(昭和28年度) (組織)保安庁 (項)保安庁
(組織)防衛庁 (項)保安庁
防衛庁の物資器材の規格は各幕僚監部の決定するところであるが、昭和28年度決算検査報告に掲記したような米国軍の規格を十分検討もしないでそのまま模倣するような事例は少なくなってきたが、調達要求品が実際に使用して適切なものであるかどうかの検討はなお不十分と認められ、相当量の購入品が使用されないまま放置されたり、使用してもほとんどその効果がなかった事例がある。
装備器材類について研究改良の進行、国産化の実現等新規格の採用はますます多くなる傾向にあるが、これを実用に移す場合その調達量は通常きわめて大量となるので、購入にあたっては研究機関との連絡を密にし、十分に試作、試験等を行なって検討を加え、実用に供することができるのを確認したうえで調達を実施し、いたずらに多量の購入品が放置される事態を防止しなければならない。
規格が決定された場合は、その試験方法も明確に仕様書に記述しなければならないのに不完全な仕様書によって契約するため検収の際完全な品質試験を行うことができず、検収がほとんど無意義なものとなり、検収を済ませた納入品であっても変質等により実用に耐えないものとなった事例がある。
(19)
保安庁第一幕僚監部で、昭和29年3月、一般競争契約により日新産業株式会社から塗料はく離剤4,000リットルを単価177円総額708,000円で購入しているが、保有している現品は変質して実用に耐えないものとなり、その大部分の3,944リットル約69万円が不経済となっている。
本はく離剤は、既装の塗料をはく離する際使用する薬剤であるが、納入後各補給処に保管中、約半年を経過した29年8月ごろから容器のブリキかんが腐しょくし、漏えいがはなはだしくはく離能力も低下して使用に耐えないものが多くなり、結局、56リットルを使用しただけで残余はことごとく漏えいしまたは廃棄処分に付したものである。しかして、契約の際仕様書ではく離剤自体の配合成分についてはなんら定めることなく、ただ容器にブリキかんを使用することとしたものであるが、事態発生後の29年9月納入者から徴した配合表をみてもメチレンクロライド60%、四塩化炭素5%、メタノール20%、ステアリン酸5%、アンモニア水10%となっており、このような配合では保管中に水分がメチレンクロライドおよび四塩化炭素に作用して塩酸を発生し、これによりブリキかんは容易に腐しょくされるばかりでなく、メチレンクロライドの蒸発が起り、ひいてははく離能力の低下をきたすものと認められる。 本件はく離剤は、購入後直ちに使用する計画ではないから、契約にあたっては、配合、容器とも相当期間保管に耐えるよう当然指定すべきであるのに、その処置をとらなかったのは当を得ない。
(20)
保安庁第一幕僚監部で、昭和29年2月、指名競争契約により日立工機株式会社から口径50空包発射補助具1型500組を4,041,500円で購入しているが、研究不十分で実用に供することができないことが判明していたのに大量発注したため、29年3月契約を変更したり、30年3月紡機製造株式会社に全量を1,735,000円で改造させるなど再三の手もどりをきたし、約290万円が不経済となっている。
右補助具は、重機関銃M2(口径50重銃身)を用い空包を連続発射する場合に使用するもので、使用空包は実包薬(約15グラム)を用いることとし、補助具1,491組を単価3,170円総額4,726,470円で日立工機株式会社に発注したものであるが、納期である29年3月31日にいたり、契約を変更し仕様書を一部改めるとともに数量を1,491組から500組に減じ、価格は1組当り3,170円を8,083円に増額して総額4,041m500円で購入したものである。
しかるに、納入された本件補助具は実用には不適当であるとして約1箇年にわたり武器補給処にこん包のまま放置されていたが、30年3月にいたり、この500組を口径50空包発射補助具改2型に改造することとし、紡機製造株式会社に1組当り3,470円総額1,735,000円で改造させてようやく実用に供することができるようになったもので、結局、本件補助具は使用にいたるまで1組当り11,553円を要したこととなっている。本件は、発注当時この補助具および空包では薬きょうの焼損、折曲りや後退不足をきたすなど使用上多大の疑問があったのに未解決のまま大量の発注をしたため再三の手もどりをきたし、著しく高価となったものである。仮に当初から補助具改2型を設計購入したとすれば当局の計算によっても1組当り約7,300円で足り、1組当り約4,300円総額において約215万円が不経済となっている。
なお、29年3月、指名競争契約により日平産業株式会社から右重機関銃に本件補助具1型をつけて発射する空包9,900発を単価132円60総額1,312,740円で購入しているが、補助具を改2型に改造したため、それに使用する空包も火薬量3.5グラムのものとなり、本件薬量16.5グラムのものは不適となって、30年10月にいたっても右9,900発のうち5,792発768,019円が使用不能のまま武器学校に保管されている。
(21)
防衛庁調達実施本部で、陸上幕僚監部の要求により、昭和29年8月および30年2月、随意契約により重機関銃M2(口径50重銃身)用空包を株式会社東京螺子製作所からそれぞれ240,000発および197,700発計437,700発を総額13,768,740円で購入しているが、発射のための補助具がないのに発注したため使用することができずそのまま30年度に繰り越されている。
右空包は、補助具2型および改2型によって発射するものであるが、右発注量は、重機関銃M2(口径50重銃身)の当時の総保有数1,889挺に全部空包発射補助具が付属するものとして総数540,000発を必要とする計算で購入計画を立てたところ、業者の製造能力不足等のため結局437,700発を購入したものである。しかし、右機関銃で空包を発射するためには補助具を必要とするのであって、その購入状況をみると、補助具2型10組を試作発注したのが29年7月で、実際納入されたのは12月末であり、また、前記(20)のとおり補助具1型500組の改2型への改造契約も30年3月にいたってようやく実施され、その納入期限は3月末日であるから、29年度の訓練において重機関銃M2の空包発射をすることはできない状況にあったものである。
しかるに、29年7月、補助具2型10組の試作契約と同時に年間所要数の約半数に当る240,000発を6,612,000円で購入し、30年2月にいたってもそのほとんど全量が在庫となっているのにさらに240,000発の第2次調達要求をし、197,700発を総額7,156,740円で購入したものであって、その処置は適切を欠いたものと認められ、このため30年6月末にいたっても29年度購入数の大部分である425,929発が未使用のまま在庫となっている。
(22)
防衛庁調達実施本部で、陸上幕僚監部の要求により、昭和29年12月から30年3月までの間に、指名競争契約により、神鋼電機株式会社ほか1会社から電動式1トンフォークリフト27台を単価1,750,000円から1,785,000円総額47,842,000円で、また、湯浅電池株式会社から右フォークリフト用充電器9台を単価770,000円総額6,930,000円でそれぞれ購入しているが、弾薬の集積方法および弾薬庫の現状を考慮しなかったためほとんど使用されていない状況である。
右フォークリフトは、弾薬の集積用として危険防止のためとくに一般のガソリン式に比べ1台当り約60万円高価に当る電動式のものを購入し、旭川ほか5駐とん部隊に納入させたものである。
しかし、弾薬の集積方法は、各弾種に応じて適当なまくら材を使用し防湿、通風、安定を期する方法を採用しており、本件フォークリフトの購入と並行し、別途大量のまくら木を購入していて、しかも、本機による積卸しには不可欠なパレットが全然準備されていない状況であって、まくら木による積載方法に対しては本機の使用は不可能と考えられるばかりでなく、本機を使用する場所はとくに平たんであることと相当な行動余地を必要とするのに、本機が納付された旭川弾薬庫ほか5箇所はいずれも弾薬庫の外が砂利敷程度であり、庫内も狭く行動半径に少なくとも5メートル程度を必要とする本機の行動には不適当と認められる。
このようなことは発注に先だって調査すれば容易に判明したものと認められるのに、単にガソリンエンジンが不適当であることだけを考慮し、このような高価な本機を購入したのはその処置当を得ないと認められ、現に、本件購入当時弾薬庫が完成していた旭川弾薬庫ほか4箇所においては、納付された本機をほとんど使用することなくローラーコンベヤーまたは人力により運搬、集積を行なっており、30年5月および7月、本機を全部武器補給処等へ返還している状況である。
(23)
保安庁第一幕僚監部および防衛庁調達実施本部で、昭和28年11月および29年12月、随意契約により沖電気工業株式会社ほか2会社から車両無線機用バイブレーター装置625台を38,053,000円で製作させ購入しているが、装置の入力電源の検討を欠き必要と認められない電圧にも使用することができるようにしたため約315万円が不経済となっている。
右バイブレーター装置は、車載の発電機および蓄電池から直流電源を受けてこれを変流、変圧のうえ車両無線機「JAN/VRC−3」に所定の電力を供給する装置であって、その規格を米国軍の仕様にならい、電源の電圧が6ボルト、12ボルト、24ボルトのいずれであっても使用することができるよう3段切替えとしたものである。
しかし、編成装備の実際をみると、本件装置使用の対象となる車両無線機は、591台を特車に、残余の34台を連絡用飛行機その他に装備することとなっており、特車の電源装置はその電圧がすべて24ボルトであるからバイブレーター装置も24ボルトだけで足り、連絡用飛行機その他の場合も大半は特車と同じく電源装置が24ボルトであるから、とくに全台数を3段切替えとする必要はなかったものである。
いま、仮に特車に使用する分591台だけについて24ボルト固定式にしたとすれば約315万円低価に購入することができたものである。