本院は、国内開発された固定翼哨戒機P―1(配備後に多用機UP―1に用途変更されたものを含む。以下「P―1」という。)の運用等の状況について、有効性等の観点から、①P―1の開発、運用等にはどの程度の経費を要しているか、②P―1の可動状況はどのようになっているか、③P―1に搭載するために開発したエンジン(以下「F7―10エンジン」という。)や搭載電子機器等の運用等の状況はどのようになっているか、P―1の可動状況に影響を及ぼす不具合は発生していないか、④P―1の機体を構成する航空機用部品(以下「機体用交換部品」という。)の調達等の状況はどのようになっているか、P―1の可動状況に影響を及ぼしている機体用交換部品の不足の要因はどのようなものかに着眼して検査した。
検査に当たり確認した関係書類には、P―1の可動状況や、試作された装備品等の性能が設計に適合するか評価するための試験及び試作された装備品等が使用目的に適合するか評価するための試験(以下、これらを合わせて「技術・実用試験」という。)の実施方法、試験結果等についての詳細な情報が記載されていた。防衛省は、これらのP―1の運用や開発の細部にわたる情報が公開された場合、装備品の機能、性能、特性等が推察されることになり、警戒監視活動等(注1)の任務の遂行に支障を来し、国家の安全が害されるなどのおそれがあるため、同省として公開することはできないとしている。
上記を踏まえて、これらの情報については記述しないこととした。
検査の状況の主な内容は次のとおりである。
固定翼哨戒機P―3Cの後継となる固定翼哨戒機の調査研究等を開始した平成3年度から令和5年度までの間に締結されたP―1の開発、運用等に係る契約は、計4,656件、契約額計1兆7766億1506万余円となっていた。
2航空基地(注2)において、会計実地検査時点及び元年度から5年度までの間の可動状況を確認したところ、全ての機器等に不具合が発生しておらず任務が制約なく遂行できる可動機(以下「任務可動機」という。)の数は限られており、P―1の可動状況は低調となっていた。
会計実地検査時点まで継続的にF7―10エンジンの一定数が性能低下の状態になるなどして使用不能となっており、P―1の可動状況が低調となる要因となっていた。
そして、F7―10エンジンが性能低下の状態になるなどした原因についてみると、腐食不具合(注3)によるものが多くなっていた。また、開発段階に実施したエンジンが耐腐食性を十分に有していることを確認するための試験においても、類似の不具合が発生していた。
開発段階における不具合に関する判断については、防衛装備庁(平成27年9月30日以前は技術研究本部)において当時の知見等に基づき必要な検討を行った上でのものではあったものの、運用段階で腐食不具合が一定数発生した状況を踏まえると、P―1について今後更なる能力向上等を行う場合には、腐食不具合が発生した原因の分析結果等を必要に応じて活用するなどして設計に反映させるよう検討する余地はあると思料される。
会計実地検査時点まで継続的に搭載電子機器Aの一定数が使用不能となっており、P―1の任務可動機の数が限られる要因となっていた。
開発段階の技術・実用試験及び運用段階で不具合が発生した状況を踏まえれば、搭載電子機器AをP―1に搭載した際の影響について十分に予見できていなかった可能性があると思料される。
P―1の部隊使用承認後、搭載武器と機体との連接に関して、搭載武器が機体と連接できないおそれがあるなどの不具合が発生し、P―1の任務可動機の数が限られる要因となっていた。
当該不具合については、開発段階の設計において、機体と搭載武器との連接に係る仕様について十分に検討されていなかった可能性があると思料され、機体と搭載武器との連接に必要な仕様が的確に把握できていれば、P―1の運用を開始する前に対策を講ずることも可能であったと思料される。
P―1の運用を開始して以降、搭載電子機器Fの構成部品に外部から地殻性物質(注4)が固着する不具合が発生し、搭載電子機器Fの一定数が使用不能となっていた。
海上自衛隊補給本部(以下「補給本部」という。)は、不具合に対する対応として、令和5年2月に地殻性物質に係る点検項目を定めて、不具合が発生した箇所に地殻性物質の侵入を防ぐフィルタを設置するなどの対策を講ずることとしていたが、P―3Cについて地殻性物質の固着に対応するための整備項目が設けられていたことや、P―1の運用を開始して以降、搭載電子機器Fに関して不具合が発生していたことを踏まえれば、より早期に対策を講ずることなども可能であったと思料される。
海上自衛隊航空補給処(以下「空補処」という。)は、機体用交換部品の調達に係る契約を締結してから実際に納入されるまでに要する期間(以下「調達リードタイム」という。)は刻々と変化するものであり、また、機体用交換部品の製造業者及び修理業者(以下、これらを合わせて「機体用交換部品業者」という。)に調達の意向を示して初めて調達リードタイムに係る精度の高い情報を入手できるため、調達手続に先立って機体用交換部品業者から見積書(以下「下見積書」という。)を徴取するより前の段階で調達リードタイムに係る的確な情報を機体用交換部品業者から入手することは難しいとしていた。
しかし、必要な時期に必要量の部品を調達できず、機体用交換部品が慢性的に不足している状況を踏まえると、精度の高い的確な情報に限定することなく、下見積書を徴取するより前の段階で調達リードタイムに係る情報を機体用交換部品業者から入手することも含めて、調達リードタイムの長期化等に関する情報を幅広く収集し、できる限り早期に対応を検討するよう努める必要があると思料される。
空補処は、現状の主要企業とのやり取りなどを通じて、主要企業に機体用交換部品の構成部品を納入する多数の部品製造業者(以下「構成部品製造業者」という。)における製造状況までを把握することは困難であるとしていた。しかし、機体用交換部品の安定的な製造等を確保するためには、主要企業の製造状況だけでなく、構成部品製造業者における製造状況も把握するなどして、サプライチェーン全体の状況を把握した上で、必要に応じて対応を検討すべきであると思料される。
空補処が各部隊から緊急請求を受けてから調達が完了するまでに1年以上を要しているものが全体の3割弱となっており、中には3年以上を要しているものも見受けられた。
このように、空補処が各部隊から緊急請求を受けてから調達を完了するまでに長期間を要しているため、各部隊において、機体同士で機体用交換部品を流用し合うなどして可動機を確保している状況や、非可動の状態となっている機体が見受けられた。
P―1の整備を担当する部隊において各年度に調達すべき部品の数量(以下「調達所要量」という。)の算定については、補給本部が川崎重工業株式会社に今後の需給状況等を分析させて、その結果を取りまとめた表等により、P―1の可動を阻害し又はその懸念がある品目に関して製造中止等の情報を得ていても、当該情報を調達所要量の算定に反映させる仕組みにはなっていなかった。
また、機体用交換部品の構成部品のうち輸入品の需給状況等に関する情報収集が一体的かつ効率的に行われておらず、また、補給本部と空補処との間で当該情報が十分に共有されていない状況も見受けられた。
政府は、現有装備品を最大限有効に活用するために、可動率向上等により、防衛力の実効性を一層高めていくことを最優先課題の一つとして取り組むこととしており、部品不足による非可動を解消し、9年度までに装備品の可動数を最大化するために、機体用交換部品業者から得た情報等に基づいて調達可能な数量等の予測の精緻化を図るなどとしている。
また、P―1は、我が国の領海等における国益や我が国の重要なシーレーンの安定的利用の確保等のために重要な役割を担っており、我が国が戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面していることを踏まえると、その可動を十分に維持することが求められる。そして、国内開発されたP―1には、これまでに多額の国費が投じられている。
ついては、本院の検査で明らかになった状況を踏まえて、防衛省は、次の点に留意するなどして、省内の各組織が緊密な連携を図ることにより一体となってP―1の可動状況の改善に取り組んでいく必要がある。
ア P―1の運用段階で一定数の不具合が発生し、その可動状況が低調となっていることを踏まえて、今後更なる能力向上等を行う場合には、運用開始後に発見される不具合により任務に支障を来す可能性をできる限り少なくするために、過去に蓄積された知見を最大限に活用して、当該知見を設計に反映させるよう検討するとともに、各種試験の実施に様々な制約がある中でも、当該知見を踏まえて必要となる試験項目を適切に設定して試験を実施すること
イ P―1の可動状況が低調となっている状況や、機体用交換部品が不足している状況等を踏まえて、機体用交換部品の調達方法をより効率的、効果的なものとすることなどについて検討すること。また、状況の改善が見込まれない場合には、機体用交換部品の安定供給のための方策も検討するなどして、防衛省が一体となって機体用交換部品が不足することのないよう努めること
本院としては、P―1の運用等の状況について、引き続き多角的な観点から検査していくこととする。