昭和29年度において農林省の支出した経費は一般会計1117億2千2百余万円、食糧管理ほか9特別会計7215億8千8百余万円となっているが、一般会計のうち国が直轄または都道府県に委託して施行する土地改良、開拓、干拓等の事業および機械の整備等に使用したものは139億1千8百余万円であり、また、地方公共団体等の施行する事業に対する国庫補助は192費目の多種類を数え、その額も559億8千4百余万円で、そのうち土地改良、地盤変動対策、林道開設、漁港修築および災害復旧等公共事業関係は60費目406億8千7百余万円となっている。
各農地事務局の施行した直轄工事については、農業水利、開拓、干拓等の工事を施行する83事業所のうち前年度に検査を施行しなかった事業所を主として66事業所の会計実地検査を実施したところ、工事の出来高については相当改善の跡が見受けられるが、なお、直営工事において、工事費等から架空の人夫賃、材料購入費等の名義により支払に立て、資金をねん出してこれを手元に保有し、ほしいままに労力費、材料購入費、常勤労務者給与等に使用しているなど不実の経理を行なっていたり、請負工事において、工事の現場監督および検収が不十分なため工事の施行が粗漏で手直しを要するものや、その出来高が不足しているのに設計どおり完成したものとして請負代金の全額を支払っているものがあるほか、請負工事費の積算にあたり、現地の調査が不十分であったり、機械の償却費の積算に慎重を欠いたため積算過大となっているものなどがある。
国営土地改良事業の一部を都道府県知事に委託して施行させる代行工事については開墾、干拓等の北海道を除く全国における工事現場992箇所のうち316箇所を実地に検査したが、その結果は既存の県道あるいは市町村道を拡幅したり、一部路線の付替や側溝を新設したり、既存の畑地を開田しているものなど土地改良の補助事業で施行するのが適当と認められるものや、耕作地としては不向きな高冷地を開拓しようとしたり、付近に利用することができる既存道路があるのに、さらにこれと並行して新路線を開設しているなどその計画当を得ないと認められるものが多数見受けられたほか、工事の施行が粗漏で手直しを要するもの、その出来高が不足しているものあるいは設計の過大なものなどが多数に上っている。
地方公共団体および農業協同組合等が施行した土地改良、地盤変動対策、林道開設、漁港修築および災害復旧等各種補助工事の不当事項については、既に26年度以降の検査報告において連年にわたり多数指摘してきたところであるが、本年度においても全国の工事現場59,675箇所のうち7%に相当する4,159箇所を実地に検査したところ、不当な工事を施行しているものなどが依然として多く、国庫補助を除外すべき額1工事10万円以上のものだけでも1,516工事国庫補助4億61百余万円に上り、かつ、その大部分はいずれも事業主体が正当な自己負担をしていないものであって、そのうちには国庫補助以下で工事を施行し、国庫補助に剰余を生じたこととなっているものさえ多数見受けられている。
しかして、公共事業関係補助工事の不当事項については、工事完成後の検査ではその是正が困難な場合が多く、むしろ工事完成前に査定の内容を検査し、早期に注意してその是正を促すことが効果的であると認め、29年発生災害についても早期検査を実施するとともに、28年発生災害の復旧工事未着手の地区で前年に検査を行わなかったものについてもあわせてこれを実施することとし、査定額がとくに多額な静岡ほか10県の3万9千7百余箇所工事費査定額283億6千3百余万円のうち1万余箇所58億7千4百余万円について検査したところ、29年発生災害については前年に比べ現地の実査が著しく増加したとはいえ、なお、二重査定、改良工事その他災害復旧の対象としてはならないものおよび設計過大となっているものが多数見受けられたので注意したところ、6千6百余箇所の工事につき工事費において16億7千1百余万円を減額是正することとなった。
昭和28年度決算検査報告において指摘した不当工事のうち、国庫補助を除外すべき額1工事20万円以上のものは854件であるが、このうち当局において国庫補助を返還または減額することとしたものは329件、この処理に代えて手直しまたは補強することとしたものは408件、一部を返還または減額し、一部を手直しまたは補強することとしたものは117件である。
しかして、右のうち返還することとしたもので、30年9月末現在まだ収納にいたっていないものが、134件に上る状況である。また、手直しまたは補強することとしたもののうち、静岡県ほか18府県について、国庫補助を除外すべき額1工事20万円以上のもの352箇所につきその施行状況を30年2月から3月までの間に現地について検査したところ、工事が完成していたものは123箇所にすぎず、149箇所は工事中であり、また、残余の80箇所は未着工であって、そのうちには検査当時まだ着工もしていないのに完成したこととしているものがあった。工事中の149箇所のうちには、検査があることを知り急きょ着工したとみられるものあるいは出来高が20%にも満たないものが多数見受けられた状況である。しかして、右検査当時工事中または未着工となっていた229箇所のうち、30年9月末現在工事を完成した旨報告のあったものは190箇所となっている。
公共事業関係以外の国庫補助については、前年度に引き続き主として末端の事業施行者に交付される農村振興、農産物増産助成、農産物病虫害防除等の継続平常的補助および28年に発生した冷害、凍霜害、風水害に対する災害対策費補助合計134費目119億2千2百余万円ならびに29年度国庫補助のうち農村振興補助ほか72費目73億8千1百余万円を選び、前年に実地検査を施行することができなかった480余の市町村および各種組合を実地に検査したが、その結果は前年度検査において指摘したと同様災害対策費補助においてこれを市町村等が使用しないで保有していたり、目的外に使用したり、あるいは補助の目的に沿わない安易な方法により分配しているなどの不当な事例が多数見受けられたばかりでなく、継続平常的補助においても事業主体が正当な自己負担をしていないで事業量が不足しているものが多く、なかには国庫補助以下で事業を施行し、剰余を生じた国庫補助を補助の目的と相違する使途に充てているものさえ相当数見受けられた状況で、これら国庫補助の経理当を得ないと認められるものが検査の結果判明したものだけでも3千5百余件3億7千1百余万円に上っている。