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  • 昭和28年度|
  • 第2章 国の会計|
  • 第4節 各所管別の不当事項および是正事項|
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昭和28年発生災害復旧幕業の査定額を減額させたもの


(1806)  昭和28年発生災害復旧事業の査定額を減額させたもの

 地方公共団体および農業協同組合等が施行した農業施設、漁港、林道災害復旧等の工事の検査の結果によれば、従来、本院の検査報告に掲記したとおり、工事の出来高が不足しているもの、設計が過大なもの、災害復旧とは認められない改良工事を施行しているものまたは同一の被害箇所を重複して査定し国庫補助金が二重交付となっているものなどが多く、これら多数の不当事項のほとんど全部を占める災害復旧工事についてみると、そのうち工事の出来高が不足しているものについては、工事完了後に行う本院会計実地検査においてこれを指摘してもその是正改善を行わせることが困難ではないが、その他の設計過大、災害便乗、二重査定等の事態となっているものについては、工事費の査定がほとんど実地を調査することなく机上で決定されたことによる場合が多く、これらは工事完成後の検査で発見しても実際上その是正が困難であるばかりでなく、従来、1町村に対する査定額が数億円に上り、そのうちには災害便乗的なものや設計過大のものも多く含まれていたにかかわらず、事後において減額是正させることが困難であった事例もあり、これら不当工事を防止するためには工事完了前に査定内容の調査を行い、早期に是正させることが効果的と認められる。

 ことに、28年に発生した災害は、復旧事業費の査定額が683億円をこえる膨大なものとなり、かつ、その国庫補助は災害復旧特別措置によりおおむね9割という高率を適用されることとなったので、特に早期に調査してすみやかに是正改善を促すことが必要であると認め、29年1月から4月までの間に、事後検査とあわせてこの調査を現地について実施した。

 右調査は、査定額が特に多額な和歌山県、熊本県等16府県の総事業5万5千9百余箇所査定額561億8千余万円のうち2万3千6百余箇所310億8千余万円について実施したが、その結果は、河川の堤とう、護岸および林道等の復旧工事について、同一箇所の工事を農林省と建設省の双方が重複して査定しているもの、農林省の査定において堤とう工事と水路工事の護岸が重複しているもの、被害を受けていなかったり被害が軽微であるのに災害復旧の査定を受けて施設の改良工事を施行しようとしているもの、既往年度の災害復旧工事を高率補助の28年災害に乗りかえたもの、経済効果の著しく少ない施設に多額の経費を投入しようとしているもの、水路、護岸、井ぜき等の工事において著しく原形をこえ、かつ、不必要に過大な設計によりコンクリート造りなどにしているもの、木造農道橋を永久構造にしているもの、ため池の復旧にあたり前はがね土の一部を施行すれば足りるのに中心はがね土を入れ替えることとしているもの、石垣およびコンクリート工事の材料を現場付近で採取することができるのに遠方から運搬することとしているもの、農地復旧において排土、客土が地区内で相互に流用することができるものを地区外に搬出したり、地区外から搬入することとしているもの、または土砂の運搬距離を過大に見込んでいるものなど、二重査定、改良その他災害復旧の対象としてはならないものまたは設計過大の結果となっているものが多数認められ、そのうちには実地調査した箇所の合計査定額の50%以上を減額することを要する県もあり、全般に査定工事費を適正なものに修正する必要があると認められたので当局者に注意したところ、次表のとおり1万6千7百余工事につき工事費において87億1百余万円を減額是正した旨の回答があった。このように是正事項が多数で多額に上ったのは、農林省関係の災害復旧事業費査定の約80%が現地の実査を伴わないいわゆる机上査定により行われていることによるものと認められ、また、被害が特に激じんであった町村にも二重査定、災害便乗または設計過大の事例が多数見受けられているが、これらは農林省の実地査定が同一町村のうち被害の特に著しかった地区を選定して行われ、比較的軽微な地区については大部分机上査定によったことによるものと認められる。しかして、前記の是正されたものの内容は左のとおりである。

明細 農林省査定額 同上のうち本院において実地調査したもの 減額された工事費
二重査定 改良その他 設計過大

工事数金額 工事数 金額 工事数 金額 工事数 金額 工事数 金額 工事数 金額 工事数 金額



富山県

1,770
千円
1,130,469

1,398
千円
968,963

13
千円
4,305

263
千円
78,043

363
千円
87,581

639
千円
169,929
福井〃 3,249 3,092,857 1,038 1,573,659 15 17,435 126 51,210 514 283,306 655 351,951
長野〃 1,482 750,657 406 235,795 6 2,832 112 40,639 149 29,415 267 72,886
愛知〃 1,148 1,298,024 775 1,110,801 11 12,643 158 97,550 157 49,497 326 159,690
三重〃 3,863 4,318,450 1,446 2,344,807 29 27,300 362 187,443 568 385,562 959 600,305
滋賀〃 1,935 2,096,492 843 801,661 15 9,504 243 77,844 378 214,911 636 302,259
京都府 6,022 6,407,051 2,355 3,210,937 151 142,362 873 465,334 621 512,602 1,645 1,120,298
大阪〃 1,583 1,075,851 508 400,401 9 12,686 80 30,750 195 88,499 284 131,935
兵庫県 2,017 1,284,593 1,029 639,961 11 9,244 352 136,622 347 97,728 710 243,594
奈良〃 2,707 1,255,504 789 487,113 24 29,350 185 48,577 199 62,184 408 140,111
和歌山〃 11,494 16,441,043 2,764 9,941,072 30 36,026 1,006 869,833 672 890,742 1,708 1,796,601
山口〃 2,640 1,101,918 1,803 629,250 9 4,239 1,113 306,932 384 44,510 1,506 355,681
福岡〃 5,207 5,555,402 2,534 3,000,084 58 28,364 856 320,462 1,037 567,983 1,951 916,809
佐賀〃 3,084 2,400,114 1,801 1,435,040 45 40,223 380 147,124 891 210,709 1,316 398,056
熊本〃 4,187 5,659,686 2,713 2,955,341 107 89,151 1,033 648,464 1,350 926,783 2,490 1,664,398
大分〃 3,568 2,312,796 1,457 1,351,805 47 29,618 267 106,028 911 141,132 1,225 276,778

55,956 56,180,907 23,659 31,086,690 580 495,282 7,409 3,612,855 8,736 4,593,144 16,725 8,701,281

(1)重複して査定されていたもの

 同一箇所の工事を農林省と建設省で重複して査定しているもの、または農林省部内で二重に査定したものは580件495,282,000円に上っているが、その代表的事例をあげると次のとおりである。

〔1〕 福井県大飯郡本郷村父子川水路災害復旧は、査定額8,200,000円(国庫補助金7,380,000円)で水路延長1,000メートルを復旧することとしていたが、右箇所は、別途建設省所管の父子川護岸復旧工事と重複して査定されていた。

〔2〕 熊本県阿蘇郡小国村は頭首工、水路、ため池、農道等の復旧に270件総額366,436,000円(国庫補助金329,792,400円)の査定を受けたものであるが、県営北里川堤塘護岸復旧ほか42件査定総額51,187,000円は、建設省で査定した護岸、道路、橋りょう工事等と重複していた。

 右のほか、改良工事等を施行しようとしていたものが17件5,145,000円、設計が現地の実情に比べて過大となっていたものが149件74,072,000円あって、以上を合わせて減額是正されたものが209件査定総額の約35%に当る130,404,000円(国庫補助金117,363,600円)に上った。

〔3〕 宇治市林産物搬出林道志津川線災害復旧は、査定額2,747,000円(国庫補助金2,472,300円)で林道延長2,840メートルを復旧することとしていたが、本路線は市道志津川池ノ尾線で、この復旧に建設省が別途工事費3,119,000円(国庫負担金2,981,764円)の査定をしていた。

(2) 改良その他国庫補助の対象としてはならないもの

 災害を受けていないのに災害復旧の査定を受けて改良工事を施行しようとしたり、または著しく原形をこえ、かつ、不必要に過大な設計により工事を施行しようとする改良その他の工事は7,409件3,612,855,000円に上っているが、その代表的事例をあげると次のとおりである。

〔1〕 豊橋市神野新田町水路災害復旧は、査定額6,030,000円(国庫補助金5,427,000円)で水路延長670メートルを復旧することとしていたが、実際は被災の事実が認められず、素掘の水路をコンクリート張りに改良しようとしていたものである。

〔2〕 和歌山県有田郡田殿村で、農地29町1反の畦畔延長4,959メートルを復旧することとして3,713,000円(国庫補助金3,341,700円)の査定を受けていたものがあるが、右は、被害1箇所当りの復旧費がいずれも100,000円以下であり、かつ、被災箇所の間隔が50メートル以上になっているもので、1箇所ごとには補助の対象とならないのに全村の小災害を一括集計して査定を受けていたものである。

〔3〕 同県東牟婁郡四村久保野橋梁災害復旧は、査定額1,400,000円(国庫補助金1,260,000円)で幅員2.5メートル、延長55メートルのつり橋を復旧することとしていたが、実際は被災の事実がなく、老朽したつり橋を新たにかけ替えようとしていたものである。

〔4〕 熊本県阿蘇郡南小国村は頭首工、水路、ため池、農道等の復旧に266件総額131,433,000円(国庫補助金118,289,700円)の査定を受けたものであるが、農地復旧57件査定総額10,845,000円はすべて被害が軽微で災害復旧事業として採択すべきものでなく、また、農業施設復旧66件査定総額23,873,000円はほとんど災害を受けていなかったり、所要経費に比べて経済効果がきわめて少なく、補助の対象とならないものであるのに、改良工事等を施行しようとしていたものである。

 右のほか、建設省が査定した護岸復旧等と重複していたものが6件2,751,000円、農林省が同一箇所の堤とう、農道、農地の復旧を重複して査定したものが3件2,143,000円あり、また、設計が現地の実情に比べて過大となっていたものが71件22,612,000円あって以上を合わせて是正減額されたものが203件査定総額の約47%に当る62,224,000円(国庫補助金56,001,600円)に上った。

〔5〕 日田市地蔵元橋梁災害復旧は、査定額5,304,000円(国庫補助金4,773,600円)で鉄筋コンクリート橋を復旧することとしていたが、同橋りょうは26年7月の災害により被災し、既に同年災害復旧事業として査定を受けていたものであるのに高率補助の適用される28年発生災害復旧に乗りかえて査定を受けたものである。

〔6〕 舞鶴市千歳漁港災害復旧は、査定額2,290,000円(国庫負担金2,168,630円)で護岸延長65メートルを復旧することとしていたが、現地を調査したところ、被災の写真は現地の状況と符合していないばかりでなく被災の事実が認められなかったもので、災害復旧に名をかり石積護岸をコンクリートブロック護岸に改良しようとしていたものである。

〔7〕 奈良県吉野郡十津川村奥地開発林道迫西川龍神線災害復旧は、査定額1,320,000円(国庫補助金1,188,000円)で橋りょう上部構造を復旧することとしていたが、実際は別途26年度の奥地開発林道補助工事で、既に完成したこととしていた橋りょう上部構造が未完成であったためこれを28年災害復旧に名をかり完成しようとしていたものである。

(3) 設計が過大と認められたもの

 排土、客土の土量または運搬距離を過大に見込むなど設計が過大と認められたものは8,736件4,593,144,000円に上っているが、その代表的事例をあげると次のとおりである。

〔1〕 三重県阿山郡丸柱村滝之尻農道災害復旧は、査定額1,413,000円(国庫補助金1,271,700円)で農道125メートルの全延長にわたり路側練石垣を法長3メートルから4.6メートルで598平米を施行することとしていたが、現地には岩盤があって石積を必要としない部分があり、その法長はおおむね2メートル程度で、結局、石垣240平米を施行すれば足りるので復旧費は574,000円となり839,000円(国庫補助金755,100円)が過大となっていた。

〔2〕 奈良県宇陀郡御杖村農地災害復旧は、査定額24,444,000円(国庫補助金21,999,600円)で農地28町7反に流入した土砂28,702立米をおおむね200メートルの地点に運搬捨土することとしていたが、実際はそのうち24,301立米は70メートル以内の地点に捨土すれば足りるので復旧費は13,535,000円となり10,909,000円(国庫補助金9,818,100円)が過大となっていた。

〔3〕 和歌山県日高郡御坊町農地災害復旧は、査定総額158,342,000円(国庫補助金142,507,800円)で農地113町7反に流入した土砂257,122立米を日高川河川敷付近に運搬捨土することとしていたが、そのうち3町1反(流入土砂57,043立米)は被害が軽微で排土の必要がなく、また、流入した土砂はいわゆる亜土で耕土に適しているものであるから、かんがいに支障をきたすものだけを排土すれば足り、しかも、この排土のうち町営住宅地の埋立用土として101,405立米、隣接の県営農地復旧事業の客土用として20,000立米を利用することができるので、実際に補助の対象となるものは78,674立米にすぎず、これに要する復旧費は55,010,000円で足り、査定総額の約65%に当る103,332,000円(国庫補助金92,998,800円)が過大となっていた。

〔4〕 福岡県築上郡西角田村西角田漁港災害復旧は、査定額4,578,000円(国庫負担金4,271,000円)で港内に流入した土砂9,538立米を掘さくすることとしていたが、実際の流入土砂は4,676立米にすぎず4,862立米の復旧費2,334,000円(国庫負担金2,100,600円)が過大になっていた。