昭和25年度における灯台関係工事(灯台、同通信所、無線方位信号所等)は工事箇所数274箇所事業費8億4百余万円で、これに対し本院で会計実地検査を実施したものは81箇所事業費2億7千7百余万円であるが、その検査の結果によれば、架空工事又は便乗工事があつたり、工事に手抜があつたり、又、出来形が相違するのにそのまま検収したり、未完成工事を完成工事として代金を支払つたものがきわめて多いが、そのおもなものをあげると後述のとおりである。
なお、右の外、競争契約によつているため、結果的な批判は困難ではあるが、予定工事費額の見積において、工事材料、人工、運搬費等で算定緩に過ぎ、論議の余地のあるものと認められるものがあつた。
いまここに、灯台関係工事について、以上のような不当事項の発生の事由を考察すると、25年度事業費金額8億4百余万円のうち約半額の4億2千1百余万円は第3・四半期以降成立の予算によるもので、急激な膨脹予算を施行するについての海上保安庁及び各管区本部における配意の不十分なところがあつたと認められ、すなわち工事設計が現場調査不十分なまま机上設計によつた場合でありながら、実施に件う設計変更及び工事費増減などの調整的処理が考慮されておらず、予算繰越の処置が指示されていなかつたり、はなはだしいのは予算外工事を指示したりしている状況であり、又、実施部門においても工事仕様において現場係官の指示に委す部分が多い場合でありながら現場係官の工事監督が不十分で請負人に乗ぜられたり、設計によらないで工事を施行させたり、請負人からの工事完成報告をもつて未検査のままで完成の取扱をしたりするなど適正な工事施行及び会計経理の遂行についての心構えの不十分な点があつたものと認められる。
なお、灯台等に使用する機器類は、主として海上保安庁本庁において調達し現地に送付しており、年間における購入契約総額は2億8千1百余万円に及んでいるが、そのうち年度末の26年3月に購入契約したもの10万円以上のものだけでも1億3千余万円に達し、その46%5に当つている。したがつて、物品の工事現場への納入が遅延し、ひいては工事の遅延をきたしている状況である。又、購入物品の代金の支払についても契約上は工事現場納めとなつているのに、製造業者の工場で製品検査をして納入の扱いをし契約金額の全額を支払つている事例が湯沸岬灯台、積丹岬灯台通信所、厚岸灯台(以上第一管区海上保安本部)、生地鼻灯台関係(第九管区海上保安本部)においてあつた。
(1) 架空の名義により工事代金を支払つたもの
(部)公共事業費(款)一般公共事業費(項)海上保安施設費
(部)行政部費(款)運輸省(項)海上保安管区本部
(647)−(648) 灯台の改修又は補修工事を施行することとして契約を締結しながら、その全部又は大部分を実施しないで契約金額の全額を支払つたものが左のとおりある。
管区海上保安本部 | 工事 | 請負金額 | 支出年月 | 摘要 | |
(647) |
第三 |
第三海堡灯台改良改修 |
円 422,000 |
年月 25、12 |
鉄板製電池格納室(工費約14万6,000円)を施行しただけである。 |
(648) | 同 | 野島崎灯台補修 | 147,500 | 〃6 | 全く施行してない。 |
計 | 569,500 |
(2) 便乗工事を施行したもの
(部)公共事業費(款)災害復旧公共事業費(項)海上保安施設災害復旧事業費 外1科目
(649)−(653) 灯台の災害復旧工事の施行に当り、うちには事情の了とすべきものもないではないが、予算経理上は災害復旧には関係のない便乗工事といわなければならない工事を施行したものが左のとおりある。
管区海上保安本部 | 工事 | 請負金額 | 支出年月 | 摘要 | |
(649) |
第一、二、三、五、七 |
潮岬灯台災害復旧外9件 |
円 4,333,600 |
年月 25、9から 26、4まで |
551,265円で各灯台に災害復旧に関係のない暴風標識を新たに施設している。 |
(650) | 第二 | 石巻東及び西防波堤灯台災害復旧灯明機械 | 294,000 | 26、4 | 約27万円で災害復旧に関係のない灯籠の新規取替、灯塔の踊り場の拡張、鉄梯子取付等の諸工事を施行している。 |
(651) | 第四 | 掛塚灯台災害復旧 | 682,000 | 25、8 | 約45万円で国費支弁とすべきでない五島灯台の復旧整備工事を施行している。 |
(652) | 第八 | 経ケ岬灯台災害復旧 | 389,000 | 26、4 | 約31万円で災害復旧に関係のない飲料水用120石入コンクリート造貯水池を構築している。 |
(653) | 同 | 立石崎灯台災害復旧 | 292,500 | 〃〃 | 全額で災害復旧に関係のない飲料水用120石入コンクリート造貯水池を構築している。 |
計 | 5,991,100 |
(3) 工事の検収当を得ないもの
(大蔵省)(米国対日援助見返資金特別会計)(款)援助資金支出(項)公企業支出
(運輸省)(一般会計)(部)公共事業費(款)一般公共事業費(項)海上保安施設費外2科目
(654) 工事が設計どおり施行されていないで、請負人の手抜と認められるもの、出来形相違と認められるもの、設計が実際の必要に適合しないため施行上変更しているものでありながら設計どおり完成したものとして検収し工事代金の全額をそのまま支払つたものが、第一管区海上保安本部で2箇所、第二管区海上保安本部で1箇所、第三管区海上保安本部で9箇所、第六、第八、第九各管区海上保安本部でそれぞれ1箇所計15箇所に上つている。
(4) 工事代金の支払当を得ないもの
(大蔵省)(米国対日援助見返資金特別会計)(款)援助資金支出(項)公企業支出
(運輸省)(一般会計)(部)公共事業費(款)一般公共事業費(項)海上保安施設費
(655)−(657) 工事はまだ完成していないのにこれを完成したものとしての取扱をし、年度内に請負代金を支払つたものが多いが、そのうちおもなものをあげると左のとおりである。
管区海上保安本部 | 工事 | 請負金額 | 支出年月 | 摘要 | |
(655) |
第一 |
神威岬無線方位信号所無線 |
円 1,057,000 |
年月 26.3 |
26年6月8日現在配線照明設備空中線工事は完成していない。(年度末出来高55%) |
(656) | 同 | 霧多布無線方位信号所機器取付 | 338,000 | 〃4 | 26年6月18日現在着工していない。 |
(657) | 同 | 松前小島灯台改修 | 1,908,000 | 〃3 〃4 |
26年8月10日現在退息所電灯工事は完成していない。(年度末出来高40%) |
計 | 3,303,000 |