(組織)防衛庁(項)防衛庁
防衛庁調達実施本部で、航空、陸上両幕僚監部の要求により、昭和30年5月、指名競争契約により大協石油株式会社から航空自衛隊用として91航空ガソリン650キロリットルを価額19,925,198円で、また、陸上自衛隊用として80航空ガソリン390キロリットルを価額11,740,164円でそれぞれ購入しているが、いずれも検収処置が適切を欠き不良品を受領している。
右ガソリンは、航空自衛隊では「T−34」メンター練習機に、陸上自衛隊では「L−5」連絡機、「L−19」連絡機に使用するものであるが、航空自衛隊において30年12月から31年1月までの間に、浜松、防府両基地でメンター機が本件ガソリンを使用して訓練中、相次いで故障を生じ、また、陸上自衛隊においては、納入後約1箇月を経過した30年8月、小月駐とん部隊に納入保管中の本件ガソリンを使用したところ品質に疑念を生ずるにいたったため、防衛庁技術研究所において、80航空ガソリンについては30年10月から11月までの間に、91航空ガソリンについては31年1月から3月までの間に規格試験を行なったが、その結果は、左のとおり
品目 | (保管箇所) | 試験項目 | ||||
実在ガム (mg/100cc) |
酸化安定度試験(5時間) | 四エチル鉛含有量 (cc/U.S.gal) |
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沈でん量 (mg/100cc) |
潜在ガム (mg/100cc) |
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試料 | 91航空ガソリン | (浜松基地隊) | 17.7 | 108.3 | 103.4 | 5.8 |
80〃 | (千歳駐とん部隊) | 24.2 | 35.1 | 191.5 | 0.64 | |
同 | (旭川〃) | 21.0 | 30.0 | 194.4 | 0.68 | |
規格 | 91航空ガソリン | 3.0以下 | 2.0以下 | 6.0以下 | 4.60以下 | |
80〃 | 1.00以下 |
規格限界点を著しく超過していて使用に耐えないものであることが判明し、航空、陸上両幕僚監部の残量それぞれ142キロリットルおよび237キロリットルについて使用を中止するにいたったものである。本院において、31年4月当局立会のもとに採取した本件91航空ガソリンの試料について、5月および6月、東京大学および工業技術院に試験を依頼した結果は、実在ガム17.2ミリグラム、16時間の酸化安定度試験による沈でん量160.3ミリグラム、潜在ガム105.2ミリグラム、四エチル鉛含有量5.30ccであって、規格に対して実在ガムは5倍、潜在ガムは17倍に達し、航空ガソリンとしては全く使用に耐えないものであることが確認された。
本件航空ガソリンの検収は、30年6月から7月までの間に、検査担当官を工場に出張させて工場側の試験担当者と立会のうえ、調達実施本部所定の抜取試料について仕様書に規定した規格試験を行なった結果合格品としたものであるが、ガム質の主たる生因である不飽和炭化水素分が貯蔵中に新たに生成することはなく、4箇月から半年余保管している間に16時間の酸化安定度試験に合格したもののガムがこのように著しく増加することは考えられず、また、四エチル鉛の定量試験の誤差はきわめてわずかなものであるから、検査を適確に行なったとすれば本件納入品が不適格品であることは検収の際容易に検知することができたものと認められ、結局、検収試験が不十分であったと認めるほかはない。しかして、本品はその製造方法が接触分解式であって不飽和炭化水素が多量に存在するおそれが十分あるのであるから、検収にあたってはとくにこの点について注意しなければならなかったものである。