農業共済保険事業の運営が適切を欠いている事例については、昭和28年度以降毎年度の検査報告に掲記してその適正をはかるよう注意してきたところであるが、34年においても、共済金は組合員に正当に支払われているか、保険金請求に際し被害の評価および府県農業共済組合連合会への報告は事実に即して行なわれているかなどについて、水稲および蚕繭の被害のとくに多かった福島ほか8県の147農業共済組合につき調査を行なったところ、共済金の経理当を得ないと認められるものが69組合で374,466,596円(国庫負担推定額2億1930余万円)に上っており、これを不当の態様別に示すと左のとおりである。
共済種目 | 県名 | 調査済共済組合数 | 調査済共済金額 | 共済金を組合員に全く支払わないもの | 共済金の一部を組合員に支払わないもの (うち目的外に使用した額) |
共済金を補償対象外の被害3割未満のものをも含めて配分しているもの | 計 | ||||
組合数 | 共済金額 | 組合数 | 共済金額 | 組合数 | 共済金額 | 組合数 | 共済金額 | ||||
主要農作物 |
兵庫県 |
15 |
千円 39,231 |
千円 | 千円 | 6 |
千円 18,967 |
6 |
千円 18,967 |
||
奈良〃 | 14 | 40,076 | 4 | 7,694 | 6 | 23,760 (15,440) |
4 | 10,153 | 14 | 41,608 | |
佐賀〃 | 5 | 30,154 | |||||||||
長崎〃 | 12 | 244,184 | 1 | 4,176 (1,301) |
1 | 4,176 | |||||
熊本〃 | 21 | 167,581 | 2 | 6,801 (1,445) |
13 | 123,243 | 15 | 130,045 | |||
宮崎〃 | 17 | 175,878 | 5 | 51,779 (2,571) |
10 | 68,731 | 15 | 120,511 | |||
小計 | 84 | 697,106 | 4 | 7,694 | 14 | 86,518 (20,758) |
33 | 221,096 | 51 | 315,309 | |
蚕繭 | 福島県 | 17 | 45,503 | ||||||||
群馬〃 | 22 | 196,870 | |||||||||
山梨〃 | 24 | 78,242 | 16 | 55,202 (31,350) |
2 | 3,954 | 18 | 59,156 | |||
小計 | 63 | 320,616 | 16 | 55,202 (31,350) |
2 | 3,954 | 18 | 59,156 | |||
計 | 147 | 1,017,723 | 4 | 7,694 | 30 | 141,721 (52,108) |
35 | 225,050 | 69 | 374,466 |
備考 不当に経理された共済金には調査済共済金のほかあわせて経理された金額を含む。
右は、いずれも組合において共済金の全部もしくは一部を支払わないものまたはこれを正規の基準によることなく補償対象外の組合員をも含め掛金額に応じて支払ったもの、あるいは保険金請求に際し実評価を上回る被害報告をして過大な保険金を受領し過大分を組合員に配分しないで事務所建築費、組合会議費等目的外に使用したものなどで、これら不当に経理された共済金のうち正規の基準によらないで組合員に支払われたものは274,007,858円で、残額100,458,738円は40,655,418円を組合の未収掛金、組合経費賦課金等と相殺し、59,803,320円を目的外に使用している。しかして、組合のうちには共済金の全部または大部分を別途に経理して県農業共済組合連合会に対する保険料、賦課金の支払財源等とし、組合員からは掛金、賦課金を全く徴収していないなど実質的に共済事業を行なっていないと認められるものもあり、また、組合が共済金を連合会の決定どおり支払っている場合においてもなお部落においてこれを組合員から回収して再配分していたり、掛金、賦課金の支払財源としていたりまたは目的外に使用していたりするなど従来から数多く見受けられた事例が依然として跡を絶たない状態である。
また、34年においては、右のほか北海道ほか11都府県の39農業共済組合を選び、掛金の徴収が法令に従い適期に行なわれているかにつきとくに調査を実施したところ、組合の定款に定める納入期日までに収納されている掛金の額は少なく、共済責任期間終了後なお掛金の一部を未納のままとしている組合がほとんどで、なかには掛金の納入告知を前記定款で定める納入期日以降に行なっているものもある状況である。
以上のように、本制度はその基盤となっている末端農業共済組合において、掛金の徴収、共済金の経理のいずれも法の期待する運営が実施されているとは認められない実情であり、これは、前年度までの検査報告においてもその原因を詳述したが、結局、現行制度は農民の保険意識等にかんがみ十分に農民感情になじまない点が多いことなどによるものと認められ、制度の根本的な検討が望ましい。
いま、検査の結果判明した不当経理のうち、とくに不当と認められる共済金目的外使用が1組合当り20万円以上のものをあげると別表第3のとおり30件その目的外使用額59,556,571円になっている。