(部)政府資産整理収入 (款)国有財産処分収入 (項)国有財産売払代
旧陸軍省、海軍省および軍需省の所管に属していた機械器具は、昭和27年度初頭における平和条約の発効に伴って従来賠償物件に指定されていたものも自由処分が可能となり、その結果、全国各財務局で同年度内に売渡処分したものは約5万個価額23億8千8百余万円であって、大蔵省所管の国有財産売払代の徴収決定済額54億6千9百余万円に対し43%強に当っている。
右処分の状況を検査すると、大蔵省の売渡価額の評定は、まず当該機械器具の新品価格(複成価格)を見積り、これから欠品破損補修見積額を控除した残額に定率法による経年減価後の残存価格率を乗じて算出する取扱であるが、各財務局におけるその実施状況をみると、右新品価格の見積を当該機械器具の製作者等について調査のうえ評定したものは少なく、多くは過去の統制額等に大蔵省が指示したその後の値上り指数を乗じて得た額を採用している。しかし、右指数は低きに過ぎ、ひいて売渡価額が低価になっていると認められる事例が少なくない。
いま、大蔵省指示の値上り指数を検討すると,機械の価格構成を資材費、労務費および総経費に分け、昭和23年以降の指数は対前年の変動率によって算出しているが、23年の指数の算出にあたり、前年に対する機械器具製造工業の勤労者の平均賃金の変動率を計算するのに労働省調査の23年5月の平均賃金程度のものを前年の数値とし、これと23年6月から8月までの平均賃金とを対比して1.3倍としている。しかし、22年中の平均賃金と23年中の平均賃金とを対比すると、23年のものは前年の2.7倍程度となっていて23年以降の指数は22年以前に製作された機械で製作時の新品価格を基礎とする場合において適切でなく、ひいて27年度適用の指数(26年の指数を使用)において35%から65%程度低率となっている。
しかして、この指数によって計算した新品価格を基準として算出した予定価格により競争に付したものの落札価格は相当に上回っており、また、随意契約によった物件は競争に付したものに比べておおむね優位にあったと認められるにもかかわらず、指数計算によって算出した価格をそのまま売渡価額としたため著しく低価となっているものと認められる。機械器具の処分価額の適正を期するためには競争に付することが望ましいが、産業の保護奨励等の必要から競争に付さないで随意契約による場合は、右競争の実績にかんがみ、指数計算によるだけでなく機械製作者等精通者の意見ならびに需給の状況をも勘案して慎重に処理すべきものと認められる。
本院は、需要の多い産業機械および比較的優秀と認められる工作機械について重点的に検査し、現品について観察するとともに、当該機械の製作者等精通者について調査したが、その結果による新品価格を基準として価額を計算すると売渡価額に比べ著しく上回るものが多いが、仮に当局者の指数計算にならいその指数は前記平均賃金の変動率の誤りを是正したものによって計算してもなお相当の開差を生ずる状況である。
右のほか、新品価格(複成価格)の算定等を誤り、評価の適正を欠いたため売渡価額が低価となっているものがある。
そのおもなものをあげると次のとおりである。
(1) 値上り指数の計算が適正でなかったもの
庁名 | 所在地 (口座名) |
品名 (規格等) |
数量 | 売渡年月 売渡先 |
区分 | 新品価格 | 欠品破損補修見積額 | 経年減価後の残存価格率 | 売渡価額 | |
年 月 | 円 | 円 | 円 | |||||||
(68) | 関東財務局 | 東京都 (元東京第一陸軍造兵厰十条工場) |
交流発電機 3相、250KVA、20極、360回転、3、300V、昭和18年株式会社日立製作所製 ほか7 |
8個 | 27.12 | 当局者 | 7,693,880 | 1,298,000 | 0.241から 0.355まで |
2,200,000 |
東京製紙株式会社 | 本院 | 11,864,472 | 1,793,000 | 同 | 3,414,722 | |||||
差額 | 4,170,592 | 1,214,722 | ||||||||
(69) | 同 | 同 (同) |
交流発電機 3相、150KVA、16極375回転、3,300V、昭和17年富士電気製造株式会社製 ほか1 |
2〃 | 27.11 | 当局者 | 2,460,000 | 0 | 0.282から 0.316まで |
735,540 |
株式会社電業社 | 本院 | 4,083,600 | 0 | 同 | 1,220,996 | |||||
差額 | 1,623,600 | 485,456 | ||||||||
(70) | 近畿財務局 | 大阪市 元大阪陸軍造兵厰 |
ボイラー 水管式、伝熱面積4,020平方フィート、蒸発量10トン、1908年英国バブコックアンドウィルコックス製 ほか10 |
2〃 | 27.9から 28.2まで |
当局者 | 63,668,000 | 3,183,400 | 0.200 | 12,100,000 |
三島製紙株式会社ほか5名 | 本院 | 92,318,600 | 4,615,930 | 同 | 17,545,000 | |||||
差額 | 28,650,600 | 5,445,000 | ||||||||
(71) | 東海財務局 | 豊川市ほか3箇所 元豊川海軍工厰ほか3箇所 |
単軸自動旋盤 加工棒の径25ミリメートル、1939年米国ブラウンシャープ製 ほか73 |
74〃 | 28.3 | 当局者 | 160,686,400 | 43,804,700 | 0.193から 0.468まで |
34,321,300 |
日本電装株式会社 | 本院 | 221,888,960 | 61,039,180 | 同 | 47,208,060 | |||||
差額 | 61,202,560 | 12,886,760 | ||||||||
(72) | 同 | 同 (同) |
型彫盤 テーブルの大きさ1,670ミリメートル×380ミリメートル、1939年米国ブラットアンドホイットニー製 ほか41 |
42〃 | 27.12 | 当局者 | 103,135,320 | 9,286,500 | 0.219から 0.426まで |
30,088,100 |
トヨダ自動車工業株式会社 | 本院 | 142,789,448 | 12,935,180 | 同 | 41,469,820 | |||||
差額 | 39,654,128 | 11,381,720 | ||||||||
(73) | 同 | 豊川市ほか1箇所 元豊川海軍工厰ほか1箇所 |
横フライス盤 テーブルの大きさ1,370ミリメートル×290ミリメートル、1940年米国カーネーアンドトレッカー製 ほか12 |
13個 | 28.3 | 当局者 | 27,019,976 | 2,189,429 | 0.219から 0.515まで |
7,225,098 |
ダイハツ工業株式会社 | 本院 | 37,827,966 | 3,065,200 | 同 | 10,115,137 | |||||
差額 | 10,807,990 | 2,890,039 | ||||||||
(74) | 中国財務局山口財務部光出張所 | 光市 元光海軍工厰 |
天じょう走行起重機 主巻100トン、補巻25トン、径間21メートル、揚程8メートル、昭和19年株式会社日立製作所製 ほか2 |
3〃 | 27.12 | 当局者 | 34,893,400 | 4,550,630 | 0.617 | 18,328,500 |
川崎製鉄株式会社 | 本院 | 48,376,733 | 6,137,493 | 同 | 25,582,515 | |||||
差額 | 13,483,333 | 7,254,015 | ||||||||
(75) | 北九州財務局小倉、直方両出張所 | 小倉市ほか2箇所 元小倉陸軍造兵厰ほか2箇所 |
空気圧縮機 横型500馬力、圧力7キログラム毎平方センチメートル、昭和16年株式会社日立製作所製 ほか4 |
5基 | 27.6から 〃9まで |
当局者 | 17,158,511 | 2,105,325 | 0.363から 0.447まで |
6,327,658 |
小倉製鋼株式会社ほか2名 | 本院 | 22,480,929 | 2,838,128 | 同 | 8,315,467 | |||||
差額 | 5,322,418 | 1,987,809 |
(2) 新品価格(複成価格)の算定等を誤ったもの
(76 ) 関東財務局横浜財務部横須賀出張所で、昭和27年12月、随意契約により三菱日本重工業株式会社横浜造船所に横須賀市所在元横須賀海軍工厰のディーゼル機関付発電機1基を4,925,370円で売り渡しているが、右売渡価額評定の基礎となった新品価格の見積が適切でなかったため、ひいて売渡価額が著しく低価となっている。
右機械は、26年7月以降三菱日本重工業株式会社横浜造船所で使用していたものを同会社に売り渡したものであるが、右売渡価額算定の内容をみると左のとおりである。
品名 | 規格 | 製作年次 製造所名 |
新品価格 | 欠品破損補修見積額 | 能力差による減額 | 残額 | 残存価格率 | 売渡価額 |
ディーゼル機関 |
マ式3号、10気筒、2,000馬力、333回転、行程600ミリメートル |
昭和19年 川崎重工業株式会社 |
円 18,501,000 |
円 9,686,000 |
円 1,763,000 |
円 7,052,000 |
0.468 |
円 3,300,336 |
交流発電機 | 3相、1,700KVA、6,600V、18極、333回転 | 昭和19年 三菱電気株式会社 |
9,165,000 | 3,782,000 | 1,300,000 | 4,083,000 | 0.398 | 1,625,034 |
右のうち新品価格は、買受会社について調査したものを基礎としているが、買受会社についてだけ調査したことは妥当の処置でなかったばかりでなく、その計算内容についても論議の余地がある。本院でこの種機械の製作業者について本件規格のものの売渡時における新品価格を調査したところ、ディーゼル機関は47,200,000円、発電機は14,500,000円程度であり、通商産業省重工業局について調査した価格もこれを下らない状況であって、これに比べ当局者採用の新品価格は著しく低価となっている。
いま、仮に本院調査による新品価格を基準とし、これから買受会社提出の売渡時に換算した実績による欠品破損補修額、ディーゼル機関11,539,600円、発電機5,700,000円を控除し、更に当局者採用の能力差の減額率をそのまま採用して計算すると、ディーゼル機関は13,351,253円、発電機は2,706,400円計16,057,653円となり、本件売渡価額はこれに比べ約1100万円低価に当っている。
なお、本件機械の26年7月から28年1月売渡代金収納時までの使用料が徴収決定未済となっていたので注意したところ、11月876,953円を収納した。
(77 ) 中国財務局呉出張所で、昭和27年8月、随意契約により尼ヶ崎製鉄株式会社に呉市所在元呉海軍軍需部の塔型起重機1基(固定式、巻揚荷重20トン)を2,853,000円で売り渡しているが、右価額評定の基礎となった新品価格の見積が適切でなかったため、ひいて売渡価額が著しく低価となっている。
右起重機は、株式会社東京石川島造船所(現在は石川島重工業株式会社)の昭和16年製で、当局者が採用した売渡時における新品価格は、26年5月同会社について調査した額トン当り280,000円に巻揚荷重20トンを乗じ、その後売渡時までの値上りを15%とみて計算した価格6,440,000円と当局者の採用した他の計算方式による価格とがほぼ一致したのでその平均を採り6,472,300円としたというのであるが、前記トン当り価格は製品の重量トンに対するものであるから、新品価格を計算するにはこれに製品重量を乗ずべきであるのに巻揚荷重を乗じた不備があり、また、他の計算方式においても製品重量や値上り指数が実際に適合しない欠点がある。
本院で製作者石川島重工業株式会社について調査したところ、本件の製品重量は85.5トンであるから、これを前記トン当り単価に乗じ、その後の値上りを15%として計算すると新品価格は27,531,000円となるが、右計算は運行式のものであり、本件は固定式であるから、前記価格の15%減として計算すると約2340万円となり、また、本院で精通者について調査した新品価格は2250万円程度である。よって、新品価格を22,500,000円とするときは、右価格の増加に対応して欠品破損補修見積額も増大すると認められるので、当局者が1,294,460円を控除したのに対し、本院は比率計算によって4,500,000円を控除し、その残額に当局者採用の経年減価後の残存価格率0.551(耐用年数35年、経過年数11年)を乗じて計算すると9,918,000円となるが、更に当局者が控除しなかった買受会社提出の解体運搬費見積額296,200円を控除しても9,621,800円となり、これに比べて本件売渡価額は6,768,800円低価に当っている。
(78 ) 中国財務局山口財務部徳山出張所で、昭和28年1月、随意契約により東洋曹達工業株式会社に徳山市所在元第三海軍燃料厰の限流リアクトル5基(3個を1基とする。)を500,700円で売り渡しているが、右売渡価額評定の基礎となった新品価格の計算に誤りがあったことなどのため、ひいて売渡価額が著しく低価となっている。
当局者の採用した新品価格1,720,000円は、本件の製作者である株式会社日立製作所について調査した額を採用したこととなっているが、著しく低価と認め本院において同会社について調査したところ、右は単相のもの5個の評価であったのにこれを5基15個(新品価格は2,820,000円程度)の価額と誤認してそのまま採用したものであり、また、経過年数にも誤算があったことが判明した。
いま、仮に本院調査の新品価格ならびに経過年数を基礎として当局の計算例にならい価額を計算すると89万余円となり、これに比べ本件売渡価額は約40万円低価に当っている。