(昭和28年度) (組織)保安庁 (項)保安庁施設費
(組織)防衛庁 (項)保安庁施設費
防衛庁の昭和29年度建設工事関係支出済額86億3千8百余万円(うち北海道開発局および建設省に委託施行したもの41億6千7百余万円)のうち約35%について会計実地検査をした結果、設計、積算、施工について妥当でないと認められる事例が防衛庁各建設部施行のものに比較的多い。
このような事態を生じたのは、自衛隊の増勢による隊舎、大量に供与された弾薬を受け入れる弾薬庫等の建設が急激に要請されたことにもよるが、計画、設計が完成しないのに着工を急いで一連の工事を分割して施行したり、予定価格を正確に作成しないで請負契約を締結したり、また、検討が不十分なまま着工したため設計変更が多く、なかには相当の設計変更までも正規の手続をとらず現場かぎりで処理したものもあることなどによるもので工事経理に関し格段の留意を要する。
(7)
保安隊方面地方建設部で、昭和29年6月、指名競争契約により千代田化工建設株式会社に早来地区給油設備工事を11,690,863円で請け負わせ施行しているが、当然必要である各タンク間の燃料入換設備を考慮することなく着工し、追加工事として別個に設備したため約147万円が不経済となっている。
右工事の送油管系統の当初設計は、燃料を約4キロメートル隔てた安平引込線荷卸場から2本のパイプでタービンポンプによって圧送し、航空用、特車用、一般用に区分してそれぞれ15箇所のタンクに備蓄し、使用に際しては必要に応じ加鉛のうえドラムかんまたはローリーに充てんするものであるが、各タンク間で燃料の入換えをすることができないため、10月および11月、入換用のポンプ室、ポンプ設備等を1,805,431円で追加施行したものである。
しかし、右タンクは15基の多数であり、各タンク間において燃料を入れ換える必要を生ずることは当然考えられ、この入換えは加鉛室で行うのが位置、構造、設備とも適当であるから、当初からそのように設計すれば工事費は当局の計算によってもタービンポンプおよびバルブ等の設備費329,826円を増額すれば足り、前記入換ポンプ室新築工事、ポンプ室設備工事計1,472,968円、屋内屋外電気設備工事332,463円合計1,805,431円はその必要がなく差引1,475,605円が不経済となった計算である。
(8)
保安隊方面地方建設部で、昭和29年3月および6月、指名競争契約により、株式会社松村組に安平地区Aブロック土木工事を198,387,500円で、また、株式会社地崎組に同地区B、Cブロック土木工事を194,637,900円で請け負わせ施行しているが、コンクリート工事において契約どおり施行しなかったため約300万円が過大に支払われた結果となっている。
右工事のコンクリートの配合比は1:2:4、4週後における強度1平方センチメートル当り150キログラム以上、スランプ10センチメートル以下、砂利粒度2.5センチメートル以下、砂0.25センチメートル以下となっているのに、実際は右の強度を確保することができるとして1:2:3:3:7の配合比で施行したためコンクリート立米当り5,465円は5,198円となり、総額で約300万円開差が生ずる計算であるのにそのまま支払を行なっている。
(9)
保安隊方面地方建設部で、昭和29年3月から5月までの間に、安平弾薬庫敷地造成工事を施設部隊に委託し隊力により施行したが、設計計画をこえて約10万立米の土量を余分に切り取ったため、10月、株式会社松村組に請け負わせたAブロック覆土工事30,825,000円および株式会社地崎組に請け負わせたBブロック覆土工事27,955,400円において19,164立米を余分に覆土する必要を生じ、その工事費約464万円、部隊に交付した燃料等のうち前記約10万立米分に相当する約192万円計約656万円が不経済となっている。
右敷地造成工事は、覆土式弾薬庫23むねを構築するため設置すべき地点の山腹を切り開いて敷地およびその道路を設けるもので、山間くぼ地を選び覆土等を行うなどその地形を利用することが必要であるが、施行にあたり施設部隊に委託し燃料等必要資材を交付して隊力により実施したところ、部隊では設計された図面より約10万立米の土量を余分に切り取ったため前記の手もどりを生じたものである。
(10)
保安隊第一地方建設部で、昭和29年3月、指名競争契約または随意契約により株式会社間組ほか2会社に保安隊松島弾薬補給廠第1回新設ほか2工事を、また、防衛庁仙台建設部で、11月、右3会社に同補給廠第1回増設ほか2工事を請け負わせ、総額285,270,619円を支払っているが、予定価格の積算にあたり調査が不十分であったなどのため過大に積算しているものが約3500万円あり、ひいて契約価額が高価になっていると認められるものがある。
本件工事は、反町弾薬支処新設のためずい道式弾薬庫29本および付帯建築工事等を施行したものであるが、その大要を占めるずい道工事の予定価格220,012,560円についてみると、現地の地質状況等を勘案しないで歩掛り等を過大に積算したため、結局、次のとおり33,529,700円が過大となっている。
(ア) 掘さく1立米当りの価格を第一地方建設部は1,315円、仙台建設部は1,086円としているが、本件ずい道の掘さく箇所は軟砂岩であるから掘さく用ダイナマイトの所要量は0.6キログラム程度とすべきところ、第一地方建設部は1.9キログラム、仙台建設部は0.7キログラムとしたほか、掘さく土工の歩掛りも過大と認められ、立米当り第一地方建設部は428円、仙台建設部は199円、掘さく総土量65,099立米に対し20,936,436円が過大に積算されている。
(イ) 型わくおよび支保工の計算において型わく工の積算を誤り、平米当りの価格を676円とすべきところ、第一地方建設部は930円、仙台建設部は776円としたため型わく総面積29,417平米に対し5,598,354円が過大に積算されている。
(ウ) 巻立用コンクリート一立米当りの価格を第一地方建設部は5,955円、仙台建設部は5,920円としているが、本件ずい道が前記のような地質であるためコンクリートポンプを使用することとしてその損料、電力料等も別途に見込んでいるのに、コンクリート工の歩掛りはポンプを使用しない場合の標準歩掛り1.2人程度をはるかにこえて第一地方建設部は3人、仙台建設部は4人としたなどのため少なくとも立米当り第一地方建設部は1,062円、仙台建設部は1,027円、コンクリート総量6,684.44立米に対し6,994,910円が過大に積算されている。
結局、ずい道工事の直接費については33,529,700円が過大となっているが、一方、本件工事の間接費については積算不足のものが1,887,422円あり、これを差し引き諸経費を含めると本件予定価格は約3500万円が過大となっている計算である。
また、第1回増設ほか2工事において、仕様書によると掘さくずり処分は3,159立米をトラックにより構外に、3,948立米をトロリーにより構内に捨てることとしていたが、一部について捨土の場所を近距離の地に変更したのに契約価額を減額する処置をとっていなかったので本院会計実地検査の際注意したところ、30年4月設計を変更して1,007,100円を減額する処置を了した。
なお、第1回増設ほか1工事において、これに先だって施行した第1回新設ほか1工事の請負業者に対し落札者がそれぞれ200,000円を支払う条件で入札させ契約したが、右は前回施行分の設計変更増額分および手もどり分等を正規の手続きをとらないで支払うもので当を得ない。
(11)
保安隊第三地方建設部で、昭和29年3月、随意契約により大日本土木株式会社に今津部隊新設給排水工事を28,093,000円で請け負わせ施行しているが、調査にあたり注意を欠いたため約87万円が手もどりとなっている。
右工事は、琵琶湖岸に取水井を設けて部隊に給水する工事等を施行するものであるが、右井戸は湖岸に深さ7メートルの浅井戸を設けるもので、琵琶湖からの浸透水があると判断しこれを取水することとして施設したものである。
しかし、工事しゅん功後使用してみると、水質は鉄分が多量でかつ色を帯び浮遊物さえも認められ、また、分析の結果は有機物、雑菌の混入も著しくて飲用することはもちろん汽かん等の用水としても不適当なことが判明したので、やむを得ず硫酸ばん土による浄化、塩素による減菌を行なって使用している状況であり、これがため30年度において960,000円の工事費をもって右井戸を沈砂池とし、琵琶湖の水を直接取水する改修工事を施行しているものである。
右水質の不良な原因は、付近にメタンガスが著しく発生する沼があり、また、深さ9.5メートルから11.5メートルの間に腐敗粘土層があるためで、5メートルから7メートル程度の地下水はその汚染を受けているものと認められ、当局においては、28年12月、前記会社に今津部隊予定地調査測量工事を280,000円で請け負わせ、京都大学工学部研究室に給水施設の調査等を依頼させ、また、29年3月、同会社に96,000円でボーリングを行わせたものであるから当然水質の検査も行うべきであったのにその処置をとることなく取水井を施設し、結局、不経済な結果をきたしたのはその処置当を得ない。
いま、当初琵琶湖から直接取水する工事を施行したとすれば、不要となる取水井の工事費約57万円および手もどり工事費約29万円計約87万円を節減することができたものである。