(組織)農林本省 (項)開拓事業費 ほか3科目
農林省で、事業費の全額を国が負担して開墾、干拓等国営土地改良事業の一部を代行工事として都道府県に実施させているものがあるが、本院においてこれら代行工事施行地区992箇所(北海道を徐く。)のうち、青森ほか18県について31%に相当する316箇所を実地に検査したところ、補助工事として施行するのが適当と認められるものを代行工事としているもの、開拓計画または地区の選定当を得ないため不経済となっているものがあるほか、工事の内容についてみると、現場監督および検収が不十分なため工事の施行が粗漏で手直しを要するものや、工事の出来高が不足しているのに設計どおり完成したものとして請負代金の全額を支払っているものがあり、また、工事費の積算においても現地の調査が不十分で積算が過大となっているものなどが多く、不当金額1工事10万円以上のものをあげると104工事78,615,878円に上っている。
しかして、現在施行されている代行工事の多くは昭和21年1月から23年5月までに緊急開拓事業として採択されていたものを代行工事としたものであるが、代行工事に切り替える際緊急開拓事業当時の計画をなんら検討することなくそのまま踏襲した結果、耕作に適せず入植者のほとんどない高冷の山林地を開墾しようとしているものや、緊急開拓事業当時においてさえ4割の地元負担を要するものとしていた既存の畑地の開田をそのまま全額国庫負担の代行工事としたため、同種の工事をかんがい排水補助事業として施行しているものとの間に著しく均衡を失すると認められるもの、既存の県道または市町村道を改修していたものなどが多数あったほか、なかには既往年度に補助干拓事業として承認を受けた干拓堤とうのかさ上げ工事の一部を代行災害復旧工事に乗り替えて施行しようとしているものや、受益面積わずか13町余にすぎない地区に2千1百余万円の多額を投じ、不必要に過大な断面の排水路等を建設し開拓しようとしているような著しく不経済と認められる事例も見受けられた。
代行工事として施行することが適当でないと認められる事例はとくに道路工事の場合に多く、既存の県道または市町村道等の利用で営農上なんら支障のないものをことさら拡幅したり、一部路線の付替えや側こうを掘るなど明らかに市町村道等の改修工事と認められるものや、付近に利用可能な道路があるのにさらにこれと並行して道路を開設しているものなどが少なくない。これら不急不用の工事に多額の国費を投じている反面、開拓上必要な道路工事の施行状況をみると、大部分は切土、盛土箇所を素掘りまたは土羽打だけとしているものが多く、法長10メートル以上にも及ぶ箇所においてさえ土留石垣等を施行していないため、開通もしないうちに崩壊し、これが復旧にさらに多額の費用を投じ土留石垣等を施行しなければならない不経済な結果をきたしている。また、道路および水路の大部分が完成し、地元が既にこれを利用しているのに引継を行なっていないため補修、補強等を全額国費支弁で施行しているものが多数見受けられた。
また、代行工事のうちには開拓者に現金収入を得させるなどのため都道府県が道路または水路工事等を地元の開拓農業協同組合に請け負わせているものがあるが、その実施状況をみると、組合は自ら工事を施行しないで建設業者等に下請けさせ、工事費の一部を組合に保留し、これを組合の一般経費に充てているものが多く、したがって、工事の出来高も不良で、なかには著しく粗漏な工事も見受けられており、地元請負で施行させる趣旨に沿わない結果となっているものがある。
なお、代行工事の予算は、事業の緊急性および事業内容を考慮することなく総花的に配賦されているため効率的に使用されていない。この傾向は干拓工事において顕著で、総額約5億円の予算を全国60箇所に配分しているため、全体にわたり工事の完成が著しく遅延し完成までに10数年を要することとなり、その間多額の手もどりを生じているばかりでなく、完成後使用を開始するときには既に施設が老朽化し、全面的に補強、補修を要することが予想され、かえって不経済となっている傾向が見受けられる。
しかして、検査の結果明らかになった不当工事のうち、不当金額20万円以上のもの75件74,424,514円を事項別に分類してあげると別表第3のとおりであるが、このように多数発見される不当事項の発生原因としては、代行工事が補助工事と異なり、地元負担を伴わず、工事費の全額を国庫で負担するため、関係市町村、土地改良区等が代行工事の対象とならないものや必要以上にぜいたくな施設を計画する傾向が強いのに対し、農林省当局の現地調査と設計内容の検討および工事に対する監督、検収が十分でないことなどによるものと認められ、これが防止対策としては事業計画の検討になお一層の徹底を期するとともに、工事の監督、検収を厳にする必要があるものと認められる。
なお、代行工事は、23年5月、農地開発建設工事代行要項(23年5月農林次官通ちょう)に基き、国が都府県に工事を委託することとして発足したところ、24年6月土地改良法(昭和24年法律第195号)が公布され、25年4月以降採択のものについては、同法第89条の規定に基き都道府県知事を国の機関として工事を施行させることとなったもので、国は事業費のほかにその8%程度を人件費、事務費として代行料の名義で都道府県に交付しているものであるが、都道府県は国から交付を受けた代行料のほか、事業費もその全額を一般歳入に繰り入れ、代行工事に要する経費はすべて歳出に計上し支出しており、地方財政の窮迫に伴い国から事業費の交付を受けたにもかかわらず、工事請負人に対する支払を著しく遅延させているものもある。
いま、前記不当事項のうち代表的な事例をあげると次のとおりである(各項末尾の( )内の数字は別表第3に掲記した番号を示す。)。
(1) 熊本農地事務局で、福岡県に施行させた板屋開拓道路工事は、27年度から29年度までの間に6,590,000円(うち28年度までの分4,990,000円)をもって既設の県道809メートルを幅員5.5メートルに拡張するなど改修を行なったものであるが、本地区は福岡、佐賀両県に境する背振山の山腹に位置し、那珂川ほか数河川の水源となっている標高600メートル以上に及ぶ高冷地で、地区の9割以上が樹令15年から40年のすぎ、ひのき等針葉樹の造林地であり、これを伐採開墾することは直接治山治水に及ぼす影響がじん大であるばかりでなく、高冷多雨の急傾斜地で土質も酸性土壌であるなど開墾適地たる未墾地とは認められない。現に、入植開始後7年を経た現在においても開墾面積145町、入植104戸の計画に対し実際に開墾されたものはわずか20町、入植者は9戸にすぎない状況で、本地区を開拓地として選定したことは当を得たものとは認められないばかりでなく、県道の改修を代行工事として施行したのは妥当でない。(代行工事として施行することが適当でないもの)(864)
(2) 京都農地事務局で、兵庫県に施行させている奥山地区開墾建設工事のうち、28、29両年度に8,310,400円(うち28年度分3,419,400円)をもって施行した幹線排水路工事は、延長1,241メートルを直高1メートル、底幅2.5メートルから4メートルの石積で施行したものであるが、本地区には直高1.2メートル、底幅2メートル程度の在来水路があり、これを利用すれば足り、ことさら新設する要は認められない。
なお、本地区の工事は総事業費21,662,640円をもって開田13町6反に必要なため池、水路、道路等の工事を施行するものであるが、開田面積わずか13町余にすぎないものに対し2千1百余万円の多額を投入することは不経済に失するものと認められる。(代行工事として施行することが適当でないもの)(863)
(3) 仙台農地事務局で、岩手県に施行させている西部線開拓道路工事延長27,109メートルのうち、29年度に1,335,000円をもって施行した636メートルは、横川目地区から二級国道平和街道に至る既設村道にほぼ並行して新規に道路を造ったものであるが、右村道は幅員4メートル程度の良好なもので、開拓者はこれを利用して営農に支障がないものであるから、代行工事としてこれを施行する要は認められない。(代行工事として施行することが適当でないもの)(858)
(4) 東京農地事務局で、静岡県に施行させている富士美平地区開墾建設工事のうち、29年度に1,080,000円をもって施行した幹線道路工事は、同地区と県道上野富士線を結ぶ既設村道のうち241メートルの幅員を4.5メートルに拡張するとともに道路わきの素掘水路をから積石垣に改修したものであるが、右村道は幅員4メートル程度の良好なもので開拓者はこれを利用して営農に支障がないものであるから、代行工事としてこのような改修を行う要は認められない。(代行工事として施行することが適当でないもの)(862)
(5) 仙台農地事務局で、福島県に施行させた赤井谷地大野原地区開墾建設工事のうち、29年度に2,825,000円をもって施行した幹線導水路および橋りょう工事は、導水路延長253メートルのコンクリート舗装および赤井川排水路に鉄筋コンクリート橋りょう11箇所を施行したものであるが、右橋りょうのうち7箇所工事費1,096,183円はいずれも現在は接続する道路もなく将来の区画整理による予定線に架設しているもので、代行工事として施行したのは妥当でない。(代行工事として施行することが適当でないもの)(861)
(6) 東京農地事務局で、長野県に施行させている小海原地区開墾建設工事のうち、29年度に2,780,000円をもって小海村農地開発組合に請け負わせたため池床張工事は、ため池底部5,311平米の床張を施行するもので、粘土1,593立米、表土1,593立米を施行したこととしているが、実際は粘土1,194立米、表土1,294立米を施行したにすぎず、同農地開発組合は工事費691,014円を他の用途に使用している。
右のため池は22年度に完成したものであるが、漏水が多く貯水不能となったので、さらに27年度から29年度までに6,475,500円で13,532平米の床張工を施行したが、き裂を生じ再び貯水不能となっている。
しかして、本地区は開田66町を目的として総事業費25,408,352円をもってため池1箇所、幹線水路延長5,781メートル、幹線道路延長5,660メートル等の工事を施行するもので、当初事業費の4割を地元で負担する農地開発事業として着手したところ、21年3月にいたり同じく地元負担4割の緊急農地開発委託事業に、さらに23年5月全額国庫負担の代行工事に切り替えられ現在にいたっているものであるが、本地区は未墾地の開田ではなく既成農家の畑地を水田とするもので、このような地目変換は代行工事の対象から除外されることとなっているものであるから、本地区を全額国庫負担の代行工事として採択していることは当を得ない。(出来高不足)(900)
(7) 熊本農地事務局で、大分県に施行させている中川地区開墾建設工事のうち、28、29両年度に10,634,200円(うち28年度分7,635,200円)をもって合名会社高山工業所に請け負わせた水路工事は、延長1,728メートルの護岸等を施行するもので、練積石垣639平米は胴込コンクリート平米当り0.2立米総量127立米を施行したこととしているが、実際はうち425平米はこれを全く施行しておらず、214平米は半量程度施行したにすぎず、また、ずい道延長237メートルの巻立コンクリート167立米は1:3:6の配合で施行したこととしているが、実際は骨材に石くずおよび現場採取の山砂を混入した粗悪なもので施行したなどのため2,076,900円が出来高不足となっている。
なお、本地区は開田72町を目的として総事業費48,760,585円をもって幹線水路9,253メートル、頭首工3箇所等の工事を施行するもので、当初事業費の4割を地元が負担する農地開発事業として着手したところ、21年3月にいたり同じく地元負担4割の緊急農地開発委託事業に、さらに23年5月全額国庫負担の代行工事に切り替えられ現在にいたったものであるが、本地区の大部分は未墾地の開田ではなく既成農家の畑地を水田とするもので、このような地目変換は代行工事の対象から除外されることとなっているものであるから、本地区を全額国庫負担の代行工事として採択していることは当を得ない。(出来高不足)(932)
(8) 東京農地事務局で、長野県に施行させている水内地区開墾建設工事のうち、29年度に6,426,063円をもって水内開拓農業協同組合に請け負わせたため池および放水路工事は、堤とう延長62メートルの築堤および余水吐放水路延長46メートルの護岸を施行するもので、練積石垣262平米は平米当り胴込コンクリート0.12立米総量31立米、裏込コンクリート0.3立米総量78立米を施行したこととしているが、実際は胴込コンクリートは配合の悪い粗悪なもので平米当り0.09立米程度総量23立米、裏込コンクリート0.15立米程度総量30立米を施行したにすぎず、また、築堤ははがね土340立米、盛土2,175立米を施行したこととしているが、実際ははがね土293立米、盛土1,533立米を施行したにすぎないなどのため853,979円が出来高不足となっている。
なお、同組合はセメント1,666袋を使用して工事を6,430,000円で施行したこととしているが、実際は1,255袋を使用して5,737,647円で施行しており、残額692,353円は290,018円を飲食費等に充て、402,335円を保有していた。(出来高不足)(901)
(9) 岡山農地事務局で、愛媛県に施行させている石根地区開墾建設工事のうち、29年度に1,580,000円をもって深谷地区開拓農業協同組合に請け負わせた道路工事は、延長694メートルを施行するもので、硬岩120立米、軟岩422立米、玉石交り土砂3,706立米の切取を施行したこととしているが、実際は硬岩10立米、軟岩108立米、玉石交り土砂2,497立米を施行したにすぎないなどのため492,000円が出来高不足となっている。
なお、同組合は工事を1,580,000円で施行したこととしているが、実際は1,087,295円で施行しており、残額492,705円は本件道路の陳情費に150,000円、飲食費に120,735円、補償料、借入金の利子等に143,688円を使用し、78,282円を保有していた。(出来高不足)(922)
(10) 仙台農地事務局で、山形県に施行させている大海平地区開墾建設工事のうち、27年度から29年度までの間に1,601,000円(うち28年度までの分1,387,000円)をもって志田建設株式会社に請け負わせた土えん堤工事は、ため池堤とう延長68メートル」の基礎部分の盛土等を施行するもので、表土はぎ取1,547立米、中心床掘1,041立米、はがね土1,355立米、さや土3,874立米を施行したこととしているが、実際は表土はぎ取および中心床掘をほとんど施行しないで、水田の上にはがね土およびさや土の区別なく雑石、草木根の混入した不良な盛土をしているばかりでなく、つき固めもほとんど行わないなど施行が粗漏で工事の目的を達していない。(粗漏工事)(883)
(11) 同農地事務局で、福島県に施行させている阿武隈縦断開拓道路工事のうち、28、29両年度に3,570,000円(うち28年度分1,462,000円)をもって双葉建設工業株式会社に請け負わせた道路工事は、延長1,355メートルを開設するもので、敷砂利は幅4メートル、厚さ10センチメートルで 総量479立米を施行したこととしているが、実際は幅3メートル、厚さ4センチメートル程度で153立米を施行したにすぎないなどのため438,767円が出来高不足となっており、また、転石取除き579立米を施行したこととしているが、実際は275立米を施行すれば足りたなどのため321,883円が設計過大となっている。なお、請負人は請負額から1,000,000円を差し引き2,570,000円で双葉郡大原某に下請けさせている状況である。(出来高不足、設計過大)(888)
(12) 京都農地事務局名古屋建設事務所で、愛知県に施行させた乙川地区開墾建設工事のうち、29年度に29,325,000円で酒井建設株式会社ほか3会社に請け負わせた28年災害復旧工事は、海岸堤とう延長1,740メートルを復旧するもので、練積石垣4,807平米の胴込、裏込コンクリートは平米当り表石垣0.33立米、裏石垣0.29立米総量1,530立米、裏込ぐり石は表、裏石垣とも0.3立米総量1,442立米を施行したこととしているが、実際は胴込、裏込コンクリートは配合の悪い粗悪なもので表石垣0.27立米、裏石垣0.18立米程度総量1,178立米、裏込ぐり石は表石垣0.27立米、裏石垣0.15立米程度総量1,158立米を施行したにすぎないなどのため3,158,033円が出来高不足となっている。
なお、右のほか本件工事の現場監督用として別途に410,000円で見張小屋1むね15坪を新築したこととしているが、実際は工事の大部分が終了した30年1月、半田農地開発事務所構内に住宅として建築され、職員宿舎に使用されている。(出来高不足)(904)
(13) 岡山農地事務局で、山口県に施行させている徳佐地区開墾建設工事のうち、29年度に4,800,000円をもって株式会社井森組に請け負わせたため池工事は、堤とう延長197メートルの波除護岸を施行するもので、から積石垣4,081平米は平米当り割石11個使いで裏込ぐり石0.3立米総量1,224立米を施行したこととしているが、実際は石積の施行が粗雑で割石と割石との間に5センチメートルから10センチメートル程度の空げきを生じ平米当り9個使いとなり、また、裏込ぐり石は0.2立米総量816立米を施行したにすぎないなどのため1,459,000円が出来高不足となっている。(出来高不足)(920)
(14) 熊本農地事務局で、佐賀県に施行させている浜地区干拓建設工事のうち、28、29両年度に5,417,984円(うち28年度分5,161,984円)をもって施行した堤とう工事は、堤とう583メートルの護岸を施行するもので、練積石垣736平米は胴込コンクリート平米当り表石垣0.18立米、裏石垣0.14立米で総量131立米を施行したこととしているが、実際は胴込コンクリートをほとんど実施しないでぐり石を充てんし、上部に厚さ5センチメートル程度のならしコンクリートを施行したにすぎず、また、築石は控45センチメートルの間知石を使用したこととしているが、実際はうち367平米は控36センチメートルのものを使用しているなどのため基礎石垣としての強度がないばかりでなく、築石は容易に取りはずせるなど工事の施行が著しく粗漏である。(粗漏工事)(928)