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  • 昭和30年度|
  • 第1章 総論

不当事項および是正事項


第4節 不当事項および是正事項

第1 概要

 本院において、昭和30年12月から31年11月までの間に、国および政府関係機関等の歳入、歳出等に関する計算書および証拠書類を検査したものは14万7千余冊、3千5百余万枚である。
 会計検査に伴い関係者に対し質問を発したものは1万余件である。
 このようにして検査した結果、ここに不当事項および是正させた事項として記載するものを所管別、政府関係機関別にあげると

所管または
政府関係機関
租税 予算経理 工事 物件 役務 保険 補助金 不正行為 その他

裁判所

1

1
総理府     35 9       3   47
法務省   3   1 1     4   9
大蔵省 619
(599)
    23
(2)
      2   644
(601)
文部省             27 2   29
厚生省   2       106
(106)
85 4   197
(106)
農林省   1 74 4   195 708 3 4 989
通商産業省           13 17
(1)
    30
(1)
運輸省   4   1     12     17
郵政省       1 4     24   29
労働省           84
(54)
12 2 1 99
(54)
建設省     1 1
(1)
    46 1   49
(1)
日本専売公社               1   1
日本国有鉄道     15 16 1     1   33
日本電信電話公社     3 2       3   8
農林漁業金融公庫                 3 3

619
(599)
10 128 58
(3)
6 398
(160)
907
(1)
51 8 2,185
(763)

 備考(ア)件数は本検査報告の番号の数による。
    (イ)(  )内の件数は是正させた事項の件数をうち書きしたものである。
であって、合計2,185件その批難金額概計66億円に上っている。
 国および政府関係機関等の会計においてこのように不当な経理の多いことは遺憾に堪えないところである。
 右2、185件について、概括して記述すると次のとおりである。

第2 予算経理

 予算の経理については、経理びん乱のほか予算の効率的使用の面も考えられるが、これについては本節第3(工事)、第4(物件)等において記述することとし、本項では経理のびん乱について記述する。
 架空の名義によりもしくは正当支払額に付増ししてまたは正当債権者に支払ったこととして資金をねん出し、あるいは物品の売渡代金、病院診療料金等を受領しながら歳入に納付しないで別途に保管し、これをほしいままに物品購入代、修繕費、職員厚生費、会議費、交際費等に充てているものがあり、そのうちには経理もびん乱していてその使途が不明となっていたり、領得されたりしているものがある。
 右の違法経理については、毎年度の検査報告に掲記するとともに関係庁に対してもその根絶方を要望してきたところであるが、本年度においてもなお10箇所において発見されている。
 このような違法な経理の行われるおもな原因は、予算経理について関係法令を軽視したことなどによるものと認められ、関係庁においては責任の追及を厳にするなどその発生の防止に万全を期すべきである。

第3 工事

 工事の施行については、計画、設計、工事費の積算が適当でなかったため不経済な結果となったり、監督、検収が不十分なため工事費が過渡となっている事例が毎年多数見受けられるが、本年度検査の結果についてみても同様の事例が多く、工事費予算の効率的使用についてはなお一層の留意が必要である。
 すなわち、工事の設計については、現地の状況を十分は握しないで計画、設計したため工事の効果が十分にあがっていないもの、事業効果の少ないものに多額の経費を投入しているもの、既設のものの利用を考慮しないで新設工事を施行し不経済な結果をきたしている事例があり、とくに農林省において都道府県に工事を委託する開墾、干拓等の事業にその例が多い。

 また、工事費予定価格の積算にあたっては、契約価格の基準となるものであるから、各要素にわたり十分な配意が必要であるが、現地の実情、工事の実態、市況の調査が不十分なため見積りが適正を欠いている事例が依然多数見受けられ、そのうちには、地質の調査をしていながらその結果を考慮しないで単純な見込で積算していたり、工事に必要な資材で請負人が市販の製品を購入し加工の必要もなく取扱に特別な経費を要しないのに高い経費率によって積算しているものがある。
 工事を請負に付するにあたっては、業者の選定が適切でなければならないが、請負人においてそのままこれを下請けに付し、いたずらに中間利得を与える結果となっているものがあり、また、契約の締結にあたり、使用する資材によっては支給扱とした方が有利であるのに、これを請負人持ちとしているため不経済となっているものがある。
 工事の監督、検収が形式に流れて適確に行われず、工事の施行が粗漏であったり、出来高が不足しているのにそのまま検収して代金の全額を支払っている事例は本年度においても見受けられ、とくに農林省の代行工事にその事例が多い。

第4 物件

 物件の調達、管理および処分については、経費の効率的使用、物件の活用、財政収入の確保等の観点において、その経理に万全を期さなければならないが、本年度検査の結果によれば、調達物件の規格および数量の決定、納地の指定、予定価格の積算、物件の検収、管理および売渡について遺憾な事例が少なくない。
 すなわち,調達物件の規格および数量の決定については、特殊銘柄を指定して購入し不経済となっていたり、具体的な使用計画や実際の必要度または保有物件の活用を十分検討しないで調達したため、退蔵または遊休化等の結果をきたしている事例が多い。また、調達物件の納地の指定については、生産と需要の実情は握が十分でなく、納地を集中して指定したため不経済な結果となっているものがある。
 予定価格の積算はとくに慎重を要するものであるが、調査不十分なため主要材料の所要量、価格等についての見積りが適確を欠くなど予定価格が過大となり、ひいて契約価額が適正な額をこえたと認められるものが相当ある。

 また、検収は、相手方の債務の履行を確認するものであるから適確に行わなければならないことは当然であるのに、ややもすると形式に流れる傾向があり、納入された現品と契約上の規格とが相違しているのにそのまま見のがされていたり、現品の検査を行わないで不良品を受領していたものなどがある。
 物件の管理については、国有財産の実態のは握と台帳の整備等が不十分で、物件の所在または現況が不明となっているもの、帳簿外、二重記帳または処分済で台帳まっ消未済となっているもの、ほしいままに処分されているのにそのままとなっているもの、無断使用されているものなどがあるほか、国有財産使用料等の徴収について適切を欠いているものが少なくない。
 また、物件の売渡にあたり、売渡価格の算定について、各要素についての評価が適正でなかったためひいて売渡価額が低価となっていると認められるもの、または用途を指定して売り渡した物件について、その指定条件に違反して転売されているのにそのまま放置されているものなどが見受けられる。

第5 保険

 国が特別会計を設けて経営する各保険事業について検査したところ、保険事業の運営、保険給付、保険金の支払または保険料等の徴収について遺憾な事例が少なくない。
 すなわち、保険事業の運営については、農林省所管の農業共済保険事業において、農業共済組合の主要農作物共済掛金の徴収、組合員に対する共済金の支払および保険金の基礎となる被害の評価等に関し処置当を得ないものが多数発見され、保険金の支払については、農林省所管の森林火災、通商産業省所管の中小企業信用両保険事業において、架空の被害に対して保険金を支払うなど保険金支払の対象としてはならないものに対して支払ったり、過大な申請に対してそのまま保険金を支払い過大交付となっているものがあり、労働省所管の労働者災害補償、失業両保険事業において、関係資料を活用するなど十分な調査を行わなかったため受給資格のない者に給付するなど適正を欠いていると認められるものが少なくない。
 また、保険料等の徴収については、厚生省所管の厚生保険、労働省所管の労働者災害補償、失業両保険事業において、保険料算定の基礎となる標準報酬月額または賃金総額のは握が十分でなかったなどのため保険料等の徴収不足となっていたものが多額に上っている。

第6 補助金

 国が国庫補助金または国庫負担金等として昭和30年度中に地方公共団体、組合等に交付した金額は、地方交付税交付金および地方譲与税譲与金を除き総額3,314億4千2百余万円に上っている。
 これら国庫補助金等のうち公共事業関係のものの経理については、事業主体が補助の対象となる事業費を過大に積算して査定を受けたり、設計どおりの工事を施行しなかったり、また、災害に便乗して改良工事を施行したり、はなはだしいのは架空の申請をしたり二重の査定を受けたりして国庫補助金等の交付を受けているなどの不当な事例が多く、これら不当経理の防止対策を樹立し、その絶滅をはかることが緊要であることは本院の毎年指摘してきたところであって、本年度検査の結果によれば、架空工事、二重査定のようなとくに不当なものは見受けられず相当改善の跡はみえたが、いまなお不当な事例が依然として少なくなく、国庫補助金等を除外すべき金額は工事完成後の検査によったものが総額4億1千余万円となっている。このほか、災害復旧工事の完成前早期にその査定の内容を検査し工事費を減額是正させたものが農林、建設、運輸各省所管において国庫補助金相当額5億1千8百余万円に上っている。

 また、公共事業関係以外の国庫補助金等の経理についても、これを市町村等が使用しないで保有していたり、補助の目的に沿わない不適正な方法で配分したり、補助の目的以外に使用していたり、地元負担の全部または一部をしないで事業を実施したため事業量が不足しているなどの不当な事例が依然として多い。また、災害融資金に対する利子補給金の交付を受ける農林中央金庫等の金融機関から低利に融資を受けた農業協同組合等が当該融資金を農林漁業者に貸し付けないで事業資金等に使用していたり、災害に関係のない旧債権の回収に充てているなどの事例も多い。
 国庫補助金等を事業主体に交付するにあたっては、国の支出事務を都道府県の職員に委任し、または都道府県を通じて間接に交付する取扱によっているものが多いが、本院において都道府県の30年度国庫補助金交付に関する経理を検査したところ、委任支出事務の経理において、青森ほか1県で、県財政の一時資金繰りのため主務省からの補助指令がないのに地方公共団体である県に対し小切手を振り出したものが2億9百余万円あり、また、間接に交付する取扱の国庫補助金等においても、千葉県ほか30都道府県で、国庫から補助金等を受け入れており、かつ、補助事業も完了しているのに、事務手続の遅延、資金繰りの困難等のため国から受け入れた国庫補助金等を直接補助事業主体に交付しないで2箇月以上を経過していたものが農林省所管分6億4千7百余万円、総理府所管分5千3百余万円、厚生省所管分3千余万円等総計7億3千2百余万円に上っている。さらに、補助事業が年度内に完了していないのにこれを完了したこととして国庫補助金等を支出し雑部金に繰り入れていたものが、29年度補助事業について秋田県ほか39都府県で84億7千5百余万円の多額に上っており、そのうち5千3百余万円は31年9月末現在なおそのまま保留されている。

第7 不正行為

 会計事務に関係ある職員の不正行為により国または政府関係機関に損害を与えたもので、本検査報告に掲記したものは51件その被害金額は1億9千7百余万円に上り、昭和31年9月末現在補てんされた額は3千3百余万円である。
 従来から不正行為は、郵政省の貯金、保険の関係職員にとくに多く見受けられたが、本年度においても郵便貯金の預入金や簡易生命保険保険料を領得するなどの事例が依然として多く、1事項50,000円以上のもので56事項5244万余円に及んでおり、まだ改善の跡がみられない。郵政省に次いで不正行為の多いのは、法務省の7事項3211万余円で、主として地方検察庁の職員が罰金、刑事領置物の換価代金等を領得したものである。不正行為金額においては、農林省の7012万余円が最も大きい。
 このような不正行為の発生する原因は、不正行為者本人の良心の問題ではあるが、予算執行職員等の地位にある者が会計制度本来の趣旨に沿わない運用をしたり、または監督の任に当る者が部下を過信して内部けん制組織を適確に運用しなかったり、適切な監督を怠っているなど自己の職責を完全に尽さないことに乗ぜられたものもあると認められる。
 国および政府関係機関における不正行為は、その庁等の信用にも多大の悪影響を及ぼすものであるから、経理事務執行についての規律の厳守および監督の徹底にはとくに留意を要することは、本院が毎年度の検査報告に記述して注意を促してきたところであるが、まだ前記のように多数の不正行為が発見されているのは誠に遺憾である。