国における両旅行支援の予算の執行状況をみたところ、次のとおりとなっていた。
観光庁は、3年4月1日分の旅行から県民割支援を開始するに当たり、財源として、同年3月29日に、Go To トラベル事業の予算として令和2年度第3次補正予算に計上された(目)観光・運輸業消費喚起事業給付金9373億7600万円から、3298億9011万余円を(目)訪日外国人旅行者周遊促進事業費補助金の需要創出支援に流用して、その全額について3年度に明許繰越し(注6)をしていた。なお、(目)訪日外国人旅行者周遊促進事業費補助金に係る事業には需要創出支援のほか感染防止対策等への支援等があり、観光庁は、その後、3年度に明許繰越しをした3298億9011万余円のうち計433億8120万余円を需要創出支援から感染防止対策等への支援に目内融通(注7)していた。
また、同年12月10日には、Go To トラベル事業の予算として令和2年度第3次補正予算に計上され、3年度に明許繰越しされた(目)観光・運輸業消費喚起事業給付金の残額6074億8588万余円と(目)観光・運輸業消費喚起事業委託費937億3760万円のうち668億8592万余円との計6743億7181万余円を(目)訪日外国人旅行者周遊促進事業費補助金に再度流用し、このうち5642億7702万余円を需要創出支援に充当していた。
これらの予算措置により、需要創出支援に計上された計8507億8593万余円が、県民割支援の財源となっていた。
このうち、3年度の県民割支援に係る支出済歳出額は106億2337万余円、不用額は10億0599万余円となっていて、残りの8391億5656万余円は、4年度に再度繰り越されていた。これは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、各都道府県において事業の進捗に遅れが生じて年度内の事業完了が困難になったことを繰越事由として、事故繰越し(注8)の手続が行われたものであった。
また、4年度に再度繰り越された需要創出支援に係る予算8391億5656万余円のうち県民割支援に係る支出済歳出額は2910億5237万余円となっていて、これと3年度の支出済歳出額106億2337万余円の計3016億7574万余円が、3、4両年度の国における県民割支援の支出済歳出額となっていた。なお、4年度の全国旅行支援に係る支出済歳出額は4351億5687万余円となっていて、残りの1129億4731万余円は不用額となっていた。
全国旅行支援は、県民割支援と同様に、需要創出支援に計上された予算が財源となっている。すなわち、観光庁は、需要創出支援に係る事業として、県民割支援に引き続き4年10月11日分の旅行から全国旅行支援を実施するに当たり、県民割支援の財源(8507億8593万余円)の残額5481億0419万余円を財源としていた。
また、観光庁は、Go To トラベル事業の予算として令和3年度補正予算に計上された2685億1672万余円の全額を明許繰越しにより4年度に繰り越し、同年10月7日及び12月1日に、需要創出支援に流用して、全国旅行支援の財源とした。
これらのことから、県民割支援の財源の残額である5481億0419万余円と流用額の2685億1672万余円との合計である8166億2091万余円が、同年10月11日から最長5年12月末までの間に実施された全国旅行支援の財源となっていた。
そして、4年度の全国旅行支援に係る支出済歳出額4351億5687万余円は3年度から繰り越した8391億5656万余円から支出されており、令和3年度補正予算に計上され4年度に需要創出支援に流用された2685億1672万余円は5年度に繰り越されていた。これは、事業に参画している各宿泊施設において、新型コロナウイルス感染症の感染対策におけるマスク着用の要否の検討やそれに伴う対応を実施する必要が生じたため、積極的な旅行・観光喚起活動を行えなかったことから、年度内の事業完了が困難になったことを繰越事由として、事故繰越しの手続が行われたものであった。
また、5年度に繰り越された予算2685億1672万余円のうち全国旅行支援に係る支出済歳出額は2539億2052万余円、不用額は145億9619万余円となっていて、これと4年度の支出済歳出額4351億5687万余円の計6890億7740万余円が4、5両年度の国における全国旅行支援の支出済歳出額となっていた。
以上をまとめて、両旅行支援の予算の執行状況を示すと、図表1-1のとおりである。
図表1-1 両旅行支援の予算の執行状況
図表1-2 両旅行支援の予算の執行状況
観光庁は、要綱に基づき、予算の範囲内において、47都道府県に対して予算の配分額として交付限度額を通知していた。交付限度額は、必要に応じて変更することができることとなっており、観光庁は、3年4月に当初の交付限度額を通知して以降、都道府県ごとに1回から4回まで増額していた(別図表5参照)。
同庁は、当初は需要創出支援のみの交付限度額を通知していたが、同年11月25日以降は、予算の効率的な執行を図るなどのため、内訳を示さずに需要創出支援と同じ地域観光事業支援に属する感染防止対策等への支援に係る交付限度額と合算した交付限度額を通知していた。
このようにして通知された最終の交付限度額は、47都道府県で計8941億6713万余円となっていた。そして、47都道府県は、交付限度額を基に交付申請を行い、それぞれ交付申請のとおり交付決定を受けていて、県民割支援における交付決定額は計8497億7993万余円となっていた(別図表6参照)。
47都道府県に通知した交付限度額(同年11月25日以降に合算した感染防止対策等への支援に係る交付限度額を除く。)の算定方法について、会計検査院が観光庁に説明を求めたところ、同庁は、交付限度額の算定までに作成して予算執行時の基準とした算定方法に関する資料を保存していないとしており、当時の担当者から聴取したものであるとした上で、図表1-3のとおり算定したとしている。
図表1-3 県民割支援における交付限度額の算定方法
番号 | 財源 | 交付限度額の 算出方法 |
---|---|---|
① (令和3年3月流用分) | 2309億2307万余円 3年3月にGo To トラベル事業の予算として令和2年度第3次補正予算に計上された額から流用し、3年度に繰り越していた3298億9011万余円から、感染防止対策等への支援に目内融通した989億6703万余円注(1)を控除した額 |
各都道府県の平成29年から令和元年までの各年の4月及び5月における日本人延べ宿泊者数に、Go To トラベル事業等における当該都道府県への旅行者数に占める同一県内の旅行者数の割合を乗じたものの全体に占める割合を基に、「所要の補正」を行い、その補正後の割合により案分 ただし、東京都に係る分として算定した額(232億6335万余円)は、実際には東京都に対して交付限度額として通知されず、改めて配分する時点で執行率が50%以上であった他県に配分 |
② (令和3年12月流用分) | 5642億7702万余円 3年12月にGo To トラベル事業の予算として令和2年度第3次補正予算に計上された額から流用した額 |
宿泊旅行統計調査 注(2)における各都道府県の平成29年から令和元年までの国内旅行の平均延べ宿泊者数に、Go To トラベル事業における各都道府県を目的地とする旅行の1人泊当たりの平均旅行代金を乗じた額の全体に占める割合を基に、「所要の補正」を行い、その補正後の割合により案分 |
そして、観光庁に対して交付限度額の算定方法の詳細な説明を求めたところ、同庁は、図表1-3の①に係る日本人延べ宿泊者数、Go To トラベル事業等における同一県内の旅行者数等並びに①及び②に係る所要の補正といった交付限度額の算定要素に係る資料を保存していないとしており、会計検査院は、これらの算定要素について十分な説明を受けられなかった。このため、会計検査院は、交付限度額の算定が客観的かつ合理的な基準に基づいて行われていたのか、47都道府県に公平に予算が配分されたのかなどの予算執行における交付限度額の妥当性を事後的に検証することができなかった。
そこで、会計検査院において、図表1-3の①において用いられている延べ宿泊者数等に係る部分は公表されている宿泊旅行統計調査における県内旅行に係る延べ宿泊者数に置き換えた上で、①及び②において用いられている所要の補正は詳細が不明であることから考慮しないこととして、47都道府県ごとに交付限度額をそれぞれ試算した(観光庁が説明する交付限度額の算定方法と会計検査院の試算額の算定方法との比較については別図表7参照)。
その結果、図表1-4のとおり、観光庁が算定した交付限度額と会計検査院の試算額との間に相当程度のかい離が生じていて、図表1-3の①の財源に係る交付限度額についてはかい離率が△43.2%から372.5%までの範囲に、図表1-3の②の財源に係る交付限度額については同じく△11.9%から37.4%までの範囲になっていた(①に係る交付限度額と会計検査院の試算額との比較については別図表8、②に係る交付限度額と会計検査院の試算額との比較については別図表9参照)。
図表1-4 観光庁が算定した交付限度額と会計検査院の試算額とのかい離の状況
都道府県 | 図表1-3の①に係る交付限度額のかい離率 | 図表1-3の②に係る交付限度額のかい離率 |
---|---|---|
北海道 | △ 25.7 | 3.4 |
青森県 | 22.8 | 2.6 |
岩手県 | 1.6 | 2.2 |
宮城県 | △ 16.9 | △ 4.8 |
秋田県 | 85.2 | 15.9 |
山形県 | 16.6 | 19.2 |
福島県 | △ 24.8 | △ 6.0 |
茨城県 | 13.8 | 9.2 |
栃木県 | 2.3 | △ 5.6 |
群馬県 | 22.8 | △ 3.9 |
埼玉県 | 27.7 | 15.0 |
千葉県 | △ 10.3 | △ 10.2 |
東京都 | △ 18.6 | △ 11.9 |
神奈川県 | △ 36.8 | △ 10.4 |
新潟県 | △ 19.6 | △ 5.2 |
富山県 | 113.3 | 11.4 |
都道府県 | 図表1-3の①に係る交付限度額のかい離率 | 図表1-3の②に係る交付限度額のかい離率 |
---|---|---|
石川県 | 32.5 | △ 5.9 |
福井県 | 133.3 | 5.9 |
山梨県 | 89.3 | △ 3.3 |
長野県 | △ 12.5 | 5.7 |
岐阜県 | 57.9 | 17.4 |
静岡県 | △ 21.5 | △ 10.4 |
愛知県 | △ 43.2 | △ 6.0 |
三重県 | 28.3 | △ 5.6 |
滋賀県 | 95.3 | 5.4 |
京都府 | △ 11.2 | △ 9.7 |
大阪府 | 3.4 | △ 9.8 |
兵庫県 | △ 20.4 | △ 8.3 |
奈良県 | 276.7 | 19.5 |
和歌山県 | 137.5 | 2.5 |
鳥取県 | 134.8 | 12.7 |
島根県 | 110.2 | 28.2 |
都道府県 | 図表1-3の①に係る交付限度額のかい離率 | 図表1-3の②に係る交付限度額のかい離率 |
---|---|---|
岡山県 | 38.2 | 6.6 |
広島県 | △ 14.6 | 12.0 |
山口県 | 39.5 | 8.3 |
徳島県 | 372.5 | 22.2 |
香川県 | 177.8 | 11.6 |
愛媛県 | 76.7 | 8.6 |
高知県 | 138.4 | 22.9 |
福岡県 | △ 38.1 | 9.0 |
佐賀県 | 180.3 | 37.4 |
長崎県 | 21.2 | 13.2 |
熊本県 | 1.2 | 16.1 |
大分県 | 49.6 | 14.5 |
宮崎県 | 40.2 | 11.4 |
鹿児島県 | △ 12.6 | 12.2 |
沖縄県 | △ 9.4 | 3.5 |
観光庁は、令和3年度補正予算から流用した2685億1672万余円(図表1-1参照)について、47都道府県に対して、1回又は2回交付限度額を増額して通知し、最終の交付限度額は、これと同額の計2685億1672万余円となっていた(別図表10参照)。
そして、47都道府県は、それぞれに通知された交付限度額と同額で交付申請を行い、交付申請のとおり交付決定を受けていたことから、交付決定額も計2685億1672万余円となっていて、県民割支援における交付決定額計8497億7993万余円と合わせた両旅行支援の47都道府県に対する交付決定額は計1兆1182億9665万余円となっていた。
47都道府県に通知した交付限度額の算定方法について、会計検査院が観光庁に説明を求めたところ、県民割支援と同様に資料を保存していないとしており、同庁は、大手旅行事業者における各都道府県を目的地とする旅行商品の販売額の全体に占める割合を基に、所要の補正を行い、その補正後の割合により案分したとしている。
そこで、観光庁に対して交付限度額の算定方法の詳細な説明を求めたところ、同庁は、大手旅行事業者における各都道府県を目的地とする旅行商品の販売額や所要の補正といった交付限度額の算定要素に係る資料を保存していないとしており、会計検査院は、これらの算定要素について十分な説明を受けられなかった。このため、会計検査院は、交付限度額の算定が客観的かつ合理的な基準に基づいて行われていたのか、47都道府県に公平に予算が配分されたのかなどの予算執行における交付限度額の妥当性を事後的に検証することができなかった。
そして、これらの算定要素については代替し得る公表された数値もないことなどから、試算することができなかった。
要綱によれば、両旅行支援における旅行商品代金等が割り引かれる旅行商品又は宿泊サービスの販売に際しては、地場の旅行事業者や宿泊事業者、OTA等の一般的に利用される販売経路を確保するとともに、それらの販売方法を公平に用いることとされている。また、全国旅行支援においては、幅広い事業者によって販売がなされることで、需要喚起の効果が十分に発揮されるよう、事業者の執行状況、予算残額、今後の執行見込額等を把握するとともに、事業者に対する予算配分を随時見直すこととされている。
そこで、検査の対象とした44都道府県において、要綱の規定を踏まえて、両旅行支援それぞれの実施当初に、交付決定を受けた額を販売可能枠として旅行事業者及び宿泊事業者にどのように配分していたかなどについてみたところ、図表1-5のとおりとなっていた。都道府県は、図表1-5に記載の配分方法を採っていた理由を、①については、地場の事業者等の一般的に利用される販売経路を通じて公平に販売を行うようにするなどのため、②については、販売実績額が少ない旅行事業者の販売可能枠を十分に確保できるようにするなどのため、③については、全ての事業者に対して販売可能枠を個々に配分すると割引に係る予算の効率的な執行ができなくなると考えるなどしたためとしている(別図表11、別図表12、別図表13、別図表14参照)。
図表1-5 旅行事業者等への販売可能枠の配分方法
事業者 の別 |
種別 | ①全ての事業者に対して販売可能枠を個々に配分 | ②全ての事業者の中から販売可能枠を個々に配分する事業者を抽出し、残りの事業者については一括して予算の残額を管理 | ③全ての事業者を一括して予算の残額を管理 |
---|---|---|---|---|
旅行 事業者 |
県民割支援 | 25道県 | 5県 | 13府県 |
全国旅行支援 | 2府県 | 42都道府県 | ー | |
宿泊 事業者 |
県民割支援 | 20道県 | ー | 23府県 |
全国旅行支援 | 20都道県 | 2県 | 22府県 |
図表1-6 旅行事業者等へ配分した個々の販売可能枠の算定方法
事業者 の別 |
種別 | 主な算定方法 |
---|---|---|
旅行 事業者 |
県民割支援 | 事業者から示された配分希望額等及び過去に独自で実施した同種事業における販売実績額等を基に算定 |
全国旅行支援 | Go To トラベル事業における販売実績額等及び事業者から示された配分希望額等を基に算定 | |
宿泊 事業者 |
県民割支援 | 事業者から示された配分希望額等及び過去に独自で実施した同種事業における販売実績額等を基に算定 |
全国旅行支援 | 県民割支援における販売実績額等、宿泊施設の客室数等、事業者から示された配分希望額等を基に算定 |
図表1-7 販売可能枠を個々に配分する旅行事業者等の抽出方法
事業者 の別 |
種別 | 主な抽出方法 |
---|---|---|
旅行 事業者 |
県民割支援 | OTA等を抽出 |
全国旅行支援 | Go To トラベル事業等における販売実績額が多い事業者を抽出 | |
宿泊 事業者 |
県民割支援 | |
全国旅行支援 | 事業者の事務処理方法により、販売可能枠を個々に管理できる事業者を抽出 |
図表1-5の②又は③の配分方法としていた都道府県において、一括して予算の残額を管理していた方法をみたところ、事業者からの実績報告の申請順に旅行商品代金等の割引額を支払い、その実績報告等を基に管理するなどしていた。
また、44都道府県においては、実施当初に事業者に配分した販売可能枠について、執行状況を随時確認して、必要に応じて配分方法等を変更していたほか、販売実績額が販売可能枠に達する見込みとなった者については販売可能枠を増やす一方で、販売実績額が低調になっている者については販売可能枠を減らすなどしていた。
なお、観光庁は、5年4月5日付けで事業の実施主体である各都道府県に対して発出した事務連絡において、全国旅行支援に係る予算の執行残を可能な限り減らす観点から、販売実績額が事業者に配分した販売可能枠に達する見込みとなるなどして販売を停止している場合にあっては、予約のキャンセルによる予算の残額が明らかになり次第速やかに販売を再開するよう通知していたが、販売を再開していた実施主体がある一方で、再開することなく事業を終了していた実施主体も見受けられた。
44都道府県における予算の執行額及び残額の状況をみたところ、図表1-8のとおり、交付決定額計1兆0550億2487万余円に対する執行額は計9279億7479万余円(県民割支援計2741億0564万余円、全国旅行支援計6538億6914万余円)となっていて、交付決定額の約1割に相当する計1270億5008万余円が残額となっていた。
なお、これらの都道府県における残額は、都道府県において予算が執行されなかったものであることから、国からの支出は行われず、結果として国の決算上の不用額となっていた。
図表1-8 44都道府県における予算の執行額及び残額の状況
交付決定額(A) | 執行額(B) | 残額(A)-(B) | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
県民割支援 | 全国 旅行支援 |
県民割支援 | 全国 旅行支援 |
|||
1,055,024,876 | 799,705,051 | 255,319,825 | 927,974,791 | 274,105,644 | 653,869,147 | 127,050,085 |
図表1-9 交付決定額等に対する執行額の割合
種別 | 20%未満 | 20%以上 40%未満 |
40%以上 60%未満 |
60%以上 80%未満 |
80%以上 |
---|---|---|---|---|---|
県民割支援 | 4県 | 18道府県 | 18県 | 2県 | 1県 |
全国旅行支援 | ー | ー | 2県 | 13都県 | 29道府県 |
全国旅行支援において、需要の回復が十分でない貸切バスを利用する団体旅行の需要を喚起するために設定された団体旅行枠の設定方法及びその執行状況についてみたところ、次のとおりとなっていた。
3年11月に、バス事業に係る団体から、貸切バスを利用する団体旅行の促進等に関する要望書が国土交通大臣に提出されたことなどから、観光庁は、4年3月25日付けで都道府県に対して事務連絡を発出して、団体旅行の需要を喚起するための取組を行うよう通知した。そして、同年6月21日付けで発出した事務連絡等において、図表1-3の②の算定方法により配分した県民割支援における交付限度額及び全国旅行支援における交付限度額のそれぞれについて2割に相当する額を団体旅行枠として設定することなどを求めていた。
団体旅行枠の設定方法の考え方について、観光庁は、元年の旅行・観光消費動向調査(観光庁公表の一般統計調査)において、パック・団体旅行(注9)の延べ泊数の国内旅行全体に占める割合が全都道府県で約1割となっていたこと、また、同庁が2年に貸切バスを利用する団体旅行を推奨しなかったことにより同旅行の需要が失われたままとなっていたことを踏まえて、団体旅行枠を十分に確保するために合わせて2年分相当の2割としたとしている。
そこで、上記のような考え方で設定された団体旅行枠の執行状況について確認するため、44都道府県における団体旅行枠(計1772億2515万余円)と、これに対する執行額(計1066億7325万余円。以下「団体枠執行額」という。)とを比較したところ、団体枠執行額が団体旅行枠を上回っていたものは4府県である一方、これを下回っていたものは40都道府県となっていて、当該40都道府県においては計724億5178万余円の残額が生じていた(別図表20参照)。
このように、団体枠執行額が団体旅行枠を下回り残額が生じたのは、旅行・観光消費動向調査で集計しているパック・団体旅行の延べ泊数には、貸切バスを利用した旅行の他に鉄道、航空機等を利用した旅行に係る延べ泊数も含まれているのに、このような統計値に基づいて団体旅行枠を設定していたことが要因の一つであると思料される。
また、観光庁は、「令和5年に実施する「全国旅行支援」に関するQ&A」(令和5年5月8日時点版)において、全国旅行支援における交付限度額の2割に相当する額として設定した団体旅行枠については、全ての旅行に利用可能な予算の枠(以下「一般枠」という。)への振替を行うことは認められないとしていた。
そして、同Q&Aにおいては、「なお、団体旅行枠に係る予算の執行状況等については、随時観光庁までご相談ください」と記されており、また、5年6月9日付けの事務連絡である「今後の全国旅行支援のあり方について」において、「今後の事業実施にあたりご懸念がある場合には、予算の執行状況等に応じて、当庁まで個別にご相談いただきますよう、お願いいたします」と記されていた。
これらを踏まえて団体旅行枠から一般枠への振替に係る考え方について確認したところ、観光庁は、都道府県から個別の相談があり、真にやむを得ない事情があった場合には、例外的な取扱いとして一般枠への振替を行うことを認めていたとしており、実際に、事前に振替について同庁に相談して認められた13都道府県が一般枠への振替を行っていた。
しかし、同Q&Aにおいて団体旅行枠から一般枠への振替を行うことは認められないと示されていたことから、4県において振替をそもそも検討しなかったとしているなど、対応状況が都道府県により区々となっていた(別図表21参照)。
このように、観光庁は、団体旅行枠から一般枠への振替について、例外的な取扱いとして認められ得ることを個別の相談事項としていて全ての都道府県に対して伝えておらず、これにより一部の県における予算の執行方針に影響を及ぼす結果となっていたと思料される。
Go To トラベル事業は、観光庁の直轄事業として実施されていたのに対し、両旅行支援は、都道府県において制度設計を行う補助事業として実施されている。観光庁は、県民割支援をこのような実施体制とした理由について、新型コロナウイルス感染症の感染状況を踏まえて、事業の実施主体である都道府県において柔軟に事業停止等の判断が可能となるようにしたためとしている。また、全国旅行支援についてもこのような実施体制とした理由について、全国旅行支援の実施期間中も新型コロナウイルス感染症の感染状況が悪化する可能性があったため、都道府県において柔軟に事業停止等の判断が可能となるようにしたためとしている。
両旅行支援の実施体制をみたところ、各都道府県は、事業を統括的に運営する事務局を設置していた。そして、各都道府県における両旅行支援の実施体制は、大きく分類すると、次の(ア)から(オ)までの五つの類型となっていた。
なお、全国旅行支援における旅行事業者の参画登録、旅行商品代金の割引の審査、旅行事業者への割引額の支払等に係る業務については、奈良県を除く43都道府県が統一窓口に再委託することなどにより実施させていた。
図表1-10 委託型の例
この類型は、図表1-11のとおり、観光連盟等に対して間接補助金又は負担金(以下「間接補助金等」という。)を交付し、観光連盟等が事業実施に係る主な業務を事務局に委託するなどしたものであり、16都府県がこれにより事業を実施していた。
都府県は、補助型とした理由について、①過去に同種の旅行支援事業を同様に実施した実績があるため、②観光関連事業については観光連盟等と一体となって事業を実施する方針を従前から取っていたため、③この方針を都府県の規程等で定めているため、などとしていた。
そして、補助型の16都府県における各観光連盟等への事務経費に係る間接補助金等の交付額は、計440億9790万余円となっていた(別図表23参照)。
図表1-11 補助型の例
この類型は、図表1-12のとおり、旅行事業者や宿泊事業者の登録、旅行商品代金等の割引の審査等については委託型、クーポンの発行、配布、使用後の審査等については補助型で実施したものであり、岐阜県がこれにより事業を実施していた。
同県は、補助委託併用型とした理由について、既に実施していた別の旅行支援事業の枠組みを活用し、当初は補助型で事業を実施していたものの、県や観光連盟等の業務量を軽減するため、4年4月1日以降は県や観光連盟等が実施していた業務の一部を事務局に委託することで効率化を図ったためとしていた。
そして、同県における観光連盟等への事務経費に係る間接補助金の交付額は2億8604万余円、同県と事務局の委託契約に係る事務経費の支払額は16億7054万余円となっていた(別図表24参照)。
図表1-12 補助委託併用型
図表1-13 再委託型
この類型は、図表1-14のとおり、旅行事業者や宿泊事業者の登録、旅行商品代金等の割引の審査等に係る業務については事務局に委託し、クーポンの発行、配布、使用後の審査等については市町村に間接補助金を交付することで実施したものであり、群馬県がこれにより事業を実施していた。
同県は、市町村への補助型とした理由について、既に実施していた別の旅行支援事業の枠組みを活用し、県の業務負担を軽減するためとしていた。
そして、同県における事務局への事務経費に係る支払額は2億6960万余円となっていた。
図表1-14 市町村への補助型
これら五つの類型の44都道府県における両旅行支援に係る各事務局等への事務経費に係る支払額は計716億6170万余円、各観光連盟等への事務経費に係る間接補助金等の交付額は計443億8395万余円、合計1160億4565万余円となっていた。
両旅行支援において、委託型、補助委託併用型又は市町村への補助型で事業を実施した29道県は、直接、事務局と委託契約等を締結することにより、事務局に旅行商品代金等の割引の審査等に係る業務を実施させていた。
そこで、29道県に係る事務局との委託契約等80件について、その契約方式等をみたところ、全て随意契約となっており、これらの内訳は、企画競争(注10)によるものが17道県計31件、公募(注11)によるものが3県計8件、特命(注12)によるものが22県計41件となっていた(別図表26参照)。
一方、補助型又は再委託型で事業を実施した15都府県(実施時期により、委託型又は補助委託併用型であった愛知、岐阜両県を除く。)は、事務局とは直接委託契約等を締結していなかった。
両旅行支援において、都道府県が事業を実施するに当たっては、図表1-15のとおり、事業実施に係る主な業務を事務局又は観光連盟等に委託するなどしていたほか、これらの業務の一部について、事務局等による再委託等や、再委託先等による更なる再々委託等が行われていた。
図表1-15 事務局等による再委託等及び再委託先等による再々委託等
一般に、委託契約においては、受託者に対して、契約の全部又は一部を更に第三者に再委託することを無条件に認めると、当該受託者を選定した発注者の意図に沿わない結果や、契約履行の責任の所在が不明確になって適正な履行の確保の阻害等につながるおそれがある。このため、受託者が再委託を行う場合には、発注者は、あらかじめ、再委託先の名称、再委託する業務の範囲等を把握するとともに、必要に応じて再々委託先に係る履行体制の把握に努めることが、委託契約の適正な履行の確保につながるものと思料される。
そこで、事業の実施主体である都道府県が、再委託等及び再々委託等の状況をどのように把握していたのか、五つの類型別にみたところ、次のとおりとなっていた。
委託型、補助委託併用型、再委託型又は市町村への補助型で事業を実施した30道県をみたところ、事務局等との委託契約等に係る契約書又は仕様書において、事務局等が再委託等を行う場合について道県に対して事前に承認を得ることを条件とする条項(以下「事前承認条項」という。)を規定していたものは、県民割支援で28道県、全国旅行支援で27道県となっており、再委託先等が再々委託等を行う場合について同様の条項を規定している道県は、両旅行支援共になかった。
そして、道県と事務局等との間の委託契約等が終了した際等に、事務局等から道県に対して再委託先等に係る名称、支払金額等を報告させていたものは、県民割支援で26道県、全国旅行支援で28道県となっており、再々委託先等に係るこれらの情報を報告させていたものは両旅行支援共に1県となっていた(別図表28参照)。
また、補助型又は補助委託併用型で事業を実施した16都府県をみたところ、観光連盟等と事務局との間の委託契約等に係る契約書又は仕様書において、事務局が再委託等を行う場合について、観光連盟等に対する事前承認条項を規定していたものは、県民割支援で13府県、全国旅行支援で15都府県、再委託先等が再々委託等を行う場合について同様の条項を規定していたものは県民割支援で2県、全国旅行支援で1県となっていた。
そして、観光連盟等と事務局との間の委託契約等が終了した際等に、事務局から観光連盟等に対して再委託先等に係る名称、支払金額等を報告させていたものは、県民割支援で12府県、全国旅行支援で16都府県となっており、再々委託先等に係るこれらの情報を報告させていたものは両旅行支援共に2県となっていた。さらに、都府県と観光連盟等との間の間接補助金等に係る事業が終了した際等に、観光連盟等から都府県に対して再委託先等や再々委託先等に係る名称、支払金額等を報告させていたものは、県民割支援で5府県、全国旅行支援で7府県となっていた(別図表29参照)。
このように、都道府県によっては再委託先等や再々委託先等の状況を把握していなかった。
統一窓口は、観光庁が、全国旅行支援の実施前の4年3月に都道府県に対して旅行事業者に係る一元的な組織スキーム案の提示、同スキームの活用の意思確認、クーポンの配布方法等に関する照会を行い、Go To トラベル事業の業務委託先であるツーリズム産業共同提案体の構成企業に対して設置を打診したことを契機として、同年7月に設立された。
統一窓口の設置の経緯等に関する具体的な内容について把握するため、この照会に対する都道府県からの回答について観光庁に確認したところ、同庁は、提出された回答文については、補助金の交付に関する重要な経緯となる折衝の文書には当たらず、統一窓口の利用希望の有無を都道府県別に整理するためのメモであり、行政文書に該当しないと考えて、全て保存していないとしていた。
そこで、各都道府県が観光庁に提出した回答文の写しを、会計検査院が各都道府県から提出を受けるなどしてその内容を確認したところ、統一窓口の利用希望の有無だけではなく、統一窓口に係る費用や全国旅行支援の事業実施体制等に言及する内容となっており、統一窓口に係る費用の積算根拠を明示するよう希望していたものが8府県(注14)、補助対象の範囲が全国に拡大することから、Go To トラベル事業と同様に観光庁が一つの団体と委託契約を締結して全国分を取りまとめて実施する直轄事業を希望していたものが7県(注15)となっていた。
そして、統一窓口の設置に関してツーリズム産業共同提案体の構成企業に観光庁が全国旅行支援の実施前にどのような打診を行ったのか、同支援の実施期間中に統一窓口とどのような調整を行ったのか確認したところ、観光庁は、これらを全て口頭で行ったとして、記録は作成していないとしていた。このため、会計検査院において、統一窓口の設置等に関する詳細な経緯を確認することはできなかった。
統一窓口は、全国旅行支援に係る一元的な組織スキームとして設置されたが、統一窓口との委託契約の契約主体は、都道府県ではなく、各都道府県から業務を委託されるなどした事務局等となっており、都道府県からみると、これらの契約は再委託、再々委託の契約等となっていた。
そこで、会計検査院が、各都道府県における事務局等と統一窓口との間の委託契約(変更を含む。)を統一窓口の協力の下に調査したところ、統一窓口は、都道府県ごとの事務経費に係る契約金額について、各都道府県に係る全ての業務を実施するために必要と見込まれる費用(直接人件費、借料及び損料等)の総額を、各都道府県に係る交付限度額の合計額に占める当該都道府県の交付限度額の割合で案分することなどにより定めたとしていた。なお、統一窓口は、各都道府県の交付限度額を、事務局等からの情報を基に、観光庁にも確認の上、把握したとしていた。そして、都道府県にも確認したところ、複数の都道府県が、交付限度額の割合で契約金額を算出しているとの説明を事務局等から受けたとしていた。
また、43都道府県に係る事務局等から統一窓口への事務経費に係る支払額について調査したところ、計239億2664万余円となっていた(別図表30参照)。そして、各都道府県は、統一窓口に係る費用を含めた事務局等への支払額(補助金以外の財源によるものを除く。)を、全国旅行支援の事務経費(43都道府県の計901億7043万余円。別図表19参照)の対象としていた。
そこで、事業の実施主体である43都道府県が、事務局との委託等契約に係る支払のための検査や観光連盟等への間接補助金等に係る額の確定検査等の際に、事務局等による再委託、再々委託の契約等に基づいて事務局等から統一窓口への事務経費に係る支払額をどのように確認していたかみたところ、12府県(注16)は事務局等を通じて統一窓口から事務局等宛ての資料を徴取することにより確認したとしていた。一方、31都道県(注17)は、これらの検査等の際に事務局から都道府県や観光連盟等宛てに提出された請求書に記載されていた統一窓口との委託契約に係る金額を確認していたが、統一窓口から事務局等宛ての資料は徴取していないなどとしていた。なお、この31都道県のうち2県(注18)は、事務局を通じて、統一窓口から資料を徴取しようとしたが、得られなかったとしていた。
県民割支援は3年4月1日から8県で開始されたが、新型コロナウイルス感染症の感染状況等により、35道府県においては事業の開始が遅れたほか、事業の実施期間中、37道府県で一時停止を余儀なくされ、その後に再開するなど、43道府県における事業の実施期間は異なっていた。
また、全国旅行支援は4年10月11日から43道府県で開始されたが(東京都のみ同月20日に開始)、事業の終了時期は、予算の状況等により、それぞれ5年6月から同年12月までの間となっていた(別図表31参照)。なお、全国旅行支援においては、事業の一時停止を行った都道府県はなかった。
そして、両旅行支援のうち県民割支援については、事業の実施期間中に一時停止が繰り返される状況となっていたことから、これに伴い旅行の予約のキャンセルが多数発生する状況となっていた。
「「地域観光事業支援」に関するQ&A」(令和3年4月30日時点版)によれば、事業を停止した場合のキャンセル料の補塡に係る費用については、要綱における事業の目的を遂行するために必要であると大臣が認めた経費(都道府県の運営費、人件費等の経常経費は対象外)として、補助対象経費に計上できることとされている。
そこで、県民割支援の実施期間中に事業を一時停止したことに伴い、キャンセル料が発生した道府県におけるキャンセル料の補塡状況をみたところ、19道府県で計9億1443万余円を補助対象経費に計上しており、その他の府県では補助金以外の財源を用いて補塡するなどしていた(別図表32参照)。
両旅行支援に係る制度設計は、都道府県において行われることになっていたことから、各都道府県がどのような種類の旅行を旅行商品代金等の割引の対象にしていたかをみたところ、要綱で補助対象とされている日帰り旅行について、県民割支援を実施した43道府県のうち6県が割引の対象にしていなかった。一方、全国旅行支援においては44都道府県全てが、日帰り旅行を割引の対象としていた。
また、観光を目的としないビジネス旅行については、要綱では特段の制限は設けられていなかったが、本件事業が観光需要を喚起することを目的としていることを考慮するなどして、県民割支援で9道府県、全国旅行支援で1県が割引の対象としていなかった。
このように、割引の対象とする旅行の種類については、都道府県により取扱いが異なっていた(別図表33参照)。
図表1-16 割引の実績
種別 | 旅行事業者に係る 旅行商品代金の割引額 (利用者数) |
宿泊事業者に係る 宿泊代金の割引額 (利用者数) |
計 |
---|---|---|---|
県民割支援 | 580億8151万余円 (延べ1371万余人) |
1164億6169万余円 (延べ2604万余人) |
1745億4321万余円 (延べ3975万余人) |
全国旅行支援 | 2568億4434万余円 (延べ5762万余人) |
931億6122万余円 (延べ2688万余人) |
3500億0556万余円 (延べ8450万余人) |
計 | 3149億2585万余円 (延べ7133万余人) |
2096億2292万余円 (延べ5292万余人) |
5245億4878万余円 (延べ1億2426万余人) |
そして、割引の実績があった旅行事業者等の延べ数は県民割支援において、43道府県で旅行事業者は計8266者、宿泊事業者は計2万3220者、また、全国旅行支援において、44都道府県で計7万5173者、宿泊事業者は計2万5775者となっていた(別図表36参照)。
旅行事業者が取り扱った旅行商品代金の割引は、各都道府県における取扱実績額の上位10者で、県民割支援においては全体の総額の73.7%を、全国旅行支援においては同76.9%をそれぞれ取り扱っていた(別図表37及び別図表38参照)。
また、宿泊事業者が取り扱った宿泊代金の割引は、各都道府県における取扱実績額の上位10者で、県民割支援においては全体の総額の24.3%を、全国旅行支援においては同23.7%をそれぞれ取り扱っていた(別図表39及び別図表40参照)。
県民割支援においては、旅行者へのクーポンの付与方法は要綱等で定められておらず、各道府県に委ねられていた。
そこで、43道府県におけるクーポンの付与方法をみたところ、図表1-17のとおり、39道府県においては紙クーポン、4府県においては電子クーポンを採用していて、スマートフォンを持たない旅行者でも使用が可能であることなどを理由として紙クーポンを採用している道府県が多数となっていた。
図表1-17 クーポンの付与方法(県民割支援)
付与方法 | 道府県 | 道府県数 |
---|---|---|
紙クーポン | 北海道、京都府、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬(注) 、埼玉、千葉、福井、山梨、長野、静岡、三重、滋賀、兵庫、奈良、和歌山、鳥取、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県 | 39 |
電子クーポン | 大阪府、神奈川、岐阜、愛知各県 | 4 |
また、全国旅行支援開始当初の44都道府県におけるクーポンの付与方法についてみたところ、図表1-18のとおり、38道府県は紙クーポン、6都府県は電子クーポンを採用していた。
図表1-18 クーポンの付与方法(全国旅行支援開始当初)
付与方法 | 道府県 | 都道府県数 |
---|---|---|
紙クーポン | 北海道、京都府、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、福井、山梨、長野、三重、滋賀、兵庫、奈良、和歌山、鳥取、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県 | 38 |
電子クーポン | 東京都、大阪府、神奈川、岐阜、静岡、愛知各県 | 6 |
このように、多くの道府県が紙クーポンを採用している中で、観光庁は、全国旅行支援の開始日(4年10月11日)から間もない同月27日付けの事務連絡において、デジタル社会の推進に向けた政府全体の方針を踏まえたものとして、5年1月以降に使用するクーポンは、スマートフォンを所持していない者への対応等の例外を除き、使用履歴等の情報が電子記録として保存され精算事務等を効率化できることになる電子クーポンによることを原則とする方針を初めて示し、遅滞なく電子クーポンにより事業を実施するよう通知していた。そして、観光庁は、4年12月に、電子クーポンの原則化に伴い要綱を改正していた。
このため、全国旅行支援開始当初に紙クーポンを使用していた道府県においては、短期間で電子クーポンに変更する必要が生ずることになった。
そこで、38道府県のうち、電子クーポンが原則化される前に印刷を行っていた紙クーポンの枚数及び旅行者へ配布した枚数を確認することができる21道県について、これらを比較したところ、印刷した紙クーポンを旅行者に配布した比率は平均66.0%となっていて、紙クーポンが計3269万枚以上余剰となり、使用する見込みがないことから廃棄するなどしている状況が見受けられた(別図表41参照)。
しかし、観光庁は、道府県における既存の紙クーポンの印刷及び配布の状況について現状を把握しておらず、そこから想定される影響を考慮しないまま、事業の実施途中で電子クーポンへの方針変更を行っていた。
電子クーポンが原則化されたことに伴って既存の紙クーポンが旅行者に配布されずに余剰となっていた事態について事例を示すと次のとおりである。
<事例>電子クーポンの原則化に伴い、既存の紙クーポンが余剰となっていたもの
北海道は、全国旅行支援の実施のために、紙クーポン1340万枚を印刷していた(これに係る補助対象経費5896万円)。
一方、旅行者に配布した紙クーポンは約810万枚にとどまっており、印刷した紙クーポンに対して配布した割合は60.5%となっていて、残りの約529万枚の紙クーポン(これに係る補助対象経費相当額2329万余円)が旅行者に配布されずに余剰となっていた。
紙クーポンが余剰となった理由について、北海道は、令和4年10月27日に観光庁から電子クーポンが原則化されることが示されるより前に印刷した紙クーポンが納品済みであったためとしていた。
そして、北海道は、5年1月以降は電子クーポンに切り替えたことにより、余剰となった紙クーポンは使用の見込みがないことから、破砕処理(注)をしていた。
要綱によれば、両旅行支援では、旅行期間中に使用可能なクーポンを付与するなど、旅行商品代金等の割引と併せて、土産物店、飲食店等の幅広い産業を支援できることとされている。
そこで、クーポンの取扱店舗に係る参画登録の状況をみたところ、県民割支援、全国旅行支援のいずれにおいても、各都道府県で、土産物店、飲食店、旅館・ホテル(売店や飲食代)等の様々な業種の店舗が登録されており、都道府県によっては、両旅行支援の制度目的を踏まえて観光関連施設のみを参画登録の対象として、コンビニエンスストア、ドラッグストア等を対象外としていた。
要綱によれば、クーポンの付与額は、実際に旅行者が使用した分に限り、補助対象経費とすることができることとされている。
そこで、クーポンの使用状況についてみたところ、クーポンの使用に係る補助対象経費は、県民割支援を実施した43道府県で計737億1265万余円、全国旅行支援を実施した44都道府県で計2130億6775万余円、合計2867億8041万余円となっていた(別図表42参照)。
そして、両旅行支援において、実際にどのような店舗でクーポンが使用されていたのかをみたところ、旅館・ホテル、その他の各種商品小売業(土産物店等)、公園・遊園地等といった観光関連施設のほか、総合スーパーマーケット、ドラッグストア等の店舗でも多く使用されていた(別図表43及び別図表44参照)。
クーポンの発行等に係る経費の状況について、県民割支援を実施した43道府県、全国旅行支援を実施した44都道府県のうち、当該経費を確認することができるそれぞれ34道府県及び37道府県についてみたところ、その額は県民割支援では計20億2670万余円、全国旅行支援では計66億8170万余円、合計87億0841万余円となっていた(別図表45参照)。
両旅行支援の実施期間は、最長で3年4月から5年12月までの2年9か月となっていたが、観光庁は、その間に両旅行支援に関して要綱を22回改正するとともに、都道府県に対する事務連絡を50回にわたって発出するなどしていた。
要綱改正等の内容についてみると、①実施期間の延長(11回)、②利用対象者の居住地の範囲の拡大(3回)、③団体旅行枠の設定、④5年1月以降の電子クーポンの原則化等となっていた(別図表46参照)。
そして、各都道府県では、度重なる実施期間の延長等により、事務局との委託契約等の変更に係る手続や、旅行者、旅行事業者等への周知等の業務が、その都度、追加で必要になるなどしていた。また、ウ(ア)で記述した電子クーポンの原則化のように、短期間で当初の要綱等には規定されていなかった事項の追加に伴う業務に対応する必要が生ずるなどしていた。
このように、実施期間の延長、方針変更等について、その周知から適用までの期間が短く、都道府県が短期間での対応を余儀なくされる状況が見受けられた。
両旅行支援の補助対象経費については、旅行商品代金等に対して一定の補助率や上限額が設けられている。また、都道府県、事務局等は、旅行者の居住地や利用条件であるワクチン接種等を確認することとなっている。さらに、クーポンの付与額については、実際に旅行者が使用した分に限り補助対象とすることができることとなっている。
また、要綱等によれば、都道府県は、補助金について経理を明らかにする帳簿を作成し、補助対象事業の完了の日の属する年度の終了後5年間保存しなければならないこととされており、経理を明らかにする帳簿に記録する必要がある事項は、補助金の使途が明確に分かるもの(補助金の支出額等)とされている。
そして、観光庁は、県民割支援が既に終了し、全国旅行支援が開始された約10か月後の5年8月15日付けで都道府県に対して事務連絡「今後の予算執行の考え方等について」を発出していた。これによれば、割引額やクーポンの付与額、旅行者数等の情報が要綱に定める補助要件を満たしているかを事後的に確認できるよう根拠書類を保存することが必要であるとされており、事務局等において保存に必要な措置を執ることも併せて求めていた。
そこで、都道府県や事務局等が両旅行支援に係る要件を適切に確認しているか、同事務連絡を踏まえて根拠書類(紙媒体を電子化していたものや原本の内容を転記して確認できるものなどを含めて、以下「根拠資料」という。)を適切に保存しているかなど、都道府県等における審査の実施状況及び根拠資料の保存状況をみたところ、次のとおりとなっていた。
県民割支援を実施した43道府県及び全国旅行支援を実施した44都道府県における旅行商品代金等の割引に係る審査(以下「旅行等審査」という。)の実施状況をみたところ、図表1-19に示す方法により、事務局等が旅行事業者等から提出させた根拠資料の内容を確認するなどしていた。
図表1-19 旅行等審査の実施状況
種別 | 事業者の例 | 旅行等審査の主な方法 |
---|---|---|
県民割支援 | 旅行事業者 | 旅行事業者等から提出された根拠資料(道府県で定めた様式の実績報告書、月次報告書、利用申込書等)を事務局等が確認 |
宿泊事業者 | ||
全国旅行支援 | 旅行事業者 (奈良県を除く) |
統一窓口が電子システムを用いた審査や旅行事業者から提出された根拠資料の確認を行い、各都道府県の事務局にその結果を報告 |
旅行事業者 (奈良県) |
旅行事業者から提出された根拠資料を事務局が確認 | |
宿泊事業者 | 宿泊事業者から提出された根拠資料を事務局等が確認 |
また、両旅行支援のクーポンに係る審査の実施状況をみたところ、図表1-20に示す方法により、事務局等が旅行事業者等から提出させた根拠資料の内容を確認するなどしていた。
図表1-20 クーポンに係る審査の実施状況
種別 | クーポンの別 | クーポンに係る審査の主な方法 |
---|---|---|
県民割支援 及び 全国旅行支援 |
紙クーポン | クーポンの取扱店舗から提出された使用済クーポン等の根拠資料を事務局等が確認 |
電子クーポン | 電子システムを用いて使用金額、使用日時等の使用実績を事務局等が確認 |
図表1-21 旅行者の居住地やワクチン接種等に係る根拠資料の保存状況
種別 | 旅行者の居住地を確認できる根拠資料を保存している都道府県数 | ワクチン接種等を確認できる根拠資料を保存している都道府県数 | 旅行者の居住地又はワクチン接種等を確認できる根拠資料を保存していなかった県数 |
---|---|---|---|
県民割支援 | 39道府県 | 36道府県 | 7県 |
全国旅行支援 | 40都道府県 | 38都道府県 | 7県 |
また、両旅行支援の紙クーポンに係る審査の根拠資料の保存状況については、図表1-22のとおりとなっていた。
図表1-22 紙クーポンに係る審査の根拠資料の保存状況
種別 | 紙クーポンを採用していた道府県数 | 使用済クーポン等の根拠資料を保存している道府県数 | 使用済クーポン等の根拠資料を保存していなかった県数 |
---|---|---|---|
県民割支援 | 39道府県 | 31道府県 | 8県 |
全国旅行支援 | 38道府県 | 32道府県 | 6県 |
図表1-23 電子クーポンに係る審査の根拠資料の保存状況
種別 | 電子クーポンを採用していた都道府県数 | 電子クーポンに係る電子記録を保存している都道府県数 | 電子クーポンに係る電子記録を保存していなかった県数 |
---|---|---|---|
県民割支援 | 5府県 | 5府県 | ー |
全国旅行支援 | 44都道府県 | 42都道府県 | 2県 |
これらのことから、両旅行支援において、旅行者の居住地又はワクチン接種等を確認できる根拠資料を保存していなかった7県(県民割支援)及び7県(全国旅行支援)や、使用済クーポン等の根拠資料を保存していなかった8県(県民割支援)及び6県(全国旅行支援)、電子クーポンに係る電子記録を保存していなかった2県(全国旅行支援)については、根拠資料に基づいて事後的に両旅行支援の事業の適正性を十分に検証することができない状況となっていた。
第1の2(3)ウ(ア)のとおり、都道府県は、需要創出支援実施計画において、不正を防止するための措置を記載することとされている。この措置としては、「「地域観光事業支援」に関するQ&A」(令和3年4月30日時点版)等によれば、証ひょうの確認、不正受給への返還請求等の事項を掲げることとされている。
そこで、需要創出支援実施計画を踏まえ、国庫返納の必要があると都道府県が判断した旅行事業者による実績の水増しなどの不正請求の状況をみたところ、図表1-24のとおりとなっていた。
図表1-24 不正請求の状況(令和6年7月末現在)
種別 | 道府県数 | 件数 | 不正請求に係る 補助金相当額 |
国庫返納未済 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
うち国庫返 納済額 |
道府県数 | 件数 | 金額 | ||||
県民割支援 | 10道府県 | 13件 | 2億0173万余円 | 1336万余円 | 7道府県 | 9件 | 1億8837万余円 |
全国旅行支援 | 10道県 | 49件 | 1億0094万余円 | 3134万余円 | 8道県 | 24件 | 6960万余円 |
県民割支援で国庫返納が未済となっている7道府県のうちの4道県(4件)、全国旅行支援で国庫返納が未済となっている8道県のうち5道県(18件)は、返納予定時期(7年3月)の到来前となっている。
一方、県民割支援における残りの3府県(5件、計1億8463万余円)、全国旅行支援における残りの3県(6件、計4488万余円)は、宿泊事業者の資力が乏しいことなどから、返納予定時期が未定となっており、国庫返納までに時間を要する状況となっていた。
不正請求に係る事態を確認している道府県における対応をみたところ、道府県は事態を全て観光庁に報告していた。そして、事態が発覚した時点で既に県民割支援又は全国旅行支援が終了していた2道県(県民割支援)及び3道県(全国旅行支援)を除く残りの8府県(県民割支援)及び残りの7県(全国旅行支援)は、宿泊事業者の実績報告の再精査を行っていたほか、参加事業者に向けて注意喚起を行うなどの再発防止策を講じていた(別図表49参照)。
観光庁が作成した地域観光事業支援に係る行政事業レビューシートでは、成果目標を「本事業を活用する都道府県への旅行需要について、コロナ禍前相当までの喚起を図る」としており、成果目標の測定の基礎となる成果指標として「本事業を活用する都道府県における日本人延べ宿泊者数」を設定していた。そこで、成果指標の目標値、達成率等の状況をみたところ、図表1-25のとおりとなっていた。
図表1-25 行政事業レビューシートにおける成果指標の目標値、達成率等の状況
年度 | 成果指標の目標値 | 成果実績 | 達成率 |
---|---|---|---|
令和3 | 180 | 143 | 79.4 |
4 | 423 | 454 | 107.3 |
5 | 337 | 386 | 114.5 |
要綱によれば、都道府県は、需要創出支援として実施した両旅行支援について、事業実施に伴う効果を検証し、その内容を公表するとともに、国土交通大臣に報告することとされている。そして、観光庁が5年10月に都道府県に対して発出した事務連絡によれば、公表については、都道府県のホームページ等において、5年度末までに実施することを想定しているとされている。
そこで、44都道府県の公表状況をみたところ、5年度末までに効果検証の内容を公表していたものは2県のみとなっていて、効果検証の内容を5年度末までに国土交通大臣に報告していたものは4県のみとなっていた。
そして、公表の期限から四半期を過ぎた6年6月末時点でみても、公表していたものは20都道県(5年度末までに公表していた2県を含む。)、報告していたものは23都道県(5年度末までに報告していた4県を含む。)にとどまっていた(別図表50参照)。
その後、観光庁は、6年11月に、効果検証の内容を早期に公表及び報告するよう府県に対して事務連絡を発出していた。
なお、効果検証として公表及び報告する内容は、観光庁が5年10月に発出した事務連絡及びその後に観光庁が都道府県に対して示した所定の様式に定められており、事業の実施に伴う実績値等を記入するものとなっていたが、目標値やその達成状況を公表及び報告するものとはなっていなかった。