(組織)保安庁 (項)保安庁 ほか1科目
保安庁の物資器材は、その目的上高性能、堅ろう性、画一性等を要求される場合が多いが、調達されたものの規格をみると、その用途に適切な程度をこえて必要以上に高度のものを購入したり、組合せ使用する器材の間で双方の能力がつり合っていないためその高度の性能のものが結局能力に応じて効用を果すことができなくなったりしているものなどがある。これらは材質等の部分的な検討にとらわれて器材全体としての実際の性能のは握を欠いたり、あるいは米国軍の規格をいたずらに模したり、保安隊整備の実情に即した検討が十分でないためであって、警察予備隊発足以来の沿革が比較的新しいので人的にもまた技術的にもやむを得ない事情もあるとは認められるが、一層の注意と研究工夫が望ましい。
(38)
保安庁第一幕僚監部で、昭和28年3月から9月までの間に、不二商事株式会社ほか1会社に発動発電機「JPE−95」67台(単価1,257,000円から1,300,000円)を86,412,000円で製作させて購入しているが、発動機の規格が発電機の出力等に比べて過大に設計されたため約830万円が不経済となっている。
本件発動発電機の発動機は、これを10キロワット単相交流発電機に直結するもので、その規格を米国軍使用のものにならい、4気筒水冷式ガソリン機関でその標準軸馬力は30馬力以上、最大軸馬力は35馬力以上と定めたものであるが、右発電機の容量に対し発動機の効率等から推定すると機関の所要軸馬力は標準20馬力、最大25馬力程度で十分と認められ、本件機関の最大軸馬力35馬力は、標準軸馬力に換算すると、26馬力程度となり過大と認められる。このような結果となったのは標準軸馬力についての検討が十分でなかったためで、いま、仮に発動機の軸馬力を標準20馬力、最大25馬力程度とすれば、当局者の計算によるも発動機価格は1基約12万4000円となり、67基分では830万円程度を節減することができた計算である。
なお、本発動発電機67台のうち56台は、通信機「JAN/GRC−26」用として購入したものであるが、本件購入当時右通信機はその購入計画さえ確定していなかったのに本機だけを購入したものであって、右通信機は12月に至ってようやく35台を発注したが、その納期は29年11月となっている状況に照らしても、本件発動発電機だけを取り急いで購入する要はなかったものである。
現に、29年9月においてもそのほとんどが使用されることなく保管されているばかりでなく、その後米国軍の貸与もあり、これらを合わせて119台が通信補給処に在庫のままとなっている。
(39)
保安庁第一幕僚監部で、昭和28年11月および29年3月、国際電気株式会社ほか3会社に車両無線機セット「JSCR−608」を903台1,173,523,300円で製作させて購入したものがあるが、電源装置の電圧についての検討を欠き、セットのうちに不用と認められる24ボルト用コンバーター(単価66,500円)を含めて購入したため総額60,049,500円が不経済な支出となっている。
右無線機「JSCR−608」は、車両に塔載し、その直流電源を利用して通信を行うものであるが、米国軍の「SCR−608」の教範をそのまま翻訳して仕様書を作成し、米国軍の無線機と同様にトラック、特車両方に塔載することができるものとし、トラックに塔載するときは12ボルト用を、特車に塔載するときは24ボルト用を使用することができるよう2種類のコンバーターをセットに入れて購入したものである。
しかし、編成装備の実際をみると、特車には本機と周波数を異にする「JSCR−508」および「JSCR−528」を塔載することとなっており、本機を塔載する車種は現在トラック1/4トンおよび3/4トンだけであって、その電源はいずれも12ボルトであるから、セットとしては12ボルト用コンバーター一種類だけで足りたのに、漫然米国軍の仕様にならって必要のない24ボルト用をも含めたため前記のような不経済支出となったものである。
(40)
保安庁第一幕僚監部で、昭和27年8月、富士車両株式会社に1型21
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トン「ポールタイプ」二輪トレーラー217台を50,518,112円で製作させて購入したものがあるが、その制動装置が法令の定めた規格に合致しないため改修することとなり、結局、約370万円が不経済となっている。
右トレーラーは、トラックによってけん引される21
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トン車で、制動装置の規格を単独手動式として製作させたものであるが、道路運送車両の保安基準(昭和26年運輸省令第67号)によれば2トン以上の被けん引車にはけん引車との間に連動制動装置を設備すべきことと定められており、この規格に反するため株式会社金剛製作所に改修させて28年7月その代価9,721,600円を支出している。しかしながら、当初から連動制動装置とすれば、少なくとも右改修費のうちに含まれている改装のための手直し費1台当り5,200円および前記購入金額に含まれている手動式制動装置の材料費1台当り12,000円これらの総額約370万円は減額することができた計算となる。
(41)
保安庁第一幕僚監部で、昭和28年3月および11月、株式会社肥田製作所に鋼製予備部品箱462個(引出し付)および付属引出し639個を17,447,350円で製作させて購入しているが、材料に格別必要と認められない高級仕上鋼板を使用することとしたため約310万円が不経済となっていると認められる。
本件予備部品箱等は、武器または車両の予備部品を格納するものであるが、その材料の鋼板はすべて高級仕上鋼板を使用することとしている。右のような高級仕上鋼板は絞り加工をする場合には必要なものであるが、本品の加工工程をみてもこのような加工を施した箇所は見当らず、その使用目的からみて仕上面の美観等の点を特に考慮する要はないと認められるから、普通鋼板を使用しても格別支障があったものとは認められない。
いま、仮に普通鋼板に指定して購入したとすれば、当局の計算によっても約310万円は節減することができたものと認められる。
(42)
保安庁第一幕僚監部で、昭和28年3月、川崎機械工業株式会社にガス天幕140組を10,500,000円で製作させて購入したものがあるが、仕様が適切でなかったなどのため幕布の破損が多く著しく不経済な結果となっている。
右ガス天幕は、屋外においてガス訓練に使用されるもので、正方形の箱型に縫製し、その4ぐうを天幕の金属支柱につり下げて柱に結び付けることになっているが、風圧や展張等による張力がつり下げ箇所および結付け箇所に集中し、この部分の生地が容易に破損する結果となっているから、構造上にも原因はあると認められるが、生地に使用した平羽二重は仕様決定に先立って、塩素ガス中に48時間放置後の引張抗力等について実施した試験の結果、ガス訓練用天幕生地として適当でないことが明らかとされていたのに、特に軽度が必要であるとして強度の十分でないものを使用したことにもよるものと認められる。
本件天幕は、部隊内またはその近傍での訓練に使用されるものであるから、多少重量の増加する不利はあっても、強度を十分に考慮して設計すべきものであったと認められる。
(43)
保安庁第一幕僚監部で、昭和28年8月から29年2月までの間に、大塚産業株式会社ほか9会社にかや46,900張を総額74,032,938円で製作させて購入しているが、その仕様を一様に露営の際に携帯天幕内に張って使用する場合の規格、寸法としたため、日常部隊内での実際の使用状況に照らして規格寸法は著しく過大であって、不経済なものと認められる。
本品は、純麻かや生地を材料とし、野外で使用する目的をもって天幕の形状に一致させるように規格、寸法を定めたものであるが、携帯天幕は2人で1張を組み合わせて使用する仕様となっており、したがって、かやも野外用としては2人で1張を使用する計算で調達すれば足りるもので、これを日常部隊における室内用として兼用するとしても、室内においては1人1張を使用するのであるから、野外用として必要な数量をこえる分については1人用のもので足りるものと認められる。
しかして、本件購入当時の整備状況をみるに、定員11万名に対し、27年度末までに野外用(2人用)のもの113,295張を購入済であるから、28年度調達分については購入の必要があったとしても1人用のもので支障はなかったものと認められ、生地要尺も本件2人用のものが1張13ヤールであるのに対し、1人用のものは7ヤール程度で足り、価格も仮に海上自衛隊で使用(陸上兵舎用)している1人用箱形かやの例を採れば、本件の分1張1,570円程度に比べて1張950円程度であるから、総額約2900万円は節減することができた計算となる。
(44)
保安庁第一幕僚監部で、昭和29年2月、上杉繊維工業株式会社ほか5会社に中詰を黒綿としたマットレス26,300枚を総額50,034,200円で製作させて購入しているが、これをわら詰とすれば約2100万円節減することができたものと認められる。
本件マットレスは、綿厚織79Aの生地を使用し、黒綿3.8貫以上を詰めて縫い上げたものであるが、マットレスには病院用等特殊用途のものは別として中詰用にはわら等を使用しても特に支障があるものとは認められず、また、保温力および日常利用上の便宜等格別劣るものとは思われない。いま、仮に海上自衛隊において使用しているわら詰のものと同程度のものを購入したとすれば、1枚当りの単価は1,100円程度で、28年度購入分だけでも総額約2,100万円節減することができた計算となる。
(45) 保安庁第二幕僚監部で、左のとおり
工事 | 金額 | 契約年月 | しゅん功年月 | 支払年月 | 請負人名 |
150トン積水船1隻建造 |
円 15,800,000 |
年月 28,2 |
年月 28,5 |
年月 28,5 〃,6 |
飯野産業株式会社 |
150トン積水船2隻建造 | 30,950,000 | 〃,10 | 29,3 | 29,3 〃,4 |
日本海重工業株式会社(当初)、飯野産業株式会社(28,12契約更改後) |
250トン積水船1隻建造 | 4,509,000 | 〃,2 | 28,5 | 28,6 | 株式会社名村造船所 |
水船4隻を建造したものがあるが、その設計にあたり、揚水ポンプの揚程等の算定当を得なかったため、実際の揚水に支障をきたしほとんど使用しておらず、もし、当初から適切な設計をしたならば約300万円を節減することができた計算となる。
本件各水船はPF型船およびLSSL型船に給水する目的で新造したもので、その揚水設備としての揚水ポンプは揚程10メートルのボリュートポンプを装備することとして設計実施したものであるが、給水対象となったPF型船には揚程不足となり、LSSL型船1隻だけに対してはようやく給水することができる程度である。しかし、LSSL型船が停泊する場合は、4隻以上が一隊となって並列接げん停泊することとなっているので、片側の1隻にけい留し順次給水ホースを延長して遠方の艦艇に給水することとなるが、この場合ホースの延長に伴って摩擦抵抗が増大するため第2船以遠の分については給水力不足であって円滑な給水が不可能であり、これがため同船の配置を受けた大湊、舞鶴、横須賀各基地警防隊ではほとんど使用していない状況である。当局者はこれが改造を計画しているが、円滑な給水を可能ならしめるためには揚程40メートルのポンプと換装の必要があると認められ、これがためには電気設備の取換え分を合わせて150トン積水船1隻当り1,456,400円の3隻分と、250トン積水船1隻分1,050,000円計5,419,200円の工事費を要するものと認められるが、もし、各船とも当初から揚程十分なポンプを装備し、150トン積水船については直接ディーゼル機関で駆動し、電気設備もこれに適合した設計とし、また、250トン積水船については電気設備をポンプに適合した設計として施行したとすれば、当初実施したものより前者については1隻当り662,600円、後者については459,490円の増額で足り、4隻分で2,971,910円を節減することができた計算となる。
なお、150トン積水船の揚水ポンプの駆動は、15馬力ディーゼル機関によって作動する発電機の電力により直結の5馬力電動機を働かせることとしているが、もし5馬力ディーゼル機関によって直接ポンプを駆動することとし、発電装置を8馬力4キロワットとして設計したとすれば、3隻で約84万円節減することができたものと認められる。