本院において、昭和26年12月から27年11月までの間に、国及び政府関係機関等の歳入、歳出等に関する計算書及び証拠書類を検査したものは17万4千余冊、6千6百余万枚である。
会計検査に伴い関係者に対し質問を発したものは1万1千余件である。
このようにして検査した結果、ここに不当事項及び是正事項として記載するものを所管別、団体別にあげると
所管又は政府関係機関 | 租税 | 未収金 | 予算経理 | 工事 | 物件 | 役務 | 補助金 | 不正行為 | その他 | 計 |
裁判所 | 件 | 件 1 (1) |
件 | 件 1 |
件 | 件 | 件 | 件 1 |
件 | 件 3 (1) |
総理府 | 1 | 1 | 22 (3) |
10 (1) |
2 | 1 | 5 | 42 (4) |
||
法務府 | 1 | 1 (1) |
1 | 6 | 1 | 10 (1) |
||||
大蔵省 | 308 (308) |
8 | 66 (2) |
18 | 2 | 402 (310) |
||||
文部省 | 2 | 1 | 4 | 1 | 8 | |||||
厚生省 | 23 (13) |
1 | 1 | 1 | 3 | (1) 6 |
2 | 1 | 38 (14) |
|
農林省 | 2 (1) |
5 | 19 (4) |
14 (6) |
9 | 272 (23) |
5 | 326 (34) |
||
通商産業省 | 2 | 1 | 3 | 1 (1) |
1 | 8 (1) |
||||
運輸省 | 1 | 3 | 42 | 46 | ||||||
郵政省 | 1 | 3 | 1 (1) |
18 | 23 (1) |
|||||
電気通信省 | 3 | 4 | 4 | 3 | 14 | |||||
労働省 | 28 (28) |
1 | 6 | 35 (28) |
||||||
建設省 | 18 | 4 | 11 | 173 (33) |
206 (33) |
|||||
日本専売公社 | 1 | 2 (1) |
3 (3) |
4 | 10 (4) |
|||||
日本国有鉄道 | 4 (3) |
1 | 6 | 8 (2) |
6 (4) |
2 | 27 (9) |
|||
計 | 309 (308) |
62 (47) |
40 | 62 (7) |
23 (12) |
27 (8) |
500 (58) |
72 | 4 | 1,198 (440) |
備考 | (1) 件数は決算検査報告の番号の数による。 |
(2) 農林、運輸、建設各省所管一般会計のうち総理府に支出を委任した分は総理府に、大蔵省所管米国対日援助見返資金特別会計のうち建設省に支出を委任した分は建設省に含めた。 | |
(3) ( )内の件数は是正事項の件数を内書したものである。 |
であつて、合計1,198件に上り、国民の租税をおもな財源とする国及び政府関係機関の会計においてこのように不当な経理の多いことは、はなはだしく遣憾にたえないところで、これらは主として法令若しくは予算の軽視又は責任観念の低下に因るものと認められる。
右1,198件のうち、特に注意を要する事項を概括して記述すると次のとおりである。
第2 収納未済
一般会計の収納未済額は630億2千6百余万円で、そのうちおもなものは、租税収入552億8千1百余万円、公共団体工事費分担金50億8千2百余万円、公団等整理収入11億6千1百余万円、病院収入4億4千2百余万円、弁償及返納金2億8千5百余万円、官有財産売払代2億6千7百余万円、官有財産貸付料1億9千4百余万円、納付金1億2百余万円である。収納未済額の徴収決定済額に対する割合は約6.5%に当り、前年度の約7.2%に比べやや好転したが、国の財政の現状にかんがみ、その徴収の促進については、なお一段の努力の要があるものと認められる。
各特別会計の収納未済額は165億1千6百余万円で、そのおもなものは、食糧管理の食糧売払代61億5百余万円、厚生保険の保険料収入29億5千6百余万円、アルコ−ル専売事業の事業収入10億5百余万円、失業保険の保険料収入8億4千余万円、財産税等収入金の租税及び財産収入8億2千6百余万円、国有林野事業の業務収入4億5千9百余万円、労働者災害補償保険の保険料収入4億2千1百余万円であつて、一般会計及び各特別会計を会計すれば、その収納未済額は795億4千3百余万円となり、更に、徴収決定をしていないものを考慮すれば、事実上の収納未済額はなお多額に上るものと認められる。
徴収決定額の適正でなかつた事例の多いものは、租税を除いては、健康保険、厚生年金保険、船員保険、労働者災害補償保険及び失業保険の各保険料で、保険料算定の基礎となる賃金について事業主の調査や他の関係機関との連絡が十分でなかつたため徴収不足をきたしたものである。叉、すみやかに徴収処置をとるべきであるのに、基本となるべき事実調査の不十分、収納に関係ある職員間の事務連絡の不十分などのために徴収決定の遅延している事例や、既往年度に過払や誤払をしたものについて精算や返納の処置がとられていないものがある。これらの事例については、それぞれ本院の注意により是正されているが、なお一般的に事実調査や部内外の連絡並びに収納の督促等については一層の留意が望ましい。
第3 契約の締結
契約締結の基本となる予定価格の積算に当り、数量、規格の検討、あるいは市場価格、前回の入札価格等の調査が不十分なため、ひいて必要以上に高価な対価を支払い、又は市場価格に比べ低価に売り渡したものが少くない。
競争契約においては、予定価格は契約価格を左右するものであるが、その見積において工事材料、人工、運搬費等で算定緩に過ぎ論議の余地があると認められるものが相当あり、その見積の適正を期し、執行方法に留意を要するものがある。
又、競争契約の執行に当り、関係業者に入札を周知させる方法に考慮の足りなかつたものがあつたり、履行期限など入札条件について必要以上の制限を附したものなどもあり、競争契約の本質にかんがみ留意を要するものがある。
契約締結後においても、契約内容が事情の推移により事態に適合しなくなつたため契約更改等の処置をとるべきであるのにそのままとなつていて国に不利益をきたしているものや、相手方の履行が完全に行われないときは、履行の補正、代金の値引その他適宜の処置をとらなければならないのに、実施担当者が適確な検収を怠つたり、契約担当官に対する連絡が十分でなかつたなどのため、契約金額をそのまま支払つている事例が多い。
第4 不急不用又は不経済な経費の使用
計画よろしきを得ず又は調査不十分などのため、不急不用の工事の施行や不経済な物資の輸送、保管をしたり、不急不用の業務用資材その他の物品を購入し、そのため遊休化したり多量の在庫品を翌年度に持ち越したりしている事例が、別項に記載したとおり公共事業や企業の実施部局等に特に多く見受けられる。このような不急不用又は不経済な経費の使用は、いずれも予算の効率的な使用に対する担当者の留意が足りなかつたことに基因するものであつて、予算の執行に当つては計画、調査の万全を期し、経費の節約に努める必要がある。
第5 物品の経理
物品出納簿と現品が符合しなかつたり、物品を帳簿外に保有してこれを使用する事例は事業物品等において特に多く見受けられるが、物品の保管についても保管責任者が明確でなかつたり、保管方法が適切でないため保管物品の品質を低下させたり、又は使用に耐えなくなつているものがありながら、当務者のこれに対する関心が薄かつたり、又、外部からの盗難を被つたり、内部職員によりほしいままに領得される事故が発生しながら、責任の追求又は防止対策が十分に行われていないものがある。又、在庫品が往々退蔵のままになつていて、活用することができるもの、売渡処分を適当とするものなどの区分整理を励行するなどして、在庫品の効率的運用について考慮を要する事例もある。
物品の経理がとかく粗漏となりがちであるのは、関係法令の不備や現品のは握が必ずしも容易でないことなどに因る面もあるが、一般に物品の取扱は現金に比べ軽視される傾向があり、その経理に関し、特に関係職員の関心を喚起する必要がある。
第6 公共事業費
公共事業費の昭和26年度支出済額は、1027億9千3百余万円で、9億5百余万円を翌年度に繰り越し、9千8百余万円を不用額としている。
右支出済額の内訳は、事務費28億1千余万円、一般公共事業費541億2千1百余万円、災害復旧公共事業費385億7千2百余万円、北海道開発公共事業費72億8千9百余万円であつて、事業のおもなものは、建設省所管の道路河川改修工事及び災害復旧工事、農林省所管の各種改良工事及び災害復旧工事、運輸省所管の港湾改修工事及び災害復旧工事である。
本事業の実施についてその経理状況をみるに、国の直営工事において架空の経理を行つて資金をねん出し、これを他の経費等に使用した事例については、別項に記載したとおり前年度に比べ相当是正の跡は認められるが、なお総額1億余万円に上つている。
次に、工事の施行状況をみるに、国の工事において工事の監督又はしゆん功検査が不十分なため設計に対し出来高不足をきたしたもの、設計又は施行に当つて、工事箇所の状況、施行の方法について調査が不十分なため工事が手もどりとなつたり、工事費の増大をきたしたもの、あるいは施工に際し当初の予定を変更すべき事態を生じてもその手続をとらなかつたものなどのため工事費を徒費する結果となつたものが少くなく、このような事例については、工事の計画、設計に当つては調査の周到を期するとともに工事の施行に当つては監督、検収を厳にし、又、工事施行の時期、請負業者の選定等に留意するなど公共事業費の効果的な使用に努める必要がある。
第7 補助金
国が負担金又は補助金として昭和26年度中に地方公共団体、組合等に交付した金額は、地方財政平衡交付金を除き、一般会計及び特別会計を合わせ総額1356億3千4百余万円に上つている。
これら補助金等の交付に当り、特に、その対象となる事実の審査、交付時期、交付後の監督及び精算等の諸点において適正を欠いているため、補助金の返納又は減額を要するものなどが後述のとおり総計3億余万円に上つているのは遺憾である。
右のうちでも、特に災害復旧事業費に対する補助については、別項に記載したとおり、農林、運輸及び建設各省所管において、災害を受けた事実の認められないものや、災害復旧とは認められない改良又は維持工事を災害復旧事業として補助金交付の対象とした事例や、原形超過工事を原形復旧工事として処理し、あるいは、設計どおりに施行されていないのに施行されたこととして処理したため、補助金の超過交付となつていたり、事業主体が正当な自己負担をしていない事例など、補助金等の交付及びその処理について適正を欠くものが多い。
特に、災害復旧事業においては、緊急を要するためいわゆる机上査定によるものが多く、このため補助を受ける側の設計が過大となる傾向があり、他面、補助金交付事務に当る国の会計機関に補助を受ける側の都道府県の吏員を充てることが通例であるため、過大に交付された補助金に対する是正の処置が十分にとられないきらいがある。このような事態に対し、主管省の現状としては、現場について実地に査定を行う余裕に乏しく、又、しゆん功検査についても工事完成後相当期間を経過しなければこれを行うことができない実状にあるので、適切な処置をとるとともに、地方公共団体側に補助金交付事務についての責任を厳重にさせ、且つ、著しく信義誠実を欠いていると認められるような事務執行の場合には相当厳重な処置をとることが望ましい。
なお、市町村、組合等の施行した工事については、適正とは認められない処理をして正当な自己負担を避ける傾向等が認められるので、地方監督機関はこれらの事業主体に対する指導監督についてなお留意する必要がある。
第8 架空の名義による支払その他不法の経理
経費予算や前渡資金から架空の名義で支払に立て、これを別途に保有して自由に使用したり、債権者に支払うべき歳出金や歳入として処理すべき収納金等を一時手元に保留し、これを他の経費等に流用するなど事実に合致しない不法の経理を行う事例については、昭和23年度以降の毎年度決算検査報告にこれを掲記するとともに、関係庁に対してもその根絶を要望してきたのであるが、後述のとおり、なおその跡を断つていない。
従来、工事費から人夫賃や材料購入費名義の支払により資金をねん出し、これを工事請負代金や人件費等他の経費等に使用する事例の最も著しかつた地方建設局の工事事務所及び電気通信省施設局建設部においては、本院の重点的検査による多数事例の摘発に対応し、当局においてもその是正と防止に努めたため、相当改善の跡が認められるが、地方建設局の工事事務所においてなおこのような経理をしたものが18箇所に上り、国税庁及び管下の局署や農林省管下の開拓又は干拓建設事業所等においても多額に及ぶ同種の事例が見受けられる。又、営林局で素材の買受希望者から概算代金を受領し、これを別途に保有して人夫賃、物品購入費等国の経費に流用したり、国立病院において診療収入金を直ちに歳入に払い込まず、別途にこれを保有して工事費、会議費等に流用するなどほしいままに経理を行つたものが、別項に記載したとおり相当件数に上つている。
このような事実に合致しない不法な経理のうちには、必要経費の不足や経理手続が煩わしいことを事由としているものもあつて考慮を要する点もあるが、主として業務運営の責任者や経理の担当者が法令や予算を軽視したことに因るものであつて、これに対しては、関係庁において責任の追求を厳にするとともに、会計職員の教育と経理の監督に留意し、不正行為の誘因ともなるこのような不法経理のすみやかな根絶を図るべきである。
第9 職員の不正行為
会計事務に関係ある職員が不正行為に因り国又は政府関係機関に損害を与えたもので本検査報告に掲げたものは72件、その金額は1億2920余万円に上り、昭和27年10月末現在補てんされた額は2450余万円である。
不正行為の多いのは郵政省の3330余万円、税務署の2480余万円、厚生省の1230余万円、法務省の980余万円、日本専売公社の970余万円である。不正行為の方法をみるに、
(1) 関係職員が上司の小切手用紙及び官印等の管守が不十分なのに乗じてそれを盗用して偽造小切手を振り出して金銭をへん取したり、
(2) 関係職員が上司の支払関係資料等の点検不十分なのに乗じて、又、自ら支払関係資料を偽造したり破棄したり、あるいは正当支払資料の金額を改ざんして支払の決裁を受けて現金を領得したり、
(3) 収入に関係ある職員が窓口収入金又は派出徴収現金等を受入計理しないで領得したり、
(4) ちよう付すべき収入印紙相当額を現金受領して領得したり、
(5) 現金又は物品の保管者がかい帯逃亡したりしているものがそのおもなものである。
右に対しては、会計職員の資質の向上を図り、責任観念を高揚することは当面の急務であるが、不正行為を誘発した事由をみるに、そのおもなものは、収入、支払関係証拠書面についての管理やその使用方法の監督が行き届かないままであつたり、収入支出関係帳簿の整備、記帳整理が不適確であるのがそのままとなつていたり、内部けん制組織、輪番服務制がありながら、それが励行されていなかつたりしている点にあることにかんがみ、会計経理の監督に当る者及び業務運営の指揮に任ずる者はそのような点についての内部事務監督を厳正適確に執行して会計関係職員の信用を失墜しないようにすることが緊要である。