農林漁業金融公庫は、農林漁業者に対し農林漁業の生産力の維持増進に必要な長期、かつ、低利の資金で農林中央金庫その他一般の金融機関が融通することを困難とするものを融通することを目的として昭和28年4月1日設立され、公庫設立の際現に国が有する農林漁業資金融通法(昭和26年法律第105号)に基く貸付金債権316億5千余万円を設立の時において政府の農林漁業資金融通特別会計から承継し、また、28年度中に日本開発銀行から農林漁業者に対する貸付金債権26億2千6百余万円を承継し、さらに、農林中央金庫から同様の債権6億7千7百余万円を有償で譲り受けた。同公庫の28年度中の貸付実行額は265億7千9百余万円で、前記承継または譲受貸付金債権を合わせ、回収額37億3千7百余万円および滞貸償却額3百余万円を除いて年度末における貸付金残高は3万1千余件577億9千3百余万円となっている。
本年度においては、一応3億8千9百余万円の利益をあげたが、これを全部滞貸償却引当金に計上したため国に納付すべき利益金はなかった。
本院においては、29年1月から7月までの間に1,418件58億3千8百余万円の貸付金について実地に調査した結果、審査または管理が不十分と認めて指摘したものが280件4億7千6百余万円あり、このうち同公庫では、110件1億余万円については是正の処置を済ませているが、是正の処置が済んでいないもののうちおもなものは別項(2232) に記載したとおりである。
なお、農林省で、農林漁業資金融通法に基いて貸付けをしていた27年度分について、昭和27年度決算検査報告で、審査または管理不十分な事態が発生しているおもな原因として、
(ア) 農林省での部内連絡不十分、
(イ) 監査機構の不整備、受託金融機関に対する指導監査の不十分、
(ウ) 受託金融機関の関係都道府県知事の意見書に対する過信と確認についての積極性の欠除
の3点を指摘したが、本年度検査の結果は、
(ア) 貸付後に貸付対象事業が補助事業となって交付を受けた補助金相当額を繰上償還させていない点については、公庫設立後は貸付金全部について借用証書の特約条項で、繰上償還を義務づけ、また、農林省との連絡を図ってその償還に努力しているがまだ不十分であると認められる。しかしながら、既に国庫補助指令を受けているものに対し補助金を受けない事業として貸付決定をしているような事態は、本年度検査では減少しているように見受けられる。
(イ) 29年6月から公庫の内部に監査室(室長以下7名)を設けて、極力受託金融機関に対する指導監査に努めるとともに内部監査を強化してきたが、まだ完全というまでには至っていない。
(ウ) 受託金融機関はおおむね自己の責任を自覚してきたと認められ、また、確認について相当努力を払ってきている傾向は見受けられるが、まだ不十分である。しかし、県によっては、公庫またはその受託金融機関に対する協力を強化してきている傾向が認められる。
なお、土地改良事業、漁港修築事業等に対する貸付金のうち一部のものについては市町村に転貸され、市町村が事業を施行している状況であり、農林漁業金融公庫法(昭和27年法律第355号)では貸付対象となっていない市町村に貸し付けるのと同一の結果を生じている。