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特定多目的ダム本体建設工事の予定価格の積算について処置を要求したもの


特定多目的ダム本体建設工事の予定価格の積算について処置を要求したもの

(昭和45年11月20日付け45検第368号 建設大臣あて)

 建設省の直轄施行にかかわる特定多目的ダム建設工事のうち、昭和44年度にダム本体建設工事を施工しているものは釜房ダムほか8ダムで、その工事費は220億5662万余円に上っている。
 しかして、これらダム本体工事の予定価格の積算について検査したところ、ダム工事の施工の実情に適合していないと認められるものが下記のとおり少なからず見受けられた。
 このような事態を生じているのは、ダム工事は一般の土木工事と異なる特殊なものであるのでその積算基準の整備が必要と認められるのに、同省においてはこれを示していないばかりでなく、施工の実績資料等の収集、解析、整理も行なっていないため、積算にあたって先行ダム工事の施工の実態が十分把握できないままその積算例を参照するなどして積算を行なっていたことによると認められる。
 しかして、上記のような積算の現状について本院が注意してきたこともあって、同省においては、とりあえず河川局開発課長名をもって昭和45年4月「特定多目的ダム積算の取り扱いについて(案)」を各地方建設局等に参考として示したが、今後、さらにダム工事の施工の実績資料等を収集、解析、整理して基準化する処置を講じ、予定価格積算の適正を期する要があると認められる。

(1) 岩掘削に使用するせん孔機械について

 石手川ほか1ダムにおける本体基礎等の岩の爆破掘削についてみると、ベンチカット工法(注1) によりワゴンドリル(注2) で装薬孔をせん孔することとして掘削費を積算しているものが155,537m3 分78,415,382円ある。
 しかし、本件のように大量の岩を掘削し、かつ、ベンチ幅を広くとることができる場合は、せん孔能力が大きく、機動性に富むクローラドリル(注3) を使用するのが経済的であるから、作業条件に適応した規格のクローラドリルを使用することとして積算すべきであったと認められ、これにより積算したとすれば、積算額を相当程度低減できたと認められる。

(2) 掘削ずり等の積込機械について

 矢作ほか3ダムにおける原石山の掘削ずり等の積込みについてみると、パワーショベル(注4) と補助ブルドーザを使用してダンプトラックに積み込むこととして積込費を積算しているものが1,605,937m3 分219,654,947円ある。
 しかし、上記の積込作業は、平坦な場所にブルドーザで集積した岩砕または土砂を積み込むものであり、かつ、作業場所もトラクタショベル(注5) が十分にか働できる広さがあって、このような場合には、パワーショベルに比べて、積込作業に適し、しかも機械損料が著しく低額なトラクタショベルを使用するのが経済的であるから、作業条件に適応した規格のトラクタショベルを使用することとして積算すべきであったと認められ、これにより積算したとすれば積算額を相当程度低減できたと認められる。

(3) 岩掘削に使用する爆薬について

 釜房ほか7ダムにおける原石山等の岩掘削に使用する爆薬についてみると、ダイナマイト等を使用することとして爆薬費を積算しているものが1,004,607kg分282,986,622円ある。
 しかし、38年ごろ硝安油剤爆薬が開発され、ダイナマイト等に比べて、爆力がやや低いこと、後ガスが多いこと、耐水性が低いことなど使用上不利な点もあるが、その価格が著しく低廉なことなどから、使用条件に適した場合には広く使用されている。したがって、本件のように後ガスに対する配慮の必要がない作業で、しかも大量に掘削施工する場合は、これを使用するのが著しく経済的であるから、岩の硬軟に対応した適正な使用量を決定したうえ、硝安油剤爆薬を使用することとして積算すべきであったと認められ、これにより積算したとすれば積算額を相当程度低減できたと認められる。

(4) セメントの現場管理費について

 釜房ダムのダム本体工事に使用するセメント24,009t152,151,260円に対する現場管理費は、他の土木工事に使用するセメントの場合と同一の取扱いとして積算しており、その積算相当額は11,364,425円になっている。
 しかし、ダム本体工事に使用するセメントは、セメント運搬車から直接セメントサイロに貯蔵され、これを使用する場合も自動的にバッチャプラント(注6) に送られるなど、現場管理に要する費用はこのような設備がない他の土木工事の場合に比べて少なくて足りるばかりでなく、ダム工事においてはセメント費が多額に上るのであるから、実情に即した適切な現場管理費率を定める必要があったと認められる。
 なお、他の6ダムにおける積算例をみると、セメント費の2分の1を現場管理費の対象としている実情である。

(5) 鋼製型わくについて

 釜房ほか5ダムにおいては、本体のコンクリート打設に使用する鋼製型わく費を259,497m2 分186,104,477円と積算している。
 しかして、型わくの構造、重量等についてみると、ダム本体のコンクリートは、通常、重力式の場合は1.5m、アーチ式の場合は2.0mの高さで1ブロックを打設するのであるから、ダムの型式および上下流面等の打設箇所ごとにみれば、面板や面板の支持材の構造、重量はおおむね同程度のもので足りると認められるのにダムごとに異なっていたり、また、その転用回数についてもこれらの構造、重量にかかわりなく25回から35回と区々になっていたりして、1m2 当り型わく損料積算額が各ダムごとに著しく開差を生じている状況である。

 (注1)  ベンチカット工法 岩盤の斜面を階段状に掘削する工法

 (注2)  ワゴンドリル 車輪式の台車にさく岩機を取り付けたせん孔機械。移動は人力による。

 (注3)  クローラドリル キャタピラで走行する台車にさく岩機を取り付けた自走式せん孔機械

 (注4)  パワーショベル キャタピラで走行する台車上に旋回できる掘削作業装置を取り付けた掘削、積込機械

 (注5)  トラクタショベル キャタピラまたは車輪で走行するトラクタの前部にバケットを取り付けた積込機械

 (注6)  バッチャプラント コンクリートの材料を自動的に計量、混合してコンクリートを製造する装置

 上記のほか、本院の質問に対し、建設省において処置を講じたものが次のとおりある。

 (ずい道工事の予定価格の積算について)

 昭和44年度に関東ほか3地方建設局で施行した万沢隧道工事ほか14工事の予定価格の積算について検査したところ、次のとおり適切でないと認められる事例が見受けられた。

(ア) 掘削ずりの搬出について、普通ダンプトラック6t車に比べて機械損料が著しく高価なずい道専用ダンプトラック6t車を使用することにして工事費を積算しているが、このトラックは試作後製造が中止され一般に使用されていないものである。

(イ) コンプレッサについて、常時全容量で運転することにして消費電力量を算定し運転費を積算しているが、コンプレッサは、圧縮空気を使用する機械のか動状況によって負荷が変動するものであるのに、これを考慮しないで消費電力量を算定している。

 このような事態を生じているのは、建設省で定めている積算基準にずい道専用ダンプトラック6t車の損料を掲載していたり、コンプレッサ運転の負荷率に関する定めが設けてなかったりしていたことによると認められたので、当局の見解をただしたところ、45年9月および10月、積算基準の改定を行ない、ずい道専用ダンプトラック6t車の損料を削除し、コンプレッサ運転の負荷率に関する基準を定めた。

(昭和44年発生災害復旧事業の事業費決定について)

 公共土木施設の昭和44年発生災害の復旧事業に対する建設省の事業費決定について、新潟、富山両県内の5,040工事(事業費決定額220億余円)のうち1,447工事(事業費決定額123億余円)を検査した。
 その結果、工事数量の計算を誤っていて積算が過大になっていると認められるものなどが63工事見受けられ、事業費決定額を修正する必要があると認めて当局の見解をただしたところ、82,567,000円(国庫負担金相当額62,065,000円)を減額した。