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  • 昭和38年度|
  • 第2章 国の会計

是正改善の処置を要求しまたは改善の意見を表示した事項


第8節 是正改善の処置を要求しまたは改善の意見を表示した事項

 昭和38年12月から39年11月までの間に、会計検査院法第34条または第36条の規定に基づき、主務大臣に対し、不当と認めた事項につき是正改善の処置を要求し、または法令、制度もしくは行政に関して改善の意見を表示したものは次のとおり10件である。

(1)  国家公務員宿舎新築工事の施行について是正改善の処置を要求したもの (昭和39年2月8日付け39検第47号 大蔵大臣あて

 国家公務員宿舎法(昭和24年法律第117号)に基づいて設置する公務員宿舎の施設費は昭和37年度31億3158万余円(5,036戸)、38年度42億5694万余円(計画5,177戸)で、38年中、2,265戸について工事施行の状況を実地に検査したところ、その31%に当たる708戸において、工事の出来形が図面、仕様書と相違しているのに設計変更等の処置をとっていないもの、出来高が不足しているもの、施行が不良なものが次表のとおり

構造別
態様
木造 ブロック造 鉄筋コンクリート造 その他

出来形が図面、仕様書と相違しているのに設計変更等の処置をとっていないもの

58

34

466

3

561
出来高が不足しているもの 88 26 404 1 519
施行が不良なもの 100 63 0 11 174
246 123 870 15 1,254

 1,254件見受けられ、そのおもな事例をあげると下記のとおりである。

 このような事態を生じているのは、工事の施行にあたり監督および検査が十分に行なわれていないことによるものと認められる。すなわち、各財務局における公務員宿舎新築工事の監督の状況をみると、木造およびブロック造宿舎工事については監督職員を全く配置しておらず、また、鉄筋コンクリート造宿舎工事については監督職員をおおむね常駐させてはいるが、必ずしも監督が十分に行なわれているとはいいがたく、監督の事跡を明らかにする記録、資料も十分整備されておらず、単に、請負人から提出された作業日報を転記したり、労務者の出面や工事の工程等を記載したりした程度のものを監督日誌として保管しているにすぎないものが大部分である。また、請負人から図面、仕様書と異なる施行の申し出があった場合等でその必要があると認めたときは、設計変更または図面、仕様書の訂正等の手続きをとるべきであるのに、その処理をすることなく監督職員かぎりで安易に設計と異なる施行を容認する傾向が見受けられる。さらに、中間検査およびしゅん功検査に際しても、前記のように施行状況を明らかにする記録、資料が整備されておらず、かつ、見えがくれ部分の確認は実際上困難であるため、単に見えがかり部分について形式的な検査を行なうにとどまっている状況で、監督および検査が適切に行なわれているとは認められない。

 しかして、このような状態となっているのは、当局において一般の管財業務に比べてとかく公務員宿舎工事についての関心が薄く、関係職員に対する研修等もほとんど行なわれておらず、また、監督、検査に関する規程等が整備されていないなど国の工事を適確に実施するための体制が十分でないことによるものと認められる。

 しかして、これら宿舎建築関係の業務量が今後著しく増大する傾向にあることにかんがみ、当面、監督、検査に関する規程等を整備し、また、関係職員に対する研修を充実させるなどして工事の実施体制を強化し、監督、検査を適切に行ない、もって工事の適正な施行をはかる要があるものと認められる。

(1) 出来形が図面、仕様書と相違しているのに設計変更等の処置をとっていないもの

 石膏ボードを使用することとなっている間仕切部分の壁を耐水ベニヤ板で施行しているもの(小金井住宅(RC−b)第1回、第2回新築工事)、鉄筋コンクリートで施行することとなっている土留めを大谷石積みで施行しているもの(赤羽住宅道路舗装その他工事)、たたみ敷きとすることとなっている部分を縁甲板張りとしているもの(小金井住宅(RC−b)第1回、第2回新築工事)、最上階の各戸に給水タンクを取り付けることとなっているのにこれを取り付けていないもの(赤羽住宅(RC−c)第1回、第2回、第3回新築工事)などがあり、いずれも請負人の申し出または設計の不備等の理由により図面、仕様書と相違して施行されているのに設計変更等の処置をとることなく設計どおり完成したこととして処理している。

(2) 出来高が不足しているもの

 建物基礎の束石、床束の本数が設計に比べて不足していたり、または規格以下の寸法のものを使用しているもの(釧路地区その三公務員宿舎新築工事ほか5工事)、コンクリートたたきの面積が設計に比べて不足しているもの(運輸省職員宿舎新築工事ほか1工事)、郵便受箱を設置することとなっているのにこれを漏らしているもの(弘前大学公務員宿舎新築工事)などがあり、いずれも設計どおり完成したこととして検査を了している。

(3) 施行が不良なもの

 基礎ぐり石のつき固めが不十分であったため浴室外のコンクリートが沈下しているもの(宇都宮大学職員宿舎新築工事)、コンクリート基礎と土台がくい違っているためアンカーボルト締めができないもの(善通寺周辺官署宿舎新築工事)、土塁切取りを設計どおり施行しておらず土羽打ちの施行が不良なため法面の大部分が崩落しているもの(新大久保住宅(RC−d)第2回新築工事)があるほか、床下など見えがくれ部分の施行が不良なものが多く、また、コンクリート工事で不良な型わくを使用したり、つき固めが十分でなかったりしているものがあり、いずれも手直しを要する状況である。

(2)  厚生保険、船員保険両特別会計における保健、福祉施設の管理運営について改善の意見を表示したもの (昭和39年11月26日付け39検第592号 厚生大臣あて

 厚生省において健康保険法(大正11年法律第70号)、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)、日雇労働者健康保険法(昭和28年法律第207号)および船員保険法(昭和14年法律第73号)の規定により各保険の被保険者等の保健、福祉施設として設置運営している施設は昭和39年3月末現在267施設に上っている。

 これら施設の大部分は厚生保険および船員保険の両特別会計の歳出予算から支出して設置したもので、その運営は、いずれも国が直接行なうことなく、従来から健康保険および日雇労働者健康保険の施設については社団法人全国社会保険協会連合会等に、厚生年金保険の施設については財団法人厚生団に、船員保険の施設については財団法人船員保険会にそれぞれ委託しているものである。

 しかして、これら施設の運営について検査した結果によると、厚生年金保険および船員保険の施設のうち療養施設、老人福祉施設等については年金福祉事業団法(昭和36年法律第180号)等の規定により36年11月設立された年金福祉事業団にその設置運営を行なわせることとなっているのに、現在まで引続き従前からの委託管理方式をそのまま踏襲しているものであり、また、前記各団体に施設の運営を委託するにあたって運営収支の帰属を定めないまま事業を執行させているなど、運営に関する経理が適正を欠くもの、委託事業のため受託団体に提供する国有財産および国有物品の管理が適正を欠くもの、被保険者等のための保健、福祉施設として設置した趣旨に則した運営が行なわれていないものが認められる。

 このような事態を生じているのは、施設の設置運営についての厚生省の基本方針が明確でないこと、受託団体および受託施設の管理者に施設の設置の趣旨に則した運営を行なう配慮が十分でないこと、受託団体に対する同省の指導監督も十分でないことなどによるものと認められるので、施設の設置運営に関する基本方針を確立するとともに、現行委託管理方式についてはとくに下記の諸点を改善し、もって施設の適正な運営をはかることが肝要と認められる。

(1) 施設の運営に関し、前記各団体と締結している委託契約についてみると、運営の結果生ずる損益についての経理手続きは定めているが、運営収支の帰属については別段の規定がなく、これに関する厚生省の方針も明らかでない。
 しかしながら、収支の帰属を明らかにしないまま委託事業を実施することは、国の事業の経理として適切でないばかりでなく、事業の適正な執行をさまたげ、契約解除等の場合に疑義を生ずるおそれもあって、当を得ないものであり、本件委託事業は厚生保険または船員保険の両特別会計の歳出予算によって取得した施設を提供し、受託者において要する経費はすべて委託事業の収入金で支弁することとなっているものであるから、これらの点を十分考慮のうえ、その収支差額の扱いに関する事項を契約上明確にすることが必要であると認められる。
 受託事業の収入金等で支弁して取得した財産および施設の用に供するため公共団体等から寄付を受けた財産は現在受託者名義となっているが、これら資産についても上記とあわせ適正に処理する要があるものと認められる。
 また、委託事業については、特別会計を設けて経理することとなっているのに、受託者のうちには委託事業を他の事業と混こう経理しているものもあるので適切な指導を行なう必要がある。

(2) 施設の用に供するため受託者に提供している土地、建物等の国有財産および国有物品約212億円については、厚生省の責任において管理しているものであるとしているが、その実体はいずれも受託者が財産を管理し使用していると認められるものであり、施設の数および立地条件等からして国有財産および国有物品の管理者である都道府県保険課長等が直接管理することが困難と認められる。しかして、委託施設の財産保全処置については受託者に火災保険を付保させることとしているが、付保していないものがあり、実損額と保険金額との差額に対する取扱いおよび受託者の責に帰すべき火災事故以外の事故による亡失き損に対する責任についても定めがない。
 また、受託者に提供した土地に正規の手続きもなく健康保険組合が建物等を建設しているもの、国有物品とその他の物品との区分が明確にされていないものなど財産管理が適正に行なわれていない事例が認められる。
 よって、国有財産および国有物品については、使用の実態に則した管理体制を整備するなどして財産管理の適正をはかる要があるものと認められる。

(3) 施設の運営についてみると、前記各団体に委託している病院施設等90箇所においては被保険者等の優先利用についての方針を一応定めてはいるが、実際には優先利用の取扱いがなされないまま一般病院と同様の取扱いをしているものであり、また、その他の施設についてみても、たとえば財団法人厚生団に委託している東京厚生年金会館は、厚生年金保険の福祉施設として36年経費約13億円をもって設置し、宿泊施設、貸ホール、結婚式場等の事業を行なっているものであるが、その運営の実態は優先利用が全く考慮されておらず、民間類似施設と差異のない運営が行なわれており、さらに、厚生年金受給者の利用に供するため設置した老人ホーム6施設における年金受給者の利用は利用者の3.9%にすぎない状況であるなど施設を設置した趣旨が十分いかされていないものが認められる。
 しかし、各保険の施設は被保険者等のための保健、福祉施設として、主として被保険者等の納付する保険収入を財源として設置するものであるから、この設置運営については被保険者等の利便を十分考慮して実施することが肝要である。

(3)  農業委員会の特別事業に対する補助金等の経理の適正化について是正改善の処置を要求したもの (昭和39年7月28日付け39検第406号 農林大臣あて

 農林省所管国庫補助金については検査の結果不当と認めた事項を毎年度の検査報告に掲記してその是正方につき注意を喚起してきたところであるが、農業委員会費補助金および農業移住事業費補助金の経理について、昭和38、39両年中の検査の結果、下記のとおり適切を欠いていると認められるものがある。
 このような事態を生じているのは、事業主体においてとかくこの種事業についての関心が薄く経理を軽視する傾向があることにもよるが、関係機関の事業主体に対する指導監督が十分でないこと、補助金が少額で、その交付が事業主体における事業実施の実態にかかわりなく安易に行なわれていることなどによるものと認められる。
 ついては、関係機関の指導監督を徹底するとともに、事業の実施体制について根本的な検討を加えるなど適切な処置を講じ、補助の効果をあげ、総理の適正化をはかる要があると認められる。

1 農業委員会費補助金について

 農林省で、農業委員会費補助金のうち、市町村農業委員会が行なう農家台帳の補正等に要する経費および農業就業構造改善対策事業に要する経費に対して補助するため、農業委員会特別事業費補助金として、36年度119,521,000円、37年度101,491,000円、38年度101,577,000円を各都道府県に交付しているが、38年2月以降北海道ほか36都府県の573市町村についてその経理を実地に検査したところ、36都道府県の346市町村において次のように適切を欠いていると認められるものがある。
すなわち、

(1) 農家台帳補正等の事業は、市町村ごとの農業振興計画の樹立等に活用するための資料として農家の世帯員、耕地、主要農機具等7項目を記載する農家台帳を34、35両年度に作成整備したものについて、その後の世帯員、耕地の異動を毎年補正するもので、1農業委員会につき平均36年度6,468円、37年度6,512円、38年度6,745円を補助しているが、農業委員会のうちには、在来の住民台帳、耕地台帳または独自の様式による資料で足りるとして、補助事業の全部または一部を実施していないものが多く、はなはだしいものは農家台帳そのものが当初から完成されていないなどその整備が完全には行なわれていない状況である。このため現在においては農業振興計画の樹立等に必要な資料としての価値を失なっているものが相当数見受けられ、補助事業としての効果があがっているとは認められない。

(2)農業就業構造改善対策事業は、農村における就業構造の改善に資するため、36年度に各市町村ごとに設置した農業労働力調整協議会(以下「協議会」という。)において農業労働力需給の合理的調整等をはかるもので、1農業委員会につき平均36年度20,350円、37年度22,140円、38年度22,080円を補助しているが、農業委員会のうちには、就業構造の改善は市町村段階で解決をはかることは困難であるとしたり、従来から農業委員会の内部機関でも協議しているところであえて別個の機関を設ける必要性に乏しいとしたりなどして、協議会を設置していないもの、設置しても全く開催していないものなどが多いばかりでなく、38年度に協議会の協議事項を重点化する目的で設置を指示した協議会の専門部会も現実には設置していなかったり、設置しても開催していないものが多く、補助の目的にそった運営がなされているとは認められない状況である。
 しかして、これらの事業費の経理についてみると、事業費の全部または一部を要しなかったのに経費を要したこととしまたは実支出額を上回る適宜の金額を計上して過大な精算を行なっているものが多い状況である。

2 農業移住事業費補助金について

 農林省で、農業移住事業費補助金のうち、移住推進市町村が海外移住に関する啓発および募集の体制を整備するに要する経費に対して補助するため、市町村移住推進事務費補助金として、36年度6,655,000円、37、38両年度それぞれ6,790,000円を各道府県に交付しているが、38年2月以降北海道ほか30府県の185市町村についてその経理を実地に検査したところ、24道府県の73市町村において次のように適切を欠いていると認められるものがある。
 すなわち、本件補助事業は、海外移住の促進をはかるため、移住推進市町村として指定を受けた市町村が、移住相談所、農業移住推進協議会を設置したり、説明会、座談会を開催したりするもので、1市町村当り36年度5,000円、37、38両年度それぞれ9,700円を補助しているが、これら市町村のうちには、事業を全く実施していないものまたは補助の趣旨にそった事業を実施しているとは認められないものが多く、さらに事業費の経理についてみると、事業費の全部または一部を要しなかったのに経費を要したこととしまたは実支出額を上回る適宜の金額を計上して過大な精算を行なっているものが多い状況である。

(4) 2年度以上にわたり継続施行する国営土地改良工事に対する予算等の措置について改善の意見を表示したもの (昭和39年11月25日付け39検第589号 農林大臣あて

 農林省で、国営土地改良事業として施行している工事のうち、大規模のえん堤、ずい道等については、その施行に2年度以上を要し、かつ、これらを分割し単年度工事として請負契約に付することが適当でないものがあるが、これら工事の施行にあたっては、当該工事全体についての予定価格を作成するとともに、初年度分については予算の示達額の範囲内で予定価格を作成し、全体の予定価格に対する初年度分の予定価格の比率を算出したうえ、指名した業者に対して全体設計を示すとともに初年度分として上記比率を示し、全体についての見積額で全工事を完成することを条件として、同見積額およびこれに上記比率を乗じた初年度分の額を入札させて請負人を決定し、初年度分については指名競争契約とし、後年度分については各年度ごとに前記請負人と随意契約をしているもので、この方法により施行している工事は、昭和38年度において127件82億0722万余円あり、その全体見積額は235億7321万余円に上っている。

 しかしながら、上記の方法による工事の施行は事実上予算外に国の債務を負担することとなり、適当な措置とは認められないばかりでなく、39年中、これらの工事の実施状況について検査したところ、下記事例に示すように、工事着手の翌年度以降各年度分について予算の示達額が年間計画工事量に対して不足し、このため当該年度の計画工事量を縮減されて遊休期間を生じこの間の機械器具損料、電気料等を支払うこととなって工事費が不経済となっているものがあり、なかにはこのような工事費の増こうを防ぐなどのため請負業者に当該年度の予算の示達額をこえて工事を継続施行させ、その工事費を翌年度予算から支出し、予算の制をみだる結果となっているものがある。

 このような事態を生じているのは、上記のような工事の施行を単年度予算によって措置しているため、後年度工事についての各年度の予算が不確定となっていること、予算の運用が適切を欠いていることなどによるものと認められるから、これらの点を再検討し、国庫債務負担行為の予算措置を講ずるなど適切な処置を講じ、工事を適確かつ経済的に施行する要があると認められる。

(1) 東北農政局で、34年11月、株式会社熊谷組から全体見積り(見積額5億4950万円)を徴し、同月から38年4月までの間に同会社に803,141,000円で請け負わせ施行した最上川下流右岸農業水利事業第1工区トンネル工事は、ずい道延長5,051メートルを38年3月完成する計画で着工したものであるが、36、37および38年度工事の施行にあたり、本件工事に対する予算の示達額が年間計画工事量に対し不足し、かつ、予算の運用が適切を欠いたこと、各年度初めにおける工事契約手続きおよび年度末におけるしゅん功手続き等に日数を要したことにより合計8箇月余の遊休期間を生じ、機械器具損料等約2170万円(うち約1270万円については昭和36年度決算検査報告に掲記した。)が不経済となっている。

(2) 北陸農政局で、36年10月、株式会社間組から全体見積り(見積額16億8610万円)を徴し、同月から39年3月までの間に同会社に825,102,000円で請け負わせ施行している小矢部川農業水利事業刀利堰堤工事は、えん堤基礎掘さく194,265立米、コンクリート打設144,975立米等を40年3月完成する計画で着工したものであるが、38年度工事の施行にあたり、本件工事に対する予算の示達額が年間計画工事量に対し不足し、かつ、予算の運用が適切を欠いたため、コンクリート打設量が約2万立米減少し、えん堤コンクリート打設工事において4箇月間の遊休期間を生じ、機械器具損料等が約790万円不経済となっている。

(3) 中国四国農政局で、35年9月および36年8月、鹿島建設株式会社ほか2会社から全体見積り(見積額17億1286万余円)を徴し、35年9月から38年4月までの間に上記各会社に1,769,962,000円で請け負わせ施行した道前道後平野農業水利事業承水施設ほか2工事は、当初ずい道延長21,145メートル等を38年7月から39年2月までの間に完成する計画で着工したものであるが、37年度工事の施行にあたり、本件工事に対する予算の示達額が年間計画工事量に対し不足し、かつ、予算の運用が適切を欠いたため、2箇月から4箇月の遊休期間を生じ、機械器具損料等が約590万円増こうすることとなるので、これを避けるなどのため、予算の示達額をこえてずい道掘さく2,207メートル、コンクリート巻立て2,166メートル等工事費相当額約1億2080万円を施行させ、38年度予算をもって工事費を支払っている。

(5)  林産物検査の取扱いについて改善の意見を表示したもの(昭和39年11月16日付け39検第578号農林大臣あて)

  北海道の旭川ほか4営林局(以下「道内各営林局」という。)管内の国有林で生産される林産物については、その他の道内林産物の場合と同様、農林物資規格法(昭和25年法律第175号)の制定以来、北海道が、北海道林産物検査条例(昭和25年条例第37号)の規定により、日本農林規格に基づく品質、形量等の検査格付けを行なっており、道内各営林局においては、昭和38年度中に林産物検査手数料として31,317,546円を北海道に支払っているが、国有林で生産される林産物の検査格付けにつき、本院においてその取扱いの実情を調査したところ、北海道に対し、道内各営林署が林産物検査申請書を提出したうえ道内各営林局に所属する営林署職員がそれぞれ北海道の検査員としての資格を兼ねて検査格付けを実施している状況である。

 しかして、林産物については、各営林局管内の国有林で生産される林産物を含め従前は指定農林物資検査法(昭和23年法律第210号)の規定により各都道府県知事だけがその検査を行なっていたものである。しかしながら、同法を廃止し、新たに制定された農林物資規格法によれば、林産物の規格の検査格付けを行なう機関は、農林省の機関、都道府県および登録格付機関の3者であり、その検査格付けには3者の間に優劣の順位はなく、いずれの機関が検査を行なっても同法の目的を達成することができるものであって、北海道の合板等については、日本合板検査会等の登録格付機関が検査格付けを行ない、北海道はこれらについての検査は実施しないこととしているものである。また、林野庁においては、国有林で生産される林産物について、農林物資規格法の主旨から、これらの検査格付けを行なうこととし、日本農林規格に基づく検査格付けを現に北海道を除く各地の営林局管内の営林署に担当させ行なっているもので、道内各営林局の取扱いもその例外となるものとは認められない。しかるに、道内各営林署の行なう検査について、とくに道外各地の営林局と異なりこれを北海道から委嘱を受けて北海道の検査機関が実施していることとし、上記手数料を負担している状況であるのは、その検査格付けの内容および形態からみて適切なものとは認められない。ついては、検討のうえすみやかに改善の処置を講ずる要があると認められる。

(6)  中小企業近代化促進費補助金を財源とする設備近代化資金の運営について改善の意見を表示したもの(昭和39年10月27日付け39検第537号通商産業大臣あて)

 中小企業近代化促進費補助金は、中小企業近代化資金助成法(昭和31年法律第115号)に基づき中小企業の近代化の促進に寄与する目的をもって中小企業者の設備の近代化に必要な資金の貸付けを行なう都道府県(以下「県」という。)に対し資金の一部を補助するもので、県においては昭和31年度以降この補助金および自己の一般会計からの繰入金等を財源とする特別会計を設け、38年度においては国庫補助金41億円、一般会計からの繰入金41億0010万円および貸付金の償還金等37億6529万余円計119億6539万余円を貸付財源として、中小企業者に対し113億7581万余円を無利子で貸し付けている。

 しかして、本貸付金については、他の金融機関から長期資金を借り入れて施設を購入している者に貸し付けたり、または施設を設置していない者に貸し付けたりするなどその運営が当を得ないものがあり、従来検査報告においてしばしばこれを指摘してきたところであるが、39年4月から9月までの間に北海道ほか32都府県における38年度の運用状況を実地について調査したところ、いずれも貸付けが遅延しており、とくに宮城県ほか21府県においては、貸付額73億8009万余円のうち、38年12月に17億5279万余円(23.8%)、第4四半期に23億3650万余円(31.7%)、39年4月以降出納整理期に32億3435万余円(43.8%)と貸付額の99.2%に当たる73億2365万余円が12月以降に集中して貸し付けられ、これらの府県のうちには年度内にほとんど貸付けを行なわないものがあり、はなはだしいのは全く貸付けを行なっていないものもある実情である。また、貸付決定も行なわれず剰余金として翌年度に繰り越された資金は上記33都道府県において4億6045万余円に上っているが、従来このような剰余金はほとんどの場合翌年度の第4四半期または出納整理期に貸し付けられている状況である。

 このため、借受けを希望する企業者は、早期(通常4月)に借入申込みをして設備の近代化に着手しても、貸付けを受けるまでの期間、資金繰りの必要からやむを得ず金融機関からつなぎ融資を受けてこの間の利子を負担するか、または設備近代化の時期を遅らせざるを得ず、なかには借入れを辞退するものも見受けられ、ひいては、本資金の借入れによらないでも施設を設置することができると認められるような企業に貸し付けられる傾向さえ生ずるなど本制度の趣旨にそわない結果をきたしている。

 このように貸付けが遅れるのは、県において全部の借入申込者に対する診断、事前調査等が完了するまで貸付先の選定を行なわないことにもよるが、通商産業省が本補助金の配分額を早期に県に通知せず交付決定までに相当の日時を要すること、貸付事業において県の準拠すべき業種等部門別貸付予定額のわくの決定にあたり、通商産業局と県との事務手続きが円滑に行なわれないこと、県の貸付先選定にあたり、同省の特認または同省と協議を要するものについてとかくその承認が遅れることによるものであり、また、多額の剰余金を生ずるのは、前記のように貸付けが年度末に集中しているため、借入辞退または貸付決定の取消しがあった場合新たに貸付先を選定することができないことなどによるものと認められる。

 ついては、補助金の配分通知および貸付予定額のわくの決定をすみやかに行ない、通商産業局と県との間の事務手続きの不円滑が本資金早期貸付けのあい路とならないよう措置し、特認、協議等の処理の促進をはかるとともに、県が貸付先を選定するにあたっては診断、事前調査等を一定時期に集中することなく行ない、年間平均して貸付けすることができるよう留意し、多額の剰余金を生ずることのないよう指導監督を行なう要があると認められる。

(7)  履物にかかる普通輸出保険包括保険の運営について改善の意見を表示したもの(昭和39年2月8日付け39検第48号通商産業大臣あて)

 履物にかかる普通輸出保険包括保険は、輸出保険法(昭和25年法律第67号)に基づき、昭和37年4月および38年4月、通商産業大臣と日本雑貨輸出組合(以下「組合」という。)との間で締結された普通輸出保険包括保険特約により実施されたもので、組合加入の輸出者(以下「輸出者」という。)が特約期間内に締結した履物にかかる輸出契約のすべてについて、組合は輸出契約締結後遅滞なく通商産業大臣に保険の申込みをし、通商産業大臣は申込みが行なわれた輸出契約につき輸出者が受ける損失をてん補する保険である。

 しかして、本保険の運営について会計実地検査の際調査したところ、組合は輸出者の輸出実績をは握していないばかりでなく、輸出者から付保の申入れがあったものだけについて保険の申込みをしているにすぎず、前記特約に基づく義務を履行していないのに、通商産業省はこれに対し本件特約を履行させるための十分な処置を講じないでいたため、三菱商事株式会社ほか121会社の37年度中の輸出契約額22,763,556,300円のうち18,274,463,040円が付保脱漏となっていて、これに対する保険料相当額は基本保険料率によって計算しても6,852,923円となっており、付保率は19.7%にすぎず、38年度においても38年10月までの輸出契約額10,611,955,055円のうち付保されていないものが8,208,671,105円あり、付保率は22.6%にすぎない状況である。

 このような事態を生じているのは、輸出者が同省に対し輸出契約報告書を提出する義務がないため、輸出実績のは握が困難な実情にあることによるが、本件履物のうちには輸出入取引法(昭和27年法律第299号)により輸出調整を要する品目が含まれており、これらについては輸出者は組合に対し輸出取引承認申請書または輸出確認申請書を提出することとなっているから、同省は、組合においてこれらの書類を受理したときは直ちに輸出者に付保の申入れをさせ、国に対し保険の申込みをするように指導すべきであるのに、これを行なわず、また、上記輸出取引承認申請書はさらに通商産業大臣に提出されるものであるから、同省においてこれと保険申込書とを照合して付保の有無を確認し、付保漏れのものについてはすみやかに保険の申込みをさせるべきであるのに、これを行なわなかったことによるものと認められるので、組合に対する指導監督および付保の有無の確認を適切に行なう要があるものと認められる。

 また、上記輸出調整を要する品目以外のものについては、組合において輸出者の輸出実績をは握していない実情にあるから、同省は、組合に対し、輸出者の輸出実績をは握させるための適切な処置をとるとともに、包括保険約款に基づいて実地調査を行ない、付保脱漏の防止に努めるべきであると認められる。

(8)  機械類賦払信用保険の運営について改善の意見を表示したもの(昭和39年10月31日付け39検第559号通商産業大臣あて)

 機械類賦払信用保険は、中小企業の設備の近代化および機械工業の振興に資することを目的として、機械類賦払信用保険臨時措置法(昭和36年法律第156号)および機械類賦払信用保険約款に基づき、通商産業大臣と保険契約者である機械類の製造業者または販売業者(以下「製造業者等」という。)との間で締結された保険契約により実施されるもので、あらかじめ保険契約で指定した機械類について、被保険者である製造業者等が、保険契約の有効期間内に所定の要件をみたす割賦販売契約を締結したときは、そのすべてについて保険関係が成立し、通商産業大臣は、保険契約者から通知を受けた割賦販売契約につき、被保険者である製造業者等が受ける損失をてん補する保険であって、昭和36年10月本制度発足以来、36年度129件(保険契約者122企業、被保険者152企業)、37年度241件(保険契約者211企業、被保険者304企業)、38年度296件(保険契約者258企業、被保険者335企業)の保険契約が締結されている。

 本保険においては、保険契約者は、被保険者にかかる毎月の割賦販売契約および保険料の額を翌月の末日までに一括して通商産業大臣に通知することになっているが、池貝鉄工株式会社ほか65会社について、保険関係の成立する割賦販売契約を38年9月および39年2月会計実地検査の際調査したところ、3,273件17,066,654,141円(保険料相当額60,291,820円)のうち、通商産業大臣へ通知されていなかったものが46会社において759件3,210,905,197円(うち36年度分62件166,610,792円、37年度分315件1,160,501,663円)、これに対する保険料相当額9,266,603円(うち36年度分224,989円、37年度分2,555,025円)ある。

 また、保険金の支払いを受けた被保険者は、保険金支払いの請求後回収した金額があるときはそのたびごとに遅滞なくその旨を通商産業大臣に書面により報告することとなっているが、38年度に徴収決定した日特重車輌株式会社ほか10会社分の回収金67,429,603円について、被保険者からの代金回収報告書の提出状況を調査したところ、代金を回収したときから報告までの期間が平均123日を要しており、はなはだしいものは482日も経過しているものがあるなど報告書の提出が著しく遅延している状況である。

 しかして、割賦販売契約の通知漏れは、主として保険事故発生率の低いものに多く見受けられるが、本保険が包括保険方式によって保険料の算定をしていることにかんがみ、このような事態は、本保険の健全な運営を阻害するものと認められ、また、代金回収報告の遅延は、支払保険金の約70%または約80%を回収することとして保険料率を算定しているなど回収金が本保険の運営に重要な比重を占めていることからみて、保険運営上適切であるとは認められない。さらに、保険金の支払遅延については、回収金の徴収の際事故発生の日から保険金支払いの日までの利息(年6分)相当額を控除しているが、回収報告の遅延に対してはなんらの措置も講じていないのは均衡を失するものと認められる。

 このような事態を生じているのは、保険契約者および被保険者の本保険に対する理解が十分でないこと、保険契約者と被保険者とが異なる場合両者の間の連絡が十分行なわれていないことにもよるが、通商産業省において、保険関係が成立した割賦販売契約に関し、保険約款により保険契約者および被保険者に対して、調査、報告もしくは資料の提出を求め、または帳簿書類その他の物件を調査することができるのにほとんどこれを行なわなかったこと、割賦販売契約の通知漏れおよび代金回収報告の遅延を防止するに十分な事務処理が行なわれていなかったこと、約款等の諸規程において、保険契約者と被保険者とが異なる場合の措置が明示されておらず、また、回収報告の遅延について約款で一般的な免責規定を設けている以外に格別の対策がとられていないことなどによるものと認められる。

 ついては、保険契約者および被保険者に対する指導、調査を実施し、適確な事務処理を行なうよう配意するとともに、約款等関係諸規程を検討するなど、本保険運営の適正化をはかる要があると認められる。

(9)  道路改良工事における機械経費および諸経費の積算について改善の意見を表示したもの(昭和39年10月30日付け39検第549号建設大臣あて)

 建設省において直轄で施行する道路改良工事は、道路整備5箇年計画に基づいて実施しているもので、昭和38年度における事業費は1037億余円に上っているが、39年中の検査において、その設計、積算のうち機械施行にかかる掘さく、積込み、敷きならし、転圧等の土工費および諸経費の積算についてみると、下記のように、機械経費においては、その算定の基礎となる諸係数の数値の決定、使用機種の選定、機械の組合せおよび各機械の能力の算定等が、また、諸経費においては、その直接工事費に対する率および計算方法が各地方建設局、工事事務所相互間で区々となっており、その結果、ほぼ同様の条件の下で施行する工事において、積算額に相当の開差を生じている事例が少なくない。

 このような事態を生じているのは、積算を実施する局所においてそれぞれ従来からの積算例を安易に踏襲していること、近年事業量が著しく増加しているため設計審査および技術管理等が十分に行なわれていないこと、使用機械が進歩しているのにそれが積算に反映されていないこと、関係者相互間の連絡調整が十分に行なわれていないこと、同省における管下各部局に対する指導が的確に行なわれていないことなどによるものと認められる。

 しかして、工事費の積算にあたっては、事業計画および現地の条件に即応した最も経済的な方法により施行することとして算定し、また、諸経費についても適正な基準にのっとってその必要額を積算するのが相当であって、前記のように積算の方法に差異があるときは、工事の内容が同一であっても積算する局所が相違することによって工事費の算出に差異を生ずることとなるばかりでなく、工事費が割高となって不経済な結果をきたす場合が生ずることもあり、妥当なものとは認め難く、とくに、道路改良工事においては、機械施行の対象となる土工量がきわめて大量に及び、また、1件の工事費も相当多額に上るのが通常であるから、単価または諸経費率においてはわずかな開差であっても総額においては大差を生ずるものである。したがって、今後、合理的な統一した基準に基づいて積算を行ない、関連部門間の連絡、調整や審査の徹底をはかって、適正な積算を行なぅ要があるものと認められる。

1 機械経費について

(1) パワーショベルによる掘さく、積込みの作業能力は、掘さく高による能率変化の係数および1回の掘さく、積込みに要する時間等を基礎として算出されるものであるが、たとえば、掘さく高による係数を掘さく高3メートルの場合1から0.7と区々に適用したり、また、1回の掘さく、積込みに要する時間はバケットの旋回角度および掘さくの難易によって定めることとなっているが、作業条件のよい工事現場について旋回角度を180度としたり、掘さくの難易についても掘さくの容易なほぐした状態の土砂を中位の掘さくとしたりしているため、能率の算定に相当の開差を生じているものがある。

(2) トラクターショベルによる掘さく、積込みの作業能力は、その算定式がいまだに一般化されていないため、各地方建設局および各工事事務所において、掘さく高による能率変化の係数および1回の掘さく、積込みに要する時間等を基礎としてそれぞれ独自の計算を行なっているが、その内容についてみると、たとえば、掘さく高による係数を掘さく高1メートルの場合0.7から1としているもの、掘さく土の状態による係数を普通土の場合0.8から1.2としているもの、1回の掘さく、積込みに要する時間を46秒から88秒としているものがあるなど算定の基準に相当の差異が認められる。

(3) トラクターショベルの使用機種についてみると、バケット容量の小さい0.75立米または0.95立米のものを使用することとしている場合が多い。しかしながら、単位土量当りの機械損料はバケット容量の小さいものほど割高となるもので、施行が比較的困難と認められる拡幅工事においてさえも容量の大きい1.2立米または1.5立米のものを使用しているのが通常であって、積算は実情にそわないものとなっている。

(4) パワーショベルまたはトラクターショベルの掘さく、積込みを補助するブルドーザの集土量の算定についてみると、切土高5メートル以上の土量を集土することとしているもの、全土量に対する集土量の割合を適宜定めているもの、または集土は全く必要がないとしているものなど多岐にわたっていて、なかには掘さく、積込みに好適な条件の現場に100%の集土を見込んでいるものもある状況であり、また、集土する場合の集土距離も15メートルから50メートルと区々になっている。

(5) ブルドーザの作業能力の算定要素となる排土板面積についてみると、たとえば、小松製作所製D−50型を2.25平米、D−80型を3.85平米としているが、その後の改良により近時排土板面積はD−50型で2.72平米、D−80型で4.01平米となっており、実情にそわないものとなっている。

(6) 路体部、路床部の敷きならし、転圧についてみると、ブルドーザで敷きならし、転圧の両作業を行なうこととしているものと、ブルドーザで敷きならした後タイヤローラー、タンピングローラーまたはバイブレーションローラーで転圧を行なうこととしているものなど使用機械の選定、組合せが区々となっており、また、ブルドーザで両作業を行なうこととしている場合も、転圧の単価で積算しているもの、これより高価な敷きならしの単価で積算しているものまたは両者をともに積算しているものがあり、さらに、転圧回数、走行速度等転圧能力の算定も相違しているため、その立米当り単価は13円から127円となっていて著しい開差を生じている。
 しかして、敷きならし、転圧については現場の土質、作業条件等により施行の方法および積算単価に当然差異を生ずるものと思料されるが、上記の相違はこのような条件の相違を考慮したものではなく、各工事事務所が従来からの積算例をそのまま踏襲していることによるものである。

2 諸経費について

 諸経費の積算は直接工事に要する経費の合計額に対し一定の率を乗じて算定しているものであるが、各地方建設局の定めている基準は、諸経費率がそれぞれ異なっているほか、諸経費計算の基礎となる直接工事費の計算方式においても、工事に使用する二次製品の価額の一部を工事費から控除しているものと控除していないものとがあり、また、控除するにあたっても控除する製品の範囲や控除する額の算出割合が異なっており、ひいては諸経費の額に相当の開差を生じている。

(10)  アスファルト舗装工事の設計および施行について改善の意見を表示したもの(昭和39年11月19日付け39検第579号建設大臣あて)

 建設省においては昭和36年度を初年度とする道路整備5箇年計画に基づいて道路の整備事業を緊急に実施しているが、これに伴って舗装工事、なかでもアスファルト舗装工事はその経済性、速効性等の利点のためその事業量の伸びが著しく、38年度において直轄で施行した事業費は総額179億余円に上っている状況である。

 舗装は重車両の交通による繰返し荷重や大きな摩擦および激しい気象作用を受けるものであるから、これらの外力に耐えることができる抵抗力とそれを長期にわたって持続する耐久力とを備えることが必要であって、そのため、アスファルト舗装にあっては、使用する骨材に対するアスファルトの配合割合と舗設にあたってのアスファルト混合物の品質管理とが舗装の性能を大きく左右するものとされている。しかも、アスファルト舗装においてはひとたび舗設を完了すると品質上のかしを発見することがきわめて困難となり、施行後の検収では単に形状または舗装厚等の外見だけの審査にとどまるのが通常であるから、アスファルト舗装工事の設計および施行にあたっては、現地の実情に即応したアスファルトの配合割合を求めるとともに適正な施行管理を行なってその期待する品質を確保することが肝要である。

 しかして、同省で定めている道路技術基準によればアスファルト舗装工事の施行にあたっては、それぞれの現地における骨材を使用してアスファルトの配合割合を変えた数種の供試体について荷重に対する抵抗力(以下「安定度」という。)、たわみの程度(以下「フロー値」という。)、空げきの程度(以下「空げき率」という。)、骨材の間げきにアスファルトが占める割合(以下「飽和度」という。)等についての試験(以下「配合試験」という。)を行ない、最もすぐれている供試体における配合割合によってアスファルトの実施配合割合を決定し、また、舗設の際は、舗設する混合物の安定度、フロー値、空げき率、飽和度および配合割合の試験を行なってそれらの試験の結果得られた数値を配合試験で採用した供試体の数値と対比してその良否を確認することとなっているものであるが、各地方建設局および北海道開発局管下各開発建設部が施行したアスファルト舗装工事のうち108工事について検査したところ、下記のとおり、配合試験を行なっていないもの、配合試験を行なっているのにその数値を採用していないもの、舗設にあたって混合物の品質管理が適切を欠いているものなど前記の道路技術基準によっていないものが少なくなく、ひいて舗装体の品質に重大な影響を及ぼし、施行の効果を減殺しているものが見受けられる状況である。

 このような事態を生じているのは、実施部局において配合試験およびアスファルト混合物の品質管理についての取扱いが明確を欠いていること、設計および施行のための態勢が十分でなく、事業量の伸張もあって事務処理が適確に行なわれていないこと、実施部局に対する同省における指導監督も十分でないことなどによるものと認められるが、この種工事についてはその事業量が今後ますます増大する傾向にあるので、その施行管理の適正につきなお一層配慮する要があるものと認められる。

1 アスファルトの配合割合の決定について

 アスファルト舗装工事の設計にあたり、従来から設計例等により仮の配合割合(以下「設計配合割合」という。)を定め、実施にあたって配合試験の結果から実施配合割合を決定することとしている。このような決定方法はアスファルトの適正な配合割合がそれぞれの現地において使用する骨材の性質および粒度配合によって変わり、机上の計算式等によってはその適正値を見出すのが困難なことにより採用されているものと認められる。
 しかして、実地検査の結果によれば、配合試験を行なわず設計配合割合をそのまま実施配合割合としているものや、配合試験の結果設計配合割合に比べてより適当な配合割合が発見されているのにこれによらず設計配合割合のままで施行させているものがあり、判明しただけでも、東北、関東、近畿各地方建設局および北海道開発局管内で69工事に達している状況であるが、これらのうちには、現地において使用した骨材と同一の骨材を使用して各種の供試体を作成して試験を行なった結果、設計配合割合と相違する配合割合の場合に安定度等においてよりよい数値が発見されたものも相当数に上っている。
 たとえば、

(ア) 室蘭開発建設部が施行した2級国道旭川浦河線平取町振内地内舗装工事(工事費29,710,000円)においては、細粒式アスファルトコンクリートのアスファルトの配合割合を10%として施行しているが、検査の結果、この場合の安定度が必要とされている350キログラム以上を著しく下回る42キログラムとなっており、フロー値は適格とされている20から40の範囲を著しくこえた138となっているのに比べ、その配合割合を7%とすれば、安定度は344キログラム、フロー値は70とよりよい値を示すこととなり、

(イ) 関東地方建設局が施行した丹波島舗装修繕工事(工事費17,780,000円)においては、表層をアスファルト配合割合が8%のトペカで施行しているが、検査の結果、この場合の安定度は694キログラム、フロー値は40で、必要とされている値を示しているが、空げき率は4から8の範囲内になければならないのに3となっており、また、飽和度は70から80の範囲内になければならないのに85.8となっていていずれも不適確な値を示しているのに比べ、その配合割合を7.4%とすれば、安定度は660キログラム、フロー値は37、空げき率は4.3、飽和度は78とすべて適格な値を示すこととなり、いずれも施行したアスファルト混合物の配合割合が最適値でないことを示している。
 上記のほか、配合試験の結果実施配合割合が設計配合割合を下回り、これにより工事を施行させているのに、配合割合の積算を変更していないため、工事費が過大となっていると認められるものもある。

2 施行の管理について

 プラントにおける混合物の品質管理を適正に行なうため、これについて、安定度、フロー値、空げき率、飽和度および配合割合の試験を行ない、その結果が配合試験の結果に比べて安定度においては±20%以上、アスファルトの量においては0.5%以上の変動がないことが望ましいとされている。
 しかして、これらの試験については、その経費を設計額に見込んで請負業者に施行させてその結果を報告させることとしているのがほとんどであるが、実地検査の結果によれば、なんらの理由もないのにこれらの試験を実施していないものがあり、判明しただけでも東北、関東、近畿各地方建設局および北海道開発局管内で33工事に達している状況であるが、これらのうちにはこのため実際に施行されたアスファルト混合物の配合割合が実施配合割合と異って施行され、安定度が実施配合割合の数値に比べて著しく低く、フロー値が過大となり、夏期にいたってアスファルトが融解して舗装体が破壊するにいたったものもある状況である。
 また、これらの試験を行なっているものについても漫然とその報告を徴しているにすぎないため、安定度、フロー値、アスファルトの配合割合等が配合試験の結果に比べて前記の許容限度を超過しているのにこれを看過しているものが多く、判明しただけでも関東、近畿、九州各地方建設局および北海道開発局管内で21工事に達している。
 たとえば、

(ア) 九州地方建設局で施行した武雄地区外1件舗装修繕工事(工事費27,100,000円)においては、当初使用を予定していた骨材と相違する扁平な不適格材を相当量使用したため、アスファルト混合物の安定度が、配合試験の結果に比べて表層で試験回数44回のうち10回、基層で38回のうち21回が21%から56%程度低下している報告が提出され、

(イ) 関東地方建設局で施行した勝沼第2舗装工事(工事費36,150,000円)においては、安定度が配合試験の結果に比べて表層で試験回数20回のうち9回、基層で21回のうち5回が21%から45%程度低下している報告が提出されているのにそのまま受理し、これらに対しなんらの処置もとっていない状況である。
 上記のほか、請負業者が提出するこれら試験の報告書のなかには事実を記載していないと認められるものも見受けられる。たとえば、近畿地方建設局が施行した大谷第3舗装工事(工事費3,338,000円)は、請負業者の報告によると、基層のアスファルトを配合割合7%で施行したこととしているのに、本院においてアスファルトの配合割合の試験を行なったところ、実際は6.3%程度で施行していた状況である。