓練費の増加が給与等の増加に結びついたか否かを定量的に測ることは難しいためとしている。しかし、教育訓練費と給与等の関係に係る分析((2)ウ(ア)参照)は、経済産業省等が参考にした3年度参考研究における分析方法及び使用データを参考にして本院において定量的な分析を行ったものである。

特別措置は、特定の企業等の税負担を軽減して特定の政策目的を実現するなどのための特別な政策手段であるとされ、「公平・中立・簡素」という税制の基本原則の例外措置として設けられているものであるため、特別措置を要望した経済産業省等において、教育訓練費に係る上乗せ税額控除の効果、要望措置の妥当性等についての定量的な分析手法の検討や分析に必要な客観的なデータの整備蓄積が望まれる。

その上で、経済産業省等及び財務省において、教育訓練費に係る上乗せ税額控除の効果及び要望措置の妥当性について、適切に検証することが求められる。

2 検査の状況に対する所見

給与等支給額を増加させるなどした場合にその増加額の一定割合の税額控除を可能とする制度は、令和6年度税制改正においても、税額控除割合が引き上げられるとともに教育訓練費に係る上乗せ税額控除の適用要件が緩和されるなどして適用期限が更に3年間延長され、構造的な賃上げを目的とした政策の一つとして定着化してきており、税額控除割合の引上げなどにより法人や国民の関心もより一層高まっている。

ついては、給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除制度における教育訓練費に係る上乗せ税額控除について、検査によって明らかになった状況を踏まえて、経済産業省等及び財務省において、次の点に留意して、その効果及び要望措置の妥当性を検証して、当該検証結果を基に経済産業省等において見直しを検討することが重要である。

ア 経済産業省等において、税制改正要望に当たっては、特別措置の効果を検証することができる分析等を基に要望するとともに、事前評価等を基に検証可能な数値目標及び要望措置の妥当性について税制改正要望書に記載すること

イ 経済産業省等及び財務省において、教育訓練費に係る上乗せ税額控除について、その効果をできる限り定量的に把握して検証するとともに、課税の公平原則に照らして国民の納得できる必要最小限の特例措置となっているかという点から適切に検証すること

本院としては、今後とも給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除制度の適用状況、経済産業省等及び財務省による検証状況等について引き続き注視していくこととする。