(昭和27年度) (組織)保安庁 (項)警察予備隊施設費
(組織)保安庁 (項)保安庁施設費
保安庁の建設工事は、保安庁自体で行うものと建設省または北海道開発庁に委託して設計実施しているものとあるが、その実施状況をみると、設計が当を得ないため過大な工事を施行したと認められるもの、工事の監督および検収が適正に行われないまま工事代金の全額を支払ったものなどがあり、また、さしあたり着工の見とおしがないのに年度末に迫って請負契約を締結し多額の前金を交付するなど予算の消化を急ぐためと認めざるを得ない事例がある。
(18)
保安隊第二管区総監部で、昭和28年8月塚本組に請け負わせて施行した留萠射撃場新設工事の代金10,006,000円は、工事が完成したものとして29年1月までに契約金額の全額を支払っているが、29年9月に至ってもまだ完成していない。
右工事は、留萠市エトウエンベツに300ヤードの射撃場を新設するため、傾斜地の切土ならびにえん体の盛土等を施行するもので、28年12月にしゅん功したものとして代金の全額を支払っているが、29年9月本院会計実地検査当時においても切土2,736立米、盛土1,631立米等工事費579,180円相当分が不足しており、まだ工事中の状況であった。
当局者は、29年1月しゅん功検査当時積雪が深く、一応の検収はしたが、万一の場合に備えて念書を徴してしゅん功したものと認め代金を支払ったというが、本件は相当多額の工事でもあり、工事の進行状況は工事監督者が当然は握しているはずであり、工事監督者が工事の遂行状況を熟知していれば、工事内容が簡単な形状の切土、盛土等であるから、積雪が深かったにせよ出来形程度の検収が不可能であったとは認められない。もし、右検収が不可能な程度の積雪が続いていたとすれば、工事自体も完全に施行されることは困難と認められるのに代金は全額を支払い、工事は29年9月に至っても未完成の結果となっている。このような事態を生じたのは、工事の監督および検収が適切に行われなかったためと認められる。
(19)
保安隊第四管区総監部で、小郡駐とん部隊深井戸増設工事および増設水源ポンプ新設その他工事を3,312,000円で昭和28年9月および11月日本鑿泉探鉱株式会社ほか1会社に請け負わせて施行しているが、右深井戸増設の緊要性は認められない。
右部隊の給水施設としては、さきに28年3月および7月、九州地方建設局で、工事費3,790,000円で同部隊用地内に1日480トンの所要水量を見込み、径8インチ、深さ60メートルの深井戸を掘さくしたものがあり、そのストレーナーの閉そくのおそれがあるとし、予備として本件深井戸を用地内の別箇所に径10インチ、深さ60メートルとして掘さくし、25馬力のボアホールポンプのすえ付け等を行い、1日660トンの取水を行うこととしているものである。しかし、ストレーナーからの土砂の流入防止は既設の工事で一応考慮されており、保安庁の各部隊の例をみても深井戸の事故に備えて予備井戸を施設したものはなく、特に前記部隊について本件工事を実施する必要があったものとは認められない。
なお、本件深井戸は、既設の井戸と同様地下54メートルから58メートルまでの間の同一帯水層のゆう水を汲み上げるものであって、既設井戸の取水実績は1日800トン程度のゆう水があり、部隊の所要計画量500トンをこえている。
(20)
北海道開発局で、旭川、恵庭、島松、千歳、名寄地区汽缶設備工事を昭和27年8月、田熊汽缶製造株式会社に219,967,000円で請け負わせて施行しているが、本件工事のうちの千歳および名寄両地区の汽かん設備91,508,000円については、その容量を過大に設計したため約1500万円が不経済な支出となっている。
右工事は、各地区駐とん部隊の暖房、給汽、給湯設備のため水管式汽かん3基を設備したもので、千歳地区分は「HN−200型」(常用蒸発量毎時6,000キログラム、最大蒸発量毎時7,500キログラム)、名寄地区分は「HN−250型」(常用蒸発量毎時7,500キログラム、最大蒸発量毎時9,000キログラム)をすえ付けたものであるが、部隊の蒸気所要量は全負荷時において、千歳地区は毎時13,400キログラム程度、名寄地区は毎時15,200キログラム程度であるから、千歳地区は「CD−150型」(常用蒸発量毎時4,500キログラム、最大蒸発量毎時5,500キログラム)、名寄地区は「HN−200型」で足りたものと認められる。
右のように過大な汽かんを設備したため燃料消費量もかさむ結果となるが、これは別として、千歳地区に「CD−150型」、名寄地区に「HN−200型」を設備したとすれば工事費において約1500万円を節減することができた計算となる。
(21)
北海道開発局で、旭川地区N・P・R・A・1屋外暖房ダクト並に排水設備工事の施行にあたり、排水系路の設計変更を行なって約110万円の工事費を増額したものがあるが、設計変更の必要は認められない。
右は、同局で、昭和27年11月、清水建設株式会社北海道支店に9,190,000円で請け負わせた工事で、そのうちの排水工事についてみると、これは5,056,578円をもって隊舎、ちゆう房、食堂その他諸施設の汚水の排水設備を行うもので、原設計によると汚水はすべて部隊付近の道路側こうに排水する計画であったが、施行に際し、流路断面図も作成しないままこう配が十分でないとして一部排水系路を変更し、各隊舎の汚水を約500メートル離れた排水こうに排水することとして工事費1,095,258円を増額したものである。
しかし、原設計の系路をとっても地盤高と排水こう水面までの高低差は1.1メートルあり、排水管内における汚水の流速は毎秒0.6メートルとなる計算であって、こう配が十分でないとしたのは誤りであり実際は妥当なこう配と認めるべき事態であるから、前記のように排水系路を変更する必要はなかったものと認められる。
(22)
東北地方建設局で、弾薬庫土羽の築堤にあたって、法こう配を必要以上にゆるやかなものとしたため不経済な事態を招いているものがある。
右は、同局で、昭和28年3月、日東工業株式会社に請け負わせて施行した保安隊郡山施設第4回建築工事(火工場、しょう舎、弾薬庫および付属雑工作物の新設。請負金額9,666,020円)のうち弾薬庫土羽新設工事(予定価格積算額4,955,240円)についてみると、土羽の設計を築堤高3.75メートル、天端幅1メートル、法こう配1割7分として実施しているが、本件使用土質が格別不良ということはないのであるから、法こう配は建設省基準設計の1割程度で十分と認められるのに、土質について十分な検討をしないで傾斜度を決定したため盛土量の増大をきたすなど不経済な設計となっている。
いま、仮に1割こう配で施行すれば工事費約250万円を節減することができた計算となる。
(23)
関東地方建設局で、昭和29年3月、株式会社安藤組ほか13名に請け負わせた東京都世田谷区保安隊三宿施設A地区(病院その他)第1回建築工事ほか13工事(請負金額669,441,000円)については用地の問題が解決しないのに契約を締結し267,776,400円の前金払をしている。
本件工事は、29年3月25日および31日に契約し、大部分は即日着工することとしたものであるが、前記予定敷地は、東京都の特別都市計画施設緑地地域に指定されており、耕作地の離作補償問題等も未解決であって、契約当時においては着工期日の確たる見とおしはないのに多額の前金払をしたものであって、結局、年度末に至り予算消化を急ぐあまりの処理と認めざるを得ない。現に、29年9月当時に至っても着工に至らない状況である。