ページトップ
  • 昭和28年度|
  • 第2章 国の会計|
  • 第4節 各所管別の不当事項および是正事項|
  • 第6 厚生省

(一般会計)


(一般会計)

 昭和28年度の厚生省所管一般会計歳出決算額869億5千5百余万円の約60%に達する国庫負担金、国庫補助金等の効果および経理の適否について、本院でその実態を調査した結果は、公衆衛生関係補助金、国民健康保険助成交付金等について別項(868−925) に記載したとおりである。
 また、国庫負担金、国庫補助金等の過半を占める生活保護費国庫負担金276億7千5百余万円については、逐年増加のすう勢にあり、特に医療扶助費分において近年その傾向が顕著であるので、東京都およびその近県で抽出的に調査したところ、生活保護法(昭和25年法律第144号)による保護の程度は、受給者の資産、能力、その他あらゆるものを考慮したうえで定めることを立前としており、したがって、保護世帯中の給与所得者の賞与、超過勤務手当等の収入は当然に考慮して決定すべきものであるが、東京都内34福祉事務所のうち5箇所で取り扱った医療単給者約300件のうち、約1割に相当する33件については、保護世帯の前記のような給与所得等が扶助額決定の基礎に含まれていなかったため、扶助費が多くなっており(国庫負担額にして百余万円)、また、医療扶助をしている患者に付き添う看護婦の状況を国立療養所大日向荘ほか4箇所(注) 所についてみると、看護婦1人が患者2人ないし4人に付き添いながら2人ないし4人分の看護料の請求がされていたなどの事例が約千件見受けられた。
 右のような事例にかんがみ、その取扱および被保護者の実態調査については、困難な事情のあることは了解することができるが、一層十分な指導監督の下に生活保護の適切な運営を期する要がある。

(注)  国立療養所大日向荘、国立埼玉、東京各療養所、国立療養所清瀬病院、国立中野療養所

不当事項

補助金

(868)−(925)  国庫補助金等の経理当を得ないもの

(部)雑収入 (款)諸収入 (項)弁償及返納金

(組織)厚生本省 (項)水道施設費 ほか3科目

(1) 結核、性病および法定伝染病等予防事業に対する国庫補助金等について

(868)−(896)  結核予防法(昭和26年法律第96号)に基く予防事業その他公衆衛生関係の予防事業に対する昭和26年度、27年度および28年度における国庫補助金の精算状況について、本院において29年中に会計実地検査を実施した青森県ほか27都府県で管内関係諸機関1,033箇所のうち約15%に当る151箇所について調査した結果によると、本件国庫補助金は事業に要した経費から事業に伴う収入を控除して精算することとなっているのに、

(ア) 補助基本額に補助の対象とならない経費を含めていたり、
(イ) 事業に伴う収入を過少に算出して精算の適正を欠くと認められるものがあったり、
(ウ) 市町村に対する補助負担分に誤算があったり

して、厚生省に提出した精算書では補助不足となっていたものがかえって補助超過となり、または補助超過額が更に多くなり、返納を要するものが21,361,052円ある。
 前記の返納を要する額のうち1事項20万円以上のものをあげると左のとおり29件21,164,675円である。

〔1〕 結核予防費補助金

県名 補助団体 事業年度 補助基本額 国庫補助金交付済額 補助基本額から控除すべき額 国庫補助金交付済額中返納を要する額

(868)

青森県

青森県

27

52,513,951

26,578,000

5,286,619

2,643,309
(869) 岩手〃 岩手〃 57,918,400 29,095,000 770,669 385,335
(870) 福島〃 福島〃 68,433,484 36,705,000 801,783 400,892
(871) 栃木〃 栃木〃 55,042,093 29,569,500 425,482 212,741
(872) 神奈川〃 神奈川〃 46,353,882 24,113,000 559,000 279,500
(873) 愛知〃 愛知〃 131,085,991 66,400,000 1,761,839 1,103,946
(874) 和歌山〃 和歌山〃 55,146,696 28,313,000 470,514 235,257
(875) 山口〃 山口〃 83,022,612 46,503,000 499,017 249,509
(876) 福岡〃 小倉市 14,881,272 7,442,000 433,961 216,980
(877) 熊本〃 熊本県 47,958,734 24,668,000 1,565,196 782,598
(878) 大分〃 大分〃 49,869,500 25,521,000 430,184 213,383
662,226,615 344,907,500 13,004,264 6,723,450

〔2〕 療養所運営費補助金

都県名 補助団体 事業年度 補助基本額 国庫補助金交付済額 補助基本額から控除すべき額 国庫補助金交付済額中返納を要する額
(879) 茨城県 社会福祉法人白十字会恩賜保養農園 26 10,998,195 1,400,000 10,998,195 1,400,000
27 6,080,009 2,700,000 6,080,009 2,700,000
(880) 社団法人結核予防協会筑波厚生園 27 889,619 410,000 889,619 410,000
(881) 東京都 社会福祉法人有隣病院 2,129,000 937,000 1,415,000 580,000
(882) 社会福祉法人浴光会国分寺病院 1,088,905 543,000 1,088,905 543,000
(883) 社会福祉法人武蔵野療園 2,286,164 434,000 2,286,164 434,000
(884) 社会福祉法人仁生社江戸川病院 1,938,413 356,000 1,938,413 356,000
(885) 社会福祉法人白十字会村山療養園 28 634,054 205,000 634,054 205,000
(886) 新潟県 新潟県 27 6,070,000 3,035,000 1,023,101 511,550
32,114,359 10,020,000 26,353,460 7,139,550

〔3〕 療養所設置費補助金

県名 補助団体 事業年度 補助基本額 国庫補助金交付済額 補助基本額から控除すべき額 国庫補助金交付済額中返納を要する額

(887)

静岡県

青島町

27

5,414,000

2,707,000

872,027

436,014
(888) 奈良〃 奈良県 16,880,351 8,000,000 1,500,000 309,825
22,294,351 10,707,000 2,372,027 745,839

〔4〕 性病予防費補助金

県名 補助団体 事業年度 補助基本額 国庫補助金交付済額 補助基本額から控除すべき額 国庫補助金交付済額中返納を要する額

(889)

栃木県

栃木県

26

4,074,615

2,037,210

1,384,784

692,294
(890) 埼玉〃 埼玉〃 27 2,398,714 1,243,330 475,436 237,718
(891) 山口〃 山口〃 6,927,508 3,457,370 1,354,431 670,832
13,400,837 6,737,910 3,214,651 1,600,844

〔5〕 法定伝染病予防費補助金

県名 補助団体 事業年度 補助基本額 国庫補助金交付済額 補助基本額から控除すべき額 国庫補助金交付済額中返納を要する額

(892)

岩手県

岩手県

27

7,710,248

5,970,206

547,064

273,532
(893) 静岡〃 静岡〃 39,900,172 23,678,013 0 3,727,927
(894) 和歌山〃 和歌山〃 18,879,424 9,742,121 414,400 207,200
(895) 福岡〃 福岡〃 63,326,040 31,663,020 567,567 283,783
129,815,884 71,053,360 1,529,031 4,492,442

〔6〕 し尿処理費補助金

県名 補助団体 事業年度 補助基本額 国庫補助金交付済額 補助基本額から控除すべき額 国庫補助金交付済額中返納を要する額

(896)

福岡県

門司市

28

5,371,671

3,580,000

695,495

462,550

 このような事態が生ずるのは、補助団体である地方公共団体および結核療養所を経営する非営利法人において、事業収入を伴う補助事業の経理および国庫補助金の精算に関する事務処理が複雑で、かつ、これについて関係当局が実地に指導監督を十分行わないのに乗じて国庫補助金を正当交付額以上に受けようとする傾向のあることによることも否定することはできないが、他面、関係当局において、補助対象となる経費の内容を明らかにする種目およびその算定基準の決定が諸般の事情により遅延しているため、従来どおり事業に伴う収支の実績額によって精算することとしておりながら、その指導監督を怠り、精算書の書面審査でさえ適切を欠く点のあったことがそのおもな原因と認められ、すみやかにその改善処置の講ぜられることが望ましい。

(2) 国民健康保険事業に対する国庫補助金等について

(897)−(918) 国民健康保険事業に対する国庫補助金、助成交付金および貸付金の交付の状況につき、昭和29年中に施行した本院会計実地検査において、国庫補助金等が交付された5,139保険者のうち、約9%に当る461保険者について調査した結果、これらの交付および精算の算出の基礎に誤りがあり、または申請どおりの事業を実施しないなどにより既交付分の返納または一部償還を要するものが、岩手ほか11県において11,053,000円ある。これらのうち助成交付金は、28年度において新たに交付されたもので、厚生省が一定の交付条件を定め、これに該当する保険者について所定の算定方式によって算出された額を交付するものであるが、その交付方式が複雑である関係もあって前記のような事態を生じたものと認められ、また、全般的な傾向としては、昭和27年度決算検査報告においても指摘したように、保険者において事実に相違する申請をし、正当額以上に国庫補助金、助成交付金等の交付を受けようとするきらいが依然として見受けられ、また、監督官庁における交付時の審査ならびにその後の経理に対する指導監督も十分とは認められないから、その是正改善のため一層の努力が望ましい。
 前記の国庫補助金等の既交付分の返納または一部償還を要するもののうち、1事項20万円以上のものを類別して掲記すると左のとおり22件9,783,000円ある。

〔1〕 助成交付金

 27年度における事業実績において、保険料(国民健康保険税を含む。以下同じ。)収納割合が100分の50以上であることおよび保険料調定額と一般会計繰入金との合計額が療養給付費の100分の50以上であることとなっているのに、これに該当しないものを該当しているとして申請したもの、または交付条件には適合しているが、算定の基礎となる一般会計収入額、普通平衡交付金額および保険料収納額等が事実と相違した申請をしたものに対して交付したため、交付の要がなかったものまたは超過交付となっているもの。

県名 保険者 助成交付金交付済額 正当交付額 交付済額中返納を要する額

(897)

岩手県

胆沢地方国民健康保険町村組合

28,252,000

27,125,000

1,127,000
(898) 越喜来村 1,539,000 990,000 549,000
(899) 福島県 田島町 462,000 0 462,000
(900) 守山〃 1,158,000 727,000 431,000
(901) 赤井村 1,116,000 706,000 410,000
(902) 中畑〃 722,000 522,000 200,000
(903) 長野県 飯島〃 2,166,000 1,873,000 293,000
(904) 岐阜〃 海西〃 433,000 0 433,000
(905) 駄知町 2,665,000 2,235,000 430,000
(906) 池田〃 1,514,000 1,087,000 427,000
(907) 三重県 鵜倉村 807,000 0 807,000
(908) 名張町 1,569,000 1,070,000 499,000
(909) 奈良県 片桐〃 693,000 0 693,000
(910) 福岡〃 椎田〃 694,000 469,000 225,000
43,790,000 36,804,000 6,986,000

〔2〕 振興奨励交付金および再建整備資金貸付金

 交付の条件が、保険料調定額と一般会計繰入金の合計額が療養給付費の100分の55以上であることと定められているのに、この条件に該当しないものを該当しているとして申請したり、また、交付および貸付けの条件には適合しているが、算定の基礎となる保険料調定額、保険料収納額等が事実と相違する申請をしたものに対して交付しまたは貸し付けたため、超過貸付けとなっているもの

(振興奨励交付金)

県名 保険者 事業年度 交付金交付済額 正当交付金 交付済額中返納を要する額

(911)

群馬県

藤岡町

27

254,000

51,000

203,000
(912) 長野〃 辰野〃 28 297,000 0 297,000
(913) 島根〃 浜田市 27 442,000 0 442,000
(914) 福岡〃 八幡〃 28 577,000 217,000 360,000
1,570,000 268,000 1,302,000

(再建整備資金貸付金)

県名 保険者 事業年度 貸付金貸付済額 正当貸付金 貸付済額中償還を要する額

(915)

福岡県

久留米市

27

5,286,000

4,644,000

642,000
(916) 28 3,171,000 2,786,000 385,000
8,457,000 7,430,000 1,027,000

〔3〕 国民健康保険直営診療所建設補助金

 補助対象となった給食施設、医師住宅等を建設していないのにこれらの経費を補助基本額の精算に加算していることにより超過交付となっているもの

県名 保険者 事業年度 当初精算による補助基本額 国庫補助金交付済額 補助基本額から控除すべき額 国庫補助金交付済額中返納を要する額
(917) 熊本県 鹿本郡桜井村外2ケ村国民健康保険直営鹿南病院組合 27 1,729,000 576,000 783,000 261,000
(918) 大分〃 野津原村 3,162,000 1,054,000 621,000 207,000
4,891,000 1,630,000 1,404,000 468,000

(3) 水道事業に対する国庫補助金について

〔1〕 上水道施設災害復旧事業補助金

(919)−(923) 和歌山ほか2県で、昭和27年度および28年度において和歌山県日高郡松原村ほか3箇町村等に対し上水道施設災害復旧事業等に対する国庫補助金として計8,925,000円を交付したものがあるが、本院会計実地検査の調査によると、被害の事実がないものに交付したり、過年度において施行済の工事について実際の工事費をこえて国庫補助金を交付したり、あるいは27年度に交付した国庫補助金について実際の工事費が補助基本額に達していないものがあり、国庫補助金の返納を要すると認められるものが左のとおり5件2,078,023円ある。

県名 事業 事業主体 事業年度 補助基本額 国庫補助金交付済額 補助基本額から控除すべき額 国庫補助金交付済額中返納を要する額
(919) 和歌山県 上水道施設災害復旧 松原村 28 480,000 240,000 480,000 240,000
(920) 印南町 800,000 400,000 505,790 252,895
(921) 福岡県 上水道施設特別鉱害復旧 北九州水道組合 17,860,000 7,490,000 2,434,815 973,926
(922) 熊本〃 上水道施設災害復旧 内田村 27 800,000 400,000 432,404 216,202
(923) 28 790,000 395,000 790,000 395,000
20,730,000 8,925,000 4,643,009 2,078,023

〔2〕 簡易水道災害復旧事業補助金

(924)−(925) 本件国庫補助金は、昭和28年6月および7月の大水害並びに同年8月および9月の風水害の被害地域における公衆衛生の保持に関する特別措置法(昭和28年法律第216号)に基き「政令で指定する被害地域において、市町村が設置する簡易水道が水害等を受けた場合または従来住民に使用されていた井戸、流水、ゆう泉等の水源若しくは給水施設が水害等によって破壊され、その復旧が困難で、これを放置することが公衆衛生上著しく支障がある場合に、当該市町村が昭和28年6月1日、7月1日、8月1日または9月1日から昭和29年3月31日までの間に、簡易水道の復旧または布設をしようとするときは、予算の範囲内において、その復旧または布設に要する費用の2分の1を当該市町村に補助する」(同法第3条)ものであり、その事業費に対する国庫補助金査定総額は620,000,000円(富山県ほか21府県内237箇所)で、これを28、29両年度に交付することとして28年度予算においてはこの237箇所に対して321,959,750円を支出し53,683,000円を29年度へ繰り越している。本院において29年中に長野県ほか12府県内の132箇所を検査した結果、水道、水源給水施設について補助申請記載の災害の事実が認められなかったり、事業を中止したため国庫補助金の返納を要するものが左のとおり2件795,101円ある。

県名 事業主体 補助基本額 国庫補助金交付済額 補助基本額から控除すべき額 国庫補助金交付済額中返納を要する額 摘要
(924) 島根県 野波村 1,540,000 770,000 590,202 295,101 { 既設水道施設の全部に被害があったものとして補助申請しているが、右のうち送水管、塩素滅菌器等に被害がない。
(925) 山口〃 厚狭町 1,000,000 500,000 1,000,000 500,000 { 適当な水源を得ることができないため事業を中止した。
2,540,000 1,270,000 1,590,202 795,101

 また、本件補助事業のうち飲料水の水害等による汚染を補助申請の事由としているものが大部分であるが、災害前の水質についての資料を欠き、災害直後の水質検査だけによっているため災害との因果関係を認定することが困難となっていたり、あるいはまた、地質の関係等から従来汚染された流水、ゆう泉等を飲料としていたものについては、災害との関連においてどの程度公衆衛生上放置することができないものとなったかその事実を認定するに足りる十分な資料を整備していないものが左のとおり長野ほか7県内の59工事83,242,500円ある。

県名 工事数 国庫補助金交付済額

長野県

8

11,300,000
岐阜〃 3 3,750,000
愛知〃 2 1,665,000
三重〃 3 2,200,000
奈良〃 1 2,885,000
和歌山〃 24 24,860,000
山口〃 4 2,400,000
熊本〃 14 34,182,500
59 83,242,500

 このような事態を生じた原因は、厚生省において、これらの被災地域の災害が未曽有のものであったため、飲料水の問題については緊急に処置を要するとして、国庫補助金の交付対象の選定にあたり、実地について十分な調査を待たず主として机上査定によったことにもよるが、給水施設等には被害がなく単に飲料水が汚染しただけの場合についても補助申請方を指導しながら、災害による汚染であることの資料も徴しないまま補助対象としたり、また、各県当局者も(県においても本件補助事業に対しては県費負担を要しないなどの事情もあって)政令指定地域で簡易水道を布設する場合は本法の適用を受けるものとして管下市町村を指導した傾向もあり、これに加えて、実施主体である市町村においては、従来から飲料水は不衛生な流水、ゆう泉、井戸等によっていたため伝染病発生の原因となることもあるので、簡易水道の設置について国庫補助金の交付を受けることを要望していた事情もあってこのような結果を生じたものと認められる。