農林省で、昭和28年度に北海道ほか45都府県および同農業共済組合連合会に対し、一般会計から農業共済事業事務費負担金2,431,667,000円、また、農業共済再保険特別会計から28年産農作物および蚕繭の再保険金18,608,768,232円を支出している。右は農業共済制度の機関である各都道府県農業共済組合連合会およびその下部組織の市町村農業共済組合に対する事務費補助と28年産水稲、陸稲、麦類および蚕繭につき共済事故によって損害が発生したことにより各県連合会に対し支払った再保険金であるが、本院において福島ほか8県、129市町村の農業共済組合について、主要農作物に対しては、法律上、義務加入となっている本旨に即し共済組合の掛金の徴収が適期、適切に行われているか、また、共済金はその全額が組合員に正当に支払われているかに重点を置き、さらに、共済組合の保険金請求に際し被害の評価および府県農業共済組合連合会への被害報告は事実に即して行われているか、組合員に対する共済金の額は正しく決定されているかをあわせて調査したところ、
(ア) | 掛金の徴収が適切に行われている組合はほとんどなく、共済金の支払のない無被害の年度においてはその大部分が未収のまま放置され、被害が発生して共済金支払の行われるときに初めて未収繰越掛金その他未収金を差し引き徴収してその決済を行なっている状況で、主要農作物に対する義務加入の本制度ほほとんど有名無実になっている。 |
(イ) | 組合における損害評価の程度は各組合により区々で、連合会の決定に比べて過大のものも過少のものも見受けられたが、連合会への被害報告はその多くが過大で、ために連合会はその修正に腐心しており、この事実は連合会と特別会計との間においても同様と認められる。 |
(ウ) | 組合は表面においては連合会の行なった修正に基き個人別支払額を決定しているように支払台帳を作成しているが、実際はその多くが組合の行なった当初の損害評価に基きあるいは簡便に平均割しているなど全く異なる方法により個人別共済金額を決定し、なかには共済金の一部を組合員に支払うことなく保有して組合経費その他に使用しており、組合は掛金回収の整理機関と化しているものが多い。 |
(エ) | 右共済金の支払に際しては、前記のように組合のほとんどすべてが掛金その他の未収金の差引を行い、なかには後年度分の掛金または農業協同組合出資金の差引等まで行なっており、共済金のうち実際に組合員の手元に到達する額はきわめて少額にすぎず、はなはだしいのは共済事故が発生したにかかわらず、支払に立てられた共済金は全く組合員に到達していないものも見受けられ、結局、本制度は農民から遊離しているばかりでなく、保険は、組合と上部機関との間で空転し、組合その他の機構を維持するために存在している感さえするものがある。 |
しかして、そのうち共済金の不当支払を分類すれば、
(ア) | 共済金を組合員に全く支払わないもの | |
徳島県那賀郡橘町農業共済組合ほか2組合 | 1,449,520円 | |
(イ) | 共済金の一部を組合員に支払わないもの | |
愛媛県越智郡清水村農業共済組合ほか17組合 | 83,114,034円 | |
(うち保留額15,241,388円) | ||
(ウ) | 共済金を補償対象外の被害3割未満の耕地をも含めて配分しているもの | |
兵庫県加古郡天満村農業共済組合ほか30組合 | 67,223,635円 |
合計151,787,189円に上っているが、このほか正当に掛金を徴収せず共済金も全額を交付しないで掛金と相殺しているものがほとんど全組合にわたっている。
いま、これらのうち代表的な事例をあげると次のとおりである。
(1865) 福島県安積郡喜久田村農業共済組合で、昭和28年産水稲保険金13,661,554円を受領し、共済金13,918,493円(右の保険金に1割以内の共済組合負担金を加えたもの。以下同じ。)を被害3割以上の404町7反に対し損害評価書どおり支払ったこととしているが、実際は、そのうち251,656円を組合で保留し、6,815,355円を補償対象外の耕地を含めた引受全面積に対し均等割で、また、6,851,482円を損害評価書と異なる被害面積を基礎として適宜にそれぞれ配分し、そのうちから組合への寄付金その他328,670円、未収掛金および賦課金1,092,280円を差し引いて12,245,887円を組合員に支払っている。
(1866) 兵庫県加古郡天満村農業共済組合で、昭和28年産水稲保険金を県農業共済組合連合会に対し請求するにあたり、組合員から申告した3割以上被害面積142町7反、共済金額1,643,916円を380町1反、7,434,587円と金額において4倍以上に水増しして報告を行い、連合会から215町4反共済金額4,029,672円の査定を受け、実際の被害以上の保険金3,626,705円を受領しているばかりでなく、右の共済金を連合会の査定どおり215町4反に対し支払ったこととしているが、実際は、そのうち半額2,014,836円を補償対象外の耕地を含めた全引受面積654町6反に対し均等割で、残額を138町4反に対し被害程度に応じ配分し、部落代表に一括交付している。また、28年産麦保険金2,850,300円を受領し、共済金3,167,000円を3割以上被害面積208町2反に対し支払ったこととしているが、実際は、うち2,735,847円を補償対象外の耕地を含めた512町8反に対し均等配分し、残額431,153円を被害6割以上のものに対し被害程度に応じ配分し部落代表に一括交付している。
(1867)
愛媛県周桑郡楠河村農業共済組合で、昭和28年産水稲保険金877,504円を受領し、共済金877,540円を48町7反に対し支払ったこととしているが、実際は、引受全面積に対し被害のあった10町4反には被害程度に応じ175,580円、被害軽微な157町7反には面積割で701,786円計877,366円を配分し、これから共済掛金および賦課金51,477円および農業協同組合出資引当金818,668円計870,145円を差し引き、残額7,221円だけを組合員に支払っている。また、麦共済金も641,348円を60町6反に対し支払ったこととしているが、実際は、実被害面積10町1反に対し46,969円、および引受全面積132町5反に面積割で118,682円計165,651円を配分し、これから掛金および賦課金の未収分91,454円を差し引き、残額74,197円を組合員に支払っているだけで、受領保険金633,597円との差額467,946円は、うち258,000円を研麦機等の購入費に充て、209,946円を帳簿外に保有している。
なお、同組合は23年度から引続きこのような経理を行い、29年6月本院会計実地検査当時帳簿外に23名の架空名義等で1,721,261円を同村農業協同組合に預金している。
(1868)
愛媛県越智郡清水村農業共済組合で、昭和28年産水稲保険金1,064,988円を受領し、共済金1,148,162円を支払ったこととしているが、実際は全く支払っておらず、また、28年産麦保険金1,550,606円を受領し共済金1,587,512円を3割以上被害面積116町9反に対し支払ったこととしているが、実際は40町に対し360,731円を支払ったにすぎない。
また、28年度中に組合員から徴収したこととしている水稲共済掛金340,846円、麦共済掛金186,872円、賦課金196,239円等はいずれも全く徴収していないばかりでなく、組合は28年8月から29年6月までの間に、受領した28年産麦保険金1,550,606円、28年産水稲共済金1,148,162円その他58,161円計2,756,929円を別途に経理し、そのうちから麦共済金等423,571円、病虫害防除機具購入費助成金その他137,265円を支払い、また、水稲、麦の共済掛金、賦課金等に1,097,876円を充て、差引1,098,217円を組合長個人名義預金で別途保有している。
なお、同組合は24年度からこのような経理を行い、29年6月本院会計実地検査当時合計2,455,626円を保有している。
(1869) 徳島県麻植郡川島町農業共済組合では、昭和24年設立当初から27年度まで水稲、麦、蚕繭の掛金、賦課金等を組合員から全く徴収せず、また、共済金も組合員に支払うことなく、28年度に至り保険金、交付金3,419,039円および農業協同組合の寄付金30,000円から県農業共済組合連合会に納付した保険料、賦課金等計2,306,549円を差し引いた残額1,142,489円のうち、221,872円を共済金として組合員に直接支払い、279、413円を部落代表に交付し、641、109円を共済組合長および共済組合名義の預金としている。
(1870) 徳島県那賀郡橘町農業共済組合で、昭和28年産水稲保険金247,266円、同年産麦保険金45,221円を受領し、この共済金、水稲274,353円、麦49,798円をそれぞれ支払ったこととしているが、実際は全く支払っていないばかりでなく、掛金も全く徴収せず、組合が県農業共済組合連合会防災賦課金7,418円と相殺のうえ受領した水稲保険金239,848円および麦共済金49,798円計289,646円のうち、173,793円を同町農業協同組合から借り入れて県農業共済組合連合会に支払った水稲保険料160,339円、麦保険料13,454円の返済に充て、残額115,853円を組合経費に使用している。
(1871) 長崎県南高来郡北有馬村農業共済組合で、昭和28年産水稲保険金1,463,152円を受領し、共済金1,625,724円を損害評価書のとおり被害面積51町2反に対し支払ったこととしているが、実際は、補償対象外の耕地を含む作付面積369町1反に対し反当り360円の割合で1,328,760円を均等配分し、残額296,964円を被害程度に応じ配分しているばかりでなく、支払に際しては過年度からの未収掛金および賦課金1,328,760円を差し引き、残額296,964円を後年度掛金等に引き当て保留している。また、麦共済金についても同様の経理を行い、共済金3,305,400円を作付面積585町に均等配分することとし、そのうちから過年度の未収掛金および賦課金1,020,786円を差し引き、残額2,284,614円を保留している。