昭和36年12月から37年11月までの間に、会計検査院法第36条の規定に基づき、責任者に対し、法令、制度または行政に関して改善の意見を表示したものは次のとおり2件である。
(1) 電話加入者開通工事等における宅内用品の取扱いおよび工事の施行について改善の意見を表示したもの (昭和37年11月14日付け37検第539号 日本電信電話公社総裁あて)
日本電信電話公社における電話加入者宅内装置については、加入者の増加とともにその開通、移設等の経費も逐年増加しているが、宅内用品の取扱いとこれら工事の施行状況についてみると、下記のとおり、不必要な部品を付して購入しているもの、撤去資材の利活用が適切に行なわれていないもの、または請負工事の施行にあたり資材の選定が適切に行なわれていないもの、予定価格の積算が実情にそわないもの、工事の出来形が仕様と相違しているものなど検討を要すると認められる事例がある。電話加入者宅内装置は電話機、保安器、接地棒および配線材料からなっているもので、その開通費用も1加入者当り約1万円程度で他の電気通信施設に比べて簡易な施設であるため、日本電信電話公社においては一般にこの種工程に対する関心が薄くその実施を地区管理部、電気通信部等下部管理機関に一任しているためその取扱いが区々となっているなど安易に行なわれている傾向が見受けられるが、1加入者当りにすればわずかな節約額であっても今後新規加入者が飛躍的に増加することが見込まれている現状にかんがみ、これらの点にも検討を加え、もってこの種工程の経済的な施行をはかる必要があると認められる。
記
1 共同用電話機の購入について
共同用電話機は、3心の電話機ひもおよび外線端子板を付して購入しているが、加入者の希望によってこれに秘話機能を与える場合には別に1号宅内リレーかんを取り付けることになり、このリレーかんには5心ひもが付いているので、電話機に付けられている3心ひもおよび外線端子板はこの場合全く不用となり、しかも、この撤去された電話機ひもおよび外線端子板はそのままくずとして処理されているものが少なくない。したがって、電話機ひもおよび外線端子板を付して電話機を購入する現在の取扱いは、使用の実情にそわず、不経済な結果となっていると認められる。
2 撤去品の利活用について
宅内用品の撤去品の利活用については、資材担当部門だけでなく、技術担当部門および各現場機関まで一致して利活用をはかる必要があると認められるのに、その処置が十分でなく不経済となっているものが次のとおりある。
(1) 3号電話機は、自動式局の4号化および共電式局の自動改式によりその施設数は年々減少し、これに伴って撤去された同電話機は使用見込みもなく在庫され、その数は年々累増している。
しかして、現在設置されている3号電話機の修理は新品部品を購入のうえこれを行なっており、昭和36年度における購入額は約1億1000万円となっているが、3号電話機の今後の使用は昭和40年ごろまでとなっていて、その使用期間は短期間であり、また、在庫の3号電話機はこれを解体すれば部品として十分使用に耐えるものが相当量含まれているのであるから、3号電話機の修理部品としてその全量新品を購入するのは不経済と認められる。
(2) 保安器は、電話機の移転工事にあたり、移設場所には新品を充当し、既設のものはこれを撤去するのが例であるが、この撤去品は一部のものを除きくずとして取り扱われている。しかしながら、現仕様の1号小型加入者保安器の撤去品でくずとして処理されているものについて調査してみると、保安器内部は使用上なんら支障がなくわずかな塗装費用で十分再用することができるものであるのに、単にきょう体外部がさびていることなどを理由にくずとしていたり、また、その部品であるヒューズ管および避雷器を再用試験も行なわずに一括くずとして処分したりしている不経済な事例が少なくない。
(3) 金属接地棒は、高規格の素材にメッキを施すなど長期の使用に耐える仕様となっているのであるから、電話機の移転工事にあたってはこれが再用をはかるべきであるのに、再用について明確な指示がないため、全量撤去して極力再用をはかっている電気通信局もあるが、他の電気通信局では取付場所に埋設したまま放棄しているものも少なくない。
3 請負工事の施行について
加入者開通工事は、従来直営で施行していたが、工事量の増大により直営では消化することができなくなったため、近時請負とあわせ施行することとし、36年度は直営と請負の施行比率は50%程度となっていて、今後ますます請負の比率が増加するものであるが、この請負工事の実態についてみると、不経済な結果となっているものが次のとおりある。
(1) 接地工事の標準実施方法によれば、土じょうの堅い場所等には金属接地棒を、また、腐しょくの点等で金属接地棒の使用に適しない地域には炭素接地棒をそれぞれ使用することになっているが、工事施行の実態についてみると、標準実施方法に定める使用区分によらず、金属接地棒を使用すべき場所に施行費用の高価な炭素接地棒を使用している事例が少なくない。
(2) 予定価格の積算については、本社建設局で標準能率および積算方法について各電気通信局に指示し、各電気通信局ではこれにより一律に算定しているものであるが、この内容についてみると、所要人工を直営および請負の実績からみて過大に見込んでいたり、また、資材の運搬費の算定にあたり、実情に即した自家用車両の損料を見込めば足りると認められるのに、高価な借上げ車両の料金を計上したりして、作業の実態や現地の実情にそわないものがある。
(3) 接地工事の施行の実情をみると、接地棒の埋設が所定の深度に達していないものがあったり、また、炭素接地棒を使用した工事においては、黒鉛を接地棒と無関係に散布しているものがあったり、全くてん充していないものがあったりして仕様どおり施行されていないものが少なくない。
(2) 農林漁業金融公庫貸付けの適正化について改善の意見を表示したもの (昭和37年10月22日付け37検第502号 農林漁業金融公庫総裁あて)
農林漁業金融公庫貸付金の各貸付先における使用状況については、借受人が貸付けを受けた後国または地方公共団体から補助金を交付された場合相当額を繰上償還させることとなっているのに繰上償還をさせていないもの、計画事業費が縮少しまたは計画事業費より少額で事業を完成させたため貸付けの限度をこえる結果となっているのに相当額の繰上償還をさせていないものなど公庫の業務方法書、融資要綱に定める事項が遵守されない結果となっている事例が多く、これらについては昭和28年度から35年度までの検査報告に掲記したほかしばしばその是正について特段の努力を要望してきたところであるが、受領済補助金相当額の繰上償還について改善の跡がうかがえるほかは、貸付けの限度をこえているのに繰上償還が実行されていない態様については改善の跡がうかがえず、本年中に本院が実地に調査した結果をみても依然として従来と同様の状況である。
しかして、これらの貸付限度をこえている事例の大部分は借受人が自己負担金の全部または一部の拠出を免れるために計画事業費より少額で事業を完了したために生ずるものであって、借受人においては、資金計画どおり事業が完了したように虚偽の帳簿、証拠書類等を作成しているものが少なくなく、この傾向はとくに毎年度公庫貸付総額のうち3割以上を占める土地改良事業に対する貸付けにおいて著しい。
農林漁業金融公庫においては、これら不適正な事例について、借受人が誠実さを欠いていること、貸付限度内の融資金額が借受人の側からみて不足していること、借受人の経理能力が欠如していることなどをその発生の原因にあげ、借用証書特約条項の不備から限度超過分を直ちに返還させることが困難なこと、融資という建前上借受人に強い規制をなし難いことなどを対策上の難点とし、その適正化については、主務官庁の指導、施策さらに地方行政庁の協力に期待している状況で、貸付先の調査については、代理貸の場合には受託金融機関の監査とあわせ必要に応じて自らこれを行なうこととなっているが、実際には業務委託契約に基づく受託金融機関の実査に任せており、しかも受託金融機関の実査もその立場上十分な効果を期待することができない事情もあり、一方、直接貸の場合は必要に応じ検査役が行なうことができる建前となっているが従来行なったことはなく、貸付けの特約条項に基づく調査も十分には行なっていない状況で、代理貸、直接貸いずれの実査方針も借受人の工事等事業の完了後の実態、その資金の使用状況等のは握についてはきわめて消極的と思料される。
しかしながら、貸付後事業の実態を調査しその資金の使用状況をは握することは、貸付けの適正化をはかりもって公庫資金全体の有効な使用を推進する必要からも、本来融資業務の一環として当然融資する側において実行すべき性質のものであって、それはひいて借受人の業務運営の改善、経理能力の向上に資するものであると思料されるが、本院が28年以来継続して多数の不適正な事例を指摘し、改善方策を期待しているのに対し、農林漁業金融公庫は必ずしも十分な努力を払っているとは認めがたい。したがって、前記のような不適正な貸付けを排除して貸付けの適正化をはかるため、監査機構を整備して貸付後の実査を強化する必要があると認められる。
また、現行の借用証書特約条項では、前記のような不適正貸付けが発見された場合には、貸付金の全部または一部の繰上償還を求め、その償還期日を経過した場合遅延利息を納付させる旨の条項があるだけであるが、農林漁業金融公庫の融資が長期かつ低利であることにかんがみ、不適正な貸付けについては一般の市中金利と約定利率との差額を徴するなどの処置を講ずることも必要と考えられる。