会計検査院は、前記要請の新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けた旅行需要等の喚起を図るために実施された振興策に関する各事項について、両旅行支援をまとめた上で、予算の執行状況等と実施状況等とに区分して、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、①国における予算の執行状況、都道府県における予算の執行状況はどのようになっているか、②都道府県における事業の実施体制等はどのようになっているか、割引及び付与に係る事業の実施状況はどのようになっているか、事務局等における審査の実施状況等はどのようになっているかなどに着眼して検査を実施した。
検査の結果の主な内容は、次のとおりである。
Go To トラベル事業の予算として、令和2年度第3次補正予算に計上された額のうち8507億8593万余円、令和3年度補正予算に計上された2685億1672万余円、計1兆1193億0265万余円を(目)訪日外国人旅行者周遊促進事業費補助金に流用するなどして両旅行支援の財源としていた。そして、3年度から5年度までの間に県民割支援に3016億7574万余円、全国旅行支援に6890億7740万余円、計9907億5315万余円が支出され、1285億4949万余円が不用額となっていた(リンク参照)。
また、47都道府県に対する両旅行支援の交付決定額は、計1兆1182億9665万余円となっていた。
観光庁が都道府県に通知した交付限度額の算定状況についてみたところ、同庁は交付限度額の算定までに作成して予算執行時の基準とした算定方法に関する資料を保存していないとしていた。また、同庁は過去の旅行者数、所要の補正等といった交付限度額の算定要素に係る資料を保存していないとしており、会計検査院は、これらの算定要素について十分な説明を受けられなかった。このため、会計検査院は、予算執行における交付限度額の妥当性を事後的に検証することができなかった。そこで、県民割支援における交付限度額について、会計検査院において試算をしたところ、観光庁が算定した交付限度額と会計検査院の試算額との間に相当程度のかい離が生じていた(リンク参照)。
令和6年能登半島地震により被災した新潟、富山、石川各県を除く44都道府県における旅行事業者等への販売可能枠の配分状況についてみたところ、販売実績額が少ない旅行事業者の販売可能枠を十分に確保できるようにするなどのために、全ての事業者の中から販売可能枠を個々に配分する事業者を抽出し、残りの事業者については一括して予算の残額を管理する配分方法を採ったなどとしていた。また、事業者に配分した販売可能枠について、執行状況を随時確認して、必要に応じて配分方法等を変更するなどしていた(リンク参照)。
44都道府県における予算の執行額及び残額の状況についてみたところ、交付決定額計1兆0550億2487万余円、執行額計9279億7479万余円、残額は計1270億5008万余円となっていて、その残額は、結果として国の決算上の不用額となっていた(リンク参照)。
貸切バスを利用する団体旅行の需要を喚起するために設定された団体旅行枠の設定方法及びその執行状況についてみたところ、40都道府県において計724億5178万余円の残額が生じていた。これは、旅行・観光消費動向調査で集計しているパック・団体旅行の延べ泊数には、貸切バスを利用した旅行の他に鉄道、航空機等を利用した旅行に係る延べ泊数も含まれているのに、観光庁はこのような統計値に基づいて団体旅行枠を設定していたことが要因の一つであると思料される(リンク参照)。
また、団体旅行枠から一般枠への振替に係る考え方について確認したところ、観光庁は、振替について例外的な取扱いとして認められ得ることを個別の相談事項としていて全ての都道府県に対して伝えておらず、これにより一部の県における予算の執行方針に影響を及ぼす結果となっていたと思料される(リンク参照)。
都道府県における事業の実施体制をみたところ、都道府県は事業を統括的に運営する事務局を設置しており、実施体制は、大きく分類すると委託型、補助型等の五つの類型となっていた。そして、これら五つの類型の44都道府県における両旅行支援に係る各事務局等への事務経費に係る支払額は計716億6170万余円、各観光連盟等への事務経費に係る間接補助金等の交付額は計443億8395万余円、合計1160億4565万余円となっていた(リンク参照)。
また、事業の実施主体である都道府県が、再委託等及び再々委託等の状況をどのように把握していたのかについてみたところ、都道府県によっては再委託先等や再々委託先等の状況を把握していなかった(リンク参照)。
全国旅行支援における統一窓口との契約及び支払の状況をみたところ、契約主体は各都道府県から業務を委託等された事務局等となっており、都道府県からみると、これらの契約は再委託、再々委託の契約等となっていた。また、統一窓口への事務経費に係る支払額は奈良県を除く43都道府県で計239億2664万余円となっていた(リンク参照)。
44都道府県における事業の実施状況をみたところ、両旅行支援の割引に係る実績について、利用者の延べ人数は計1億2426万余人、割引額は計5245億4878万余円となっていた(リンク参照)。
割引に係る実績額について、旅行事業者が取り扱った旅行商品代金の割引は、各都道府県における取扱実績額の上位10者で、県民割支援においては全体の総額の73.7%を、全国旅行支援においては同76.9%をそれぞれ取り扱っていた(リンク参照)。
全国旅行支援におけるクーポンの付与の実施状況をみたところ、観光庁が事業の実施途中に電子クーポンによることを原則化したことに伴って、既存の紙クーポンが旅行者に配布されずに余剰となっている状況が見受けられた(リンク参照)。
クーポンの取扱店舗に係る参画登録の状況をみたところ、各都道府県で、土産物店、飲食店、旅館・ホテル等の様々な業種の店舗が登録されており、都道府県によっては、両旅行支援の制度目的を踏まえて、観光関連施設のみを参画登録の対象として、コンビニエンスストア、ドラッグストア等を対象外としていた(リンク参照)。
クーポンの使用状況をみたところ、クーポンの使用に係る補助対象経費は、両旅行支援で計2867億8041万余円となっていた(リンク参照)。
旅行等審査及びクーポンに係る審査の実施状況をみたところ、事務局等が旅行事業者等から提出させた根拠資料の内容を確認するなどしていた(リンク参照)。
また、根拠資料の保存に必要な措置を執ることを求めた事務連絡は全国旅行支援が開始された後の5年8月に発出されていたことを踏まえて、根拠資料の保存状況をみたところ、一部の県において、旅行者の居住地やワクチン接種等を確認できる根拠資料を保存していない状況が見受けられた。また、一部の県において、使用済紙クーポン等の根拠資料や電子クーポンの電子記録を保存していない状況が見受けられた(リンク参照)。
国庫返納の必要があると都道府県が判断した旅行事業者による実績の水増しなどの不正請求の状況をみたところ、県民割支援で10道府県(計13件、補助金相当額計2億0173万余円)、全国旅行支援で10道県(計49件、補助金相当額計1億0094万余円)となっていた(リンク参照)。
効果検証について、都道府県の公表状況をみたところ、5年度末までに効果検証の内容を公表していたものは2県のみとなっており、6年6月末時点においても、20都道県にとどまっている状況が見受けられた。また、効果検証の内容を5年度末までに国土交通大臣に報告していたものは4県のみとなっており、6年6月末時点においても23都道県にとどまっていた(リンク参照)。
政府は、観光を21世紀における日本の重要な政策の柱として位置付けており、観光立国の推進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るなどのために、毎年多額の予算を計上している。また、2年度から5年度までの間に、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う旅行振興策が実施され、令和6年能登半島地震により観光需要の落ち込みが見られる地域において実施されている北陸応援割は、需要創出支援と同様に旅行者を対象として旅行商品代金等の割引を支援する補助事業として、5、6両年度に実施されており、今後も同様の事業が実施される可能性がある。
ついては、観光庁は、今後同様の補助事業を実施するなどの場合には、次の点に留意するなどして、事業を適切に実施する必要がある。
ア 予算執行時に基準とした交付限度額の算定方法に関する資料、算定要素としている旅行者数や所要の補正の内容に関する資料等の予算執行に関連する重要な資料を適切に保存し、予算執行における交付限度額の妥当性について的確な資料に基づき十分に説明することができるようにすること
イ 団体旅行枠のように特定の使途に限定するような予算枠を設定して補助事業を実施させる際には、補助の対象となる旅行の過去の実績等による合理的な基準により予算枠を定めるとともに、事業の実施主体に対して事業の実施に係る事務連絡等を発出する際には、その取扱いを周知徹底すること
ア 電子クーポンの原則化のように事業の実施方針を途中で変更する際には、補助事業者における事業の現状を把握するとともに、補助事業者が実情に応じて方針変更の適用時期を遅らせるなどの弾力的な運用ができるよう十分検討を行うこと
イ 補助要件を満たしているかを確認できるようにするために保存すべき根拠資料の種類について、あらかじめ補助事業者に事務連絡等で明示して周知することなどにより、事後的に事業の適正性を十分に検証することができるようにすること
以上のとおり、報告する。