昭和27年12月から28年11月までの間に、検査の結果、法令、制度または行政に関し改善を要する事項があると認め、会計検査院法第36条の規定により主務官庁に意見を表示し、または改善の処置を要求したものは次のとおり2件である。
(1) 厚生保険特別会計ほか1特別会計の責任準備金の積立について(昭和28年4月16日付検第28号厚生大臣あて)
厚生保険特別会計および船員保険特別会計の年金給付は、長期の保険給付を目的として運営されているものであるから責任準備金の計算を明らかにすべきであるのに、まだその計算がされていないため損益の実体が明らかとなっていない。ついては、すみやかに責任準備金の計算をし、財務諸表の適正な表示をするよう処置する要がある。
(2) 補助行政における支出負担行為等について(昭和28年7月25日付検第72号大蔵、文部、厚生、農林、運輸、労働、建設各大臣あて)
昭和26年度決算検査報告には国の補助金、負担金等の経理についての不当事項約500件を掲記したが、いまここにその主要部分を占める公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法(昭和26年法律第97号)等に基く負担金等の経理についての不当事項448件の類別を示すと、
まず、工事計画の部面においては、実際に災害を受けていない箇所の工事や事実改良工事と認められる工事を災害復旧として取り扱った便乗工事があったり、また、実際に必要以上の工事量や工事費を積算して事業費の査定を受けたり、はなはだしいのは同一工事箇所について所管省を異にして二重に補助対象工事として採り上げられたり、あるいは過大な設計によって負担金等の増額を企図したり、その設計が粗漏であったりする事例があり、ことにこの事例は災害復旧工事費のうち法定の負担率等による国の負担金等を差し引いた残額についての自己負担の地方財政のひっ迫から困難と認められるような町村等に多い。
つぎに、工事の実施の部面においては、工事の出来高が設計に比べ不足したり、その施行が粗漏で再度災害を被るおそれのあるものが多いのに、それがそのままみのがされている事例が多い。
いま、このような事例をひん発した事由を主務省の行政面から検討すると、事業費の査定は唯一に主務大臣の権限とされているが、主務省の現況においては、工事量および工事費について適切かつ責任ある査定をすることはとうてい至難なことで、現に、そのほとんど大部分のものが机上査定によっていて、その査定が実状に適合しないこと、工事の実施においても現場検査が行き届かず粗漏工事がそのままみのがされてしゅん功の取扱となっていることならびにじん大な災害を受けた町村等の事業主体には国庫負担金等の負担率等がその財政力に適応しない場合もあることなどがあげられるが、これらの事態については、主務省の行政運営上の改善を緊要とするものである。
つぎに、これを会計経理の面から検討すると、補助金、負担金等の「国の支出の原因となるべき契約その他の行為」を担当する支出負担行為担当官は、もともと
(ア) 工事量および工事費の検討
(イ) 負担金等についての債務負担の意思表示
(ウ) 反対給付である補助工事完成の確認
についての職責を有すべきものと認められるものであるが、公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法または農林水産業施設災害復旧事業費国庫補助の暫定措置に関する法律(昭和25年法律第169号)に基く負担金等の交付については、法令により当該事務の主要部分を主務大臣の扱いと定めていて、支出負担行為担当官の職責との分界または関連が不明確なまま運用されていることに欠陥を認めざるを得ない。すなわち、前記のような不当事項をひん発した災害復旧工事費については、支出負担行為担当官は県の土木部長、農地部長等の地方吏員となっているが、これらの地方吏員は単に主務省のそれぞれの事業主体に対する補助指令に基いて形式的に支出負担行為の整理をしているだけであって、負担金等の交付額の決定について手落ちのあった責任者はだれか、また、負担金等を交付した対象工事等の完了を認定して交付金過不足の整理をして負担金等交付の会計処理を完結させる機関はだれで、かつ、それは経理のどの段階でいつまでにされるべきものであるかなどが判然としないところにこれらの遺憾な事実が発生しやすく、また、発生していても是正処置が迅速に講ぜられないうらみがある。
このような事態は、農林、建設両省所管の負担金等に最も事例が多いが、文部、厚生、運輸、労働各省所管においても同様留意を要する状況にある。
よって、それぞれ行政運営上の改善を策するとともに、支出負担行為担当官を設置した目的を同担当官をして十分に遂行することができるようにその職務の範囲および負担金等に関する法令と会計法規との関連を明らかにし、あわせてこの運用に遺漏なきを期する要があると認める。